無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~ 作:虎上 神依
未踏破ダンジョン、『亡者の執念谷』に入ってから約12時間、俺とウルナは無事10階層を踏破して転移結晶で入り口へと戻ってきた。
既に外は暗く、仄かな月明かりが街を綺麗に照らしていた。
「もうすっかり夜ですねー」
「あぁ、今日は久しぶりに戦った気がするぜ」
俺が月明かりを浴びながら伸びをしようと思った――その時。
「そんなに大変だったのかしら?」
「はっ、まあな――て、うおっ!?」
突然違う声が聞こえたと思って横を向くとそこには未踏破ダンジョンの入り口に腕を組みながら寄りかかっているアンナがいた。
あっ――やべっ。見つかっちゃ駄目なんだっけ。
「あっ、アンナさん……」
「全く……、駄目ですよ? Cランクの君達がこんな危険なダンジョンに入っちゃ」
鋭い目つきでアンナは前に出ると俺とウルナを代わる代わる見た。
思いの外、無傷で出てきた俺達に驚いているのかアンナは静かにため息をつくとポケットから何やら取り出してサインする。
あっ、これ絶対ヤバいやつ。
もう未踏破ダンジョン入れないみたいな処置されちゃうやつだよコレッ!!
「アンナさん……、ごめんなさいッ! 勝手に入ってしまって!!」
ウルナは心機一転、白を切る事無くズバッと謝った。
あー、これ完全にウルナの冒険者人生に傷つけちゃったわ……、ごめんな。
「本当ですよ、入るんだったらちゃんとこれを衛兵団で発行しないと」
そう言ってアンナはサインした物を微笑みながら俺達に一枚ずつ渡した。そこには『ファスタット超高難易度未踏破ダンジョン立ち入り許可書』と丁寧に書かれていて、ギルド長と衛兵団長のサインがしっかりと記入されていた。
「「へっ……?」」
俺達の目が点になる、まさかこんな物が貰えるとは思っていなかったからだ。
そもそも今の流れじゃこうはならないだろっ! どうなってるんだよ一体!
「あのっ……、アンナさんこれは――」
「一昨日辺り、ガンガスさんに頼まれたんですよ。アイツらそろそろダンジョンに行く頃だろうから念の為発行しておけって――特にゼルファさんはあらゆる手段でも使って未踏破に入りそうだからってね」
「ガンガスの野郎、俺をそんな風に思ってたのか。後でぶっ飛ばしてやる」
「そこは感謝すべきじゃないですかねぇ? でも――本当に良いんですか、アンナさん?」
「はい、ガンガスさんからゼルファさんは数年後にSSSになる男だから通さないわけには行かないと言っていましたので、それにウルナさんに関してもほぼ確実にAは越すととても自信を持っていました」
「アイツ……、結局個人情報ばらしてんじゃねぇかよ! ギルド法違反で訴えてやるっ!」
「そ、それはともかく――ありがとうございます、アンナさん」
「あっ、ああ、何か申し訳ないですね、変な真似してしまって……」
「いえいえ、それにその様子から見て貴方達なら十分戦えると分かりましたし――今日は一体どこまで?」
「はい、10階層まで攻略してきました」
「あら……、もう10階層行っちゃったの? 凄まじいペースですね、やっぱりガンガスさんの言っていた通りの期待の新人――もしかしたら貴方達なら踏破できちゃうかも、応援しているわ」
「「ありがとうございます!」」
一時期はその笑顔を崩さず恐ろしい勢いで悍ましい悪口を連発されるのではないかと怯えていたが、個人情報ばらし魔のガンガスのおかげで回避できたようだ。
流石の俺でもあの悪口マシンガンを一度食らえば精神的に生きて帰れる保証は無いからな。
そして俺達はちょっとばかし迷惑を掛けてしまったダンジョンの番人アンナに礼をすると帰路に着く。
途中ギルドに寄って迷宮内で集めた珍しい素材や魔石を半分ほど買い取ってもらった後に適当な露店でご飯を済ませ、宿屋に戻った。
しかし驚いたものだ、まさかダンジョンにはこんな強みもあったとは――
ダンジョンの魔石はこの世界の魔石とは色に若干相違があり、込められている魔力も特徴が違った。
元々の魔石は基本紫でこれと言った効果は無いのだが先程の『亡者の執念谷』の魔石は若干赤みを帯びていて+αで火魔法系、腐食系の効果を持っていた。
ギルド員はそれに全く気づいている様子もなく普通に魔石を買い取っていたようだが、それも考慮して値段を付けて欲しい所だな。
それにしても腐食系か……、これはもしかしたら素材の加工や効果付与に面白い物を付けられるかもしれないな、今後時間があったら試してみるとしよう。
「どうしたんですか? ボーっとして――ゼルさんらしく無いですよ」
「ん、そうか? 樹海に居た頃はこうやって動かず考えている時間も多々あったんだがなぁ」
「時間に追われちゃってる……、って事?」
「そうかもしれないな……、とは言え俺とてこの生活に退屈している訳じゃない。だから変な心配するなよ?」
「べ、別に心配なんてしてないし……、その、私が無理に連れ出しちゃったから――」
「それを心配っていうんだよ」
毎度の如くパジャマに着替えた後、ベッドの上に座って足をぶらつかせているウルナに俺は軽く笑いかけた。
所でいつも思うんだが、ウルナって戦闘服は同じでも部屋じゃ毎日違う服着ているよな、一体どこからそんな種類の服が出てくるのだろうか。
それに対して俺は――戦闘服3着、素晴らしいセンスだね!
俺はウルナのパジャマを見て堪能し、再び自分の世界へと意識を戻す。
……、しかしダンジョンがあんなにレベル上げ効率のいい場所だとは下手したら樹海の数倍は効率いいぞ。
こんないい場所が設けられているというのにどうして皆、弱いんだ? 強くなりたいという気は無いのかね。
「なぁ、ウルナ。君は今日どれ位レベルが上った?」
「えっと、89だったのが――えっ……、えぇっ!? 98ッ!? くうじゅうはちぃ!?」
「なるほど、レベル9も上がったのか」
「う、嘘でしょっ!? どうしてこんなに上がっているのよっ!」
「大方今日のダンジョン内の魔獣が全てにおいてレベル的な格上だったからだろうな。それにウルナも傷だらけになるまで戦ってたろ? 俺が何回治療したと思っているんだ」
「そ、それは――そうだけど……。でも改めて考えるとある意味運が良かったのかもしれないわね、1階層のボスと10階層のボスにほぼ無傷で勝てたのは」
「だな、何だかんだで1階層と10階層が一番難しかった気がする」
1階層ボス、キングクレヴァスケルトンの無限召喚部下盾戦法。
10階層ボス、ブラックスケルトンドラゴンのガイア・フレイムショット。
どれも推奨レベルからは考えられない程の超レアまたは超高難易度スキルだった。
だがそれのおかげもあってウルナと初の『共同技術(タッグアーツ)』を成功させる事ができ、そしてウルナの渾身の魔法を見届けることができたのだ。それにウルナはレベル9も上昇、収穫は信じられないほど大きい。
「今日はもう遅い、ウルナはさっさと寝とけよ」
俺は空間魔法を起動して収納から消音機能付きの鍛冶道具を取り出しながら言った。
「えっ、どうして私だけ――ハッ! まさか寝込みを襲うつもりじゃ、何奴ッ!!」
「襲わねーよ! んな事して何の得があるってんだ」
「美少女の処女を奪えるという得」
「得じゃねーし、それやったら男として人間として失格だわ」
「……別にいいんですよ? 本能の赴くままに襲っても」
「いや何襲われたいみたいな事言っちゃってんの? お前の謎めいたハニートラップには絶対引っかからないからな」
「ふふっ、冗談ですよ冗談っ! ゼルさんがそんな事する人だなんてこれっぽっちも思ってませんから」
ウルナは美少女の最強の武器である幼っぽく、また可愛く屈託のない笑顔を見せながら言った。
「――ただ、タイミングを気にしない直球攻撃と女性に対してのこの上ない優しさは反則だと思います、ゼルさん」
「直球攻撃? 優しさ? 反則? 丸で意味が分からんぞっ!」
「それを自覚していないのも更に反則っ! そんな反則行為ばっかやって今後どうなっても知りませんからねーだ」
頬を仄かに紅潮させながらウルナは言うと俺に背を向けて布団に入った。
何というか――伝説の魔獣の性格レベルに訳わからん。何が優しくて何が反則行為なんだ? そもそも何のルールにおいての反則なんだよ。
はぁ、これだから女子は――
ベッドの上に素材や魔石を取り出し、鍛冶実験の準備を終えた後で俺は静かにウルナを見る。
彼女は静かに肩を上下させながら少し身体を丸めて寝ていた。見てくれから可愛い小動物だな、流石は美少女。
「おやすみ、ウルナ。しっかりと寝ろよ」
そう言って俺は今日ダンジョンで手に入れた魔石の鍛冶実験を始めたのだった。
この時の俺は知る由もなかった。
俺に背を向けて寝ていたと思われたウルナは実はまだ起きていて「そう言うのが反則なんだよ」と小さく呟いたことを。