ぶっちぎり不幸主人公に相棒をつけたかった話。   作:YK

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「……人間、やめるなよ。アレン・ウォーカー」

 

 

 

 黒い何かが吹きあがったように見えた。

 

 

 

 

 対岸。それが視界に入ったのはほんの一瞬。

 

 

 

 

 

「――-ぁぐっ!」

 

 

 

 

(ジィジィ!ジィジィ!ジィジィ!)

 

 

 

 

 声が叩き込まれる。頭の中でボクを呼ぶ声は反響して跳ねまわった。

 

 

 

 

 ――――呼ぶ?いや違う。これは叫んでるんだ。

 

 

 

 

 求めてる?求められてる?――――そんなの誰に。

 

 

 

 

 鈴の音はまだ耳に残っている。もうとっくに耳はふさいでるのに。声と一緒に跳ねまわる。

 

 

 

 

 

 ……ああ、不快。

 

 

 

 

 

「――っいいかげんにしろ! ボクはそっちには行かない!」

 

 それの名前を呼ぶ。「ボクは! ここにいる! ――――イノセンス!! 」

 

 

 

(ジィジィ……)

 

 残響のような最後の一言。寂しそうに聞こえたのは、きっと嘘だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「っああくそ!」

 

 

 

 

 耳鳴りを振り切って対岸に走る。

 

 普段言わない言葉を口走った。それも全部、あの声のせいだ。

 

 

 

 さっき見えた。今も見えている。

 

 

 

 

 鎧の様な装甲。アクマ。

 

 

 

 

 知っているのよりずっと小さいそれは、しかし本能に語りかける。あれは今までとは違う。

 

 

 

 

 なかなか向こうに付かないのが煩わしくなって、両腕と左目を消した。腕と眼球だった部位が体を離れ、水のように形を無くして空気の隙間を先奔る。

 

 しかし怒鳴るようなアクマの声と共に、白い彼の絶叫が響いた。イノセンスはあと一歩、届かない。

 

「アレン!」

 

 

 

 

 レベル3。番人(フォー)を破って出て来たアクマ。アレンを狙ってやってきたアクマ。

 

 ボクの、ボクのイノセンスの目の前にある、破壊対象(アクマ)

 わらおう。

 だって―――――イノセンスが喜んでる。

 

 

「逃げ、ろ……ウォー……カ……こいつは、お前を殺しに来たんだ……」

「そんなこと……っ! 」

 

「――――うぉぉおおおおおおおおっ!!!!」

 ボクは叫ぶ。

 

 声が届くある場所に、そう、イノセンスが求めるところに、辿り着くために!

 

 

 

 

 

 

 

「アレン! 」

「えっ、だっ、誰!? 」

 ボクは、ガクッと首を落とした。

 

 

 (イノセンス)をアレンとアクマの前に滑り込ませたその瞬間は、青白い不気味な燐光を纏うアクマが、甲虫の肢を思わせる指先から、白い糸を伸ばしたところだった。

 その『糸』がボクを貫いた瞬間、びりりと体に衝撃が迸る。輪郭が融解し、ボクの肉体は、もとのチビに形を変えた。

 

 

「きみ! ジィジィ!? 」

「……そうだよ。ボクだよ」

 

 糸はボクの腹に突き刺さっている。よろめいたボクを背中から支えようとしたアレンに首を振り、ボクは自分を貫く糸を手繰るようにして、両手で握りしめる。

 ふだんのボクじゃあ、まずしないことだ。らしくないことをしているかもしれない。

「逃げるぞ! ウォーカー!」

 見習いの中でもいっとう背の高い彼が、うろたえるアレンをすかさず羽交い絞めにした。

 

 

 

「僕をかばったのかジィジィ! 」

 

「……エクソシストだからね。いちおう」

 

「攻撃を……それは、紐!? 」

 

 

「ただの紐じゃあないさァ……」

 

 

 

 アクマは、律儀に説明してくれた。

 

 物質分解能力。

 分子にまで分解、吸収できちゃうダークマターの糸。

 

 ふふふ。なんてこと。

 

 ボクは犬歯を見せて哂う。なんだよ。分解能力ってさ。すごいなあ。こんなところにいたんだなぁ。

 笑うしかないじゃあない。だって、イノセンスが喜んでるんだもの。

 

 

 

「邪魔が入ったが……まあいい。おまえから消えて無くなりなッ! 」

 

 ―――――――こんなに相性のいい敵がいたなんて!

 

「キャハハハハハッ!!やってみなよォ! できるモンならサアァ――――!!?」

 

 ボクの体の上を紫電がはじける―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジィジィ!!」

 

 僕を庇う背中はやはり小さい。黒いローブが、髪が、逆立つ様に紫電に弾けた。這いまわる電流のようなダークマターの攻撃に、ジィジィの小さな背中が、ローブの内側で波打っている。

 彼の華奢な背中が、存在感を亡くしていく。薄く、空気に融けるように、薄く――――!

「分子になっちまえ! 」

 アクマが笑う。

 

 

「やめろ――――アクマァアアア! 」

 

 

 目の前で、彼のローブが落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 身体を反らして絶叫するアレン。

 

 莫迦だナア……。

 

 

 ボクは腕を伸ばす。黒光りした装甲は、鋼鉄の冷たさの下に動力源の温度があった。

 

「バカなアクマ……」

「!? おまえッ、消えたはず――――」

「あんたの能力はボクには効かない。ボクは最初から粒子のイノセンスだもの」

 

 振りほどこうとしても、もう遅い。ボクの粒子が纏わりついて、もうこいつは動けない。

 

「ワン―――――」

 

 

 ボンッ!

 

 

 内側から肩の装甲が弾け、アクマが悲鳴を上げる。ボクを口汚く罵るその口に、ボクは右腕を突っ込んだ。

 

「――――――ツー」

 

 ボボボボボンッッ!

 

「―――――クショガッキャァ!!!!」

「……まだ壊れないの? 頑丈だな。―――――スリー」

 

 

 ボボボボボボボボボボボ………!!!!

 

 

 全身をくまなく撫でるように、連続して『弾ける』レベル3の体。アクマの肉に反応して火薬と化した粒子が、装甲の下を丁寧に……丁寧に……ローストする。

 この上なく相性がいい相手。唇が持ち上がり、笑い声がこぼれる。

 ……ああ、やっぱりボクのイノセンスは最高だ。

 

「支部長! いまのうち! 」

 

「チビが……ッ! 」

 アクマがもがく。

 まだ動けるのか。

 

「あんた、まだあったかいねエ。作り物のくせして……だからアクマってきらいだよ」

 

 

 

 

『封神召喚! 』

 

 

 

 

 空間を囲む柱から放射線状に光がほとばしる。アクマとボクを捉えた白い光は、正直ダークマターの紐よりも痛い。……かなり痛い。

 

 そしてレベル3のようす。こいつは思っていたより装甲が硬く、再生力も強い。どれだけの人間を食ったのやら。

 

 どうやらボクのイノセンスの破壊力じゃあ、完全に破壊するには足りないようだ。

 

 頑張るよ。仕方ないよね。……嫌だけど。

 

 

 

「“聖母の抱擁(ファースト・キス)”第二開放! 」

 

 “第二開放 夜の雫”

 

 ボクのイノセンスが、より赤く、赤く―――――そして、インクのように黒く。

 

 ボクの第二開放は、ボク自身を守る黒鉄の形態。

 これで蹴っても殴っても核爆弾でも、ボク自身に傷ひとつつけられない。……欠点は、完全防御形態だから、ボク自身が休眠状態になってしまうことだ。

 

 だから……。

 

 

 

 

「“聖母の抱擁(ファースト・キス)”第三開放! 」

 

 

「第三解放だと!? やめろ! きみのシンクロ率だとそれ以上は危険だ! 寄生型は肉体に影響が強く出るんだぞ! 」

 

 

 

 

 うるさいな。シンクロ率が低くても、できるんだからやるんだよ。

 

 

 

 

 

「”第三解放――――――天使の祝福! 」

 

 

 

 

 

 

 

 地下の広間に、黒い雨が降る。水に落ちたボクのイノセンスは、きらきらと、ボクにだけ優しい星の光をもって空間を満たす。

 アクマは沈黙し、装甲の奥にある眼球剥き出しの目も光を失った。完全な休止状態だ。

 

 

「……これからしばらく、ボクの第三解放が、この空間を眠らせる。影響が出ないうちに、みんなは体制を立て直して……。『夜の雫』の影響でボクも眠ってしまうから、ボクはここを動けない。アジア支部長の言う通り、ボクのイノセンスシンクロ率は知っての通りだから、たぶんこいつが先に目覚めるだろう。そのあいだに、破壊できるエクソシストを派遣してもらってよ」

 

「それじゃあ! 眠っているきみの身が危ないじゃないか! 」

 

「そのための“夜の雫”だよ。完全防御形態のボクは頑丈さ。こいつの能力との相性もいいしね。ま、ボクがイノセンスに殺される前に、本部のエクソシストが来られるかは分からないけど」

 

「ジィジィ……そんな……」

 

 ただでさえ白いやつが、もっと白くなっている。

 

「なんて顔してんのさ……なら、あんたのイノセンスで破壊すればいいだろ、アレン。夢の中で期待しないで待ってるよ……ふわぁ~あ……」

 

 

 欠伸が出る。瞼が落ちそうだ。

 けっして明るくないこの場所が、まだらに黒く染まっていく。その中でひときわ白いヤツ。

 アレン・ウォーカー。変なやつ。

 

 ……そういえばアイツ、15歳だっけ?

 

 

「ボクは天使も神様も信じちゃいない……いつだって、なにかを成すのはヒトの手さ……殺すのも、施すのも……だからボクは、きみたちを助けてあげるのさ……おなかがいっぱいになったなら……誰かにわけてあげられるから……」

 

 

 

 夜の雫がボクの意識を落としていく。

 

 

 

「……アレンは、ボクより、すこしだけ、年下だから……ボクが、すこしだけ、待ってあげる……ああ、

 

 

 ねむい、ナア……」

 

 

 

 

  夢の中で、あいつの声を聴いた。

 

 バカなやつだなあ。

 アクマなんて、ヒトをやめてしまったやつらなんて、気にしなきゃあいいのにさ。

 あんな姿になってるっていうのに、それでもあいつは――――アレンは、あいつらをほっとけないんだって。

 ヒトも、アクマも、同じだけ大切なんだって。

 

 

 バカなやつだなあ……。

 

 

 でも、あいつが言うと、腹が立たないのはなんでだろう……?

 

 

 

 

「……ジィジィ。約束通り迎えに来たよ。ありがとう」

 

「ふん……どーいたしまして」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 起きたら体はあちこち痛いし、けっきょくアクマのやつは先に目覚めてボクをボコボコ殴ってたっていうし、せっかく第三解放までやったってのにフォーとバク支部長はボロボロだし、アレンのイノセンスはなんか眩しくて直視できないかんじになってるし。

 

「……これ、ボクいらなかったんじゃないの? 解放し損じゃない? 」

「そんなことないですよ」

「……でも、フォーと支部長は焼き損ねた粘土みたいになってたよ」

「きみがいたからあれで済んだんですよ」

「ボク寝てたし……起きたら体ガタガタだし……知らない傷増えてるし……」

「レベル3相手にたかが擦り傷じゃあないですか! 完全防御って本当でしたね! それにシンクロ率も上がったそうですし! 」

 

 結果オーライ! と、アレンの奴は笑う。

 腹立つんだよなあ。この笑顔。

 

「……きみは人間だよ。エクソシストも人間だ。欲と死からは逃げられない」

 ボクの言葉に、アレンは灰色の目玉を丸くしてボクの目を見返した。目の色まで白っぽくて眩しい。

「聞いてたんですか……」

「聞こえたんだよ。ボクも寄生型で、全身こう……粒子のイノセンスだから、空気の動きには敏感なんだよ」

 アレンはなぜか苦笑している。

 

 

 なんだその顔は。

 

 

 ……なんなんだその顔は!

 

 

「……人間、やめるなよ。アレン・ウォーカー」

「ありがとう」

「アリガトウじゃないよ! あーもうこのバカ! いっぺん死ね! 」

「死にませんよ」

「何その顔! なんなの!? ボクを馬鹿にしてるの!? 道化だけに!? 」

「うまい! 」

「うまくないよ!自分でも分かるくらい下手くそだよ!? なんなのこいつ! イノセンスと一緒に浮かれポンチになったわけ? 」

「ははは……」

「笑ってんじゃねーよ! もう! ばっかみたい! 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(原作のフォーの役目の一部を主人公がした感じで、フォーは囮にここに残りますし、アクマは主人公より先に眼が覚めて暴れ出しますし、クラウンクラウンは無事習得されます。アレンはレベル3の攻撃は受けず、フォーの損傷は軽くなりますが、アレンの覚悟は変わりません。)

 

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