無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~ 作:虎上 神依
服の買い物を終えた俺はその後一日中観光やら買い物やらでウルナに振り回された。
元々休暇は俺が求めた物なんだが……。しかし、子供のようにはしゃぎまくるウルナにはどうにも逆らえなかった。
それに折角の休暇なのだ、これ位のハメ外しはいいかと俺も嫌がることなく付き合ったのだった。
そして日が暮れて、最後に俺達が訪れたのはギルドだった……。どうやらウルナはギルドの中の酒場に興味がある様だ。
一応先日の決闘の件やら、ウルナが可愛すぎるという懸念もあるので止めるよう説得はしたのだが彼女は納得すること無くギルドへと足を踏み入れた。
で、今に至るというわけだ。
「すっごい賑わってますね~!」
「まっ、ギルド兼酒場だからなココ。」
このギルドは昼間はギルドのエリアしか開いていないが、夜になると酒場も解放されるのだ。
そして依頼や受付カウンターがあるギルドエリアいる俺達の所にも既に酒場特有の匂いが漂ってきている。
酒場から漂ってくる酒の強い匂いに俺はちょっと鼻をつまんだ。
耐えられない訳ではないが、あまり嗅いだことのない匂いだったためどうも慣れない。だが、一方でウルナは飲む気満々のご様子、本当に酒に強いのかコイツは……。
「おおっ! あれって『ザーラキラー』じゃね!?」
「あっ、あの有名な『訓練場キラー』じゃん!」
「隣にいるウルナちゃんスッゲー可愛いなぁ、いいよな美少女と二人旅って……」
「俺も『最強の無職』さんぐらい強くなってモテてぇよー」
……、やっぱ俺はどう頑張ってもこの雰囲気にはなれないなぁ。
というか俺の二つ名ありすぎだろ、どれか一つに絞ってくれないとややこし過ぎて困る。
そもそも『最強の無職』さんって何? それ絶対、適当にこじつけただけだよね?
「ゼルさん大人気ですねぇ」
「あからさまに目立つほど面倒なことは無いって……」
「それくらい我慢しなさいよね、ハンター登録初日に訓練場破壊してザーラ破壊したんだから」
「あー、時空魔法使えたらなぁ……。――ところでザーラって最早物扱いなの……?」
一人ぼやきながらも俺は辺りを見回して酒場の開いている席を探した、だが皆がこちらを見るせいで席を探すことすら出来なかった。
ナンパされやすいなどの理由でこの美少女ウルナをずっと待たせるわけにもいかず一人あたふたしていると不意に肩を叩かれる。
「やっ、あの時以来だね、ゼルファ」
何処かで聞いたことがあるような声に俺は振り返ってみる。するとそこには茶髪の女性、カゲヨが歯を見せて微笑みながら立っていた。
「おっ、カゲヨじゃないか」
「ゼルファとウルナ、良かったら私と話でもしながら飲まないか?」
「え、いいんですか? カゲヨさん」
「ああ、それに『最強の無職』、ゼルファには興味があったからね」
侍のような鎧と武器を外して赤色の男っぽいシャツに緑色の半ズボンというラフな格好になっているカゲヨは力強く頷いた。
興味を持たれるのはちょっと厄介だが、別に彼女と話した所で退屈はしなさそうだ。それに彼女だってこの街じゃ間違いなく強いだろうし、これはいい機会かもな。
「じゃ、遠慮なく座らせてもらおっかな」
「分かった、んじゃアタシについて来な」
こうして俺達はカゲヨに案内されながらも広い酒場の中を進んでいった。
「へぇー、あの『魔獣の巣』育ちねぇ、そりゃ規格外じみた強さを持っていてもおかしくないわな」
カゲヨは酒を飲みながらも納得したかのように頷いた。
特にこれと言って話すことも無かったし、いきなり強さについて語り出すのもあれだったので俺とウルナについて彼女に軽く話したのだ。
彼女の胸には赤い文字でAと書かれたバッジが光を反射して輝いている。
予想レベル150以上のカゲヨでAランクか、単純的なからしてもウルナが開始早々Cランクに抜擢されるのも頷ける。
「ホント、おかしいですよねこの人。あのレベル200、300の魔獣が平然と歩いているような樹海の中、努力と熱血だけで育ったって絶対どうかしてますよ」
「おい、遠回しに俺を侮辱してんじゃねぇよ」
「だってここに来る途中だって海竜を一撃で殺してましたからね、彼の強さは異常です、間違いなく」
「海竜を――殺した? それってあのSランク依頼の海竜か?」
「へっ……?」
突然のカミングアウトにウルナの目が点になる。
コイツ気づいてなかったのか? 俺はよく依頼を見ているから分かったけど、あの綺麗な海を血で汚した海竜はどうやらこの海域で暴れまわっては漁船に迷惑を掛けている問題魔獣だったらしい。
それでかなり強いと予想したのかSランク依頼にされていたみたいだけど……、あの程度の斬撃一発で爆散する奴のどこが強いのやら。
「……最近出現報告が無いと思ったら原因はアンタか、ゼルファ」
「はい、間違いなく爆散させましたね。一撃で」
「――アンタ本当に何者なんだ? そこまで強いならまだしもそれで無職だからなぁ……、一体どんな苦労をすればそんな境地にたどり着けるのやら」
「カゲヨもあの樹海に10年篭もって熱血鍛錬すれば俺ぐらいにはなれるぞ?」
「いや……、遠慮しておく。そもそもアタシがあの魔獣界『魔獣の巣』で生きていけるとは思えない」
「Sランク依頼を……一撃? ゼルさん、何奴……」
「俺の熱血パワーは今に始まったことじゃねぇだろうが」
「意味が分かりません」
ジト目で見つめてくるウルナをよそに俺も酒を飲んだ。
樹海暮らしでは一度も飲んだことなかった、しかし匂いの割には案外いけるもんだな。
だが酔ってしまっては大変なので量は出来るだけ控えておく。
「それにしてもとんだ強者が現れたものだ、アンタらの実力じゃ名が世界に公表されるのも時間の問題なんじゃない?」
「えっ、私も……ですか?」
「当たり前でしょ、アタシに見抜けないとでも思ってたの? 奥に眠る邪悪なエネルギーが」
勝ち誇ったかのようにカゲヨは笑いながらジョッキに入った酒を飲み干した。
ウルナが人目につかぬように隠していた邪魔法がこうもあっさりと露見するとは――中々の魔力感知だ。
「ふ、ふぇい!?」
「ハハハッ、図星のようだねぇ。アタシもそれが何なのかはこれっぽっちも分からないけど。まっ、ウルナならそのエネルギーを上手く使いこなせるだろうし別に詮索するつもりはないから安心しな」
「思いっきりバレたな、反魔法張ってないからだぞ?」
「あ、生憎ゼルさんのような技術は持ち合わせてないのでっ!」
だが彼女は慌てつつもどことなく嬉しそうでもあった。
良かったな、怖がられなくて……。まっ、無職や無能の事もそうだが……、あれだ、世界は広いってことだよ。
俺も始めは絡まれたりとか大変だったが名が知れた後はこんなに広い街でも快適に過ごせている。だが――人気になりすぎて行き交う人によく挨拶されたりと面倒だがな。
今俺がこの街に求めるとすれば……、人の二つ名はせめて一つに絞れっ!!
『ザーラキラー』『訓練場キラー』『最強の無職』『音速の貴公子』『神』などなど、多すぎるんだよっ!
それにお願いだから『神』とか言って崇拝するのは止めてくれ、恥ずかしいから。
「反魔法か……、道理でアンタのオーラは見抜けなかったわけだ」
「フッフッフッ、俺の力は機密情報なんでそう明かすわけにはいかんのですよ」
「私には即見せつけてきた癖に」
「うるせっ」
あれは見せつけないと行けない状況だったろうに……。
「でもアンタの魔力の技術ならSSSランクのグラヴゾンにも劣ら無さそうだな」
「グラヴゾン?」
何だソイツ、残念ながら聞いたこともない名前だな。そもそも世間事情には相当疎いから――
「知らないんですか……? この世界にいるSSSランクの人族5人衆のうちの一人、『重力の神(グラビティーゴット)』グラヴゾン。この世界で一番の重力魔法の使い手よ」
「重力魔法の使い手か――重力魔法位なら俺も使えるぞ」
「「は……?」」
ウルナとカゲヨの声が綺麗にハモる。
「ゼルファ、重力魔法使えるのか?」
「ん、当たり前だろ? それにウルナは一回見たはずだぞ、サイクロプス戦で」
「え……、でもあの時ゼルさんは剣しか――」
「覚えてるか? 重圧斬り。あれは一定の範囲内の重力を重くする剣技だぞ」
「そ、そうだったの!? というかゼルさん知ってます?」
半面驚きつつも真剣な表情でウルナは俺に言った。
「この世界で重力魔法を使えるの数人しかいないって事」
……マジで? いやまさかそんな事ないだろ。
だけどウルナとカゲヨの表情を見るとそれが嘘でないことがヒシヒシと伝わってきた。
「はっ? なに、あんな簡単な魔法も使えないの!? 世界遅れすぎじゃね?」
「えーっと、ゼルさん、重力魔法って普通ユニークスキルですよね?」
「なに言ってんだよ、あんなの基本中の基本スキルだろ?」
「あんな凄い魔法が基本スキルなわけないじゃないですかっ! そもそもゼルさんにとって重力魔法は基本スキル扱いなんですか? それが逆に恐ろしいんですけど……」
「こりゃ……、誰も勝てねぇだろうな」
カゲヨがやれやれと言った表情で首を振っていた。
まさか空間魔法だけじゃなく重力魔法ですら世界に殆ど認知されていないレアスキルなのかよ……、いやでも『世界魔法全集』にはしっかりと特訓方法も記載されていたし、普通に努力すれば習得できて当たり前の魔法だと思うんだが。
よしこうなったらこの街で熱血重力魔法講座でも開いて――
そう思った刹那だった。酒場に男の衛兵と冒険者と思われる男の二人が酒場に駆け込んできた。
「た、大変だ!! 災厄が……、災厄がこの街に……!!」
「「なんだって!?」」
俺とカゲヨの声が綺麗にハモった。