日が暮れ、そろそろ夕餉を取るべきであろうそんな時間、晴明は一夏の部屋にいた。特に理由も聞かされず、ただ一夏に部屋に来るよう言われただけの彼だったが、部屋に入った瞬間、否応なくその理由を理解することになった。
話は変わるが現在、一夏は同じ男子であるシャルルと相部屋となっている。やはり同性と相部屋の方がいろいろと面倒がなくていい……ということもあるが、箒といるとしょっちゅうハプニング(内容は推して図ってもらいたい)が起き、その度に騒音問題が起こるのがなによりの理由だと聞かされたときは、晴明も苦笑いしか起きなかった。
……なにを隠そう、今回晴明が呼び出された原因は、シャルルにあった。ここで少し語弊があったことをお詫びしたい。先程、シャルルのことを同じ男子と形容したが、それは間違いだ。どういうことかというと……
「……こりゃまた。まあ、考えなかったわけじゃないが……」
男子にしてはいやに膨らんだシャルルの胸部を見て、晴明はそう呟く。つまりはそういうことだ。シャルル・デュノア、彼は、彼ではなく彼女だったのである。何故一夏にそれがわかったのか……は大体晴明には察しがついていたので、彼は何も言わなかった。
「つまり、シャルル君じゃなくて、シャルルちゃんだったってわけか?」
いや、女の子だからシャルロットちゃんか? と晴明は口に出さずに内心で思ったが、図らずもこれが当たっていることは、今のところ彼は知る由はない。
「俺に話してよかったのか?」
「お前は基本アホだけど、アホなりにその辺の分別はしっかりしてるしな。アホだけどその辺は信じてるよ。アホだけど」
「アホみたいにアホって言ってくるなお前……」
晴明はそう言うが、しかし一夏はこれをスルーし、話を進めた。
「……で、なんで男のふりなんかしてたんだ?」
一夏の疑問はごく自然なものだろう。女の園であるIS学園に、わざわざ男として入ってくるメリットはいかほどのものか。
シャルルはデュノア社の社長を父に持つと一夏は聞いた。となると、会社の宣伝目的だろうか? ……それとも彼女の趣味? の可能性も一瞬頭をよぎったが、シャルルのこの顔を見る限りそれもないだろう。
ではなぜ? その答えは、彼女自身の口が、静かに語り始めた。
「それは、その……実家の方からそうしろって言われて……」
「実家って……デュノア社ってことでいいのか?」
「うん……僕の父が、そこの社長。その人からの直々の命令なんだ」
「命令って……親だろう? なんでそんな」
「……僕はね……愛人の子なんだよ」
それを聞いて、一夏は何も言えなかった。ずっと黙っている晴明も、一夏ほど表に出さないものの、少なからず動揺していた。彼らも少なからずいろいろな体験をしてきたとはいえ、やはりまだ子供だ。フィクションでしか聞いたことのない話が、今こうして目の前に現実として現れてのは、やはり強烈なものがあった。
「2年前くらいに、僕の母が亡くなってね、それで父の方に引き取られることになったんだ。それでIS適性が見つかって、あとはそのまま……」
「……いきさつはわかったけど、なんでそれで男装する必要があるんだ?」
「簡単だよ。デュノア社の宣伝、男性操縦者がいるっていう箔のため……それに、同じ男子なら、日本にいる特異ケース達と接触しやすいだろうって……」
「……結構苦しい策だな」
晴明はそう呟いた。宣伝とは言っても、ばれたときのデメリットを考えると博打が過ぎる。それに、俺たちとの接触だって、同性なら確かに異性よりかは接触しやすいだろうが、やはり効果はそんなに期待できるものじゃないだろう。むしろ最初っから女の子として近づき、ハニートラップでも仕掛けたほうがまだ目はある気がする。少なくとも俺は引っかかりそうだ。そんなことを考えながら、彼はシャルルを見据えていた。
「アハハ……まあそうかもね。それだけ、あの人は切羽詰まってたんじゃないかな? まあ、僕はよく分からないけど……」
力なく、乾いた笑いを浮かべながら、シャルルはそう言った。
「……いいのか、それで?」
「え?」
「それでいいのか? いいはずないだろう! 親だからって、おかしいだろ、そんなの!」
「い、一夏?」
「やめろ織斑、シャルルさんびっくりしてるじゃん」
「晴明は……晴明はなんも思わないのかよ! なんでこんな……!」
「それを言って何か現状が変わるかよ? いいから落ち着け」
「!……クソッ」
憤りを覚える一夏に対して、晴明は対照的に平常通り。しかし彼の心中もまた胸糞が悪いと言った感じだった。
「……シャルルは、これからどうなるんだ?」
「どうって、女であることがばれたから、本国に強制送還かな……まあ、代表候補生は降ろされて、刑務所にお世話になるかもね」
「それでいいのか?」
「いいも何も……僕には選択権はないよ。それに、もう疲れたんだ……ウソをつくのも」
「……もしばれなかったら、ずっと男として生きていく予定だったのか?」
「だと思うよ。実際、そこまで計画として知らされていたしね。父が、僕に男のしぐさを教えるときの気迫と言ったら、すごかったから……」
「そうか……」
「………ん?」
しかし彼女のある言葉が引っ掛かり、晴明の
「……なあシャルルさん、今言ったこともっかい言ってくれる?」
「?……そこまで計画として知らされていた」
「違うその後」
「父が、僕に男のしぐさを教えるときの気迫と言ったら、すごかった」
「……ン?」
今度は一夏がその言葉に引っかかった。そのワードの羅列に嫌な予感を禁じ得ないながらも、一夏はシャルルに聞いてしまった。
「……なあシャルル、その……男の変装の仕方を教えられた時って、どんなだったんだ? あ、いや、言いたくないなら言わなくていい」
「え? うん、まあいいけど……そうだね、例えば……」
-
--
----
case1:
『いいか? これより君の一人称は僕だ。さあ言ってみなさい。"僕は男だ"と』
『は、はい……ええと、ぼ、僕は男だ』
『違う! もっとハスキーな声で!』
『ぼ、僕は男だ!』
『フフフ……いいぞお』
case2:
『あの、これは……』
『サスペンダー付きショートパンツだ。これを着こなせなければ男にはなれん』
『でもこれ、子供用じゃ……』
『お黙り。いいから両手で両方のサスペンダーの紐を引っ張るんだ』
『えぇ……こ、こうですか?」
『ハァハァ……いい、いいぞお……そのあどけなさを忘れるなぁ』
case3:
『さあ言え! そのハスキーヴォイスで、私を旦那様と呼ぶのだ!』
『は、はい……旦那様』
『ハァハハハ、
----
--
-
「……ていう感じだったけど……」
「……うん」
一夏はただそれだけしか言えなかった。晴明に目配せをしてみると、何やら彼もまたひとつ哀しみを背負ったような目をしている。この時、2人の思考はシンクロしていた。『思っていたより深刻な事態だ』と。
彼らは気づいてしまったのである。シャルルに男のやり方を教えた。本当の理由を。
「……シャルル、ここにいろ」
「え?」
「この学校にいる間は、国家や組織の外的介入は、本人の許諾がない限りできないって特記事項に書いてある。これを利用して、とりあえずはここにいるんだ。その間に何か策を考えよう」
「え、で、でも……」
「絶対帰っちゃダメだ! いいか、危険だ、シャルルが思ってるよりも結構危険だ!」
「俺もその方がいいと思う。いやホントに危険だこのままだと」
主に貞操という観点で。
この時点で一夏と晴明の意見は一致していた。彼女をフランスに帰国させてはいけない。もし帰国させてしまったら、牢屋どころか
「ど、どうしたのさ一体? なんか僕が話してから2人とも変だよ」
「ああ、そうさな……なんていうか、アンタも一応父親に好かれてはいたとは思うぜ?」
「ッ……気休めなんていらないよ」
「気休めじゃねーよ凄惨たる事実だよ。受け入れてくれ残酷なようだけど」
もし彼女が、シャルルが父親の愛を感じ取れたのなら、どうなっていただろう? よくはわからないが、下手をすれば今よりよっぽど拗ねた性格になる可能性はあっただろう。
「とにかく、どうするか考えといてくれ。決めるのはシャルルなんだから」
「う、うん……わかった、そうするよ」
何とかシャルルにそう取り付けさせ、どうやら執行猶予を稼ぐ程度には何とかした2人であった。
と、ここで示し合わせたようにノックがトントン、とドアを叩いた。
「一夏さん、いらっしゃいます? 夕食をまだとられていないようですけど……」
「せ、セシリア……」
「あっ……しまった、俺も清香さんと食堂行く約束してたんだ……」
「ど、どうしよう」
「と、とりあえず俺と晴明で出るから、シャルルは部屋から出ないでいてくれ。メシも後で持ってくるから」
「う、うん。ありがとう……」
「リクエストある?」
「あ、和食で……」
OK。晴明の言葉を最後に、2人は大急ぎで部屋を出て、白々しいマシンガントークをセシリアにぶつけ、食堂に向かったのであった。
--さーたん視点
「あー……」
「どうしたの? なんかお疲れじゃん」
「いや……世の中、いろんな人がいるなってさ……」
「なにそれ?」
清香さんと食事をしている最中も、やはり俺はどこか上の空だった。
シャルルさんに話してもらった父親の話。あれを思い出すと、やはり何とも言えない気持ちになる。
彼は息子に恵まれなかったのだろうか、それとも、単純にそういう趣味なのだろうか? どちらにしろ、わざわざ女性として生まれた彼女を、会社を巻き込んだ理由をつけてまで男に見立てようとしたのだ。相当な執着であることに変わりはない。何が彼をそうさせたのかは、知る由もないけれども。
「さっきからどうしたの? 難しい顔しちゃって」
「ん? いや、俺なら女の子のほうが好きだけどなーって」
「はあ?」
やべ、つい変なこと口走ってしまった。不審に思われたかな? なんか誤魔化した方がいいか?
「え? なに、どういうこと?」
「あ、あーいや、あれだよ。こうやって清香さんと一緒にいるの、好きだなーって」
「え、へ……!?」
あれ? なんか余計ややこしくした気がするぞ? やっべどうしよう。もうさっさと話し切り上げたほうが良いなこれ。
「ね……ねえそれって」
「ああいや、なんでもない、忘れてくれ」
「え、でも」
「食堂しまっちゃうぜ? 早く食おう」
「……なんなのさ、もう」
少しふてくされた表情の清香さんに、内心でごめんなさいしながら、俺は箸を勧めた。
……そういえば、今回のシャルルさんの騒動で思ったけど、改めて、なんで俺と織斑はISを動かせるんだろうか? どうして女にしか動かせないのか、それは開発者の篠ノ之博士も明確にはわかんないらしい。
もしかして、性別じゃなくて、もっと別のファクターがあって、それがたまたま女性に多いってだけなんだろうか?
……だとしたら
「……俺たち以外にも、いたりしてな」
いたとしたら、どんなのだろうか? そんな答えの出るはずのない妄想を、俺は夕食を食べながら、黙々としていた。
アニメでシャルルの声を聞いたとき、何故か私はマイルス・テイルス・パウアーを思い出してしまいました。