オリ主で振り返る平成仮面ライダー一期(統合版) 作:ぐにょり
実の所を言えば、グロンギの出す被害は、ダグバの行う大虐殺を含めても大した被害とは言い難い。
いや、ダグバの三万人はそれなりの数と言えるのだけど、それを除けば年間の交通事故による死亡者とトントンか低いかくらい。
世界全体で見ればそれこそ蚊が、或いはリントと呼ばれる現行人類による殺人の方が遥かに被害が大きい。
大事件ではあるし、歴史書にもそれなりに記されるであろうレベルの事件ではあるのだけれど。
現状、人類種の存続を脅かす程の驚異であると認識されていないのは、対応が警察に一任されている状況を見ても明らかだ。
もう一桁程多ければ世間の空気が変わる程度の被害にはなったと思うのだが、現状はそうでもない。
東京では今も変わらず多くの人々が暮らし働いているし、疎開を選ぶ様な人は少数派も少数派。
少し首都圏から離れて地方都市ともなれば、遠い街でカルトが暴れているなぁ、くらいの印象でしかないのだろう事はよくわかる。
大体にして、グロンギ目当てで度々上京している俺を除いても、クラスメイトの内何名かが東京に何度か旅行に行っている時点でお察しだ。
実際、俺も東京に行って意図的にグロンギと戦わないのであれば、グロンギに関する情報なんて、ニュースとか新聞とかでしか手に入らない。
地元で単なる一般学生として過ごす上では、極稀に遭遇する白い進化し損ないや時計で呼び出す事のできないデフォルメ無し妖怪を除けば、とても平和な日々を過ごさせて貰っている。
学校と家の往復を繰り返すだけの日々、という程侘しい日々を過ごしている訳でもない。
俺も四六時中、人類に対して敵対的な連中を殺す手段を整える為の準備ばかりをしている訳ではない。
学生らしく、友人と遊びに行ったり、そうでなくてもジルを伴ってちょっと買い物に行ったりもしている。
中でも最近楽しみにしているのは、親切なクラスメイトの人と遊びに行く事。
そう頻繁ではないし、放課後にちょっとだけ一緒に寄り道や買い食いをしたり、ジル同伴で休日に一緒に遊びに行ったりする程度。
……他に友人が居ない訳ではないのだが、何故かこの親切なクラスメイトの人と一緒に遊びに行く時に限って、体調を崩してしまったり、他の急な用事で来れなくなったりしてしまったりするのだから仕方がない。
避けられている訳ではないと思うのだが。
ちょっと悲しい。
あと、親切なクラスメイトの人も一緒に行くという事を伝えた時に俺をアホ呼ばわりした奴は許さない訳でもないが、こいつに覚えるのは怒りだ。
仮に時代にそぐわないテストの順位張り出しが行われたとして一切恥ずかしくない成績を収めている俺にアホとは何事だろうか。
でも万が一にもあっちの方が成績上だったりするといけないのでアホって言う方がアホとは言わない。
なにせこの世界、脳味噌無改造でIQ600とかいういっそ人間と思考形態からして違うんじゃないかと疑う知能指数を持つ天才が生えていたりするからな……。
何はともあれ、俺の平凡で平穏な学生生活にちょっとした潤いとかを与えてくれる人が居る、というのは、とても幸運な事だと思う。
前の高校時代に居た友人達、或いは今の高校生活における大半の友人達は、一緒に馬鹿をやったりするには良い連中なのだが、クラスメイトの人の様に親切さとか優しさとか気遣いに溢れている訳ではない。
昔、どこかのお店、バーだったか喫茶店だったかはうろ覚えだが、そこの店長さんが言っていた。
高校生時代に作る友人というのは、後の人生でも得難い友人になる事が多いのだそうな。
他の友人たちが違う、という訳ではないが、彼女は、クラスメイトの人は、その中でも特別得難い友人である事は間違いないだろう。
「……」
「お前は行かんのか」
ふるふる、と、俺の手を掴んで付いてきていたジルが首を振る。
片手に下げていた花束を押し付けてくるその視線は、やけに強い。
俺が花束を受け取ると、掴んでいた手を離してひょこひょこと待合室に歩いていき、本棚にある週刊誌を物色し始めてしまった。
薄情なやつ、とは言えまい。
この病院は地元でも一番大きな病院だが距離がそれなりにあるため、正直連れてくるかどうかはちょっと迷っていたのだ。
そこを、俺が何処に行くかを察したように自主的に外着に着替えて付いてきたのだから、ジルもクラスメイトの人に何かしら思うところがあるのだろう。
ジルが大人しく適当な少年誌を読み始めたのを確認し、病室に向き直る。
入り口に掛けられている名前は一人分のみ。
それなりに大きな個室。
ノックをし、あまり聞き慣れない大人の女性の返事を聞いて入室する。
「あら、貴方……」
「こんにちは、お見舞いなんですが、今、大丈夫ですか」
「いえ、いいのよ、娘も喜ぶわ」
落ち着いた服装の、穏やかそうな女性。
人相に何処か見覚えがある、と思うのは、彼女がクラスメイトの人の母親だからだろう。
「こちらを」
花束を手渡す。
花瓶に入れてもいいのだけれど、まだ入れ替える程古くもなっていない。
どうするかはご家族に任せよう。
「ありがとうねぇ、毎日、大変じゃない?」
「いえ……」
それこそ、毎日毎日通いつめている訳ではない……という訳でもないが。
もののついでなので、ご家族の方に気にされる方が申し訳ない。
ちら、と、ベッドの脇を見れば、俺が持ってきたものの他にも、大量の見舞いの品や花束。
明るく人当たりの良い彼女は、実際クラスでも人望が厚かったのだ。
こんな事になってしまえば、それは見舞いも沢山来るというものだろう。
心電図のそれとは異なる、無機質な電子音。
携帯の着信、しかし、俺のものではない。
「ちょっと、ごめんなさいね」
彼女の親御さんのものであったらしい。
一言断りを入れて、部屋から出ていく。
この時代でも、病室で携帯電話で話すのは禁止されていたのだったか。
ご家族が退室し、病室の中には俺と、ベッドに横たわり、目を瞑るクラスメイトの人だけが残る。
当然ながら、会話など起ころう筈もない。
彼女が終始無言で居るというのは珍しい事だが、致し方ない。
意識のない怪我人にそれを求める様な鬼畜に育ったつもりはない。
別段、おかしな事が起きた訳ではないのだ。
それこそ、人類がふとした弾みで滅ぼされかねないこんな世界でなくても、そこそこ起きている様な事故。
それに、運悪くこのクラスメイトの人が被害者として当たってしまったというだけの話。
その場に居合わせた俺の対処が良かった事、事故を起こした運転手の人が逃げる事無く即座に救急車を呼んでくれた事などが重なり、命に別状はない。
……実を言えば最初は危険そうな傷を負っては居たのだが、本気で命に別状がありそうな傷に関してはその場で不自然でない程度に塞がせて貰った。
逆に、その程度までしか出来なかったとも言うが。
だが、打ちどころが悪かったのか、事故のあった元日から、彼女は二週間も目覚めずにいる。
無理もない。
彼女を撥ねた車は大型のトラックで、トラックが止まった場所と彼女が倒れていた場所を考えれば、かなりの距離を飛ばされた筈だ。
命をつなぐ事ができただけでも奇跡のようなものらしい。
不幸な事故。
ただの不幸な事故だった。
未確認生命体も、オルフェノクも、魔化魍も、その他諸々の人類に対し害になる種族とは一切関係なく、彼女は不運な事故に見舞われただけなのだ。
「ちょっとした、発見かな」
気分が沈んでいる。
友人が、貴重な友人が事故にあったのだから当然と言えば当然なのだけれど。
俺は、思ったよりも、この親切で不運なクラスメイトの人に強い思い入れがあったらしい。
そして、まだ、親しい友人に関する事で、これくらいは悲しむ事ができる。
どういう思想で組み上げられたものかは、実際のところはっきりとしないのだけど。
アークルを作った人には、少しだけ感謝をしなければならないかもしれない。
こういう時、以前の想定どおりに悲しまずに済むような脳構造になっていたら、酷くいたたまれない気持ちになってしまっていただろう。
少しだけ、クラスメイトの人の顔に触れる。
怪我は完治していない。
体に負った怪我だけでも完治まで数ヶ月は必要で、リハビリには更に時間がかかるらしい。
それを、短くする事はできる。
毎日、なんだかんだと通っているのもそれだ。
少しずつ、少しずつ、破損している場所をモーフィングパワーで物理的に『繕って』いけば、壊れた肉体を直す為の時間は大幅に短縮されるだろう。
だが、意識が戻らない、となると、俺にはどうしようもない。
別に、俺が治さなければならない訳ではないのだけど。
こういう時、少しだけ、自分本位の能力しか生えてこなかった自分の脳か魂が恨めしくなる。
視界の端、ベッドサイドの棚の上に、事故当日に彼女が持っていた幾つかの私物が乗せられていた。
ヒビの入った携帯電話。
最新機種なんだ、と、少し前に自慢を聞いた気がする。
数ヶ月もせずに型落ち品だ、とは、あえて口にしなかった。
シンプルなデザイン、一つだけストラップが付けられている。
香料の入った小さな円筒。
紐部分は赤黒く染まっている。
「……」
口を開いて、言葉が浮かばず、閉じる。
謝る理由が無い。
目覚めを催促するのは図々しい。
いや、何を言いたいのか、というのも、自分の事なのにはっきりと把握できない。
何かを言おうとしたが、何故、何かを言おうとしたのかもわからない。
少しだけ、混乱している。
ごろごろ、と、入り口の戸が開く。
親御さんが戻ってきたのかと思い手を離すが、そこに居たのはクラスメイトの親御さんよりは確実に見慣れた顔。
「やっぱり、顔くらいは見ていくか?」
こくり、と、真顔で頷いたジルがベッドの横に立ち、クラスメイトの人の顔を少しだけつんつんと触る。
怪我人で遊ぶな、と、止めようとするも、その表情は巫山戯ているようにも見えない。
何かを確認するようにつついた後、顔を上げ、ぱくぱくと口を動かす。
『あいおおう。いっお、おうあう』
「……そうか? いや、……そうだな。良くなる」
どう考えた所で、クラスメイトの人の怪我の具合に影響する訳ではない。
なら、少しでもプラスに考えたほうが、精神衛生上良いだろう。
俺が頷くと、ジルはに、と、歯をむき出しに笑った。
『ああ、おいあいいおおう』
「また?」
こくりと頷く。
『うええ、おあっああお』
全て。
全て、終わった後、か。
「そう、だな。また、来よう」
全てが終わる。
そう断言できる結末は、俺が生きている間に来るかわからない。
結末に辿り着く前に、俺の人生の結末が先に訪れるかもしれない。
だけど、それでも、せめて、今年の、今年度の、グロンギの全てを終わらせなければならない。
それを終わらせてから、また、来よう。
―――――――――――――――――――
長野県、九郎ヶ岳。
降り積もる雪により白く染まった世界の中で、一人の白い青年と一体の黒い戦士が向かい合っている。
しんしんと降り続ける雪の中、しかし、一人と一体には不自然な程に雪が付着していない。
白い青年──未確認生命体第0号は、黒い戦士──未確認生命体第二十二号へと、朗らかな笑みを向けていた。
対する二十二号の仮面に覆われた顔から表情を窺い知る事はできない。
「こういう手を使うとはな」
だが、声からは二十二号の抱く苛立ち、怒り、そういった感情がありありと感じ取れる。
「直ぐに来るよ。大丈夫」
笑みを深める。
0号はそう言うなり、その姿を変じさせた。
金に縁取られた白い装甲。
グロンギの頂点に君臨する有る種の到達点。
究極の闇を齎すもの。
ン・ダグバ・ゼバ。
対峙する二十二号の姿は対照的だ。
金に縁取られた黒い細身の装甲。
熱した炭の如く、僅かな赤が覗く仄暗い複眼。
名は、無い。
この姿の彼は、ただ単に未確認生命体二十二号と呼ばれる。
ゆっくりと、どちらともなく互いに手を伸ばす。
あらゆる制限を取り払われたモーフィングパワーが互いの体を蝕み、その肉体を燃焼させる。
──それは、二十二号が、無知故の過ちからエルの力を覚醒させた一人の少年が、多くの戦いを越え、殺しに慣れ、しかし、今なお死への恐怖から戦い続ける少年が、実現せぬようにと避け続けてきた、不確定な戦いと、図らずも同じ図面。
究極の闇を齎すものと対峙するのはただ一人。
聖なる泉の涸れかけた、戦士クウガにも、仮面ライダーにもなれない、異形の力を振るう少年のみ。
本来居るべき真の英雄は、この場には居ない。
誰一人として観戦者の無い山中にて、異形と異形の、壮絶な喰らい合いが始まる。
―――――――――――――――――――
同刻。
一月二十日土曜日。
都内は混乱の坩堝と化していた。
東京都内二十三区に、同時多発的に出現した、合わせて
近頃のグロンギと比べて力も速度も弱く、しかし、奇怪な特殊能力、人のシルエットを大幅に崩す巨大化とすら言える程の変身能力。
未確認生命体、グロンギという生命の枠を越えた白い怪物達が、図ったかのように人々を襲い始めたのだ。
「ぉおっ!」
ごっ、と、赤い装甲を金で縁取った戦士の飛び蹴りが白い未確認の胸部に直撃。
自らの上半身程もある巨大な爪を持つ異形の未確認は数歩後退り、その蹴りに耐える。
しかし、飛び蹴りに込められた封印エネルギーが徐々にベルトへと伸びていき、青い炎を上げながら灰と化し崩れていく。
赤い戦士、五代雄介は焦っていた。
前日に二十二号からの手紙を貰い、未確認生命体、グロンギの頭領とも言えるン・ダグバ・ゼバとの戦いでの助力を頼まれていたのだ。
だが、いざ決戦の地へ、という段になって、この騒動である。
二十二号が、二十二号としか呼ばれない彼が、自分から助けを求めてくれた事には安堵もあった。
凄まじき戦士になる事への迷いはあったが、それも、恐らくは先に凄まじき戦士になっているであろう彼を助ける為であれば、と。
そう思っていた。
だが、この状況で、彼のもとに駆けつけるのは不可能だ。
警察には、三号の死体などを元に研究開発された神経断裂弾が量産され配備されている。
この騒動も、時間を掛けさえすれば対処できない事もないかもしれない。
ここまでの事態となれば、ついに自衛隊も出てくるかもしれない。
五代雄介一人がこの場に居なくても、最終的には解決できるかもしれない。
それでも。
それでも、そこに至るまでにどれほどの犠牲者が出るか。
炎の燻る灰の向こうに、無数の肉塊が転がっていた。
冷たいアスファルトを赤く染める、ほんの少し前まで命だったもの。
力任せに引き千切られた人だったもの、命のない人間の残骸。
こんな光景が、今、東京のあちこちで繰り広げられている。
ビートチェイサーから聞こえる無線も情報が錯綜し、近場の何処に新たな未確認が居るのかは判然としない。
しかし、皮肉にも向かうべき場所は直ぐに分かる。
悲鳴が、絶叫が聞こえるのだ。
未確認に襲われ、為す術無く殺されていく人々の断末魔が、クウガを、五代雄介を走らせる。
次なる現場に向けてビートチェイサーを走らせる五代の背に、巨大な何かが激突する。
巨大な手裏剣状の円盤。
制御を失いバイクから投げ出される五代。
未確認のそれよりも、よりモチーフとなったであろう生物の特徴を残した、蜘蛛型の白い未確認。
受け身を取り完全な転倒は避けた五代に覆いかぶさるように、下半身を巨大な蜘蛛に変えて襲いかかろうとし、横合いから殴りつけられ、姿勢を崩す。
「大丈夫か五代!」
蜘蛛の未確認を殴り飛ばし、五代の、クウガの窮地を救ったのは、やはりクウガだった。
いや、よくよく観察するまでもなく、その姿がクウガとも二十二号とも異なる事が分かるだろう。
赤のクウガに似た、しかし、材質の不明なクウガのそれと比べて継ぎ目の多く見える明らかに何らかの金属で作られたと思しき装甲を持つ戦士。
機械で、現代技術でクウガの力を再現しようと作成された機械の鎧。
その声に、五代は確かに聞き覚えがあった。
「一条さん! それは?!」
「話は後だ!」
蜘蛛型の未確認が起き上がるのを視界に捉えながら、強化装甲服を纏った一条がライフルを構える。
全弾神経断裂弾を装填済み、予備の弾倉もあるとはいえ、無駄撃ちができる状況でもない。
クウガに迫る程の身体能力を得られるこの強化装甲服の力を使えば、肉弾戦も考慮に入れる事はできる。
しかし、機械的に再現された力に、生身の人間はそう何時迄も耐えきれるものではない。
内部の装着者にかかる負荷を完全に無くす事は、次世代以降の機体へと残された課題だろう。
この戦いが終わった後、一条の体がどうなるか、それすらも未知数。
だが、緊急事態という事で急遽持ち出された装備としては、十分に使用に足る性能であると一条は実感していた。
眼前には下半身を乗用車程はある蜘蛛へと変じさせた未確認。
更に反対側には、小さなビル程もあるサイに似た未確認。
間に挟まれる自分達を気にしているのかいないのか。
獲物を取り合い対峙する野生動物のようですらある。
しかし、背を預ける相手が居る。
「まずはここを切り抜けるぞ」
「……はいっ!」
すれ違うように、互いの背を押し合うように、走り出す。
東京は混沌の最中にあった。
だが、それも長くは続かないだろう。
対処に当たった警察の中には、未確認とは明らかに異なる、楽器の様な武器を操り戦う怪人や、警察のものではない、白い装甲服を用いて戦う謎の戦士の姿を目撃した者たちも居た。
そういった謎の助っ人の活躍だけでなく、対策本部に配備された神経断裂弾による未確認の撃破も目覚ましい。
多くの被害を出し続ける白い未確認の群れは、徐々にだが減りつつある。
夜が明けるよりも早く事態は収束に向かうと見ていい。
被害は多くとも、東京が滅ぶ事はないだろう。
少なくとも、今夜の内は。
―――――――――――――――――――
金属同士の生み出す擦過音。
吹雪の中に火花が煌めく。
黒い大剣を白い大剣が円の動きで絡め取り、巻き上げる。
宙を舞う大剣。
無手の二十二号にダグバが大剣を振り下ろす。
二十二号は足元の雪を消滅させながら踏み込み、大剣の柄、ダグバの手元を掴み、体を回転させるようにして投げ飛ばす。
引っこ抜くような一本背負い。
ダグバの着地点には二十二号が踏み込むと同時に生成した剣山の如きスパイク。
投げの途中でダグバの手首が二十二号の手の中からずるりと抜ける。
力づくではなく、握りしめていた大剣を消し去り、掴まれている部分の摩擦係数を調整しての抜け。
突き刺さると同時にへし折れ、強力な酸を体内に流し込むスパイクを、ダグバが絶妙な力加減で掴み、掴んだスパイクを起点に受け身を取り着地。
同時、ダグバの眼の前の剣山が捻じ曲がり二十二号へと伸びる。
二十二号が手を翳すと剣山は焚き火の中に放り投げられた塵の如く瞬時に燃え上がり消滅した。
手放されフリーの状態になった武器は、驚くほど相手のモーフィングパワーへの耐性を失うのだ。
着地したダグバと二十二号が同時に得物を振るう。
奇しくも互いに同じ長物、薙刀と槍が打ち合う。
描く軌道すら対照的、まるで鏡合わせの如き一撃。
打ち合う刃同士が衝撃波を生み、一瞬だけ荒れ狂う吹雪が周囲から吹き飛び空白地帯が生まれた。
睨み合うのは一瞬。
二十二号の持つ薙刀が折れる。
二十二号の手元で折れた薙刀の逆の刃がダグバに向けて振るわれた。
三節棍だ。
意表を突かれたのか、ダグバはその一撃を顔で受ける。
一拍遅れて二十二号の腹部が横薙ぎに切り払われた。
ダグバの持つ槍もまた、二十二号の薙刀と同じ変化を遂げていたのである。
吹雪の代わりと言わんばかりに互いの血潮が飛び散り、雪原を赤く染める。
「ははは!」
「ぐぅっ」
頭部を半ばまで切断されながら朗らかに笑うダグバ。
対象的に腹部を切り裂かれた二十二号が痛みを堪えるように呻く。
正反対のリアクションを起こした二匹はしかし、まったく同時に一歩踏み込む。
得物を握り込んだままに、拳を振り抜く。
鈍い、重い、打撃音。
切り裂かれた頭部を、腹部を、カウンター気味に殴り合う。
吹き飛ばされ、滞空中にすら互いの手の中には弩弓が生み出され、打ち合う。
互いの放った圧縮空気弾は空中で激突し、吹き荒れる暴風すら掻き消す。
風に揉まれ、白と黒、どちらも受け身すら取れずに雪原に投げ出される。
倒れ伏す両名の見た目は、既に無傷。
どちらともなく立ち上がり、引き合う磁石が如く走り出す。
黒、二十二号が走りながらに開く花弁の如き型を取る。
白、ダグバが走りながら、二十二号のそれと全く同じ構えを取る。
「はぁぁぁぁ!」
「はは、ははははは!!」
赤心少林拳黒沼流奥義、桜花の型。
互いに、回避も防御も無い、殺意のみが込められた手刀を正面からぶつけ合う。
鏡合わせの如く放たれた手刀が激突し、両者の手刀が互いを切り裂く
真っ二つに肩口まで裂ける二十二号とダグバの腕。
まともな生き物の体であれば致命傷、二度と動かすことなど叶わないだろう腕が互いの首を握りしめるように再生。
もう片方の腕で殴り合う。
激しい打撃音。
血しぶきを上げながらの打撃戦。
二十二号の拳がふとダグバの脇腹に押し当てられ、同時にダグバの拳が二十二号の鳩尾に押し当てられる。
破裂音。
同時に放たれた寸勁が互いの体を弾き飛ばす。
「っ、~~!」
「は──、は!」
内臓を掻き混ぜられる……正しく文字通りでの意味で。
腹部の霊石、或いは魔石から伸びる強化神経すら他の内臓と共にひき肉にされ、しかし、死なない。
同時に打ち合い、同時に蹌踉めく姿はまるで筋書きがある寸劇の様ですらあった。
だが、違う。
これが、この戦いこそが、ザギバスゲゲルの本来的な姿なのだ。
二十二号は、これまでの戦いの中で培った技術が、戦いに備える時間で積み上げた技術があった。
それは、グロンギが封印される前の古代では存在しない、人類が同種と、或いは敵対種族と戦うために積み上げてきた戦闘技術。
格上を喰らうのに最適な、同格を相手に有利に事を運べる技術。
だが、それらは全く通用していない。
なぜなら、ダグバもまた同じ技術を学習した為だ。
他ならぬ二十二号から。
グロンギの持つ恐るべき特性として、現代のリント、人類は頑強な肉体と驚異的な再生能力を挙げるだろう。
だが、それはグロンギに与えられた能力の中では副次的なものに過ぎない。
グロンギが持つ、最も恐ろしい力、それは、知恵、学習能力である。
現代で目覚めたばかりのグロンギ達が、僅か一年の間で蛮族からリントの知恵者に匹敵する程に知識を吸収し、各々の趣味嗜好に合わせて個性すら持つ。
そしてその学習能力の高さは、ズ集団、メ集団、ゴ集団と階級が上がるごとに顕著になっていく。
では、グロンギのトップたるン、全能のゼを冠するダグバの学習能力はどれほどのものだろうか。
答えはこの戦いの通り。
戦いながらにして、打ち合いながらにして、殺しあいながらにして、相手の技を取り込んでいく。
事前にどれほど技術を積み上げても、僅か数合の打ち合いの中で、ダグバは同じかそれ以上に技術を積み上げていく。
弱者の努力をあざ笑うが如き、戦うためだけの生物兵器と呼ばれるに相応しい力。
圧倒的な力、そして、その力を如何なる形でも自在に操る事のできる圧倒的な学習能力。
それがダグバ、それがン。
それだけならば、単純にダグバが勝って終わりになるだろう。
如何に技術や知識を積み上げても、同じか、更に発展させた力を振るうダグバに勝てる戦士など存在しようもない。
例外が存在する。
いや、その例外に至ったからこそ、ザギバスゲゲルは行われる。
ザギバスゲゲルの参加者は、すべてのゲゲルを乗り越えた戦士。
ン・ダグバ・ゼバと正面から戦う事を許された、同格と認められたムセギジャジャに他ならない。
向かい合うのは、王者と挑戦者──ではない。
ザギバスゲゲルで向かい合う二人は、同格なのだ。
「はは、は」
口腔を覆うマスクから血反吐を吐きながら、ダグバが笑う。
同格の相手と戦うのが、どうしようもなく楽しい。
どんな相手との戦いでも、格下、いや、戦士と呼べない相手への虐殺でも、楽しい。
戦うのが楽しい。
たまらない程に。
そう有ることができたからこそ、ダグバはンであり、ゼなのだ。
そして、
「……はは」
向かい合うのは、同格の相手。
この場に立てる、ダグバと等しいもの。
―――――――――――――――――――
痛い。
切り裂かれた腹部が痛い。
破裂した内臓が穴という穴から吹き出しそうで、それを押し戻そうとする力が体を作り変える感覚は、筆舌にし難い。
悔しい。
積み上げた技術が通用しない。
最善の努力をしたと言えるかは知らない。
それでも、この努力を積み重ね続けてきた。
眼の前のこいつを殺すための力を積み上げてきた。
だというのに、こいつはその技術を軽々と身に付けて、容易く打ち返してくる。
憎い。
何故、こんな所で俺は戦っているんだ。
こいつがこんなで無ければ、グロンギがまともな種族であれば。
まだ、俺はここまで戦う必要が無かったかもしれないのに。
怖い。
一撃を喰らう度に、それが俺の命を断つに十分な威力だとわかる。
打ち合う度に死ぬかもしれない力と向き合わなければならない。
次の瞬間にも俺は死んでいるかもしれない。
生きていないかもしれない。
だというのに。
「……は」
喉から声が溢れる。
こんなにも痛いのに。
こんなにも悔しいのに。
こんなにも憎いのに。
こんなにも怖いのに。
「あは」
笑えてくる。
笑うような場面ではないのに。
笑う理由も無いのに。
なのに、笑う度に。
心が軽くなっていく。
ドロドロとした思考が、ゆるゆると洗い流されていく。
「あはは!」
堪えきれない。
ああ、そうだ。
そうだった。
気付いてしまった。
こんなにも簡単な事だったんだ。
余分な気持ちを省いてみれば。
そうだ。
戦うのは、こんなにも。
―――――――――――――――――――
「あはははは!」
「ははははは!」
笑い声が響く。
血塗れの雪原。
向かい合う白と黒の異形の戦士。
場違いな程に朗らかな笑い声は、しかし、二人にとっては余りにも素直な感情の発露。
憎しみも無い。
苦しみも苦ではない。
痛みを厭う理由も無く。
命を悼む心も無い。
ただ、戦う事の楽しさだけがある。
誰一人見届けるものなき山の中。
向かい合うのは、凄まじき戦士。
究極の闇を齎すもの。
憂いなく、喜色だけを湛える、黒い瞳が互いを捉え。
ただ、殺し合うためだけに走り出した。
続く!
★落ち込むこともあるけれど戦ってれば元気ハツラツ黒目マン
因みに見た目はちょっとマッチョ気味の六本角アルティメットにオルタリングがついてる感じだと思って貰えれば
アギト成分は、ダグバ戦で戦力に数えられる程の出力はまだ無い
親しくしてたクラスメイトちゃんが事故って昏睡状態で気落ちしていたけど、ダグバくんのおかげで元気になった
正真正銘ダグバと等しくなったりしたけど、そんなのは些細な事ではないだろうか
ちょっとあった瞳の輝きは消えてマットブラックな複眼がオシャレさん
ダグバくんとおそろいだね!
力も学習速度もダグバ君とほぼお揃いだよ!
このままダグバ君に勝った場合、そのフルスペックと楽しい気分を保持したまま人里に降りて、ゆっくりと東京へと移動を開始するよ!
五代さん待っててね! ダグバ君が終わったら遊びに行くからね!
年頃らしい元気で明るい姿を見せに行くからね!
凄まじき戦士の力も見せに行くからね!
楽しもうね!
打ち切りにはならないので次回どうにかなるけど闇落ちさせるのはやっぱり楽しい
☆ダンプだかトラックに跳ね飛ばされて昏睡状態クラスメイトロインちゃん
なんで元日に事故ってしまって直後に主人公に応急修理される事ができたかと言えば、クラスメイトちゃんからみんなで初詣行かない? と誘ったから
因みにみんなで、とは言ったが、クラスメイトちゃんは主人公がジルを連れてくるであろう事を想定して言っただけなので他のクラスメイトたちを連れてこなくても一切嘘にはならないのだ
そんな楽しい思い出も今は昔
おみくじで中吉、恋愛、積極的に構えよ、みたいなのが出たりした
初詣の帰り道で別れた直後、携帯でスキーとかに誘うメールを打ってたら信号無視トラックにプップードシャーンされてしまう
スキー?
来シーズンかなぁ
病室に携帯が置いてあったのは、事故った直後にも携帯及びそこに付けられたアロマストラップを離さなかったからだゾ
☆ヒロインちゃん
記憶がどうかは知らないけど、リントの常識とかも分かってるのでまず主人公一人で面会させるだけの気遣いができる程度にはリントの常識に素直
ちょっとほっぺたつついたくらいだけどクラスメイトちゃんに何か起こったのを把握したりした
何故なんだ……すげえふしぎ
声出てないのは相変わらず、口の形から読み取るしかないので正確には言葉の意味が伝わらない事もあるけど気にすんな!
『きっとそうなる』
『ああ、おいわいにこよう』
そも記憶があるとか無いとか、グロンギ脳とかリント脳とか、はっきりと別れていると思うのは先入観でしかないのかもしれない
☆GRNG40くらい
整理されたグロンギの中から不自然に大量発生したグロンギオルフェノク
なぜこんなにオルフェノクが発生してるんだ……すげえふしぎ
力のイメージが変身後の姿と被っているので見た目はそれほど変わってはいない
全員オリジナルとかいう鬼畜仕様ではあるが、オルフェノク化した肉体がゲブロンの齎す再生能力に耐えきれない為にかなり寿命は短く、再生を繰り返させれば早めに死んだりする
ダグバ君から、特例でゲゲルを成功させたら直ぐに自分への挑戦権を得られるよ、みたいな事を言われて東京で大決戦
なお神経断裂弾とG1と謎の助っ人達
ダグバ君としてはこいつらを始末する為に五代さんが凄まじき戦士になるのを期待していた
☆五代さん
二十二号を助けにも行きたいけどだからって東京の人達を見捨てるなんてできる筈もない
とりあえず常時金にはなれてる
アメイジングは時間制限あり
凄まじき戦士にも心構え一つでなれるけど、なったら危ないんじゃないか、という事で変身は無し
☆一条さん
今夜は俺とお前でダブルクウガ
このクウガ年における二号ライダー爆誕である
このクウガ年における二号ライダー爆誕である
二十二号? なんか敵と敵対してる第三軍枠じゃないすかね
一条さんは人間のまま戦うのがいいんじゃないか、という苦情は受け付ける
でもせっかくだし、このタイミングでG1が存在してこの同時多発ゲゲルに対処するなら引っ張り出さない筈がなく……
たぶん開発メンバーにスカウトされたりもしていたけど、未確認への現場での対策の方を優先したので断ったりしてた
☆試作型強化装甲服
科警研とかで取ったクウガのデータを元に来年出張ってくる部下に焼き肉おごってくれる天才によって開発された結構な性能のパワードスーツ、その名はG1
素赤クウガくらいの性能がある
一条さんに断られたので一般クウガ警察に試験させてたりしたが、怪我人続出で封印された
一条さんの活躍を見て、「やっぱり使えるじゃないの」とか思うも、後日他の人員で試すとやっぱり肉体強度が足りずに封印される
悲しい歌やね
でも再生能力の無いクウガもどきと考えると肉弾戦メインのパワードスーツってのはやっぱり無理がある
性能落として強力な火器とか刃物を持たせたG3のコンセプトは間違ってはいないのだ
無難とも言う
☆ン・ダグバ・ゼバ
一年目のラスボス
学習能力の高いグロンギの頂点という事で相手の技を戦闘中にラーニングするし応用も即座に編み出すしカウンターで相殺できる程の身体能力もあって糞ゲ状態
この世界で言う『究極』の『闇』がどういう存在なのか、という事を考えると、一種の司祭のようなものか、或いは謎のエル反逆のための一手だったのかもしれない
この学習能力を備えたまま古代から戦い続けていたら本気でワンチャンあったのではと思う
最初はむっつりしてた二十二号くんも、戦ってくる内に緊張がほぐれてきて笑顔になったのでつられてさらに笑顔になる
よかったねダグバくん!
二十二号くんが終わったらゆっくりと人里に降りて徒歩で東京に遊びに行く予定
待っててねクウガ、二十二号が終わったら遊びに行くからね
凄まじき戦士の力も手に入れてるだろうし
きっと楽しくなるよ!
もっと笑顔になろう!
究極の闇を始めよう!
楽しもうね!
つまり挟み撃ちの形になるな……
☆東京
SOS
人が多くて壊れて見栄えの良い建物が乱立してる方が悪い
☆謎の鍛えている変身ムキムキミュージシャン達と白い装甲服
いったい何者なんだ……
でも年代を考えるとどちらも中の人は放送当時の人ではない可能性
ミュージシャン達の古株の中の人とかはそのままかもしれない
因みに日本のあちこちに散って潜伏してたグロンギのおかげで日本中で魔化魍の発生率が激上がりしていたため対応に追われていた
主人公の地元で度々定期的に魔化魍が湧いていたし、初動が遅れて主人公に最初の接敵を取られていたのもそのため
今後この設定が出てくるかは不明
使えない設定だったらきっと忘れてる
使える設定でも忘れる事があるのが私の悪い癖です
ついにブラックアイになってしまった二十二号
奥義すらコピーされ、ダグバとどう戦うのか
東京は滅ばずに済むのか
五代さんは曇らずに旅立てるのか
次回、たぶんクウガ編最終回
『空我、それでも』