無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~   作:虎上 神依

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Chapter2-24 『災厄』襲来

 突如駆け込んできた男の叫び声に酒場がどよめき出す。

 この酒場にいたほぼ全ての人が反応したのだろう、その『災厄』という言葉に――

『災厄』それは至って普通でありながらも迷惑極まりない異常現象、その名の通り街一つの破滅にも繋がりかねないと言われているソレの名前は樹海に住んでいた俺ですら知っていた。

 いや知っていたも何も日常茶飯事で起きていたからな。それにレベル900代の俺ですら死にかけた事だってある。

 

「災厄って……、何ですか?」

 

「ウルナは『災厄』知らないのか?」

 

「はい……、聞いたことはありますけどずっと災害の事だと思ってて――」

 

「……実際自然災害その物なんだけど、『災厄』と言うのはだな、端的に言うとある魔獣の突然変異による同種の異常発生だ」

 

「それはつまり……、魔獣が突然変異したことで同じ魔獣が増えるってこと?」

 

「ざっくりと説明すればそうなる。魔獣の突然変異自体は良くあることなのだが稀に突然変異した際、魔獣が異常なほどにまで強くなってしまうことがある。そうするとその同種族の魔獣達がその突然変異体を敬うようになって大群をなす、そのちょくちょく起きる自然の異常現象を『災厄』っていうんだ。まあ、名前の割には毎年樹海のエリアを除いた世界のどこかで一回は起きるし、増しては樹海内じゃ小規模から大規模まで含めると一週間に一回はあったぞ」

 

「へ、へぇー、よく知ってますね」

 

「特にレベル500代のキマイラの『災厄』はヤバかった、あれは『魔獣召喚』無かったら今頃絶対に死んでいたと思う」

 

「……」

 

 ウルナが「やっぱりコイツ怪物だ」と言いたげな冷酷なジト目を向けてくる。

 おいおい、その目線心に深く突き刺さって痛いから止めてくれよ。

 だが、あの時は本当に死ぬかと思ったのは事実である。レベル500で当時の俺のレベルと差は400あるとは言え、俺は無職だ。そもそもの育ちが悪い職業なのだ。魔獣の基本推奨レベルの1.5倍が無職の推奨レベルとも言われている程、成長の差があるのだ。だから実際推奨レベル500とステータスに設定されている魔獣でも俺はレベル750以上無ければステータスで上回る事はできない。

 だが、あの時は――アイツがいてくれたから助かったんだっけ?

 

「この街にもとうとう来たか……、いつかは来るとは思っていたが――で、種族は何だ?」

 

「か、カゲヨさん! それが……、どうやらブルーリザードのようで……」

 

「ブルーリザードだと!? クッ、唯でさえ最初の街と言われて初心者がアチラコチラにいる街だというのによりにもよってあのブルーリザードか……」

 

 警備隊に駆け寄ったカゲヨは苦し紛れの表情で頭を抱え込んだ。その様子を見て周りの冒険者達がざわざわと騒ぎ始める。

 ブルーリザードは俺の記憶が正しければ推奨レベル50、だから規模にもよるけどその『災厄』と考えるとリーダーの相場は推奨レベル200と言った所だろうな。

 ――本当に申し訳ない。こんな深刻な雰囲気の中、俺は今一瞬楽じゃねと思ってしまったぞ。

 

「おい、そこの衛兵君」

 

 突如、野太い声が一人の衛兵に浴びせられる。俺は声がした方を見てみると一人の男が酒場の奥からこちらへと向かってきているのが見えた。

 青いツンツンとした頭髪の上から妙に熱血感を出している黄色いバンダナを付けていて、その下の双眸は三白眼の鋭い黒目、ちょっとばかし長めの鷲鼻、そして体躯は俺と同じくヒョロそうで何処と無く愛嬌のある男だったが、その胸についているAのバッジが彼の強さをハッキリと物語っていた。

 

「ざ、ザイルさん! 貴方も戻っていたのですか?」

 

「おう、まあな。ざっと帰省中って所だ。で、そのブルーリザードのボスの推定種族名は?」

 

「それがまだ不明なんですっ! もしかしたらかつての『災厄』を上回る大規模なものかと――」

 

「何……? あのアルティメットブルーリザードを超える魔獣が現れたってことか? そいつはまた厄介な奴が出てきてくれちゃたもんだねぇ」

 

 妙に尖っている頭髪をグシャグシャといじりながらザイルという男は面倒くさそうに言った。

 アルティメットブルーリザード、俺の記憶が正しければ奴は推奨レベル219の魔獣――そうか、つまりその『災厄』はかなりの規模という事になるな。下手したらボスはレベル300超え、部下にアルティメットブルーリザードを数体連れてくるという超異常現象にも成りかねないだろう。

 へぇ、中々面白そうな状況じゃねぇか。段々、心が踊ってきたぞ。

 

「衛兵からの要請です! 『災厄』の襲撃は今から2時間後と予想されます、しかし残念ながら衛兵だけでは力不足と判断し冒険者らに応援を要請いたしますッ!! どうか……、この街ファスタットを皆様の手で守っていただけませんか!?」

 

 衛兵の男の宣言は酒場中に響き渡り酒場の雰囲気は更に悪化する。

 ある冒険者は恐怖し、ある冒険者は関係ないという素振りを見せ、ある冒険者は戦うか迷っていた。

 無論だが俺はこの三択の内のどれでもない、心の奥から非常にワクワクしている。

 

「……何ニヤニヤしているんですか? 熱血戦闘狂さん」

 

「ふっ、経験値の大群がコチラに突撃してくるみたいだが……どうする?」

 

「『災厄』を経験値呼ばわりするなんて……やっぱりゼルさんですね。ですが、今回に限っては私も同感です」

 

「ほぉ?」

 

「これって私にも活躍の場が設けられたってことじゃないですか、最近ゼルさんばかり目立ってて私ちょっと嫉妬してるんですよ? だから、もう今からじわじわ滾ってきちゃってますっ!!」

 

 ウルナはそう言ってあざとくウィンクをキメる。

 別に目立ったっていい事ないんだけどな……。俺はそんなやる気満々の彼女を見て苦笑いしてしまった。

 

「あっ、滾るってのはゼルさん的な意味じゃないですよ? 熱血ゼルさんとは断じて違いますからね?」

 

「何だよそれ……、ほとんど同じだろ」

 

「違いますーっ! 滾る=熱血じゃないもん」

 

 と、滾ると熱血の関係性をジェスチャーを使ってひたすら否定するウルナに苦笑したその時である。

 今度は酒場の中に受付嬢アイラが駆け込んできて、手に持っている紙を広げながらこう言い放った。

 

「今回の『災厄』の対象に協力した人はブルーリザード一体に少なくとも1000エンドの報酬を差し上げます! どうか皆さん、この街を救うためにも協力して下さいッ!!」

 

 突然のギルド側の報酬宣言に酒場の雰囲気はガラリと変わった。

 

「おお! 待ってました!!」

 

「一匹につき銀貨10枚、面白そうじゃねぇか!」

 

「へぇ、報酬ありか、なら協力してみるかな……」

 

 酒場にいる冒険者達はそう口々に言い合っていた。

 報酬で釣られるのかお前達は……、攻めて街を救う姿勢ぐらいは見せて欲しいものだ。

 

「ゼルさんはどうします?」

 

「ふっ、そんなの言うまでもないだろ?」

 

 俺は腕を組みながらそう言った。

 この街には色々と縁ができてしまったからな、そう簡単に破滅してもらってはこちらとしても困る。

 だから――

 

「仕方ないから守ってやるよ、この街をこの手で」

 

「本音は?」

 

「経験値ザックザク、ウルナのレベル上げ出来そうだな」

 

「ふふっ、飽くまでも私優先なんですね。それでこそゼルさんです」

 

「いや、一応前者だって俺の気持ちの一部だぞ? この街、広いし、過ごしやすいし、皆打ち解けてしまえば優しいし、良い所じゃねぇか」

 

「そうですね……、じゃあ、準備します?」

 

「無論だ」

 

 俺とウルナは立ち上がると酒場の入口の前で衛兵と共に思案顔をしているカゲヨの肩を叩く。

 

「カゲヨ、俺達は一旦帰るからな」

 

 そう言って彼女の手に酒代の代金をポンと置く。

 

「……アンタはどうするつもりだ?」

 

「そんなの決まっているさ、ここで言う必要性もない」

 

 ただそれだけをカゲヨに伝えると俺達は宿へと向かった、2時間後始まるであろう激闘に心を踊らせながら、戦闘の用意をするために――

 

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