無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~   作:虎上 神依

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Chapter2-10 決闘前

「おっ、おいアンタッ! それは幾ら何でも無謀すぎだッ!」

 

 先程止めに入ったカゲヨが再び俺と男の間に入ってくる。しかし、俺はそれを無視すると男の顔を我ながら鋭い目つきで睨みつけた。

 確かに人と争うのはよくない事である、しかしこればかりはこのクズ人間に見せつけなければならない。

 丁度いい機会だ、この際この街、ファスタットの冒険者にも見せてやろう。怒れる無職の真髄を――

 

「ぶ、舞台っ!? 一体どういうことですか!?」

 

 俺に聞いても耳を貸してくれないと判断したのかウルナが心配そうな表情でカゲヨに尋ねた、すると彼女は「知らないのか?」という怪訝そうな表情でウルナを見つめる。

 

「舞台というのはギルドに備え付けられている決闘の場、人と人がぶつかり合う場所だ。審判がいるとは言え、毎年何人もの死人が出ている場所でもある。それにこの場では例え相手を間違って殺してしまってもそれが問題になることはない。ただし、武器の使用は基本禁止とされているがな」

 

「……なるほど、そうですか」

 

 ウルナはようやく事を理解したかのようにニヤリと笑う。先程のテストの時からしても彼女とて――俺が弱者扱いされるのが気に入らないのだろう。

 

「へへっ、無職の癖に中々面白えこと言うじゃねぇか。その勝負受けて立つ」

 

「……ッ! ザーラ、アンタまで!」

 

「女は黙ってな、これは男と男との勝負だからなぁ! そうだろ、そこのクソ無職ッ!」

 

「ゼルファだ」

 

「ああ?」

 

「俺の名はゼルファだ、覚えておくといい。まあ、嫌でも覚えることになるだろうけどな、ザーラさん?」

 

 不敵に笑いながら俺は調子に乗っているザーラを見る。

 当たり前だ、本来であればこの世界に存在しないはずの『最強の無職』がここにいるのだ。この力を見せつければ嫌でも頭のなかに残るだろうよ。

 その――かつて世界を闇に包もうとした邪神ゼルフィーネが由来の俺の名前をな。全く、我ながら飛んでもない名前を付けられたものだ。

 

「チッ……、どこまでも気に入らねぇ奴だ。いいぜ、俺の力を嫌というほど見せつけれやるよぉ! おい、アンナちゃんっ! 舞台の準備を頼むぜ、そこのクソ無職が俺と戦いたいんだってよぉ!」

 

「はい――って、えぇっ!? そ、そこの無職無能ゼルファさんと戦うんですか!? 幾ら何でも――」

 

「はっ、強さなんて関係ねぇよ! この分からず屋にちと現実というものを教えてやろうと思ってんだ、それに規則上問題はないだろう?」

 

「で、ですが……、本当にやるんですか、ゼルファさん?」

 

「当たり前だ。だから舞台は頼んだぞ、アンナさん」

 

「……、わ、分かりましたっ! 直ぐに準備しますから」

 

 そう言ってアンナは再び小走りでカウンターの奥の部屋へと入っていった。

 周りの冒険者とギルド職員は騒ぎを聞きつけて、ざわざわし始める。

 

「うわっ、ザーラのやつ墓穴掘りやがった」

 

「ゼルファってさっき訓練場を一撃で破壊したヤバい奴だろ? あいつ絶対終わったって……」

 

「大体おかしいだろ、どうしたら無職無能があそこまで強くなれるのさ」

 

「でもザーラさん、最近調子乗ってたからいい薬になるんじゃなーい?」

 

 そんなギルド職員の話が聞こえてくる。

 無論、俺の地獄耳によって聞き取ったもののためザーラやウルナには絶対に聞こえてないと思うが。

 まっ、どうでもいいか。

 俺はこの男を思う存分ボコボコに出来たら十分だから。

 

「ゼルさん……、思い切りましたね」

 

「ああ、ちと俺を怒らせたらどうなるか講義してくる」

 

「――くれぐれも観客巻き込まないで下さいね? 貴方がやると二次災害が起きかねませんから」

 

「ふっ、善処するよ」

 

「ともかくそれさえ守ってくれればあんな奴、けちょんけちょんのギッタギタのメッタメタのボロ雑巾にしてくれても構いませんから! 何なら私がやりたいぐらいですっ!」

 

「サンキューな、ともかくじっくり甚振ってくる」

 

「ふふっ、いいですねぇ。無能の底力、思い知らせてちゃってっ!」

 

 ウルナが応援の意を込めたガッツポーズを決めながら言った。

 

「おしっ! 何か燃えてきたぁ!! あのゴミ人間ぶっ潰してやるっ!」

 

 傍からみたら悍ましいことこの上ない会話ではあるが、これが俺ら無能コンビのスタイルなので気にしない。

 さて、どう戦って相手をドン底に突き落としてやろうか……、心が躍るな。

 

 

 

 

 

 《Point of view : Uruna》

 

 私はゼルファと別れた後、舞台に備えられている観客席へと向かった。

 既にギルドに居た多くの冒険者がこれから始まるであろう決闘に期待を膨らませながら騒いでいる。

 

 舞台は円形の形をしていて、周りは内側から広い草地、観客席の順で構成されている。またそれに加えて草地と観客席の間にはしっかりとドーム状の見えない魔力のバリアが張ってあり、観客席に被害が出ないように対策してある。

 だが――ゼルファのことだ。あれぐらい破って当然とか言ってのけそうである。

 観客席も案外しっかりしていて200人は余裕では入れそうだ、そんな感想を抱きながら私は両手杖を背中から取り外して下に置くと舞台の観客席の最前列に静かに座った。

 

「……隣いいですかな?」

 

「はい、いいで――あっ、ガンガスさん。ガンガスさんもこの試合を?」

 

「左様。内の職員がゼルファが暴れるぞっ! って怯えていたから何事かと思ってきたら案の定こういう訳でしたか……」

 

「ハハハ……、内の仲間のゼルファがすみません」

 

「いえいえ、謝罪には及びませんよ。実を言うと私もこの決闘には賛成なんですよ、何故なら――無職無能という定義を改める事が出来ると思いましてね」

 

「無職無能の定義……?」

 

 首を傾げながら舞台をジッと見つめるガンガスに尋ねる。

 ガンガスは私を見て静かにうんうんと頷いた後、口を開いた。

 

「無職無能は決して弱者などではないという事です」

 

「弱者ではない……、ふふっ、そうですね」

 

「嬉しいのですかな?」

 

「えっ……? あっ、いや別にそんなんじゃ……」

 

「ハッハッハ、青春はいいものですねぇ」

 

 なぜかガンガスに色々な意味で勘違いされるが私は否定せず舞台の方に向き直った。

 そこにはマントを外してやる気満々のゼルファが立っているのが見えた。

 

「さてさて、一体どんな決闘をしてくれるんだろうねぇ」

 

「そうですねぇ……、ってカゲヨさん? いらしてたんですね」

 

「ん? あっ、アンタはあの無職の――」

 

 後ろを振り返った先にある一つ上の席にカゲヨは堂々と座っていた。

 

「ゼルファさんの仲間のウルナです、以後お見知りおきを」

 

「ウルナか。私の名前は知っているみたいだから自己紹介は割愛させてもらうが……、本当に大丈夫なのか、そのゼルファは?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「――なぜそう言い切れる?」

 

「その点は、私も賛成しておきましょう」

 

「ん? ガンガスのおっさんじゃないか、何でこんな所に」

 

「歴史的瞬間を見るためですよ――訓練場と石塀と森をたった一撃でふっ飛ばした最強とも言える存在が名を知らしめる瞬間をね」

 

「……どうやら中々面白いわけがありそうだな。ウルナ、よかったら決闘が始まるまで聞かせてくれないか、ゼルファがどんな人か」

 

「はいっ! いいですよ」

 

 こうして決闘が始まる直前まで私は今日一日のゼルファのあり得ない武勇伝をカゲヨに聞かせてあげたのだった。

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