無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~ 作:虎上 神依
「グオオオォォォォ――ッ!!!」
黒骨龍が咆哮を上げながら幾度に渡って火の玉を吐き出し、虚空を高速で飛び回るブルーファルコンを狙う。
だが俺の従魔、ソウケンがその程度の攻撃で倒される訳がない。そもそも当たるかどうかも怪しい所だ。
ソウケンの神速は筋金入りだ、下手したら最高速度時速1800km、即ちマッハ1.5と同じだ。
『スプリントラッシュ』の様に一時的に音速に達するのなら分からなくもないが、ソウケンの場合は音速で数十分飛行出来るためとんでもなく速い。
それに――飛ぶだけで衝撃波を放つ鳥はソウケン以外で見たことがない。
「ウルナ、絶対振り落とされんなよ!? 後、舌噛まないようにな」
「ひっ――は、はい!」
ウルナは手を震わせながらもソウケンの身体をしっかりと掴む。
横から襲い掛かってくる金赤色の火球と翼から放たれたであろう衝撃波を掻い潜りつつもソウケンは黒骨龍の周りを飛ぶ。
「連射魔弾ッ! 頼んだぞッ!」
「了解――ッ!」
ソウケンが音速に届くか届かないかのギリギリのラインの速さで飛び回る中、ウルナはステッキを横に薙ぎ払い漆黒の魔弾を幾つも連射する。
ウルナの後ろにいる俺もほぼ同時に電気を凝縮した球――エナジーボールを便乗するかのように連射。
破壊を司る邪魔法で出来た漆黒の魔弾とそれを援助するかのように放たれたエナジーボールを全身に受け、黒骨龍は苦痛の悲鳴を上げる。
魔弾は意図も容易く黒骨龍の翼を撃ち抜き、更なる痛みを与えた。だが激しく暴れつつも黒骨龍はまだ火の球を吐き出す事を止めず、しぶとく俺らを狙ってくる。
「うむ、敵も中々しぶといな」
「だな。やっぱりドラゴンは体力が多いから厄介だ。だけど、こうして入ればいずれ終わりは来るはず――」
「まってッ! あの骨ドラゴン、何かする気よ!」
ウルナの忠告を聞き俺は直ぐ様中央を飛び回る黒骨龍に意識を向ける。
黒骨龍は地面に着陸するとボロボロになった翼を広げ、天に向けた。すると――黒骨龍の傷がみるみるうちに癒え始めたのだ。
異常な自己回復能力で魔弾が貫通した翼はあっという間に修復され、傷が殆ど完治してしまったのだ。
「は、はぁっ!? 天の恵み持ちとか聞いてねぇッ!」
「天の恵み?」
「『天の恵み』――天に祈ることで寿命を対価に体力を回復するスキルだ。自己回復能力の中ではご主人様が持つ『自己再生(オートリカバー)
』をも上回る最上級スキル、その力は回復魔法をも凌駕するのだ。それに黒骨龍はアンデット系の魔獣、既に寿命は来ているはずだ、つまり実質――」
「永遠に超回復する化け物って訳だ、なるほど実に面白い相手じゃないか。ボスはこうでなくてはな」
「ちょっ、それどうやって倒すのよッ! 手段絶たれちゃったじゃんッ!」
「グオオオォォォォ――ッ!!!」
その時だった。
何度も繰り出している火の球と衝撃波をいともたやすく躱され、尚且つ自分の身体に放たれる漆黒の魔弾に痺れを切らしたのか、黒骨龍は体勢を整えるなり魔法陣を構築、口に魔力を集中させ始めた。
マズいッ! まさかアレは――
「ご主人様、ウルナ様、伏せたまえ! 急旋回するッ!」
「うっす!」
「ひゃえぇっ!? わ、分かった!!」
ソウケンは突如スピードを上げてキイィンと曲がり始めた。
刹那――黒骨龍の口から紅く光り輝いた奔流がブルーファルコン諸共俺らを破壊すべく極光となって伸びてきた。
射線上の物全てを破壊しかねない規格外の真紅の光線が薙ぎ払われる。
「ヌゥオオオォォォ――ッ!!! ファイトオオオォォォ――ッ!!!」
ソウケンは真紅の極光に追われながらもグングン加速して何とか振り切る、そして豪華に身を翻すなり翼を大きく薙ぎ払って魔力を帯びたかまいたちを生み出した。
真紅の光線とかまいたちの刃が交わった瞬間、虚空で凄まじい爆発が起こる。
荒れまくる爆風と爆発に伴って生じた黒煙の中、ソウケンはスピードを緩めること無く遥か高く空気が澄んだ所に飛び上がった。
「あ、あれって……」
「威力は弱けれど間違いなくガイア・フレイムショットだ。俺が訓練場を破壊したフレイムショットの下位互換で発動中に向きを変えることの出来る魔法だ」
「は、はぁ……、本当に心臓に悪いんですよあれっ! も、もう無理ぃ……」
「でも――不思議ですなご主人様。通常であらばガイアとは言えフレイムショットが使える魔獣の平均レベルは300のはずですぞ?」
「いや……、この魔獣が特別――この魔獣を創り出したダンジョンが特殊なんだろうな。鑑定じゃ、推奨160とかほざいてるがありゃ本来200超えてるぞ、化け物め」
「――ゼルさんが化け物って言っても説得力皆無」
「――我も同感」
「黙れお前ら」
黒煙はまだ収まること無くもくもくと広がりつつある、気配からしても黒骨龍は煙に大分惑わされている事もあって暫く追撃は来ないだろう。
「うぅ……あんなのに一体どうすれば勝てるんですか?」
「ふっ、簡単な話じゃないか」
「簡単……?」
ウルナは振り返るや否や、至近距離で冷酷な眼差しを送ってくる。
なんでそんな目するのさ。別に実際、凄く簡単な話なんだからそんなに疑わないで貰えます?
「奴の体力を一瞬にして削り落とす、翼を大きく広げて天に祈る前にな。それに奴は祈りを完成するまでに俺達に3秒の隙を与えてくれるんだ、その間に邪魔すれば祈りは不完全、回復することもない。そう、至って簡単ッ!」
「――全然簡単じゃないじゃん」
「誰が実行が簡単な話といった? 理論的に簡単な話と言ったんだ俺は――」
「そう……、分かった」
色っぽく考えるような素振りを見せた後でウルナはいつとなく真剣な表情で俺に言った。
「私に考えがある」
「ウルナ様、考えとは……?」
「自信はあまり無いけど――成功すれば身を挺してトドメを刺せると思う」
「……そうか、身を挺してという事は覚悟はそれなりにあるんだな?」
「えぇ、いつまでもゼルさんにばかり頼っていられないから」
言い終えると彼女は可愛らしい小声で俺とソウケンに作戦を伝える。
彼女の身を危険に晒す非常に無謀な作戦だった、だがあの黒骨龍に与えるダメージ量は半端ではなくほぼ確実に倒せると踏む。
「グオオオォォォォ――ッ!!!」
怒り狂った黒骨龍が煙の中から飛び出すと俺達に向かって猛突進してきた。
目は確実にブルーファルコンと俺達を見据えていて、一切迷いが無かった。
黒骨龍にとって俺らは命を脅かす敵、または絶好の餌でしか無い。
もともと魔獣には知能が無い、よって彼らは純粋かつ凶暴なのである。
「今よッ! お願い!!」
「任せとけってのッ!!」
「我承知ッ!」
ソウケンが上空に向かって舵を切り物凄いスピードで上昇した所でその勢いに乗ってウルナは空中に飛び跳ねる。
華麗に空中を舞う彼女を俺は見届けるなりソウケンと共に怒り任せに向かってくる黒骨龍に目標を移した。
怯ませられればいいんだな? ならあの魔法だッ!! よっしゃ俄然熱くなってきぁ!!
「エレキスキャードッ!!」
ソウケンの背中の上で俺は立ち上がると黒骨龍に向けて迸り、拡散する稲妻を放つ。
雷のように空中を走り抜けるその稲妻は黒骨龍に当たると全身を痺れさせた。
言うまでもなくこの魔法は敵にとって致命傷には至らない。だが空中においては十分すぎるほどに相手を怯ませることが出来る。
そして俺は――次の作戦に移るためにソウケンの背中から飛び降りる。
「グギャアアアアアアアッ!!」
連続電気ショックに悲鳴を上げて墜落し始める黒骨龍。
そしてそれを待っていたかのように魔法を詠唱して虚空に幾つもの魔法陣を構築し始めたウルナ。
白色の法衣を華麗に舞わせながらもウルナは左手に魔力を集中させ、ある物を創り出す。
それは――槍だった。
漆黒に染まった禍々しい黒槍――それを左手に握ったままウルナは虚空の魔法陣から沢山の漆黒の魔弾を出現させた。
そしてその魔弾がウルナが落下する射線上に集結し、一つの大きな魔弾となる。
それは急に空中で停止し、黒い稲光を撒き散らしながら高速自転し始める。唯でさえ魔法は物理法則を無視するような物が多いが、邪魔法に関してはもうそんな法則すら破壊してなかったことにしているのかもしれない。
「漆黒のエビルスピアァッ!! トリャアアァァッ!!!」
聞いていて癒やされそうな可愛らしい掛け声を上げながらウルナは虚空で華麗に舞いながら黒い槍を空中で自転し続ける漆黒の魔弾に向けて投げた。
槍は高速回転しつつも唸りを上げて虚空を突き進んだ、そして魔弾を貫くと邪悪な魔力を更に増大させ黒骨龍に襲いかかる。
その渾身の一撃は黒骨龍の頭蓋骨に見事ヒットする。
そしてそのまま勢いを緩めること無く頭蓋骨始めとする肋骨、背骨、腕や足の骨を抉り、破壊してバラバラにした。
黒骨龍は断末魔を上げること無く、ガシャガシャと骨の音を響かせながら身体を地面に打ち付け、見るも無残な姿で絶命する。
我ながら中々激しい戦いだったな。
予めソウケンの背中から飛び降りて地面に着地していた俺は自分の技の衝撃波に再び飛ばされたウルナを両手で衝撃を出来るだけ無くすようにして華麗にキャッチする。
「お疲れ、よく頑張ったな」
「うん、ありがと……物凄く怖かったけど、何とかなりましたね」
ふと上を見るとソウケンが随分と満足そうな笑顔で翼を羽ばたかせながらゆっくりと着地していた。
「うむ、流石はご主人様の仲間ですなッ! 見事な魔法でしたぞ!」
「うん、ソウケンもありがと、エヘヘ……」
照れ隠しに目を逸らしつつも嬉しそうにウルナは笑っていた。
――照れるウルナもマジ可愛い。
ただでさえどんな表情でも美しく、可愛いのに俺の前でそんな照れ顔を披露されると危うく落ちそうになってしまう。
本当に美貌は特権だよなってつくづく思うよ。
「……所でご主人様」
「ん? なんだソウケン」
「彼女を見ながらずっと優しそうに抱えている所からお見受けするとようやくご主人様の冬が終わったのですね?」
「はぁ……?」
ソウケンの言っていることを理解するまで時間が掛かったが俺はそれ・・を自覚した瞬間頬が紅潮するのが感じて取れた。
「あのー。こうしてくれるのはとても嬉しいんですが、何だろう……何かそわそわするっていうか、心が騒ぐっていうか……」
見るとウルナも同様に頬だけでなく耳まで真っ赤にして俯いていた。
――あら、この子凄く可愛い……。
「……どうせならこのまま宿まで持ち帰るか」
「それだけは止めて、恥ずかしいからぁっ!! もう早く下ろしてぇっ!!」
子供のように足をバタバタさせる彼女を俺は優しく下ろしてやった。