無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~   作:虎上 神依

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Chapter2-3 大賢者の実力

「あのー、どうしてこうなったのかしら?」

 

「俺に聞かれてもなぁ」

 

 俺とウルナは始点の街近くの林のなかで3匹の魔獣に囲まれていた。

 名前はヒトクイグザ、ハエを食らう食虫植物が突然変異を起こし、進化して大きくなった食人植物だ。

 食虫植物独特の大きな葉っぱ型の口を持ち、加えて粘液がたっぷり付着している紅色の触手まで持つ始末。見た目からして最悪の魔獣だ。

 

「な、なんでこんな卑猥かつ気色悪い魔獣が始点の街の周りにいるのよ!? しかも三匹もぉッ!!」

 

 ウルナは早速俺の背後に隠れると目の前でうねうね動いている触手を見ながら嫌悪感で体を震わせていた。

 

「まぁ、いるの分かってたけどまさか狙われるとはね……。ウルナ差し出せば見逃してくれるかな?」

 

「さ、最低ですよ、ゼルさんッ!! こんなか弱い女の子を囮にするなんてっ! そもそもなんで言わないのよ!」

 

「なんか面白そうだったから」

 

 でも彼女の言う事も一理ある事には変わりないな。

 なぜなら、一応オーク、ゴブリン、触手系魔獣は一般的に女性の敵とも言われているからだ。

 実際極稀だが犯されたという前例もあるみたいだし、嫌悪感にかられても仕方ないだろう。

 

 だが――俺にとって、こんな魔獣を目にした所で道端に落ちている珍しい形の枯れ葉を見つけた時の感覚でしかない。

 俺には刀を持ちながら平然と横を通り過ぎただけでコイツらを倒せる自信あるぞ。

 

「さっ、無視して行こうか」

 

「はっ!? 何言ってるんですか、ゼルさんッ!」

 

「いや別に戦う必要なくない? あっ、もしかして敢えて戦うとか? なるほど、君にしては中々の発想じゃないか」

 

「貴方の言っている事の意味が分かりませんよッ! そもそもこんな卑猥な魔獣、放っておくわけにも行きませんから。戦いますよッ!」

 

「そんなに意気込む必要なくなーい?」

 

 俺は背中の長剣を欠伸をしながら抜き、魔獣二体を交互に見やる。

 感知できる魔力量からしても推奨レベル二桁程度の魔獣だろ、こんな奴らがさっきの推奨レベル100前後の海竜よりも強かったらそれはそれで怖いけど……。

 

「やっぱ面倒くさい、ここにいる美少女ちゃんと戦ってくれ」

 

 隣りで両手杖を勇ましく構えるウルナを指差しながら俺は魔獣に言った。

 

「ほ、本当に見捨てる気なのゼルさんッ! 酷い、酷すぎるっ、見損ないましたよっ!」

 

 ウルナは早速俺の暴挙にギャーギャー喚き始めた。

 魔獣は騒いでいる俺達から正体不明の謎のオーラを感じ取ったのか一瞬慄き後退する、だが一か八かと風魔法を放ってきた。

 その創り出された風の刃は俺の体を切り裂かんと物凄いスピードで襲い掛かってくる。

 

 だが、俺は再度欠伸をしながら伸びの要領で手を適当に前に出す。

 

「ちょっ、ゼルさん前っ!!」

 

 俺に向かって飛んできた風魔法に恐怖を感じたのかウルナは叫ぶ。

 

 しかし次の瞬間――彼女の目の前で更に信じられない出来事が起こる。

 

 

 

 

 パシュッ

 

 

 

 

 俺の手に当たった瞬間その風魔法はろうそくの火か消えて無くなるかのように消滅した。

 

 

「えっ――?」

 

「その程度の魔法が俺に通用すると思った?」

 

 

 ただ一言そう呟くと俺は先程の風魔法よりも速く動き、魔獣の後ろに回り込んだ。

 二体の魔獣達は目の前から突然消え失せた俺の姿を探すためウロウロし始めた、しかしその僅かな隙きを作った時点で――

 

「お前は死んだも同然だ」

 

 魔獣が後ろを振り向き俺の姿を目視した瞬間俺は長剣を大きく振りかぶった。

 これぞ、ゼルファ流――刹那の煌めきと軌跡から放たれる雷系剣撃

 

 

「雷牙絶閃」

 

 

 剣で敵を薙ぎ払った瞬間、剣先から目をくらますほどの輝きが放たれる。

 金色の軌跡、迸る稲妻、それらが全て、敵を破滅に追い込む衝撃波と成り代わった。

 一閃の瞬き、俺の放った一筋の光は魔獣だけではなく空気や魔素までも斬り裂き、グニャリと空間を歪ました。

 そして吹き荒れる凄まじい爆風――それらが全て収まる頃には俺の目の前から魔獣は消え去っているだろう。

 

 

「あはっ、ちょっとやり過ぎちゃったかな?」

 

 

 俺は目の前にできている大量の焼け木の残骸を見て、舌を出しながら言った。

 

「おーい、終わったか?」

 

「終わったか? ――じゃないですよっ! 貴方の動きが人間離れしすぎてて唖然としちゃいましたよ!」

 

「訳の分からんこと言うな。人間がやってるんだから人間離れなんてしてないだろ」

 

「そのめちゃくちゃ理論はなんなんですか……? じゃあ、ゼルさんは化け物という事で――」

 

「……、認めたくないが否定できないな」

 

 背中に長剣をしまうと俺は静かに頷いた。

 

「とりあえず、お手並み拝見といきますか」

 

「……、一応これでも大賢者ですからね。こんな魔獣に負けるわけにはいきませんよっ!」

 

 ウルナは改めて両手杖を構え、魔法の詠唱を始める。

 彼女の右手に徐々に魔法陣が描かれていき空中の魔素が集中し、大賢者に恥じないほどの魔力を帯びていた。

 

 だが、それより前に魔獣はウルナをロックオンし、触手を彼女に向けて猛スピードで伸ばしてくる。

 彼女は冷静な表情を崩さず、バックステップで後ろに退きながら詠唱を続ける。

 

「触手は女の子の敵ッ! 消えてなくなりなさいっ!」

 

 敵の触手攻撃は軽々と躱しながら彼女は右手から魔力を放った。

 

 

 ――それは黒き炎だった。

 

 

 火系の魔力を帯びているのにもかかわらずそれは光ではなく闇を放ち、邪悪なオーラを帯びている。

 そう、これが邪魔法の凄い所だ。

 邪魔法はあらゆる基本魔法――火、風、水、土など――と融合させて放つことが出来るのだ。

 

 黒炎の塊が猛スピードで魔獣に向けて砲撃され、あっという間に触手を燃やし尽くした。

 破壊の力によって出来た炎の燃焼力は伊達じゃないな。

 

 だが――その黒炎は致命傷には至らず魔獣は触手を無くした痛みで暴れだす。

 葉で出来た紅い口が薙ぎ払われるように振られ、幾つもの風の刃を生み出す。

 

 

「マジックシールドッ!」

 

 

 追撃してくる風の刃を彼女の容姿からは考えられない速さで躱しながら反魔法のバリアを展開させる。

 なるほど……、無詠唱で速度上昇の魔法を発動させたな。中々やるじゃねぇか。

 風になびく紫色の髪は彼女の存在を更に際立たせ、綺麗な華の如く舞った。

 

 

「これで……、トドメですッ!!」

 

 

 早口で詠唱を終えた彼女の両手杖の先には禍々しき漆黒の球体が高速回転しながら鎮座していた。

 黒い稲光を放っているその魔弾は衝撃波を発しながら砲撃、魔獣の口を貫通し、見事なまでに粉砕すえる。

 

 そして更に黒い魔弾は速度を緩めること無く少し横に傾けた俺の顔の真横を物凄いスピードで飛んでいった。

 刹那――後ろでちょっとした爆音が鳴り響く。

 

「あっ、ごめんなさいっ! 大丈夫……でした?」

 

「ああ、別に遅かったから問題ないぞ」

 

「全然遅くはなかったと思うんですが――って」

 

 ウルナは驚愕の表情で突然両手杖で俺の事を指し示しながら言った。

 

 

 

「何、平然とお茶飲んでるんですか!?」

 

 

 

「あ? いや、ちょっと遅かったから」

 

「遅かったからって人が戦っている間に和みながらお茶飲む人がいます?」

 

「ん、欲しいのか? ならあげるぞ」

 

 俺は自作の湯呑みにお茶を淹れるとウルナに丁寧に渡した。

 

「えっ……、あ、どうも」

 

「それはそうと、中々いい動きだったぞ。これは今後の成長に期待ですな」

 

「えへへ……、ありがとうございます。って話をすり替えないで下さいよ!」

 

 照れているのか頬を少しばかり赤らめながらも、両手杖を背中に背負い、湯呑みを持ち替えるや否や俺を再び指差した。

 

「まあまあ、和むのは大事だぞ」

 

「和むタイミングというものを考えて欲しいものです……」

 

 怒りつつもウルナは紫色の髪を片手で弄びながらお茶を静かに飲んでいた。

 すげーなー、美少女ってやっぱり何やっても可愛いんだね。――と両手でお茶を飲みつつ感心する。

 

「というか――お茶を飲みながら私の魔法躱したんですか?」

 

「目の前になんか遅いボールが飛んできたから反射的に避けただけだ」

 

「遅いを強調するの止めていただけますでしょうか……?」

 

「そうだな……、秒速100メートル越えたら中々だぞ」

 

「そんな頭のおかしい魔法を放てるのは恐らくゼルさんだけです」

 

 そんなこんなで樹海を出てからの初の戦闘は心機一転、お茶を飲んで終了した。

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