無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~ 作:虎上 神依
「さてと……、ようやく10階層までたどり着いた訳だが」
俺は若干ため息をつきながらも前を静かに見た。
なるほど、道理でいつもより広い空間だなと自然と思ってしまったわけか。
ここに辿り着くまで幾多の魔獣――殆どスケルトン系だが――を倒し、キングクレヴァスケルトンを始めとする9体のボスを死という奈落に突き落としてきた。
とは言え、苦戦したのは最初だけで2~9階層のボスは全くと言ってもいいほど強くなかった。
6階層においては巨大なスケルトンが出てきたので重力魔法でふっ飛ばしてやったら足踏み外して勝手に奈落に落ちていったし。
だが、ウルナ曰く10階層毎にとんでもなく強い強ボスが現れるらしい……。
「これは――中々倒し甲斐がありそうですね」
ウルナも剣とステッキを構えながらも冷や汗をかいている。
いつも通りの手順で鑑定魔法を起動――眼の前にいる巨大な魔獣を調べ上げた。
――ブラックスケルトンドラゴン 推奨レベル168
「なんか弱そうだな、だるそう」
「初見の感想がそれッ!? もうちょっと、こう……、大きなぁとかの感想はないの!?」
「だって真実だもの」
目の前には全身黒い骨だけで出来た巨大なドラゴンが鎮座していた。胴体は軽く5メートルは越しているであろう。
でも――あのサイクロプスよりも小さいな、じゃあやっぱ普通か。
「グオオオォォォォ――――ッ!!!」
ドラゴンの咆哮がボス部屋一杯に響き渡る。
その咆哮は大気を震わし、風を創り出す程だった。
別に強敵とは思えない目の前の存在、だが――ウルナの特訓がてらデバフをかけて挑んだら十分強敵になるだろう。
ドラゴンは体力の多さと基本攻撃力と火系魔法の威力が尋常ではない。そのレベルはハッキリ言って――レベル200の魔獣に相当する。
しかしその一方で防御力と魔防はそこまで高くはないのだ、つまり多段攻撃が物を言う勝負になる。
まぁ、極論当たらなければどうということはないがアンデット系なのもあって攻撃には恐らくデバフ効果が付いているだろう、十分に警戒して挑まなければ――
「ウルナ、俺も今回はサポートに回る。上手く立ち回って倒してみろっ!」
「了解っ、さあ一気に行きますよっ!」
そう、今回のダンジョンの目的は飽くまでもウルナの強化、決して俺の無双ではない。
つまりウルナが主体となって戦わなければ全くと言ってもいいほど意味が無いのだ。
俺は基本的な立ち回りとしてはサポート、本当に死にそうになった時以外は全て援護に回るつもりである。
「立ち回りは基本、今までのボスと同じでいい。ただ、相手の戦場は空だ。それをどう活かすかが勝利の鍵となるはずだ」
「……分かりました、やってみますっ!」
「グオオオォォォォ――――ッ!!!」
腐ってボロボロになった翼を動かし、遂に龍が動き出す。
明らかにその翼では支えられないような巨体を重力を無視して空中に持ち上げながら高く飛び立った。
上空20メートル程まで上昇するや否やこちらに一目送ると咆哮とともに翼を大きく広げ、回転しながら高速落下してくる。
「来るぞっ!!」
俺は軽く飛び上がると空中で受け身の体勢を取る。
ズバァンッ! と黒骨龍が着地すると共に、凄まじい衝撃波が爆風となって荒れ狂い、俺とウルナはあっさりと吹き飛ばされてしまった。
だが、ここで踏ん張らなければボス部屋の使用上舞台の上から落下して奈落行きだ。それだけは何としても避けなければならない。
「攻撃は魔法主体だ! 近づいたらあの強力な攻撃が当たりかねないからなぁ!」
「言われなくても――ッ!!」
俺とウルナは息を合わせて同時に攻撃を放つ。
空を斬り裂くソニックブレード、黒く輝く炎――エビルファイアが黒骨龍にぶつかる。
「グオオオォォォォ――――ッ!!?」
多少驚きつつあるが、俺らの攻撃を受けても尚ピンピンとしている黒骨龍。
そして自らに仇なしてきた俺達を見て怒り狂い、翼を銀色に光らせ、剣のごとく横に薙ぎ払った。
「ウルナッ、気を付けろ!!」
「ふぇっ!?」
翼の描く銀色の軌跡が瞬き、大気を斬り裂く。その衝撃波が呆然とするウルナに向けて放たれ、音速と同じスピードで彼女に襲い掛かってきた。
気づいたときには俺の足は動いていた、自然と『スプリントラッシュ』を発動させ、黒骨龍の前に躍り出るとウルナを抱きかかえ、横に受け身を取りながら転がる。
ズガアアアアアアアアンッ!!
と激しい爆音。地面には一筋の亀裂が走っていてそれはドラゴンの一撃の強さをしっかりと物語っていた。
あのボロい翼からどうしたらあんな鋭い斬撃が放てるんだよっ! 脳筋野郎めっ!
「だ、大丈夫か? ――まさか遠距離物理も対応しているとはな、こりゃ中々面白くなってきたかもな」
「ありがとう……、ごめんね、これからは気をつけます」
「チッ、カスの癖にデバフかけたらコレかよ。ここまで面倒な奴だとは思わなかったな」
俺はゆっくりと立ち上がるなり、両手を前に出して強く念じた。
目の前には魔法陣が展開、掌に体内と空気中の魔力が集中していき、徐々に凝縮されていく。
「アイスバレットォッ!!」
掌の先には魔力によって創り出された拳10つ分の大きさの氷の塊が宙に浮いている。
それを更に魔力でヒビを入れ粉々に砕くとともに俺は黒骨龍に向かってその氷の礫を砲撃。無数の氷の刃が黒骨龍に襲いかかった。
「グオオォォォッ!?」
得体の知れない攻撃に驚くと黒骨龍は素早く飛び上がり、空中高く舞った。
無論始めからこの魔法の攻撃力に期待などしていない、これは所詮牽制に過ぎないのだから。
「地上からじゃ、危険すぎるな……よし、空中戦だっ!」
「なるほど空中せ――ええぇぇぇん!?」
驚くウルナを無視しつつ俺はいつも通り右掌を左手で傷つけ血を右手の指先に付ける。
そして魔力を込めながら地面に叩きつけて――例のポーズ。
「召喚ッ!! 音速の青隼――ブルーファルコンッ!!」
地面に複雑かつ繊細な魔法陣が描かれ――出現したのは青色の体毛を持ったホウオウよりも一回り小さいハヤブサ。
黄色と黒のグラデーションがかかった嘴と足と爪以外、全身隅から隅まで青色で、蒼色の輝きを放つ双眸を持っている。何とも美しく勇ましいハヤブサだった。
「我、ご主人様の命により――参上ッ!!」
翼を大きく広げ、ビシィッとポーズを決めるブルーファルコン。
いつ見てもカッコいいよなブルーファルコンのポージングは、熱血パワーが溢れていてかつ熱苦しくない、思わず惚れ惚れしちゃうぜ。
「久しぶりだな、ソウケン。元気そうで何よりだ」
「して――今回はどういったご用件で?」
「空に浮いている黒い物体があるだろ? その周りを俺とこのとっても可愛い子ウルナを乗せて猛スピードで旋回して欲しい」
「黒い物体――なるほど、状況は理解した! あの飛行物体の周りを旋回するのだな!」
「ああそうだ、ソウケンの飛行スピードはホウオウすらも上回るからな、期待しているぞ」
「有り難きお言葉ッ! では我に乗りたまえ!」
バサッと一回右の翼を広げて身を翻すブルーファルコン、俺はその背中に乗って下を見る。
そこには何故か顔を赤く染めて呆然と突っ立っているウルナがいた。
「おい、何をしている」
「ふぇっ? あっ、ああそうでしたね、ブルーファルコンの背中に乗るんでしたね」
俺は彼女が乗りやすくなるよう手を差し伸ばし、一気に背中の上に引き上げ、俺の”前”に乗せた。
戦闘中くっつかれてドギマギさせられては困りますからねぇ。
「で、でも空中戦って一体どうすれば――」
「簡単な話だ、奴を狙って邪魔法を連射しろっ! ブルーファルコンは神速だ、奴の攻撃がそう簡単に当たるわけがない、これは俺が保証する」
破壊に特化した邪魔法、それに加えて俺の魔法攻撃も入れれば幾ら体力の多いドラゴンとは言え共ただでは済まないはずだ。
それで、墜落して怯んだ所を一気に追い込む。
「……分かりました、こ、怖いけど、やってみますっ!」
「頑張って、高所恐怖症を克服するんだ! 熱血パワーだ、熱血パワー。ファイト、ファイト」
「ち、違います! ただちょっと――あ、あのドラゴンが怖いだけっ!」
ウルナが大げさに手を振って違いますよアピールをする。だが、彼女の顔には「私、高い所がとても怖いです」と律儀に書いてあった。わかり易い奴だな。
「ウルナ様は高い所が苦手で御座ったか! 安心してくれ、我の超熱血飛行でそんな恐怖一瞬にして吹き飛ばしてくれようぞッ!」
「に、苦手なんかじゃ、な、ないしっ! そ、それに、べ、べ、別に、こ、怖くなんて、ないんですからね!」
「はいはい、わかりました。要するに怖くて仕方ないんですね。よっしゃ、頼んだぞソウケンッ!」
「燃えてきたあああああっ!! 我、発、進ッ!!」
ブルーファルコンは俺とウルナを背中に乗せて黒骨龍が徘徊する虚空へと向かって飛び立った。