無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~ 作:虎上 神依
『人間如きが調子に乗るなァァ!!』
インセンドの怒りは最高潮に達し、顔の形相は醜悪かつ凶悪な物へと変化していく。
自分の分体が滅ぼしたと思っていた冒険者達が平然と生き残り今自分を倒そうと立ち向かってきているのが何よりっも許せなかった。
黒光りする凶悪な鎌を何度も振り回し、斬撃特有の衝撃波を生み出しては500人程の冒険者達を蹴散らそうと試みた。
しかし――
「前衛後退ッ! タンク隊前進ッ! バリア展開ッ!」
鎌が振り下ろされる前のアンナの聡明な指示によってゼルファですらも苦しんだ衝撃波を冒険者達はいともたやすく受け止めた。
爆風が巻き起こるものの誰一人として傷つくものは出てこない。
「今だぁ!! 野郎共ぉ!! ――風神蹴りッ!!」
「ヒャッハーッ!! 闇夜破ッ!!」
「ハアァァッ!! エビルメテオッ!!」
ザーラ、ザイル、ウルナの3人を始めとした攻撃に特化した前衛が前に出てインセンドに多段攻撃を浴びせる。
風を斬り裂くような鋭い蹴りから生まれた衝撃波、闇色に光り輝く斬撃をインセンドは両鎌で何とか防ぐ、だが――その後に砲撃された漆黒の炎を纏いし岩石はインセンドの顔面にクリーンヒットし、15メートル以上はある巨体をふっ飛ばした。
「ウルナに続けぇ!!」
「今の俺達なら出来るぞぉ!!」
ファスタットを守る為、気合と根性と団結力の元、皆が一丸となって突き進む彼、彼女らは最早レベルの概念など適用されていないかのような力を生み出し、インセンドを翻弄した。
そう、この場で誰一人として気にすることのない効果――だがそれは自然と意識することなく発動して皆のステータスに多大なる補正を施していた。
複数人で発動する技術『共同技術(タッグアーツ)』の上位互換――『超多数共同技術(ロットアーツ)』
それがこの場にいる全ての冒険者500人によって何の前触れも、打ち合わせもなしに発動して、彼らの力に大きな影響を及ぼしていた。
それに加えて――フェンリルの加護、ホーリーオーラがまだ持続している。
今、ファスタットの冒険者と衛兵達は向かう所敵なしの最強の軍隊になっていた。
『グググ――ッ! 小癪なぁ!!』
インセンドは口から紫色に光る直径数メートルの得体の知れない魔力の塊を吐き出すと遥か空中に向かって投擲――デッドポイズンレインの上位互換、リーサルポイズンレインを発動する。
冒険者達500人の頭上に刺さっただけで死に至る危険がある恐ろしい事この上ない毒針が大量に降り注ぐ。
だが――その矢先、毒針の雨に向かって空中に飛び出す白髪の少年の姿が見受けられた。
「オラに任せるんだぞっ! ホーリーアンチアブノーマルッ!!」
致死毒の雨に向かってフェンはその神々しい魔法を放つ。
次の瞬間、空一面に広がっていた毒針は一瞬にして白の輝きを放つ聖水となって皆に降り注いだ。
そして――聖水の雨を被った冒険者達は毒に侵されるどころか、HPとMP共に回復させ、更に士気を向上させた。
『なぜだ? なぜだ!? なぜだ、なぜだ、なぜだ、なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだぁぁッ!!』
インセンドは狂う程に激怒し、誰もがすくみ上がるようなドスの効いた咆哮を空に向かって放ち、荒れ狂う爆風を創り出した。
眼は既に白い部分が無くなるほどに紅く染まっていて、無数の牙の間から質量を持った思い瘴気が吐き出される。
『虚無の死鎌ッ!!!』
空間を歪曲させる程の渾身の斬撃が冒険者を斬り裂くため右鎌からとんでもない質量を持って放たれた。
あの斬撃をまともに食らえば、例えステータスが上昇している冒険者だとしてもひとたまりもないだろう。
「させる――ガッ!?」
「ウオリャアアア――ゴフッ!?」
その斬撃を防ぐためザーラとザイルが右鎌に向けて渾身の一撃を放つ。
だが――それでも尚インセンドの虚無から生まれた死の斬撃は勢いを殆ど緩めることなく2人の包囲網を突破した。
「ハァァ――――……クッ!?」
「絶対止めて――グァッ!?」
アンナとカゲヨも止めに掛かるが、その努力も虚しく死の斬撃はあっさり2人を突破した。
「ホーリー・テンペラーッ!!」
「エビルスピアァ――!!」
フェンの聖なる魔弾とウルナの漆黒の邪槍が4人の命懸けのブロックによって勢いを弱めつつある死の斬撃に衝突。
凄まじいせめぎ合いが起こり、火花が散りばめられるが――死の斬撃はそれでも尚、2人の魔法を貫通して冒険者達に襲いかかる。
「皆の者ッ!! 魔法を放てッ!!」
「オオオォォォォッ!!!」
アンナの叫び声に応えるかのように大量かつ多種多様の魔法が生きているかのように空を裂きながら進む死の斬撃に向かって放たれる。
刹那――巨大な爆発が起こり、死の斬撃と大量の魔法が衝撃波を持って相殺されあった。
インセンドの渾身の斬撃――それは500人が束になってようやく防ぐことが出来るほど強力だった。
今までインセンドを翻弄していたとは言え、根本的な強さは変わっていないのだ。幾ら人数が増えようとも無謀であることには変わりない。
だが――そんな状況でも冒険者達は逃げることなく立ち向かった。
何としてもゼルファが要求した3分を稼ぐため。
唯一、一人でインセンドに対抗できた男を助けるため。
「おいテメェらぁ!! あんな斬撃に気後れしてんじゃねぇぞッ!」
「皆――残りあと少し、踏ん張るわよッ!!」
「例えどんな手段を使ってでも――時間を稼ぎますよッ!!」
指揮を取る3人の叫び声に励まされつつも冒険者達はインセンドに臆することなく再び立ち上がる。
『ゲハハ、ゲハハハハハハハハハッ!!! 貴様達人間は絶望的に無力ッ!! 力なき存在なのだよッ!! そんな奴らにこの俺が負けると思うなぁぁ!!』
再びインセンドは両前足を頭上に掲げ、正体不明、不可思議、奇々怪々な魔力を凝縮し始めた。
魔力が放たれる前から空間は歪曲、衝撃波を生み出し、覇気を発した。
ここにいる者全てが感じたことがない程の強大なオーラが渦巻き始め、物を虚無の中に吸い込むほどの質量を持ち始めた。
そのあまりにも膨大過ぎる力にザーラ、ウルナ、アンナを始めとする全ての冒険者達が各々の武器を構えながら固唾を呑む。
「ほ、本当に防げるのかよ、こんなの……」
「いや……、防げるかじゃない、防ぐんだよザーラ」
「狂戦士の割にはいい事言うじゃねえか、見直したぞ」
「ファスタットを守るため。いえ、この世界を守るため。あの魔法、絶対に防ぐわよ」
「もう誰も失いたくないから――ここは何としても持ちこたえて見せる」
「クウウゥゥ――オラ、段々ワクワクしてきたぞっ。絶対止めてやる、夜狼神の名に掛けて――」
『暗黒虚無の勾玉ァ――――ッ!!!』
刹那――インセンドの前足から凝縮されていた黒いエネルギーの塊が目の前の物を全て破壊するべく照射された。
その威力は先程の『虚無の死鎌』すら比べ物にならない程で、目の前の光を全て飲み込み、皆を深き暗黒へと誘った。
ザーラ、ザイル、カゲヨ、アンナ、ウルナ、フェンが射線上の全ての物を無に還す光線を止めるために前へ踏み込んだ――その時だった。
ザシュッ――
インセンドが放った渾身の光線は何者かの手によって一瞬にして薙ぎ払われ――跡形もなく吹き飛んだ。
「「「「「「はぁ――ッ!?」」」」」」
6人の呆けた声が聴こえると同時に今までで一番の突風が吹き荒れ――立っていられなくな程の地面を大きく揺るがした。
爆発に伴って放たれた極光が辺りを照らすと同時に一つの黒い人影を映し出した。
「よお、待たせたな」
金色のオーラを纏い、髪の毛が逆立った最強の無職――ゼルファが何食わぬ顔でそこに立っていた。