無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~ 作:虎上 神依
海岸沿いから森の中を歩き、人の手が入っていないような獣道を抜け辿り着くは開けた平野のような場所だった。そこそこ整備されていて人の姿もあちらこちらに見える。
海岸に着陸してから3時間半、予定より少し遅くなってしまったが無事ファスタットの近くまで着くことが出来たみたいだな。
見れば既に太陽は南高くまで上がっていて、この土地全てを明るく照らしている。もう昼か……、思ったより時間が経つのが早いな。
「ふっ、ようやく着いたな」
「ここが……ファスタット。賑やかな所ですね」
「まだ街の中には入ってないんだけどな」
「えっ? そう……、なんですか?」
「あぁ、子供の頃一回だけ訪れた事があるから少しばかり覚えている」
それから更に歩くこと数分、高さ5メートル程の石塀に囲まれた街とその塀の真中にぽっかりと開いている門の様な場所が見えてきた。
門の横には武装した衛兵が四人ほど立っていたが、俺達は何を言われること無く通過する。
「……、あの人達なんの為にいるんですか?」
「大方魔族、魔獣が来ないか見張るのと、盗賊を捕まえるためにいるんだろ? 今一瞬だけ盗賊限定の鑑定魔法を使われたし」
「えっ……? 今の一瞬で分かったんですか?」
「俺を誰だと思ってるんだ? 天下の無職無能様だぞ」
「その名前――物凄く弱そうなんですけど……」
「まっ、無職無能だって知られるとなんか面倒くさそうだからバレない程度に反魔法で弾き返してやったけどな」
「それもそうですね。やっぱりお互い様大変ですよね……」
「大賢者のお前にだけは言われたくない言葉だな」
溜め息混じりに俺はそう言った。
だがそんな言葉もあっという間に街の喧騒の中に溶け込んでいった。
ファスタットは普通の街とは思えないほど賑わっていた、ずっと樹海にいたのであればもう二度と拝むことは出来なかったであろう量の人々が、街の中を千差万別四方八方に散らばりながらも歩いている。
「凄い……、これが始点の街、ファスタットっ!」
「ハハハッ、異常なまでに賑わっているだろ? ここは冒険者が集う街で有名だからな」
周りを見回せば露店で働く者がいて、友人と会話する者がいて、物々しい装備を身に纏う者がいて――と服装まで千差万別だ。
ごっつい剣を携える者もいれば、弓や槍を携えたもの、はたまたどうやって戦うのか分からない者までいた。
俺はいつも通り藍色のマントに迷彩柄を主としたズボンと明るい色のシャツだが、ここまで軽装備な双剣士は中々いないだろう。
とは言っても、見た目が軽装備なだけでこのシャツとズボンだけでも相当な防御力を持つ代物だが……。因みにこの服、自分でこしらえた戦闘服の中で一番の自信作である。
「さてと、まだ時間はあるし昼飯でも食ったらちゃっちゃとギルドハンター登録でも済ませますか」
「ゼルさん、面倒くさいって言っていた割には何だかノリノリですね」
「はっ、ちょっと調子に乗った奴をボコすのが楽しみでな」
「……変に暴れないで下さいよ?」
「わかってるって、君の冒険者人生には傷ひとつ付けないように努力・・するから」
「ぜ・っ・た・い、つけないで下さいっ!!」
そんな怒っている様な表情を見せつつもウルナは今までに無い程に目を輝かせていた。
やはり、大きな街に興奮しているみたいだな。
――と思ったその時だった。
「イヤアァ――――ッ!!」
突如、甲高い女性の悲鳴が辺りを剣呑な雰囲気とさせる。
俺は直ぐ様超広範囲魔力感知を起動させ、零コンマ数秒で状況を把握する。
確かめるべく後ろを振り返ってみるとそこには荷台と商人を引きながら駆けている馬――のような友好的魔獣――に引かれそうになっている子供がいた。
――いけるか!? いや、いかねぇとあの子が……ッ!
「スプリントッ――」
右足に出来る限りの力を込め俺は人の間を掻い潜りながら走り始める。
いや、傍からみたら走っているというよりはワープしていると言っても過言ではないな。
ギリギリ目視できる程度の人間離れしたスピードで俺は一気に道路上まで駆け抜け、尻もちをついて恐怖で怯えている子供を一瞬で抱きかかえると反対側の歩道まで駆け抜けた。
「ラッシュッ!!」
俺が子供を助けた2秒後、馬が先程まで子供がいた場所を通過していく。
――あぶねぇ、あぶねぇ。あんなのに引かれていたら今頃血だらけだったろうに。
「「「おおおおおっ!!」」」
辺りから俺の勇気ある行動に対して歓声と拍手が巻き起こった。
子供を優しく地面に下ろした後に俺は右手を上げて軽く歓声に応えた。
――まさかここまでされるとは思ってもいなかったけど、こういうのも案外悪くないな。
「ユウヤっ! よかった……、無事でよかった!」
どこからともなく駆けてきた母親が泣きながら子供を抱きしめる。そして呆然と立っている俺に対して何度も何度も礼をした。
「お兄ちゃん助けてくれてありがとっ!」
「本当にありがとうございます。でも一体どうやったらあそこまで速く――、丸で瞬間移動しているみたいでしたわ」
「あの……、お兄ちゃんはどんな職業なの? 武闘家? 剣士? それとももしかして勇者? 」
子供は目を輝かせながらそう聞いてきた。
俺はその子の前で跪きながら小さな声で呟いた。
「俺は――ただの無職さ」
「えっ?」
その子は目を見開いて俺の顔を凝視してきた。それもそうだ――目の前に立っているヒーローがまさかの無職なのだからな。
「それじゃあな、もうあんな事は二度とすんじゃねーぞ」
身を翻し、その子に背を向けると俺は静かに去っていった。
「よっしゃ、街の名声獲得DA!」
「ふふっ、何よそれ。そんな事言ってるとメンツ丸潰れよ」
「はっ、知ったこっちゃねぇ。別に他人にどう思われようと今の俺にとっちゃ何ともないね」
馬に引かれそうな街の子供を救うという英雄的行動をした後、俺はその一部始終を呆然と見守っていたウルナと合流した。
まあ、女性の悲鳴が耳に入ってから経った1、2秒で子供を助けたんだからそれはビックリするよな。
「でも今のでちょっと見直しました。ゼルさんも良い所あるんですね」
「何言ってんだよ、死にかけの大賢者さんを救ってやったのは誰だと思っているんだ」
「勿論それも感謝してるわよっ! でも……、ゼルさんって思っていた以上に優しいんだなって」
ウルナは両手を豊かな胸に当てながらそう言った。その時の彼女の顔はとても美しく、どことなく深みのあるような表情だった。
「無能だった私は昔から多くの人に蔑まれてきたわ、けどゼルさんはそれ以上に蔑まれてきたんでしょ? なのにどうして人に優しくできるの? 普通だったら――」
「俺のかつてのモットーが『目の前に困っている人がいたら絶対助ける。』だったからかな。それに人を恨んでばかりいたら『第三の敵』に気づかないから」
ファスタット上空に広がる青い空を見上げながら俺は言った。
「第三の……敵?」
「あぁ……。無論、俺を蔑んできたやつは死ぬほど憎んでいる。それにこの街でも俺を差別するような奴と遭遇したら努力で手に入れたこの力であっと言わせてやるつもりだ。いや、あっとじゃすまねぇな。立ち上がれなくなるぐらいボコボコにしてやるつもりだ」
一息つきつつも俺は続ける。
「だけど、このレベル999っていう境地にたどり着いてようやく見えてきたんだ。――俺の『第三の敵』がな。だから目の前の奴らを片っ端から憎んでいたらやっていられないって事よ」
「そうなんだ……、でも一体何なの? その第三の――」
「それは自分で確かめるこったな」
ウルナの言葉を途中で遮りながら俺は言った。
――そう、これは自分で知らなければいけないのだ。自分で知らなければ絶対に信じることが出来ない。
だから……、この『真実』は敢えて誰にも言わない。
本当に伝える時が――来るまでな。
ファスタットの街を歩きながら俺は青空を睨みつけた。