「……ねえ晴明、ちょっと聞いていい?」
そう聞いたのは、晴明の隣にいる鈴だ。
本日はタッグマッチトーナメント。これは現在の生徒の能力を、言葉は悪いが格付けする目的で行われるトーナメントだ。プライドか、はたまた噂の優勝賞品目的かは定かではないが、生徒は皆優勝を狙い闘志を燃やしている。
もうすでにトーナメントは始まっている、これから出場する生徒や終わって休んでいる生徒は控室に待機しており、いつもの見知った面々もそこにいた。本来ならば皆緊張に満ちているであろうところだが、どうやら違う様子が見受けられる。控室にいる生徒達は緊張しているのは違いないが、緊張と言うよりは戦慄と言った方が正しいだろう。それは鈴とて例外ではなかった。
「あのムッキムキの長い髪の人は誰よ?」
「ラウラさんだ」
「……!?」
理由は控室の中にぱっつんぱっつんの服を着た毛筆タッチのがなんかいるからだ。
「……えーと晴明さん、とりあえずその方がラウラさんだと仮定するとして、その……なにがあったか聞いても、聞いていいのかしらこれ?」
そう聞くセシリアの様子も、唖然という形容以外あてはまるものはなかった。逆に昨日までのロリが今日見ると八頭身の筋肉になって平然としてる人はきっと多くないと筆者は信じたい。
「えーとね、コップにね、水をなみなみ入れてね、中にはっぱを一枚入れるじゃん? んでそれをむうーんっつってね、誓約してね、こうなったんだよ」
「さーたんちゃんと説明する気ないでしょ?」
「いや真面目な話するとさ、俺もよくわかんなくて……」
晴明は嘘を言っているわけではない。実際やったことと言えば水の入ったコップに葉っぱを浮かせて遊んでたり、たまにドトールいってだべってただけなのに、晴明が気づいた頃にはこうなっていたのだ。
「方法はわからないが、強制的に成長したんだ……! 千冬姉を倒せるレベルまで!」
「ね、ねえどうしたの一夏? 口調変わってるよ?」
「やはり俺は間違ってなかった……コイツの牙は、王にも届き得た!」
「王って誰? ねえ晴明君、王って誰?」
その場にいた一夏と晴明はこれ以上ないくらいに真面目に語りだし、それにシャルルや清香……というより女性陣はついていけなかった。
「良かった……殺されるのが、俺でよかった!」
「ダメだ! そんな、もうこれ以上そんな力! 一体、この先どれほどの……!」
「楽しそうねアンタらね」
一夏は安堵していた。命の圧縮によるラウラの才能ある未来を捨てる覚悟、それほどの誓約の矛先が自分でよかったと。
晴明は恐怖していた。ここまでなんの許可もなくやってるわけだが、さすがにそろそろ運営に何か言われるんじゃないかと。
鈴は正直ついていけなかった。男子特有のこのノリに。
「……その、1ついいか?」
そんな中、先程まで黙っていた箒が口を開けた。彼女には疑問があった。
「その図体でどうやってISに乗るつもりだ?」
「「「……あ」」」
その場にいた全員が失念していたことが、箒の一言で浮き彫りになった。聡明な読者諸氏の中にはもう察している御方もいるかもしれないが、現在のラウラさんは2メートル半以上の大きさだ。これは身長の世界記録に匹敵する大きさであり、いくらISにはオートでフィッティングをしてくれる機能があるとはいえ、女性が扱うものとして想定されているものに、悲しくもその大きさは規格外なのだ。
「……どうしようラウラさん?」
『first comes ro……』
「いやそういうのいいから」
さすがに晴明もこの時は素になっていた。いくら天賦の才を持つ者が更にその才を全て投げ出してようやく得られる程の力を得たとしても、それが本番で使えないなら意味がない。晴明はせっかく強い装備を手に入れたのに、ラスボス時にイベントで強制的に装備を変更されたようなやるせなさを感じていた。
「んでどうする?」
『……仕方ない』
「脱ぐか」
そう言うなり、ラウラさんの肉体が割れ、中からISスーツ姿のいつものラウラの身体がズルゥッと出てきた。
「「「肉じゅばんだったの!?」」」
突然のその光景に女性陣は驚愕の声を上げた。そう、実はあれはラウラがドイツ軍に頼んで作ってもらった特殊強化外骨格なのである。
「……知ってたさ、ああ、知ってたさ……」
「……まあ、そうなるな……うん」
「なんでそんながっかりしてんのよアンタらは!」
対照的に一夏と晴明はどこか哀しい目をしていた。『忍者なんていないよ』と言われた外国人のようである。
「……いやまてよ織斑、考えてみたらあれ、アーマードマッスルスーツってことだよな……?」
「はっ……そうか、てことは……!」
しかし何か希望を見出したかのような晴明のその言葉により、一夏の目はまた輝きだした。『忍者? ああ最近少なくなったね』と言われた外国人のようである。
2人のテンションはまたもや高くなりだし、それを見ていた女性陣は、ただただ困惑するばかりだ。
「なあラウラさん、そのスーツの素材教えて」
「む……すまないがトップシークレットだ」
「この曖昧な回答! 晴明、やっぱり!」
「ああ間違いねえ! 絶対オリハルコンだ!」
「よっしゃ! 賢者の石探しに行こうぜ!」
「よっしゃ京都行くぞ京都!」
「よっしゃじゃないわ止まれ!」
夢に呑みこまれ暴走しかかっていた男子たちは、しかし脳天に出席簿を喰らったことにより沈静した。「なんだよもう」と晴明はのどまででかかったが、それは彼を見る猛禽類のような目によって言わずに留められる。
「さ~た~け~」
「せ、せんせーい……」
その目の持ち主は、千冬様その人だ。
「これはどういうことだお前、あん?」
「い、いやあ悪堕ちしちゃってハハハハ」
「ほう、なら正義の鉄槌を受けても文句は言えんな?」
「ちょ、タンマタンマ!」
是非もなく、また容赦のない出席簿が晴明を襲おうとしたその直前、アナウンスが部屋に響き渡った。
『次の試合は、佐丈・ラウラペア対、織斑・デュノアペアです。該当の生徒は、所定の配置につき準備を……』
「ほ、ほら、俺もう行かなきゃ」
「……貴様、覚えてろよ」
彼女は出席簿を収め、とりあえず晴明に粛清を行うことは保留とした。それを見て晴明は、学校の呼び出しというものに生まれて初めて感謝していた。
「セーフ……よしじゃあ、また試合でな」
「ああ! 目にモノ見せてやるよ! ……ところで千冬姉と何の話してたんだ?」
「今度焼肉奢ってくれるって話。織斑もつれてってやるってよ」
「ありがとう千冬姉行ってくる!」
「貴様ァ!」
いけしゃあしゃあとのたまる晴明に対して慟哭する千冬様だったが、言い終えるより前に彼らは控室から出て行った。
「じゃ、じゃあ僕たちもいこっか」
「ふん、準備できているな、貴様?」
それに続くように、シャルルとラウラも彼らの後を追った。かくして、それぞれ譲れないものを持ちながら、闘いは動き出したのであった。
「……どうすんのこれ?」
控室に
--ボッチー視点
トーナメントに勝てば、教官はドイツに戻ってくる。これ以上ないほど破格な条件だと思った。IS学園の生徒は皆低レベルで、実戦経験すらない素人ばかり。そんな集団の頂点に立つなど、赤子の手をひねるようなものだ。
そう思っていた。
「どうした! 俺より強いんだろう、お前!」
「貴様! くそ……」
織斑一夏が、資料にあった零落白夜を振りかざし、突進してくる。AICによる攻撃を加えるが、その悉くが回避された。やつも白痴ではない。対策は立てていたということか。
「右がお留守だよ、マドモアゼル!」
「しまっ……!」
やつに集中するあまり、シャルル=デュノアのことを失念していた。まずい、喰らうッ!
「うおォ無理心中ゥーッ!」
「うわあぶなっ!」
しかしやつからの攻撃は、佐丈晴明によるパイルバンカーの攻撃で、すんでのところで止められた。
「無事かい、ラウラさん?」
「ふん……」
礼を言うべきなのだろうが、今の私は苛立ちでそんな余裕は無かった。
これはどういうことだ? 私は強いのではなかったのか? 部隊内ではいつも一番だったはずだ。それが何だこの様は? もう試合開始から随分経つ。予定ならすぐ終わるはずだったのに、いつの間にかこちらが劣勢に持ち込まれている。代表候補生もいるとは言え、命がけで戦ったこともないような奴らに、何故戦闘で遅れを取る?
「ダンス中は相手のことを考えるのがマナーだよ、レディー!」
「な!?」
いつの間にか、正面にはシャルル=デュノアがいた。気付いた時にはもう遅い、目の前にあったショットガンが火を噴き、私は衝撃に襲われた。
「がはっ!」
「ラウラさん!」
「そこを通せ、晴明!」
「ちっ……ごめんだね!」
何故だ? なんだ、これは? こんなところで負けるのか、私は?
また、『出来損ない』に戻るのか?
ようやく、教官のおかげでISを使えるようになった。
ようやく、誰も私をバカにしなくなった。
ようやく、みんな普通に接してくれた。
ようやく、強くなれた。
また戻るのか? また私は弱くなるのか? また私は、置いてけぼりなのか?
やめろ、撃つな、攻撃するな
恐い、怖い、コワイ、こわい
やだ
助けて
損傷度:D
戦闘恐慌状態が規定値に到達
コマンド緊急自動入力:↑↑↓↓←→←→BA
VTシステム:起動
--さーたん視点
「うわあぁあああ!」
ラウラさんがやられる、そう思った矢先だった。突然ラウラさんが叫びだして、彼女のISから黒い何かが浮かび上がり、それが彼女をドロドロと包み込んだ。
「な、なんだ!?」
「さ、佐丈君! あれは……」
「わかんねえ、けど……」
やばいってのは、何となく察しが付く。まるで粘土のようにうごめき、ラウラさんを包み込むそれは、昔見たホラー映画を彷彿とさせるものだった。
ドロドロと、まるで型に流し込むかのように、それは段々と形を成していった。
「雪片……!」
完全に何かが形を成したあと、それを見た織斑が呟いた。聞いたことがある、あれはたしか、織斑先生が現役のときに使っていたIS、雪片……
「……がどうした」
「い、一夏?」
「それがどうしたぁ!」
それを見て何を狂ったのか、織斑はそいつめがけて突進する。しかしやつの構えた剣ははじかれ、あの黒い何かが剣を振りかざした。
「一夏ぁ!」
「!……」
斬撃、それは先程の戦闘でシールドがカツカツの織斑を、一刀両断する。
はずだった
「……?」
しかしいつまでも襲ってこない斬撃を不思議に思ったのか、織斑は目を開ける。目を開けた織斑の顔は、驚愕に染まっていた。
目の前に俺がいたのが、理由だろう
「よお、元気?」
「晴明、お前、腕……」
状況を説明しよう。とっさに織斑を庇って黒い奴の剣を受けたものの、攻撃が予想以上だったらしく、ISの装甲を貫いて腕にまで剣が届いているのだ。
「お前、俺を庇って……」
「ああ、こんなことになるなら助けるんじゃなかったわ。死ぬほどいてえよ」
めっちゃ腕えぐれてる、グロイ。これ大丈夫かな、不随とか勘弁なんだけど。なんとか離脱して、黒い奴から距離をとる。
「佐丈君、それ……」
「ああそれはあとで……で、なにブチギレてんだよお前、バカなの?」
「……あれは千冬姉の、千冬姉だけのモノなんだ。それをあんな風に使うなんて許せねえ。アイツも、あんな力に振り回されてるアイツも気に入らねえんだ……」
コイツホントシスコンな。こういう一途なんだけど、少し向こう見ずなところもある。それがコイツのいいところでもあり、悪いところでもあるが。
「……別にオマエががいつどこでくたばろうが知ったこっちゃないけどよ、今ここで死ぬと俺が千冬様に殺されるからやめろ」
「……悪い」
俺の傷口を見て罪悪感にでも苛まれてるのか、織斑はクールダウンしたようだ。とりあえずこれでコイツがまた突進することはなさそうだ。
「……まあ、どっちにしろアイツは止めねえとな」
「……晴明、まだIS、動くか?」
「ギリな」
「やるつもりなの?」
俺たちの姿を見て、シャルルさんは不安そうにそう呟く。まあそうもなるだろう。一人はシールドエネルギーほぼ無し、1人は片腕やられて満身創痍、無理ゲーだ。
でも
「アイツは気に入らない、そうなんだろ?」
「ああ、1発ぶん殴ってやんなきゃ気がすまねえ」
やはりこいつはどうしようもなくバカだ。そしてそれを面白がってる俺もどうしようもなくアホなのだろう。
「じゃ、今度はお前が俺を庇って死んでくれ」
「言ってろ」
そして俺たちは、盛大にバカをするため、黒い彼女と相対した。
『……-』
「……ん? なあ晴明あれ……」
「あ、なんだよ?」
織斑が何かに気づいたようで、黒い奴を指さす。なんだ……? なんか挙動が妙に変なような……
『……--ッ! ッッッ!!』
……あれ、もしかしてあれ……
「晴明、もしかしてあれ、息しづらいんじゃないか?」
『ンーッッッッ!! ンンーッッッッ!!』
「……よし行くぞ織斑」
そんなことはないはずだ、いくら粘土っぽくて通気口がほとんど見えないからってあれはIS、宇宙空間を想定してちゃんと息できるはずだ。間違ってもあんなパンスト被った芸人みたいな息の仕方はないはずだ。
「いや待ってアレウルトラクイズみたいなリアクリョンしてるもんあれ、ヤバイって絶対ヤバイ」
「いいから行くぞ」
「いやだからさ」
「うるせーよ! だからシャレにならなくなる前に行くぞっつってんだよ! せっかくシリアスな空気つくったんだから黙ってろ!」
……時間はない、最短で決めなければ……
Q:戦闘シーン手抜きじゃない?
A:手抜きじゃないです。巻いただけですはい。
はい