無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~   作:虎上 神依

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Chapter2-33 立ち上がれ冒険者達よ

 《Point of view : Anna》

 

「うわあああああッ!!」

 

「だ、誰かっ! 助けてくれぇっ!! まだ、まだ死にたくないっ!!」

 

 衛兵や冒険者の悲痛な叫びが絶えず聞こえる。

 何もかも消え去ったはずの草原は辺りは一面、気色悪いミニ人面蜘蛛に埋め尽くされていて「ゲハハ」「ゲハハ」と聞くだけでも寒気がするような高い笑い声を上げながら私達に襲い掛かってきていた。

 

 それに――気色悪いだけならまだしもそのミニ人面蜘蛛は異常なまでに強く、既に多くの負傷者が出て、士気がガタ落ちした衛兵と冒険者らの前衛は崩壊しつつあった。

 

「アンナちゃんッ! これはマジでヤベえぞッ!」

 

「クッ、ゲハハゲハハ笑いやがって煩いんだよっ! アンナ、これは撤退を考えた方が妥当かもしれない」

 

 ザイルとカゲヨは鎌となっている前足を振り回してくるミニ人面蜘蛛相手に健闘していた、だが既に二人はかつてない程に傷つきいつ倒れてもおかしくない状態となっていた。

 ――加えて、私も彼ら二人とほぼ同じ状況だ。目の前の視界はくすみ、鎌で斬られた時に傷口についた毒が既に体の中に侵入して回り始めている。

 解毒魔法を使いたくとも体内の魔力は殆ど残されていない、かなり絶望的な状況だった。

 

「アンナさんッ! 負傷者200人以上、この戦場にいる戦士の5分の1を上回りましたッ! 幸いまだ死者は出ていないものの、今すぐ撤退した方が宜しいかと――ッ!」

 

「言われなくとも分かってるッ! だけど、この状況でどう逃げろって言うのよッ!」

 

 目の前のミニ人面蜘蛛を蹴散らしながらも私は目に見えるほど怯えきった副団長に向かってそう叫んだ。

 私だって逃げたいわよ、こんなキショくて悍ましくて見るだけで吐き気がする様な人面蜘蛛と戦いたくなんてない。

 でも――今逃げたとしてもあのミニ人面蜘蛛の集団に追いつかれるのは火を見るより明らか、だったら戦うしかない。

 見ただけでも足がすくみ、恐怖に駆り立てられる、しかしそれを押し殺してでも私は無限に湧いて出てきているようなミニ人面蜘蛛に立ち向かった。

 

 

「あぁ……、もう終わりだぁ! この街はもう――終わりなんだぁ!!」

 

 

 副団長は絶望に染まった表情で人面蜘蛛から逃げつつ、隙を見て攻撃していた。だが――そのへっぴり腰からして殺られるのは時間の問題。

 

 

「クソッ――蜘蛛如きが調子乗ってんじゃねぇッ! 見た目からしてキモいんだよッ!」

 

「落ち着けザイルッ! 取り乱したってもうどうにもならない……。アンナ、ここはアタシ達が時間稼ぐ、だから――」

 

 カゲヨが必死の表情で伝えようとした、その時――

 

 

 

 

 

「ウオ――――――――ンッ!!!」

 

 

 

 

 

 透き通った狼の遠吠えが辺り一帯に響き渡った。

 その声に衛兵や冒険者は愚か人面蜘蛛までもが動きを止め、その声の主を探し始める。

 

「今のは――遠吠えよね?」

 

「ま、まさかこんな状況で狼の群れが攻めてきたんじゃないだろうなッ!」

 

「ねぇ、ザイル、アンナ。あそこを見てみな」

 

 私とザイルはふらつきながらもカゲヨが指差す先を見た。そこにはまばゆい光を放つ全長5メートルはある白狼が聖なるオーラを漂わせながらゆっくりとこちらに歩を進めていた。

 その威厳ある勇ましい姿、近くにいる者を癒やす様なオーラ、そして迷いなき金眼、それら全てがその白狼が只者ではないことを証明していた。

 

「な、なんだあの狼……、ちょいと神々しすぎやしないか?」

 

「あの姿、色、そして金眼……、間違いないよ。あれは――」

 

「――聖獣フェンリル」

 

 私は神獣が放つに相応しいその眩しい金色の光に目を細めながらも言った。

 

 

 

「オラは聖獣フェンリル――、闇を照らす神獣なり」

 

 

 

 神獣には見合わない一人称と少し子供っぽい声なのにも関わらず、凛と響き渡るその声に私は背筋が一瞬ゾクッとした。

 信じられない――、まさかあの八神獣を目にする日が来ようだなんて。

 

 

 

「今、オラの友ゼルファの盟約に従って――ここに参上したッ!!」

 

 

 

 ――――えぇっ?

 

 

「「「「ぜ、ゼルファッ!?」」」」

 

 

 フェンリルから放たれた驚きの一言に皆がその者――最強の無職の名を口にした。

 あ、あのゼルファがフェンリルの友達? フェンリルと盟約を交わした?

 あの規格外双剣士――、一体どんな境地にたどり着いたらそんな事が出来るのかしら? 神として敬われるようなフェンリルと友達程度の関係で交流をはかるなんてあの男は本当に人間なの?

 

 

「皆の者、今すぐにファスタットへと逃げるんだっ! ここはオラが時間を稼ぐっ!」

 

 

 そう言ってフェンリルはとてつもない跳躍力で飛び上がると人面蜘蛛の大群の真ん中に着地し、神に匹敵するような力で蹂躙し始めたのだ。

 まさか――神獣に力を貸してもらってるとは言え、ゼルファはたった一人でこの街を守る気なのかしら? そんな……、無茶にも程があるわ。

 だけど、あの人族最強とうたわれた勇者をあっさりと抜かしたあの規格外ならやりかねないわね……。

 だが神獣とて相手は予想推奨レベル200位の人面蜘蛛500体、明らかに分が悪く、本当に時間稼ぎであることを痛感する。

 

「――アンナさん、皆怯えに怯えきってこれ以上は無理です。撤退しましょうっ!!」

 

「あぁ、そうだな。皆の者ッ!! 今からこの場を神獣フェンリル様に任せ、我々は街に撤退するッ!! 繰り返すッ、今からこの場を神獣フェンリル様に任せ、我々は街に撤退するッ!!」

 

 

 

 

 

 フェンリルが500体程の人面蜘蛛をひきつけて進撃を防ぐ中、私の指示で総計1000人程の衛兵と冒険者達はファスタットへと向かって前進し始めた。

 皆相当疲労しているのか、足元はおぼつかなく、進むスピードはかなり遅かった。だか、既に戦場からは300メートル以上は離れていた。

 

 

 ――だが、本当にこれでいいのだろうか? 神獣様は逃げろっとおっしゃったが本当にこれでいいのだろうか……?

 

 

 私は残った魔力で解毒治療を施した後、人面蜘蛛がこちらに襲いかかってこないか最後尾で警戒しつつもファスタットへの帰路についた矢先――

 

 

 

 

『皆さんッ!!! 待って下さいッ!!』

 

 

 

 

 拡声魔法で大きくされた少女の声が辺りに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 《Point of view : Uruna》

 

 

「こ、今度はなんだ……?」

 

「女の声がしたぞ? 一体誰の……?」

 

 皆が騒然とする中、私は限られた魔力で声を拡張して投げかける。

 

 

『まだ戦っている人がいるんですッ!! どうか、力を貸して下さいッ!!』

 

 

 私は今まさにファスタットへと撤退しようとしている冒険者と衛兵にそう投げかけた。

 その言葉を聞いた冒険者達は目を見開いてコチラを見る。

 

「あれって……、ウルナちゃんじゃねぇか?」

 

「ど、どうしてあんな所に――? そもそも戦っている人がいるってどういう事だ?」

 

「戦っている人って……、そんなの、いるわけ無いだろ」

 

「……こっちだって傷だらけなんだ、今更そんな事――」

 

「無理だよ……、あんな見るだけでも怖い人面蜘蛛に立ち向かうなんて――」

 

 口々に騒ぎ立てる冒険者達の前で臆することなく私は続ける。

 

 

『まだゼルファさんが希望を捨てずに戦っているんですッ!! 聖獣フェンリル様だっているし、まだ勝てる希望はありますッ!! だからどうか、力を貸して下さいッ!!』

 

 

 誰か賛同してくれることを祈りつつ私は声を張り上げた。

 だが誰一人として手を上げる者は出ず、一度は足を止めたとは言え、聞かなかった振りでもするかのように足を進め始めた。

 ――でも、諦めない。ゼルさんは一人でこの街を守るため一生懸命戦っているのだ、それをただ指を咥えて見ているなんてもう出来ないッ!

 それに皆が束になってかかれば、敵が幾ら強かろうと絶対に勝機はあるッ!

 

 

『皆さん――何で撤退するんですか? 確かにそこのフェンリル様に撤退しろとは言われました。だけどそこで、はいじゃあ撤退しますって言って撤退して――悔しくないんですか?』

 

 

『まだ――、まだゼルファさんは希望を捨てずに、たった一人で、自分の持てる全ての力を出せるだけ使って、この街を守ろうと必死に頑張っているんですッ!! そんな中皆だけ撤退して――恥ずかしくないんですか!?』

 

 

『ゼルファさんは無職無能ですッ!! 本来なら誰よりも弱いはずの超無能なんですよッ!? そんな彼があの奥にいる巨大な人面蜘蛛と――たった一人で、血だらけになりながら戦っているんですッ!!』

 

 

『彼は言っていました、コイツは今までの奴とは次元が違うって――、勝てずに死ぬかもしれないってッ!! でもそんな悍ましい相手なのにも関わらず彼は命を投げ出す覚悟で戦っているんですッ!! このままじゃ――、ゼルファさんはこの街のため、自らの身を犠牲にするでしょう。それを――黙って見守ってていいんですかッ!?』

 

 

 私の横を通り過ぎて、撤退しようとする人達に向かって必死に叫び続ける。だが皆、彼女の言葉を信じる素振りすらも見せず、無視して歩いていった。

 いつの間にか私の目からは大粒の涙が溢れ出ていて、頬を伝っていった。

 ――どうして信じてくれないの……? どうして皆協力してくれないの……? 自分さえ助かれば街を、ゼルさんを見捨ててもいいって考えなの……?

 ファスタットへ撤退する集団の中、呼びかけるのを諦めかけた――その時だ。

 

 

「おい、テメェらッ! レディが泣いてまで頼んでるのに無視ってどういう事だぁ!!」

 

 

 私の肩を叩きながらその男は怒号を張り上げながら前に出た。

 聞いたことがある声、見たことある姿。

 忘れるわけがない、何故ならファスタットに訪れた初日に――ゼルさんを散々バカにした挙句ボコボコにされた、有名な女誑しなのだから。

 

「――ザーラさん……?」

 

 突如現れた街一番のトラブルメーカーに釘付けになる冒険者達――ザーラは私の前に堂々と立って彼からは考えられない程の正義感を放ちながら言い放った。

 

 

「それに――テメェらッ!! あのクソ無職に負けたままでいいのかよぉ!! 無職如きに最強になられて悔しくねぇのかよッ!!」

 

 

「無職無能は神から見放された存在だッ! 何も力を与えられずに儀式を終えた落ちこぼれなんだぞッ!! それなのにもあのクソ無職、ゼルファは俺らより遥かに強くなって最強に君臨しやがったッ!! 元は何の力もなくゼロの状態から始まったのにも関わらずだッ!」

 

 

「そんなクソ無職があの恐怖と絶望が渦巻く戦場で――今フェンリルが戦っている場所より更に奥で希望を捨てずに巨大な人面蜘蛛と戦っている。見えるか? 見えねぇとは言わせねぇぞッ!! 嘘なんかじゃねぇ、逃げているだけで今まで気づかなかったかもしれないがあのクソ無職はマジで戦ってやがるッ!!」

 

 ザーラは遥か遠くで繰り広げられている戦いを指差しながら言った。

 彼が指差す先を冒険者達が見つめる先、フェンリルとミニ人面蜘蛛達がぶつかり合っている地点よりも更に奥、そこではゼルファと人面蜘蛛による激闘が繰り広げられていた。

 

「あそこにゼルファが……? 嘘だろ?」

 

「いや、あの速さの人影、そして派手すぎる剣技、凄い見えづらいけど、間違いねぇよッ!」

 

「あれ――何次元の戦いだよ、レベルが違いすぎるだろ」

 

「でも……、臆することなく、あの人面蜘蛛相手に一人で戦ってるわ……」

 

 冒険者達が遥か遠くで繰り広げられているゼルファと人面蜘蛛の戦いを唖然として見守る中、ザーラは続けた。

 

「――おかしくないか? 無職があんなに全力で戦ってるのに、神から力を貰った俺達が何であっさり諦めて撤退しようとしてんだよッ!! 俺は行くぞ、あのクソ無職に負けたままは嫌だからなぁ!! そうだろぉ? お前達ッ!!」

 

 

 ザーラは大声で誰かに呼びかけた。

 すると如何にも悪者の様な存在感を放つ、気性が荒そうな冒険者がゾロゾロと現れ、ザーラの後ろにつく。

 

「当たり前でぃっ!」

 

「あっしはザーラが善人になろうとも一生ついていきまっせぇ!!」

 

「――と、まぁこんな感じだ、ウルナちゃん。これで協力者20人弱と言った所だぜ」

 

「ザーラさん……ッ! ありがとうございますッ!」

 

 かつて反発し合っていた相手に私は深々とお辞儀した。

 そして――この街で一番人助けに無縁だと思われていたザーラのまさかの宣言に続くように我こそはと冒険者と衛兵が名乗りを上げた。

 

「ザーラが行くんなら、行かないわけにはいかねぇ……、俺も協力するぜッ!!」

 

「私も協力させて頂くわ、この街を、ファスタットを乗っ取られる訳には行かないものッ!」

 

「無職に負けていられるかぁ!! 俺も行くぞッ!!」

 

「まだ頑張っている奴がいるのにそれを見捨てるのは――流石に酷だったな。すまねぇ、俺も協力するぜ」

 

 

 

「皆さん――、ありがとう、本当にありがとうございますッ!」

 

 

 

 そして撤退しようとしていた冒険者達は次々と集結していき、遂にその数は500人を越えた。

 私は感極まって再び、涙を流してしまった……。

 だが――、こうして皆を集わせてくれたのはザーラの一言があったからである。女誑しの悪者から突然として正義のヒーローに成り代わった彼は皆の声援を受けて更に全体の士気を高めていた。

 

「やりましたね、ウルナさん」

 

 不意に聞き覚えのある声を掛けられ、私はそちらを振り向いた。

 見ると傷だらけのアンナ、ザイル、カゲヨが感心した様な表情で周りの冒険者達を見回していた。

 

「アンナさん……」

 

「ウルナさん、よくぞ怖気づく皆さんに勇気を与えてくれました。衛兵団長として心からお礼申し上げます」

 

「――私のおかげじゃないですよ……、皆さんを無事集められたのはあの人のおかげです」

 

 私は冒険者に囲まれているザーラを指差しながら言った。

 

「まさかザーラがあんな事を言うとはな、流石のアタシも驚いたねぇ」

 

「はぁ――あの気色悪い蜘蛛とまた戦うと思うと気が重いけど、ウルナちゃんの頼みだ、断るわけには行かねぇよッ!!」

 

 皆がこれから始まる第二ラウンドに向けて猛々しい咆哮を上げる中、アンナが大声で再び指揮を取り始める。

 

 

 

「ここに集いし勇気ある者達ッ!! 今こそ、ファスタットを守るため再び立ち上がる時だッ!! 蜘蛛などに臆するな、そして我々を逃してくれた神獣フェンリル様と強大な敵に一人立ち向かう最強の無職ゼルファを助けに行くぞッ!!」

 

 

 

「「「「オオオォォォォッ!!!」」」」

 

 

 

 一度は怖気づき諦めかけた冒険者が、衛兵が、再びファスタットの為に士気を高め、盛大な雄叫びを上げて、団結した瞬間だった。

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