無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~ 作:虎上 神依
《Point of view : Uruna》
ふと私は凍えるような冷気に体を震わせ目を開ける。
そこにはいつもの宿屋の天井――ではなくどこまでも広がる暗い夜空が合った。無数の星が瞬きながら私達を見下ろしている。
突然身体中を走り抜けていく鈍い痛みに顔をしかめつつも私は起き上がり、辺りを見回してみた。
そこは――紛れもなくファスタットの北の門の前であった。
「どうして私は、こんな所に――?」
怪訝に思い曖昧な記憶を巡らせる。
ゼルファと共に無事、アルティメットオリゴンファッツの討伐を無事成功させる。
そして――その直後に現れた巨大な人面蜘蛛。私はその蜘蛛の圧倒的なオーラに叩き伏せられ、ただ恐怖に怯えていた。
蜘蛛が私の名前を読んだ瞬間――、頭の中は一瞬にして真っ白に染まり、何が起きているかもどうすればいいかも分からなくなった。
そこでゼルファの言われた通り逃げようとして――蜘蛛に攻撃されて、庇われて――
『【結晶石よ、彼女を二時間前にいた場所に】』
私の意識が途切れる寸前に放たれた彼の言葉が自ずと蘇ってくる。
そうか、だから私はこんな所にいるんだ……。
苦痛で顔をキツく歪ませながらもニカッと歯を見せて笑うゼルファの顔が浮かんできた。
沢山の毒々しい紫色の針が背中に深く刺さった状態でも、吐血するほど痛くても、私の前で呑気に笑った彼の姿がフラッシュバックした。
彼なら確実に避けられた攻撃を――致命傷にも至りかねない重症を負ってまでゼルさんは私の事を――
胸の奥が不思議な気持ちで熱くなる。気づくと私の頬を大粒の涙が流れていた。
それは丸であの時全く同じ光景を繰り返し見ているようであった。
言うまでもなく教会で引き取られる直前に起きたあの出来事と明らかに類似していた。
あの時も――私は何も出来ず逃げることしかできなかった。ただただ襲い掛かってくる恐怖からひたすら逃げることしか。
そのせいで私は大切な人を失った。当時、唯一の心の拠り所だったその人を失ってしまったのだ。
だから私は――
「行かなきゃ……」
どこまでも広がる草原の奥を見つめながら私は呟いた。
もう、誰も失いたくない。後悔なんてしたくない。
もう――将来の有望性などと言った理由で自分だけ守られるのは懲り懲りだった。
二度と想像もしたくない残虐な光景が頭の中に浮かびあがり、全身が総毛立った。
何も出来ないくせにこんな事を思うのはつくづく自分勝手だ、でももう少し守られる側の気持ちも考えて欲しい。
特に――守られる側故に大切な人を失ってしまった時の気持ちを。
行かなきゃ、何があっても絶対に行かなきゃ。
ゼルさんの元へと……。
《Point of view : Zerufa》
「召喚――ッ!! 八神獣――夜狼神ヤシャ・フェンリルッ!!!」
これが――今の俺に出来る起死回生の最終手段だッ!!
全魔獣の中でトップ10に入る神獣、その一匹をありったけの魔力を注ぎながらも呼び出す。
ホウオウやソウケンとは比べ物にならない程、巨大な魔法陣が俺の目の前の地面に描かれ、膨大な魔力が故に凄まじい爆風を巻き起こす。
そして――俺の手前、その少年・・は現れた。
「ウオ――――――ンッ!! 紅き月の下に漂う混沌の闇を聖なる光で照らす者、聖獣夜狼神参上だぞっ!」
夜狼神を名乗った白髪金眼の少年――フェンは右目を手で抑えながら格好を付けて現れた。
身長はウルナよりも低く、見た目は10歳前後の男の子だ。服とズボンはやたらと文字の入った見るも痛々しい物を着ていて首には十字架のネックレスを付け、右目には痛々しい眼帯を付けている始末。
また頭には白狼特有の獣耳と、後ろには白い尻尾がついているという可愛いらしい一面もあるが、頭についている十字架のピンと尻尾についているドクロ柄のベルトが全てを台無しにしてしまっている。
フェンリルの特徴:圧倒的な厨二病である。その重度さは禁忌の図書館で薄い本を読み漁る師匠やテンションを上げるためによく痛々しいワードを叫ぶ俺をも超える程である。
だが――強さは魔獣のトップ10に君臨する八神獣と言われているだけあって尋常ではなく、推奨レベルは500を超える正真正銘の化け物だ。
そう、確かに化け物なのだが……。
突如現れた激昂魔将インセンド、つまり奴は神獣をも凌駕する可能性があるほど強大であるという事だ。
レベル999を越えた俺ですら勝機があるかどうか分からないのはその理由からである。
「久しぶりだなフェンッ! 急に呼び出しておいてなんだが力を貸して欲しいッ!」
「大体把握したぞっ! あっちに走っていく大量の人面蜘蛛をオラのホーリーノヴァで蹴散らして、この街の皆を逃がせればいいんだな?」
「……まだ何も言ってねぇぞ?」
「へんっ! オラのこの右目の聖気眼を舐めてもらっちゃあ困るぞっ! この混沌より引き出した聖なる力を使えばゼルファが考えていることなんてお見通しなのさっ」
「あー、そう言えばお前、『読心』持ちだったな」
因みに『読心』とはその名の通り警戒心のない人の心を読むことの出来るスキルである。断じてフェンの右目に宿りし聖気によるものではない。
『体がぁ! 体がああぁぁぁ――治ったぁぁあああっ!!! ゲハハハハハ――ハァ?』
インセンドが先程と全く同じネタを披露し一人で勝手に笑っている所を俺達は冷ややかな目線で見守ってやった。
言っておくけどそのネタ全く面白くないからな、寧ろキショい。
『……おい、貴様何者だ? どっから出てきたぁッ!! 』
「オラは誇り高き東八神獣の一匹っ! 聖獣フェンこと、夜狼神ヤシャ・フェンリルだぁ! オラの友ゼルファとの血の盟約に従ってここに参上したぞっ! さてはお前が――激昂魔将インセンドだな? ファスタットを潰し、ウルナを強奪しようとするオール・コズミックの敵めっ! 今すぐにでもこの神から授かった神聖なる魔性でディス・ワールドからフェードアウトさせてやるっ!」
「決め台詞長えよッ! それに後半、半分ぐらい意味不明だからッ!」
「んじゃ、後は任せたぞっ」
「言うだけ言って実行しないんだな……」
そう言ってフェンは軽く手を振って、目にも留まらぬ速度で走り去っていった。
――ああ見えてもフェンの足は速い、人化した状態でも100m走で1.59秒という異次元の記録を叩き出した実力者だ。
『八神獣だとっ!? グッ、待て――ッ!?』
「『お前の相手は俺だ』とさっき言ったよなぁ? その言葉、そっくりと返させてもらう」
『――ふん、何が神獣だ。頭が舞い上がった人間の子供如きに何が――』
「知らないのか? 神獣は基本、人間の姿なんだぞ?」
『――何だとッ?』
「神獣――それは魔獣の中でも殆ど覚えることが無いと言われているスキル『人化』を持つ集団だ。だから昔と違って人間が多いこの世の中、基本神獣は人間の姿で日々を過ごしいている」
『ば、馬鹿なッ!?』
インセンドは先程走り去っていった少年――フェンの姿を見ようとする。
だがそこには――既に少年フェンの姿はなく、代わりに聖なる暖かな光を帯びている一匹の白狼、聖獣フェンリルが焼け野原を猛スピードで駆けていた。
――因みに神獣は魔獣化または人化する際に服も一緒に変身するようになっているため、決して服が破れることはない。
「そういう事だ、本当なら知り合いの神獣全員呼び出したい所だが生憎俺のスキルにも制限があってなぁ」
そう、俺の『魔獣召喚』はいつ何度でも召喚できるわけではなく、召喚したらその召喚した魔獣によってクールタイムが生じる。
だから今回の場合は――少なくとも10時間は召喚出来ないだろう。
『スキルだと? 貴様、一体何者――?』
俺はミニインセンドに向かっていくフェンリルの姿をしっかりと見届けた後、不敵に笑いながら向き直った。
フェンリル召喚のおかげで俺のテンションは徐々に上がりつつある。
「そう言えば自己紹介がまだだったな、名乗ってもらったのにも関わらず失礼した。俺はゼルファ・ガイアール、スキル『魔獣召喚』を持つ最強の無職無能だ」
瞬間――俺は残していた『テンション』を全てステータス補正にまわし、今発動できる最大の力を引き出す。
紫色のオーラが俺を包み込み、覇気とも取れる凄まじい衝撃波を放った。
まだ『テンション』最大値には届かない、だがこれなら――いけるかもしれないッ!
人の気持ちはちょっとした出来事だけで変わる。すこし気を緩め、リラックスするだけでも不思議とやる気が出る。
だからこそ――伝説の魔獣という変人ならぬ変獣集団を召喚するのは別の意味で起死回生の手段にもってこいなのだ。
『ゼルファ……。ふん、覚えておいてやろう。墓に貴様の名を刻むためになぁ!』
「墓まで作ってくれるのか? ありがたいなぁ。んじゃ、もう――お遊びは終わりだ」
『クッ、ゲハハハハハハハッ!!! 最高だ、今俺は最高に激怒しているッ!! 殺すのは惜しいがもう限界だッ!! 今すぐに地獄に落ちろッ!!』
そして――最強の無職無能と人面蜘蛛は互いに大地を揺らすほどの覇気を放ちながら鎌と剣でぶつかり合った。