無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~ 作:虎上 神依
俺らは雑貨屋や露店で食料とポーションを軽く買い込み、そのダンジョンという遊び場に向かうことにした。
一応、回復魔法は何回でも使えるのだが万が一の事もある為、ポーションは持っていた方が良いそうだ。だが――俺はサバイバルで生き延びてきた野蛮人でもあるためいつもの訓練の要領で自らの回復薬所持を断固拒否、結局ポーションはウルナが全て持つこととなった。
それにいつも思うんだがポーションって見た目が劇物にしか見えないんだよな。よくあんな飲み薬で体が瞬時に回復するもんだ。
「そう言えば、そのダンジョンってのはどこにあるんだ?」
「えっと……、ファスタットには街内部に4つあるみたいですね。中でも初級者と中級者と上級者用の3つのダンジョンが有名みたいです。どれに行きます?」
「ちょっと待て、何でしれっと1つ選択肢を外している?」
「ふぇっ!? ば、バレた……? でもあそこは――」
「あそこは?」
ウルナはビクッと怯えた後にプルプルと体を震わせながら「あ、あそこはですねぇ……」と口ごもる。怪しい、非常に怪しい。
「なに、そんなにつまらない場所なの?」
「は、はいっ! そこは魔獣が弱すぎるので行っても意味が無いかとぉ……」
「よし、じゃあそこに行こう!」
「えぇっ!?」
俺の決定にウルナが驚きの声を上げる。なんだ? 何か問題があるとでも?」
「で、でも――簡単ですよ?」
「ダンジョンは初めてだから簡単な方がいいと思ってな。そこなら経験も積めるんじゃないか……?」
「え、えっと……、その――実はですねぇ」
「ん? 何だね? 他に何かあるのか?」
再び口ごもりながらも先程よりは顔色が良くなっていくウルナ。
――よく分からない奴だな、一体何がしたいんだよ。
「実は――ごめんなさい! 嘘つきました! そのダンジョンは超高難易度の未踏破ダンジョンなんです! だから余りにも危険すぎるんですよ!」
「……なるほど、未踏破ダンジョンか」
コイツまさか初踏破者を横取りする気だったな? だから敢えて教えなかった。なるほど、けしからん。
「よし――じゃあそこに行こう!」
「いいですね、そうしま――エエエェェェッ!?」
「俺は決めたぞぉ! よしそこに行く、ウルナ一人に踏破者の称号を横取りされる訳には行かないからな! おっしゃぁ! ガンガン熱くなってきたぞッ!!」
「ちょ、ちょ、ちょっとぉ! 別に横取りしようとかしてないし! 第一初めてだから簡単な方がってぇ!! それにそこはレベル100超えの魔獣がウロウロしてて本当に危険なんです! だから――」
「嘘つけ、絶対横取りしようとしただろ!? そんな抜け駆けは許さんぞ、俺が初踏破者になってやる! テンションマックスだあぁぁッ!!」
「この人話聞いてなあぁぁい!! 誰か助けてぇ!!」
一人喚くウルナを引っ張りながら俺はファスタットの町内地図で場所を確認しながらその迷宮の場所を探した。迷宮は珍しいことに4つとも一箇所に集まっていて街の中心部にある宿から歩いて10分程の場所にあった。
ダンジョンと言うぐらいだからとんでもない塔のような物やピラミッドなどを想像したのだがそこには迷宮への入り口と入り口の奥にある結晶――恐らく転移結晶――だけだった。それが4つ不自然に並んでいる。
そしてその入口には兵士らしき女性が槍を持って立っていた。肌はちょっと白っぽく、頭に被ってある鉄兜からはつややかで長い緑色の髪の毛がこぼれ落ちていた。口では優しく微笑みながらもそのエメラルド色の目は鋭く俺らのことを見ていて如何にもダンジョンの番人の様な雰囲気を醸し出していた。というか実際番人なのだろう。
「ど、どうもこんにちは」
ジト目で見られるのが耐え難くなった俺がその緑髪の女性に挨拶をする。
「あらどうも、こんにちは。噂はガンガスさんから聞いていますよ、ゼルファさん、ウルナさん」
「ガンガスさんから? あの野郎――俺の秘密を喋りやがったな!」
ギルドだから個人情報は守るとか言っておきながらしれっと広めやがって、許せん。
「噂……、とは言っても訓練中と塀と森を破壊したことやあのクソナンパ女誑しザーラを半殺ししたことぐらいですよ」
「そうなのか――はあ、よかった」
というかこの女性今、シレッと笑顔でとんでもない悪口言わなかったか? あの優しそうな笑顔でぇ!
「それにしてもザーラは本当に許せないわね、無職だってゼルさんを弄った挙句にナンパしてきて……あんなクズ人間が存在するなんて、虫唾が走ります」
「ふふっ、あのダサい世間知らずのエロガッパザーラは私達ファスタット衛兵の中でも日頃の行いが悪すぎると有名でしたから」
ちょっと、この人達怖い……。
そんな笑顔で悍ましい悪口言わないで――自分の事言われていないのにも関わらず見ているだけで体が震えるから。
「折角ですから自己紹介させて下さい。私はこの街、ファスタットの衛兵団長を務めているアンナと申します。以後お見知りおきを……」
そう言って緑髪の女性は深々とお辞儀した。
なるほど、超毒舌のアンナさんね、しっかりと頭のなかに刻んでおくとするよ。
「だ、団長!? 凄い、凄い人に会っちゃった!」
「はい、恐縮ながら団長を務めさせて頂いております。元団長――いえ、副団長が役立たずのゴミ野郎だったので」
――やっぱこの人怖いわ。
だが、衛兵団長――アンナからは一般人とは思えない凄まじいオーラを感じ取れる。
レベル100、いや200は超えているか? まさかあのカゲヨよりも強いオーラを放つ人物がこの街にいるとは、やはり散策していない以上まだまだ強者は隠れているもんだな。
「さて、お二人とも迷宮に入りに来られたのですか?」
「ああ、そうだ! 未踏破ダンジョンこ――もごッ!?」
「アハハ~、私達上級者ダンジョンに潜ろうと思っていたんですよぉ!」
「お、おいウル――むごッ!?」
俺が口塞ぐ彼女の手から逃れようとするとウルナは俺の口をグッと押さえ込むと馬鹿力で引き寄せた。
って腕にその柔らかい奴当たってるからッ! それ元(樹海)引きこもり童貞にとって破壊力ヤバすぎるから!
「そうですか、では迷宮に行くなら気を付けてください。貴方達、特にゼルファさんがいるので大丈夫だと思いますが上級者迷宮であることもあって毎年死者はそれなりに出ていますからね」
「は、はい! 気をつけます!! で、では私達急いでますのでぇ!!」
ウルナは俺の口を塞ぎながら女性とは思えない強い力で俺を引っ張って迷宮の前まで来て、周りに生えている木のおかげでアンナには見えない死角まで連れてこさせられる。
「ぷはっ! お、おいウルナ一体ど――」
「しーっ! 静かにしなさいよ! 未踏破ダンジョン行くんでしょ!」
「だ、だがアンナには――」
「初心者の私達がいきなり未踏破ダンジョンなんかに入ることを認められると思う?」
「……なるほど、確かに」
「あのダンジョンは本来ならハンターAランク以上または衛兵団に許可を貰った人間しか入れないの。それほど危険なのよ、あの未踏破ダンジョンは――」
「そうか……、事情は分かった――だが」
「それは悪かったからっ! べ、別に私だってやりたくてやったわけじゃないし……、それに貴方のことだからどうせ意思変えないと思って私も覚悟決めたんだからそれぐらい許してよね!」
「あー、分かった分かった。それで、どうすんの?」
「決まってるでしょ、今の内に入るわよ!」
ウルナに連れられながら俺らは小走りで未踏破ダンジョンへと踏み込んでいった。
――その光景をアンナが魔力感知で見ているのを知らずに。