ぶっちぎり不幸主人公に相棒をつけたかった話。   作:YK

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教団襲撃編
「何、その面白い噂。うける」


 教団に帰ってきて早々、ボクは簡単な足の治療処置を終えると、すぐに地下鍛錬場に引っ張り込まれてカンヅメになった。

 なんでも、かたちの変わったイノセンスについてデータを取るのだそうで、発動形態を計測されたり、適当な街に引っ張り出されてアクマを倒すところを録画されたり、アクマにボクのイノセンスの効果がなかなか現れないもんだから、経過を見るためにアクマ捕獲したり、ボク自身に計測機械を付けて、発動したり、といたり、発動したり………。

 

 

 

「もうやだ……」

 

 団服姿で涙目のボクに、廊下で出会った部屋着姿のラビがギャハハと笑って「大人しくていいさぁ~」なんて言うのがムカつくので、脛を思いっきり蹴ってやった。

 

 箱舟から帰ってきてからほぼ毎日8時間睡眠だったけれど、娯楽もなく、検査、実験、測定、の繰り返し。自分の部屋にも寝に帰るだけ。

 

 

 だから、ボクを連れまわしたファインダーや科学班を鬼の顔で睨みつけるナースをしり目に、ボクは両手を上げて喜んだ。

 

 

 ヤッター!これで合法的に休める!

 

 ドクターストップさまさま。

 膝の筋組織が損傷してたんだって。

 教団に帰ってきてすぐの検査では見つからなかったので、痛めていた膝を庇っているうちに悪化したのだろうという診断だった。

 

 ボクの右膝には、包帯とギプスが巻かれている。

 おかげで膝を曲げられないので、食堂のベンチを跨ぐようにして横座りでフォークを握っているけれど、膝が重くても身が軽い。

 

 

 

 こうして食堂で食事をするのも、ずいぶん久しぶりだ。

 

 そもそも最近がおかしかったんだ。自分でも想う。ボクに社畜は似合わない!

 

 

 

「あれ、このパンプキンパイおいしいね。そういえばアレンは? 」

「ジィジィと入れ違いさね。なんか中央庁のお役人がな~」

「ちゅうおうちょう? 」

「あら、本当に美味しいパイだわ。このパイもね、その中央庁の人が持ってきてくださったのよ」

「へぇ。あ、ミランダさん。余ってるなら、もう一切れちょうだい」

「ふふふ。たくさん食べて大きくなってね」

「わーい食べるゥ」

 

 フォークとナイフを掲げるボクを横目に、ラビは神妙なため息をついて言う。

「ノンキしてんなぁ……心配じゃないんさ? 」

「別に? 心配する理由がないじゃない」

「そうかねぇ? 」

 もう一度、長いため息をついたラビに肉団子のついたフォークを向けて、ボクの方が首をかしげる。

 

「ラビ、箱舟から帰ってきてからちょっとアンニュイだよね。お腹空いてるからネガティブになるんじゃない? はいあーん」

 

 ラビは不本意そうに肉団子を頬張って、今度は鼻で、深く息を吐いた。

 

「は? アレンがノアの手先だって? 何、その面白い噂。うける」

「うけるってお前……」

「イノセンスってそんなに騙しやすいわけ? だって、神さまの作った武器なんでしょう? 神さまがノア程度に騙されるの? だってアレン、あいつら斬ったんだよ。あいつらにぶち壊された左腕を、あいつらを斬れる武器に作り直したんだろ。わざわざ。死ぬ気で。それがノアの手先? イノセンス発動できないのに、レベル3と単身で戦おうとしたあの馬鹿が? うっけるゥ~」

 

「……なんか怒ってる? 」

 

「は? 怒ってないし。なんだっけ、あんた。ジョニーさんだっけ。アレンのやつ、確実にあんたが心配するほど気にしてないから大丈夫だよ。あいつ図太いから。そういうとこ、ほんっとうに師匠譲りだよね。ほっとう! 」

 

「あの……クロス元帥と何かあったの……? 」

 

「なんもないし!別に!なんにも!無いし!ジェリーさんごちそうさまでした!!!」

 

 背後で、「反抗期かしら……」「……思春期の始まりじゃない? 」なんて声が聴こえた。

 違いますし。

 怒ってもないし!

 

 ふんっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんか悪いことしたかなぁ」

「そんなこと、ないと思います……」

 おろおろと手に持ったスプーンを上下させるジョニーの背後から、控えめに声をかけてきたのはミランダ・ロットーだった。

 黒いドレスを好んで着る彼女は、その青白い顔をわずかに笑みを浮かべてジョニーを慰めるように、向かいのテーブルを撫でる。そこには、先ほどまであの少年が座していたのだ。

 

「……ジィジィくん、さ、最初に会ったころとは別人みたい」

「そういえば……最初の印象では、もっと物静かで落ち着いた雰囲気だったような」

「たぶん、緊張していたんじゃあないかしら……もしくは、遠慮、のような……距離があったんだわ。……でもアレンくんやラビと話す最近の彼は、表情もよく変わって大きい声で話していて、とても楽しそう。あれが素の彼じゃあないかしら……い、いえ。わたしの勝手な印象ですけれど……」

「いや、的を射ているのではないだろうか。ミランダは、よく人を見ている」

 

 

 盲目のエクソシスト、マリが柔和な笑みを浮かべて言いながら、テーブルにトレイを置く。

「すまない。ここに座ってもいいかな」

「ええ、もちろん」

「ミランダも、良ければ」

 ミランダはマリの誘いに、おもちゃの様にこくこくと頷いて、巨漢の隣に滑り込むと、小さくなって座った。

 

「俺はアレンとはあまり接点が無いが、彼が善良な少年だというのは、少し話せばよく分かるよ」

「そ、そうよね……あんな噂、アレン君と話してみればすぐにデマだって分かるもの」

「そうだよね! 」

 両手を胸の前で握りしめるミランダといっしょになって、ジョニーも拳を握って全力を込めて同意する。

 

「ジィジィも、不器用な子だ。先ほどのあれは、アレンが心配で理解の無い周囲に憤ったゆえの行動だろう? 神田も……見ての通りだからな。けっこう誤解されるんだ。言葉足らずというか、言葉より体が動くタイプというか、背後よりも進む先を見ている。彼らは根底が似ているのかもしれないな」

 苦笑しきりのマリに、体を固くしていたミランダにも笑顔が戻る。

 

「わ、わたし……アレン君とリナリーちゃんには、感謝してもしきれないの。だって、初めてわたしを必要としてくれた人だもの。でも、それが無くても彼らを見ていたい……とても眩しいのよ」

 

「それは貴女が、愛情深いという証だと思うよ」

 

「いいえ……わたしはみんなから貰ったものを大切にしているだけなんですもの」

 

 ミランダは胸元で握った手を祈るように組んだ。

(……あの子たちには幸せになってほしい。たとえ神の使途として戦うことで、それが難しいとしても……いいえ、神の使途に選ばれたからこそ、彼らに与えられるのは希望に溢れた未来でなくちゃ)

 

 ミランダの静かな祈り。その声なき祈りに耳を傾けるように寄り添うマリ。

 さらにそんな二人を眺めているジョニーは、ひどく居心地の悪そうに尻をむずつかせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ====================

 

 

 

 

 

 

 

 話は少し戻って夕食前。

 ボクのもとに、中央庁のヒトだというツルツル頭の丸眼鏡のおじさんがやってきた。

 

「クロス元帥が、あなたとお話がしたいとおっしゃっております」

 

 

 

 

 

 

 真っ赤なソファにふんぞり返ったクロス・マリアンが開口一番に口にしたのは、「なんだ、小汚ねェガキだな」という一言だった。

 

 呼びつけたのはそっちのくせに、横目でちらりとこちらをを見たっきり視線も合わない。

 

 擦り切れた愛想を張り付けてやってきても、クロス・マリアンはボクを無視して煙草に火をつける。

 軟禁状態だというわりには、元帥はワイングラスを傾けつつプカプカ煙草を吹いて、悠々自適といった感じだった。

 痺れを切らしたスキンヘッドが先を促し、ため息を飲み込んで数回、アレンの師匠は面倒くさそうにボクを指差して言ったのだ。

 

「なんだ、まあ……そうだお前、俺の弟子になれ」

「……はあ? 」

「正確には、俺の弟子として、クロス・マリアン部隊の管轄下に入れ」

「あんた、何言ってんの? 」

 

 ボクは呆れかえって思わず口調を濁した。

 はす向かいで、「ヒョエ~ッ! 」とハゲ三人衆が悲鳴を上げている。

 

 クロス・マリアンは、馬鹿を見るような蔑んだ眼でボクを見て、たっぷりの時間をかけて優雅に煙草の灰を落とすと、緩慢に説明を開始した。

 

 

 

「……いいか、そのカラカラの頭に詰め込んでおけ。元帥とは、エクソシストがもし集団でのことに当たる際、指揮官の役割を果たすことが前提の役職だ。臨界者……つまりイノセンスのシンクロ率が100パーセント以上の有能なエクソシストを頭に置き、有事の際には一部隊として動く。……これは分かるな? 」

 ボクは頷く。

 

「それで、今回のノアによる元帥襲撃。それで多くのエクソシストが失われた。元帥も一人死亡していやがる。そこで部隊の再編制なり、補充なりを行わんとならん。しかし部隊の構成員をどうやって選別するかというと、ティエドール部隊を見れば分かる通り、優先されんのは元帥との師弟関係のある奴らだ」

 

「……つまり、アレンがクロス部隊なのはあなたと師弟関係があるからで、クロウリー、ブックマン、ラビ、リナリー、ミランダは……他の誰とも師弟関係を結んでいないから……」

 

「そうだ。先ほど言った通り、エクソシストは現在合計で14名。へブラスカを抜けば13名……いや、ひとり適合者が見つかったから、やはり14名か。これを、俺、クラウド、ソカロ、ティエドールで再編成しようという動きがこれから絶対に出る。そーなると、だ……経験がねえ、学もねえ、ただしイノセンスはそこそこ使えるっていう入団して数ヶ月ぽっちのガキのてめえは、まず間違いなく、どこかの元帥と師弟関係を結び、任務に同行して動き回ることになる。……俺の言った意味が分かったか? 」

 

「えっと……じゃあボクは、高確率で、弟子が多く殉職したクラウド元帥やソカロ元帥の弟子として迎え入れられる……」

 

「ソカロはアル中暴力オヤジが天使に見えるくらいの男だぞ。クラウドは、まあ、成りは抜群だが……イノセンスが鞭ってところで、御察し、だな」

 

 ボクは出そうだった言葉を飲み込んで考える。

 

「ボクを勧誘するってことは……何かあなたに、借金を肩代わりさせる以外の目的が? 」

 

「別に? 俺様はやさし~いからな。不憫に思って声かけただけだ。ちょっとは使えそうだし、唾つけといたらナンかの役に立つかもしれねえしな。ああ、ちなみに俺はいまのごちゃごちゃが終わったら、また楽しい一人旅だからな。護衛も同行者もいらん。好きにやれ」

 

「……つまり、意図は察しろってことですね」

 

 

 

 

 ボクらの会話を、部屋の隅に固まったハゲ集団が「ハワワ……」って感じに冷や汗をかきながら見ていた。ゴーレムも部屋の中に数匹飛んでいる。

 彼らは中央庁のお役人だから、クロス元帥は本当の具体的な意図を明言ができない。

 

 

 気になるのは、一点だけ。これはボクのためになる申し出なのか? ボクは、利用されて終わりってのは御免だ。

 

 ワインで口を湿らせているクロス元帥をジッと見るボクに痺れを切らしたのか、彼は面倒くさそうに付け足した。

 

 

「それと……あ~……馬鹿弟子は、仲間が出来て喜ぶんじゃねーの? 」

 

 

 つまりこれは、アレンにも関わることなのだ。

 さすがアレンの師匠というべきか、鉄壁のポーカーフェイスでグラスを傾けるクロス元帥は「これで分からねえなら俺ァ知らねえぞ」といったふうに、元詐欺師のボクには見えた。

 

 

「……分かりました」

 ボクはなんとなく背筋を伸ばし、息をつく。

「……唾でもなんでも、勝手につけといてください。師弟関係の打診が来たら、『ボクはクロス元帥に弟子入りしました』って言っとくので」

「そうしとけ」

 

 

 元帥は、いやにずる賢そうな笑みを浮かべて煙草を灰皿に押し付ける。

 ……何かに巻き込まれるかも。早まったかな。

 

 でもまあ、たぶん、ここで『イエス』と言わないと、なにかの『波』に乗り遅れる気がするのだ。

 

 

 ただの勘。

 でも経験上、ボクを裏切らなかった『勘』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(マリとミランダを応援し隊)

 

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