無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~ 作:虎上 神依
ダンジョン10階層踏破から数日後の事である。
いつも通りウルナの特訓を終えて暫くした後、俺は彼女にとある話を持ちかける。
「ウルナ、今日久しぶりの休暇にしないか?」
「はい、そうですね――ってマジですか? ゼルさん」
「マジだ、今日は休暇にしないか?」
「熱血大好きゼルさんが休暇? ……風邪でも引きました? ハッ――、もしかしてゼルさんの偽物っ! 何奴ッ!!」
「本物だよッ! 今日は個人的に私服を買いたいと思ったから休暇にしようと思っただけだ!」
「なんだ、そうなら早く言ってくれればいいのに」
今まさに言おうとしていたのだが……。
俺は赤色のシャツと灰色を基調とした迷彩柄のズボンを見た。いつもの戦闘服、これに日々の気分次第でマントを付けたりするのだが――この街に来てからは不審者扱いされるのもあるのであまり着ていない。
この戦闘服、一見は完全なる私服だがコイツは俺のとあるエクストラスキルと相性が良く、また破れたとしても時の結晶石の効果で自己再生する代物だ。
それに加えてダンジョン産の火系&腐食系魔石を使って耐熱性とほぼ腐食無効の耐性を興味本位で付けておいた。無いよりはマシ程度の物だが。
「そうですねぇ……、私も買おうかなー、私服または戦闘服」
ウルナはいつも着ている法衣と白色を貴重としたちょっと露出のある上着、そして蒼色を貴重とした半ズボンを代わる代わる見ていった。
「戦闘服もか? 良ければ俺が買った後に加工してあげるけど」
「ふぇっ!? まさかエッチ加工でも施すつもりですか!? とんだ変態ですね、ゼルさんは」
「毎度訳の分からない方向に話を持っていくな。ともかく出来ることなら面白い効果つけてやるよ、例えば自己再生能力とか」
「――その能力は遠慮しておきます……。少し耐性が付けば十分なので」
「なんだ? 便利だぞ、一生着れるし、燃えても平気だし」
「それ付けると服っぽく無くなっちゃう……」
なるほど……、一理あるな。
俺はファッションとか全くと言ってもいいほど気にしたこと無いがウルナは女子と言うこともあって色々な事に気を使っているのだろう。
それに一般的に自己再生する服とか気味悪いことこの上ないしな。
「ウルナもファッション系女子か?」
「ファッション系女子……。うーん、ファッションには興味はあるけど育ちが教会だから基本聖職者用の服だったし、言うほど興味はないかな。でも――自己再生する服は断じて着たくないですね」
「そこ強調しなくて結構、俺もそれぐらいは理解したから。それにしても意外だ、沢山服持ってるから案外興味ありそうだと思ったんだけどな」
「人を雰囲気で判断しちゃ駄目ですよ~」
と人差し指を左右に揺らしながら可愛い顔に華を咲かせてニッと笑ってみせた。
やっぱりいつ見ても癒やされるな……。
そうか分かったぞ、なるほど、なるほど――
「つまり、自分は可愛いから服で飾り付ける必要が無いってことだな」
「なっ、別にそういう訳じゃないしっ」
「無理に否定する必要もないと思うぞ? 実際可愛いんだし」
俺は壁に寄りかかって手を組みながらそう言った。
すると……何故かウルナは急に顔を赤らめ始めて俯いてしまった。
「――だ、だ、だから直球はぁ、は、反則……」
「はぁ?」
「だ、だから、そ、その……」
「良く分からない奴だな、可愛いのは事実なんだから堂々としたらどうだって言っただけだって」
「うぅ……、も、もういいですっ! 早く買い物行きましょっ!!」
ウルナは耳の先まで真っ赤にして俺の手をひったくる。そして何故か怒っている彼女にひきずられる羽目となったのだった。
朝ご飯をさっさと済ませ、俺達は街中で最大と評判の服屋へと向かった。
この大陸ヒートアーストの中でも一番、二番を競うほどの規模だ、その服屋がこの街ファスタットで最大なのは周知の事実であろう。
中に入り、軽く見回すとシンプル極まりない服からガッチガチの重そうな金属で出来た鎧まで、中には服の定義を逸脱している怪しげなものや、紐にしか見えない謎めいた服も売っていた。
「さて……、ここからが問題だな」
「問題って?」
「――どんな服を選べばいいのか、俺はさっぱり分からないッ!! 何故なら服屋に来たことが無いからなッ!!」
5歳までは兄のお下がりを着ていたため服屋には一度も行っていない。そしてこの樹海に来るまでも服を買うくらいなら食料やポーションを買ったほうがいいと思っていたため服屋には近づいてすらない。
つまり――俺は服屋未経験系男子なのだッ!!
「服屋に着たことが無い……? マジですか?」
「マジのマジだ。この戦闘服だって本の中で面白そうなのを真似ただけだし、俺に服を選ぶセンスなど欠片も存在しない。――終わったなこれ……、熱血鎮火しました……」
俺は項垂れると共に膝から崩れ落ちた。これが外界から離された者の無知さか……、身をもって感じたぞ。
「そうですか――分かりました、ならば私が選んであげましょう」
「なっ……!? ほ、本当か!? ウルナたんマジなの!?」
「その”たん”と言うのはよく分からないですが……本当ですよ、いつもお世話になっていますから」
「おぉ、今までの中で一番ウルナが輝いて見える……。後で『封印されし禁忌の図書室(アナザータブーライブラリー)』の珍しい本を読ませてやるからなっ!」
「ハハハ……、その仰々しい名前の図書室はともかく――それには一つ条件があります」
「条件……?」
俺の脳裏に物凄く嫌な予感が走り抜ける。
ウルナは不気味み笑いながら俺を見下ろしつつ、ビシッと指させしてくる。
「ゼルさんの服は私が選ぶのでその代わりにゼルさんは――私の服を選んでもらいますッ!!」
「何か超難易度上がってね!?」
「敢えてゼルさんを苦しめることで服選びのセンスをレベルアップ・・・・・・させる。我ながら素晴らしい考えですねっ!」
「いや無理無理っ! ウルナ様の服を選ぶなんて恐れ多すぎて無理だから!」
確かに苦労すれば苦労するほどレベル上がってステータスは上がるけど……。
それは――人の強さや技能の話であって、そんなセンスは苦しんだ所でレベルが上がるとは思えないんですけど!?
大体、こんな絶世の美少女様の服選ぶとかレベル300の魔獣倒すより遥かに難易度高い気がするんだが……。いや、そもそもウルナに合う服って何? 可愛い服って何? センスって何よ!?
「あのですね、ウルナさん……、まず服ってどう選べばいいんでしょうか?」
「ふふっ、大丈夫、案外簡単ですよ」
「ほ、本当か!?」
俺は先程のオーバーリアクションで服についたゴミを払って立ち上がりながら言った。
「私に似合うと思う戦闘服を選べばいいんですよっ!」
「アドバイス性皆無なんですけど……」
これは下手したら今まで一番難しい試練かもしれないぞ……。
しかも……、ミスは絶対に許されない一発勝負の試練――色々と難易度が見合っていない感じがする。
だがこれをやらなければ俺は今日――ウルナと過ごす休暇――を乗り越えることが出来ない、よって逃げる事は不可能。
……仕方あるまい。その試練、受けて立ってやる。パーティー崩壊の危機すらあるその試練をな。
これは戦いだ、真剣に挑まなければ――試練に食い尽くされる、だから食い尽くされる前に食い尽くす……! 燃え上がってテンション上がれ俺ッ!
そして――パーティー存亡が掛かった戦いが幕を上げた。
「あのー、ゼルさん。凄まじいオーラを服屋内で出すの止めていただけますか?」