無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~ 作:虎上 神依
「試合時間は10分で、決着がつかなければ試合終了ですからね」
「分かってるっての、まっ十分も必要ないけどなぁ!」
ザーラは言うと持っている武器を捨てて舞台へと飛び乗った。
俺もそれに続くかのように背中の剣を静かかつ優しく置き、指をポキポキと鳴らして舞台へと上がった。
観客席はいつの間にか全てが埋まっていて辺りから歓声が聞こえてくる。
まさかこんなにも集まるとは――不本意ではあるが力を知らしめすぎて一躍有名になっちゃうかもな。
と、その時である。
俺が周りを見渡しているとザーラの後ろから連れが3人、舞台に飛び乗ってきたのだ。
辺りから「ザーラそりゃねーぞッ!」などのブーイングが発生する。
「どういうつもりだ? 1対1でやり合うんじゃないのか?」
「へっ、誰が1対1なんて言った? だが安心しろ、コイツらはお前が怯えて逃げないようにするために監視役だからなぁ」
へぇ、どんな卑怯な手を使ってでも俺に勝とうっていう算段か。なるほど、やる気はあるようだな、結構結構。
だが少し数を間違えてしまったようだな。あのレベル40程度の監視であれば後1000人程必要だろうに。
「ではこれから試合を行います。制限時間は10分です。審判がどちらかが戦闘不能と判断した時点で試合終了です」
戦闘不能と判断? ああ、なるほど、そういう事か。
見た目だけで判断するのは少し安全性が足りないのではないかと思ったがどうやらあの審判も中々の鑑定魔法の使い手のようだな、それでHPの割合が少なくなった所で審判の判断の元戦闘不能とする、そんな感じか。
鑑定魔法の強さからして割合は分かるが総HPの値までは見抜けていない程度だろう、しかし念のためHPの割合まではしっかりと見抜けるよう反魔法を緩めてやるとしよう。
よっし、こっちも丁度熱くなってきたところだ、これで準備万全だぜっ!
「では――始め!」
審判の声が舞台に響き渡る。
だが、俺はそんな事を気にする素振りを見せずただ自然な姿勢で呆然――と見せかけているだけだが――と突っ立っていた。
「けっ、怖くて来れないのか? ならこっちから行ってやるよぉ!!」
そう言ってザーラは俺に駆け寄ると同時に顔を殴りつけてきた。
だが――
「……っ!?」
刹那――ザーラは顔を歪めると直ぐ様俺から飛び退く。
会場は一体何が起きたのかとざわざわとし始めた。
その一方で拳を痛めて苦痛の表情を浮かべているザーラを見ながら俺は愕然としていた。
――よ、弱すぎる。幾ら何でもこれは弱すぎるぞ。折角、仕掛けを施してやったというのに、あり得ねぇだろ。今の一発で俺の熱血鎮火したぞ、おい。
「な……、嘘だろっ? お前、その程度なのかよ」
「ッ――!!! 馬鹿にしやがって、今のはまだ本気じゃねぇよぉ!!」
ザーラは一般人よりも少し高いほどの跳躍力で飛び上がると俺の顔に蹴りを放った。
しかし俺は適当に腕を上げて蹴りを止めてやると逆に反動でザーラが吹っ飛んでいった。
……なにこれ。イージーゲーム過ぎだろ。つ、つまらないぞ。
「嘘だろ……? あのザーラが苦戦してるぞ!」
「というかアイツ試合始まってから一歩も動いてないよな、あり得ねぇだろッ!!」
「無職なのか? 本当にあの男は無職なのか!?」
「でも――あのステータスカーソルにはそう書いてあるわよっ!」
会場は俺の圧倒的強さにどよめき、混乱し始める。監視の男達に至っては口をあんぐりと開けてその光景が信じられないかのようにプルプルと震えていた。
一方で俺は静かに腕を組みながら地面に転がっているザーラを見つめる。
「クソ無職に傷一つ与えられない拳闘士か……。一体どんな二つ名がつくんだろうなぁ、ザーラさん?」
「チィッ、調子に乗ってんじゃねぇよぉ!! 無職如きがァ!! あぁ、もう怒ったぁ!! 俺の本気見せてやるよぉ!!」
初めからそうしろよと内心毒づきながらもどんな大技が来るのか俺は期待の眼差しでザーラを見た。
レベル88のウルナでさえ、あのデカい邪魔法を出せたのだ。ザーラもきっともう少しはマシな技が出せるのだろう。
ザーラは先程の2、3倍ほど高く飛び上がると虚空で足を振りかぶった。
そして――
「風神……蹴りぃ!!」
足から空気を斬り裂くような風を纏った衝撃波が腕をクロスさせた俺に放たれる。
中々の速度を保ちつつも襲い掛かってきたその衝撃波は服を少し破き、俺の右腕に長さ10センチ程の斬り傷をつけた。
だが――その後、あっさりと消滅する。
「おっ、ようやく傷ついたな。良かったじゃないかザーラ、おめでとさん」
「な……、馬鹿な。俺の――渾身の風神蹴りが……」
「いやいや、でも中々いい蹴りだったぞ現に俺に傷一つつけたわけだし」
「あぁ……!? ふっ、ふざけんなよ……っ! お前は無職だ、無職がこんなに強いわけねぇ! イカサマだ! コイツイカサマしたぞぉ!!」
――うわぁ、ボードゲームとかで負けるならまだしも決闘で負けそうになっておいて「イカサマしただろ」とかもはや末期だろコイツ。
「というか喋ってばかりでいいのかよ? ほら、傷治っちゃうよ?」
「はあ……!?」
ザーラは驚きの光景を目にして愕然とする。
そう、俺の体に付いた傷が服と共にみるみると修復されていくのを彼は目にしたのだ。
「ど、どういう事だ!? ま、魔法は使っていないはずなのに……」
「嘘だろ? みるみるうちに治ってくじゃねぇかよ!」
「どうなってんだ!? 一体どうなってんだよぉ!」
会場から戸惑いの声が上がり、誰もがその目を疑った。
当たり前だ、この能力、いやスキルは俺専用のエクストラスキルなのだからな。
そして俺はヘラヘラと笑いながら驚愕の表情で石化しているザーラに言った。
「お前には特別に教えてやるさ。これはな『自己再生』っていうスキルで、のべ20秒間に1%体力を回復させるっていうエクストラスキルだ」
「なっ……、エクストラスキルだとぉ!?」
ザーラは目を見開いて徐々に回復していく俺の腕を凝視していた。
「エクストラスキルッ!? 無職がぁ!?」
「アイツ……、まさかレベル100超えッ!? あり得ない、あり得なさ過ぎて凄えよ!」
「もう呆れ通り越して感動するわ!」
会場の流れは完全に俺の方へと向いていた。
俺の圧倒的チート性を誇るエクストラスキル――レベルが約100上がるごとに取得できる個々人専用のスキル――の紹介のお陰で見事に会場はざわつきを増していた。
初めからこれが狙いだったのだ、だから――あれを仕掛けてやったというのにアイツの攻撃が弱すぎてもはやお話しにならなかったな。
「ち、調子に乗るんじゃねぇえええ!!! 今だ、全員魔法を放て!!」
ザーラの言葉を合図に「はあっ!」と何かに力を込める声が聞こえ、監視の男達が放った風魔法、火魔法、水魔法が俺をめがけて飛んできた。
俺はその魔法をもろに――
パシュンッ!
握りつぶしたのだ。
「ハッハッハ! ざまぁみ――ハアアアアッ!!」
ザーラ達はもう目の前に起きていることが信じられなさすぎたのか、今までに見たことがない驚愕の表情を俺に見せてくれる。
フハハ、たかが魔素を握りつぶして無効化しただけなのにあの表情――中々滑稽じゃないか。これだから格下弄りは止められないな。
「なに今の? よく分かんないもの飛んできたから僕、手で握りつぶしちゃった、てへっ」
「ま、魔法を――手で握りつぶしちゃった!? 意味の分からないこと言ってんじゃねええぇぇ!!」
――ダメだ、コイツもう色々と末期だわ。
ザーラは再び右拳を振り上げながら猛スピードで突進してくる。
だがその渾身のパンチを俺は軽く片腕だけで受け止める。その衝撃で空気が多少ゆるぎ流れを変えたのが分かった。
今のパンチは中々強かったぞ、レベル60にしてはの話だがな。
「なっ!?」
「遅すぎるよ、もう少し速く動かないとね。こういう風に――ッ!」
直ぐ様横に回り込むと渾身の掌底を俺はザーラの腹に打ち、吹っ飛ばした。
更にスキル『スプリントラッシュ』でザーラが吹っ飛ぶスピードより速く動き、続けざまに男を蹴り上げ、今度は上空に回り込んでかかと落とし。
ザーラが舞台にぶつかると辺りが地震が起きたかのようにグラリと大きく揺れ、会場がどよめく。
「グ……ッ! ク、クソッ、もう一回魔法だ!!」
その声を合図に再び魔法が三発俺に向けて飛んでくる。
だが――俺はそれを全て手で受け止めるとちょっとばかり魔素を追加して投げ返してやった。
ザーラの後ろにいる監視役三人の足元で、爆発が巻き起こる。
「「「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」」」
三人は場外にふっ飛ばされるとそのままノックアウトした。あの程度の魔法に耐えられなんて――どんだけ弱いんだよアイツら。
「さてと……、残るは貴方だけですね。ザーラさん?」
「く、クソッ! どうなってんだよ! そ、そうだ、これは何かの間違いだ! そうだ、夢だ! これは夢だったんだ! 夢だ夢だ夢だぁ!!」
どうやらあまりの衝撃に頭が逝ってしまったようだ。
ならちょっとばかし衝撃を与えて頭を起こさせるとしましょう。
俺はその場で両手を上げると直径3メートルは下らない魔法陣を生成、俺の頭上に直径4メートルは確実にあるであろう業火球を創り上げ「あらよっとぉ!!」と掛け声を上げながら垂直に空高く投げ飛ばした。
観客が皆、無言で目と口を見開き、遥か高くに飛んでいったそのまあまあ大きめの火の球を見つめていた。
「さーてと、ザーラ君にはもう一ついいことを教えてあげましょーうっ!」
「は、はぁ……!?」
「実はね。俺、戦いの最初に『捨て身』っていうスキルを使ったんだ。因みに『捨て身』っていうのは一時的に防御と魔防を大幅に下げる代わりに攻撃と魔力を大幅に上げるスキルなんだ」
「え……?」
「まぁ、そんな状態で俺の体に傷を一つしか付けられなかった事自体驚きなんだけどね……、じゃあ今から本気で――ぶっ飛ばすッ!!」
言い終えるや否や足に力を入れ、俺は空高く一気に飛び上がった。そして空中で落下している最中だった業火球よりも高い位置まで来るとそこから一気に急降下。
右手で業火球を貫くとともに灼熱の炎を右手に纏わせた後に舞台に着陸する。そして――ザーラを睨みつけた。
因みに右手に関してはとあるエクストラスキルを使っているため燃えて火傷を負うことはないのだ。
「ひっ……、ゆ、許し……」
「それじゃあねー、――業火正拳突きぃッ!!!」
俺は右手を目にも留まらぬ速さで突き出した。
刹那――龍のごとく畝る炎が右手の拳から放たれ、凄まじい爆音が舞台に響き渡る。
荒くる爆風が観客席と草地の間にあったバリアを突き抜け、その猛威を振るった。だが、それは単なる演出である。その為、しっかりと同時進行で風魔法を発動し、爆風の勢いを二次災害が出ない程度に抑えておいた。
――我ながらちょっとやり過ぎたな。
爆風の余波がようやく静まった頃、審判が怯えながら震え声で叫んだ。
「ざ、ザーラさんのせ、戦闘不能を確認! よって試合終了です!」
観客は俺のまさかの圧倒的勝利に歓声を上げ、拍手を送ってきた。
目立つのは好きではないがこういうのも……、悪くはないな。俺は歓声に応えるべく静かに手を上げた。