無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~ 作:虎上 神依
剣と魔法の世界、その名をイマジナルという。
この世界において数値と文字列によって構成されるステータスという概念は絶対的である。
例えば体力ゲージ、通称HP、この世界でHPが0になることは死を意味する。だが逆に1でも残っていれば生きることが可能なのだ。
その一方でHPとは所詮人の状態を数値化したものに過ぎない、それはステータスの項目全てに言えることである。
しかしそれは人の状態をしっかりと狂いなく表している故に絶対だった。誤魔化しの効かないシステムである。
だからつまり――職業も天恵と呼ばれしユニークスキルも絶対的なのだ。
例えば、職業が戦士と言えども違う道を歩んだ所で何も問題がない、だが戦士としての力を与えられた事には変わりはないのだから戦士としての道を歩むのが妥当である。
ユニークスキルに関しても神に与えられた能力を文字列化した物とは言え、実際その能力を持っている事には変わりはない。
これでお分かりだろうか、ステータスの絶対的な概念に書かれている無職無能の情報は確実であるという事を――
5際の時、俺は母親に連れられて神が祀られている神殿まで行き、儀式を受けた。
周りでは色々な子が喜んだり、騒いでいるのを傍目に俺は呆然とすることしか出来なかった。
――そう、俺は神に何も貰えなかったのだから。
それからの日々は俺にとっては地獄と何ら変わりないものだった。
親の態度は完全に変わり俺を邪魔者扱いし始めた、日々虐待を受けては傷だらけにされて放置された。無論、二人の兄にも虐められ家に俺の居場所は無くなっていた。
家だけではない俺が住んでいた街その物に俺の居場所は忽然と消えてしまっていた。
家を追い出されて挙句、同年代の奴らからはとことん虐められて、助けを求めようにも誰も助けてはくれなかった。
そして遂に心は折れた――俺は生きることを諦め、絶対に立ち入ってはいけないと言われている樹海に足を踏み入れた。
――どうして俺だけ無職なんだよ……。
――どうして俺だけ無能なんだよ……。
――こんな世界、耐えられないよ……。
樹海に入り、魔獣にあえて襲われることによって自害しようと試みたのだった。
で、俺はそこに住んでいた師匠に助けられて――
「ご主人様っ! 大変デスッ!」
突如二階ドアが開き、慌てているチビミが部屋の中に突撃してきた。
傍から見たら暴れまわっているサソリにしか思えないだろうがこの仕草は間違いなくチビミが慌てている時の物である。
「ん? どうしたチビミ」
「外に何者かがいマス! しかも感知の結果からして魔獣以外の者ノ!」
「何!? それは本当か?」
「ハイッ!」
尻尾の先にある毒針でチビミは倒れている者がいるであろう方向を示した。
直ぐ様精神を統一させて意識を外気の魔素の流れに集中させるスキル『魔力感知』を発動させた。
確かに――チビミの言う通り家から30メートル離れた先に間違いなく人間の物と思われる弱々しい魔力が感じて取れた。しかも明らかに俺の師匠のそれではない。
まさか……、人のことは言えないが足を踏み入れただけでも死を意味するこの樹海に人間が?
「分かった、ちょっと見てくるからチビミは家の中にいろ、俺が様子を見てくる」
「分かりましタ! 気をつけて下さイ!」
チビミが尻尾を使って敬礼のポーズを取るのを見た後、俺は二段飛ばしで階段を降りた後、壁に立て掛けていた二本の剣をひったくって背中と腰に一本ずつ装着すると家を飛び出した。
剣を構え、できるだけ気配を消しながらその人間に俺はゆっくりと近づいた。
木の陰から魔力が感じ取れる方向を静かに見る。
そこには見知らぬ人が倒れていた。
いや、逆に知っている人が倒れていたらそれはそれで驚きなんだけどね。
魔力の流れから大分弱ってはいるがまだ生きているようだった。
直ぐ様俺はその人――彼女の傍らに跪く。
見たところ彼女は凄く深刻な脱水症状を起こしているようだった。
「み……、水……を…………く……だ――」
苦しそうに目を開けて喋った彼女は気を失ったかのように倒れ、目を閉じた。
呼吸も丸でなっていなくて虫の息だ。このままではもう10分も持たないだろう。
――どうするべきだろうか。
別にこのまま見捨てた所で俺の生活には何の支障もきたさないだろう。
そう、助けた所で何の得もしない。人間を人一倍恨んでいる俺なら特にだ。
だが、そんな考察をする以前に俺の身体は勝手に動いていた。
剣を鞘に収め、倒れている彼女を静かに抱きかかえると俺は急いで家に向かった。
まだ彼女が無職を差別する存在だと分かった訳ではない、それ以前に目の前で死にそうな人を放置するほど俺は人でなしではなかった。
彼女の服は汗で相当濡れていて、体温も異常なまでに高かった。
この樹海には湖というものが殆どと言ってもいいぐらい存在しない。強いて存在する水分と言えば雨ぐらいだろう。
それにここ数日雨は降っていなかった、だから彼女は水分を確保する手段が無かったといえるだろう。
因みに――水魔法で水分補給をするというのはアウトだ。最初のうちは感覚で誤魔化せるかもしれないが、魔法で創り出された者は魔素で出来た架空のもの、しばらくしたら消えてしまうのだ。
だから水魔法で水を創り出して飲んだ所で水を補給することは不可能、寧ろMPの無駄だ。
「チビミ、今帰った!」
「ご、ご主人様! 大丈夫でしタッ!? って……、その子は?」
「あそこに倒れていた子だ! 今すぐ二階に寝かせて応急処置をするから何か冷たいものと水を――ッ!」
「承知しましタ!」
チビミはサソリとは思えない頭の回転と思考の速さですぐに状況を理解し猛スピードで水を汲みに出かけた。
流石は俺の従魔、頭がキレる事この上ないな。
「そうだな……、冷やすとしたら氷か!」
彼女をベッドに寝かせると俺は直ぐ様、氷魔法を無詠唱で発動させる。そしてその氷を袋に詰めると彼女が着ている僧侶の法衣を脱がせた後に色々な箇所にそれを配置した。
無論、魔素の効力が消えれば氷も消滅する。だが、俺の魔力であれば30分は持つし、何回でも繰り返して発動できるだろう。
……というか何の躊躇もなく女性の服を脱がしてしまったけど大丈夫かな?
まっ、一応法衣の下に魔法使いが身につけるであろう若干の露出の多い白を基調とした服と動きやすさ重視の青の半ズボンを履いているのだから全然セーフだよね。
寧ろこれを脱がせたら問題になるだろうけど。
「ご主人様ッ、浄化済みの水デス!!」
「浄化済みとマジ有能ッ! サンキュ、チビミッ!」
俺はチビミから水がいっぱいに満たされたバケツを受け取ると中に入っている水をコップに注いだ。
さてと……、ここからが問題だな。
「……飲ませないのですカ?」
「意識ない状態で飲ませたら、気道に入ったりとか危険だろ? だから気道に入らないように工夫する」
コップに入っている水に俺はありったけの魔力を注ぐ、すると水は急に空中に浮かび上がり幾多の細かい粒状の物に変形した。
それを上手く操りながら俺は彼女に水を飲ませてやった。
「……、なるほど直接胃まで送り込むと言う事デスか?」
「そういう事、ちょっと魔力使っちゃうけどこれしか方法ないし……致し方ない」
こうして俺は何とか死に瀕した少女の命を何とか救ったのであった。