無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~ 作:虎上 神依
どこまでも広がる草原の中、ブルーリザードの軍勢を追う3人の人影がそこにある。
とてつもなく速いスピードで燃える草原を駆け抜け、ブルーリザードを倒すべく突き進んでいた。
「ほぉー、ゼルファ君はともかくまさかウルナちゃんまで僕の速さについてこれるとはね」
「Cランクだからって舐めないで欲しいですね、これでも私大賢者なんですから」
「大賢者かぁー、メーアちゃん意外に存在した事自体凄く驚きなんだけど、それはともかくレベルは幾つだ?」
「レベル98よっ!」
「レベル98……そんなに低いのか?」
「は、はぁ!? 幾らなんでもそれは失礼じゃないですかザイルさんッ!!」
「いやいやそっちの意味じゃなくて、そのオーラでそんなに低いのかと聞いているんだよ。もっとこう――レベル200位はあるものだと思ってたからねぇ。最近の冒険者は規格外が多くて困っちゃうなぁ」
ザイルは胸の前で手を合わせて「すまんっ!」と謝ると背中に背負っていたドデカい斧を取ると担ぎ上げた。
ウルナは怪訝そうに彼を眺めているが、ザイルの言うとおりだ。ウルナはこう見えても俺とは別の意味で規格外なのだ。
あり得ない成長率、レベルに見合わないステータス、それが彼女最大の強みでもあるのだ。
「さて、軍勢にも大分追いついてきたみたいだしもっとスピードアップしちゃいますねー」
そうウルナに伝えるとザイルは己に敏捷性上昇の魔法を掛けて隣を走るウルナをあっさりと突き放していく。
「ちょっ、魔法はセコいでしょ!?」
彼の背中を見ながらもウルナは頬を膨らませ、ザイルと同様無詠唱で敏捷性上昇の魔法を掛け、彼を追いかけていった。
しかし俺が選んだ白いジャケットを可憐に美しく舞わせるウルナを上空から見るのは格別ですなぁ、やっぱりウルナたんマジ可愛い。
「なっ、まじかよお嬢ちゃん!?」
「へっへーん、もう追いついたよーだ!」
若干愛嬌のある山賊顔を驚きの色に染めるザイルにドヤ顔をキメてウルナはブルーリザードの群れへと迫る、その距離残り100メートルちょいだった。
「よーし、一番の――ッ!?」
突如ウルナを上を凄まじい突風が吹き抜ける。
それは目視することもままならない速さでブルーリザードの軍勢に向かって行き――刹那に放たれた白い衝撃波で最後尾にいたブルーリザード達を亡き者にしていった。
「「「ギィシャアアアアアアアッ!!!」」」
悲痛な断末魔が響き渡る中、その影はワープでもするかのようにブルーリザードの群れの中を駆け巡っては残像から放たれる衝撃波でブルーリザードを空高く舞わせながらバラバラに斬り裂き、紅き鮮血を舞わせていた。
瞬きする一瞬で何十体ものブルーリザードが絶命するその様子は地獄絵図その物、別の意味で『神』の所業である。
ウルナとザイルは走りつつもその異様過ぎる光景をポカンと口を開けて見届ける事しかできなかった。
「……そう言えばあの規格外くんはいつからいなくなったんだ?」
「さ、さぁ――ずっと後ろから来ているものだと思っていましたけど」
ウルナはチラッと後ろを見やるが無論、そこには既に俺の姿はない。
草原を駆け抜ける突風は更にブルーリザードを蹂躙し虚空に舞わせ、斬り裂き、空間を歪ませ、爆風を撒き散らした。
そして余波が収まる頃にその影が正体を現す――言うまでもなく俺、ゼルファだがな。
「はっ、この程度か。俺をもっと熱くさせてくれよ、まだまだ足りんぞ」
「ちょっ、ちょっと! いきなりやり過ぎでしょ!? というかどこから出てきたのよッ!」
「いやぁ、陸を走るのは遅いと思ったら――空走ってきたわ」
「もうマジで言っている意味が分からないわよっ!」
「まあまあ、そんな事言ってないでさ――これでも飲みなよ」
俺はお茶を入れた湯呑みを渡した。
「うわぁー、ありがとーう――じゃないですよッ!! なんで街を救うための戦いの最中で平然と和んでるんですかッ!!」
ウルナは腰に付けているステッキを抜くと草原に正座してお茶を飲む俺をビシッと指し示した。
この下り、前もやった気がするんだけどなぁ。
「なにって、一旦鎮火して和みたかったら和むんだよ。ほらっ、ザイルもいるか?」
「この戦場の草原でお茶とか――正気の沙汰じゃないなぁ、ゼルファくん」
そう言いつつザイルもシレッと俺の隣で静かにお茶を飲んでいた。
やっぱり和むのは重要だよ。いつどんな時であってもね。
「……もう少しタイミングを考えて下さいよ」
「で? 飲むのか、飲まないのか? ハッキリしたまえ」
「飲みますよっ! 何か私だけ仲間はずれってのも嫌ですから」
そしてウルナも同様消火済みの焼け野原の上に座ると受け取った湯呑みに入っているお茶を上品に飲んだ。
ふと見るとブルーリザードの大群が身を翻して、殺気を出しながらもジーッとコチラの様子を伺っているのが見えた。
「ブルーリザードが揃いに揃ってでこっちを見ている……、こりゃいい風景画になるなぁ」
「こんな所で堂々と休憩している私達を不思議に思っているとしか考えられませんが……」
ウルナがジト目で俺を見つめてる、その時だった――
「グギャオオオオオオオオオオッ!!!」
「うっさい、死ね」
和みの途中に咆哮を上げたブルーリザードに向かって俺は反射的に無詠唱かつ溜めゼロ秒でガイア・フレイムショットを発動させると紅く光り輝いた奔流を平然と薙ぎ払い、射線上のブルーリザードを破壊した上で凄まじい爆炎と爆風を撒き散らさせた。
言うまでもなく俺達には被害が一切でないようにバリアを張った上での行為だ。
「「ええぇぇ……」」
お茶を飲みながら俺の突然の所業にかつてない程ドン引きする。
いやいや当たり前のことだろ? 俺は平然とお茶を飲みつつも2人の前でこう呟いた。
「熱血鎮火中の和みを邪魔する者は――万死に値するッ!!」
その名言とも取れる俺の発言を聞き、ウルナとザイルは顔を真っ青にしながら只々頷いていた。
――この時、彼らが「お茶を飲んで和むゼルファを邪魔する事は死を意味する」と悟ったことを知るのは随分後の話になるが。
《Point of view : Anna》
「な、何だ今の爆発は――」
横にいる衛兵団副団長の男が唖然とした様子でその光景を走りながら見ていた。
もしその爆発を起こしたのが人物である場合――思い当たる節は奴しかいない。
この近辺で姿を見かけていない『訓練場キラー』、彼に他ならないだろう。
それはブルーリザードの大群を迎え撃つ最中それは突然起きた。
私達は迷うこと無くブルーリザードの大群に向かって走っていた。激闘になることはもはや不可避の状況で重症、もしくは命を落とす覚悟すらもしていた。
だが、その意志は呆気なく裏切られる事となり、ブルーリザードの動向が変わった事で――
火を吐きつつ前進していたブルーリザードの大群が突如進路を変え、後ろを向いたのだ。
そしてその後に起こった凄まじい爆発、それを意味するものは一つしか無かった。
「……すごい派手にやってるねぇ。ザイルの奴、相変わらずセコいことしやがって」
「あら? カゲヨじゃない」
「久しぶりだね、衛兵団長さん。一時期はどうなる事やらと心配していたけどあれなら隙をついて攻撃できそうだ」
「それもそうですね……、でもまさか進路を変えるなんて思ってもいなかったわ」
「それだけ彼らにとって奴ら3人は脅威なんだよ、私達以上にね。まぁ、誰がやっているかなんて言うまでもないだろうけど」
「ゼルファ、ウルナ……」
そう、この街を救うためのキーマンは既に予想を遥かに超える作戦で動き出していたのだった。
「この様子じゃアタシ達が着く前に終わるか……?」
「それは幾らなんでも――それに、このままと彼らを危険に晒しかねませんから、急ぎましょう!」
「そうだな、重力魔法を基本スキルって言うようなSSSランク確約の化け物がそうそう負けるとは思わないけど」
カゲヨは人一倍自信のある魔力感知でブルーリザード大群の後陣で始まった規格外による激戦を見て苦笑した。