無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~   作:虎上 神依

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Chapter2-38 覚醒ビーストモード

『ば、馬鹿なっ! 俺の渾身の光線が一瞬で――』

 

 目の前で起きた出来事が信じられず、ただ唖然とするインセンド。

 確かに強い光線だ、『オーバーテンション』を使って全気力を力に変換させた俺でもそれを確実に止める事は出来ないだろう。

 だが――今の俺は違う。

 

「ゼルさんッ!」

 

「ふっ、予想よりも早く済んだからちゃっちゃと参戦しに来たわ」

 

 俺は一旦後ろを向いて自分の為に命懸けで時間を稼いでくれた冒険者達を見渡す。

 そして――、一際大きい声で叫んだ。

 

「皆――ッ! 時間稼いでくれてありがとなぁ!! 助かったぜッ!!」

 

 

「「「「オオオォォォォ――――ッ!!!」」」

 

 

 ヤバい、俺の声に皆が反応してくれてる。

 生まれて初めてだ、こんな大勢の人々の優しさと勇気と熱気に触れたのは……。

 最高だよ――、こんなに最高だって思ったのは21年間の人生で初めてかもしれない。

 ――燃えてきた、心の底から力が煮えたぎってくるのが分かる。熱血パワーで全身が満たされていくのが分かる。

 もう、誰にも負ける気がしない。

 

 

「『超オーバーテンション』――ッ!!」

 

 

 興奮と気合いを溜めに溜めて行き着く先。『オーバーテンション』の最終完成形、また同時に俺が所持するあらゆる身体または能力強化スキルの基盤でもあるスキル。

 遂に第二形態へとたどり着いた俺が過去最凶の敵、インセンドの前に立ちはだかる。

 

 

『な、何なんだこの溢れんばかりの魔力はッ!? あり得んッ! こんな事絶対にあり得んぞぉ!!』

 

 

「あり得ないあり得ない言ってたって目の前の状況は変わりはしないぞ? いい加減、現実見ようぜ」

 

 

『許さん……、許さん許さん許さん許さん許さんぞおおおおおっ!!』

 

 

 インセンドは自分の両前足に悍ましい覇気を纏わせると巨体を揺るがせながら高く飛び上がり黒光りする鎌を大きく振りかぶった。

 その高さ約20メートル――このままただ単に落下してきても負傷者が出そうな重量なのにも関わらず、インセンドは自分の鎌を顔面の前で交差させると高速回転しながら俺に向かって落下してきた。

 

 

『ブラックポイズンマッシャーッ!!』

 

 

 相変わらずセンス皆無の技名だな。

 俺はフッと軽く溜息をつきつつも長剣を上空に掲げた。長剣は蒼く淡い光を放つと途端に眩しい閃光をその剣身に宿らし始めた。

 

 

「七星剣オーガダウン――俺に力を貸してくれ」

 

 

 蒼い閃光が一瞬にして俺を包み込む、しかし何も慌てる必要など無い。

 長剣――七星剣オーガダウンは俺の腕に力を与え、青い色に輝く魔力で想像された小手を出現させた。俺はその魔力変換小手を通じて凄まじいエネルギーを七星剣に送り込み、かつて魔獣の一種であるオーガ族が剣に封じ込めた恐るべき力を開放した。

 

 刹那――インセンドを含めた一部の空間の時が止まった。

 空中で何故か静止するインセンドに冒険者達が驚きの声を上げる中、俺は無造作に七星剣を横に薙ぎ払った。

 

 

「アナザーディメンションフォース」

 

 

 俺がそう呟いた次の瞬間――インセンドの前足は切断され、跡形もなく消し飛ぶ。

 この世界とは別の異次元ベクトルから繰り出される斬撃はインセンドの鎌切断だけに収まったがその代わり、インセンドを空高く飛ばした。

 何が起こったのか分からぬまま宙を舞うインセンド、そして大きな地響きを起こしながら背中から着陸した。

 蜘蛛にとって仰向けにされる行為は絶体絶命のピンチである事は認知している、だから――敢えて前足だけにしてやったのだ。

 

 

『グオアアアアアアッ!! クソッ、クソッ、クソオオオオッ!!』

 

 

「皆、俺に続けぇええええっ!」

 

 

 再び七星剣を高く掲げて高らかに叫んだ後、走り始めた。

 後から多くの冒険者が続いてくるのを見てにやけながらも俺は次なる強化・・・・・の準備に取り掛かる。

 

 

「獣王刀ヒュナプス――俺に力を貸してくれ」

 

 

 七星剣とは相反する紅紫色のオーラを仄かに照射する獣王刀。

 瞬間、紅紫の奔流が全身を包み込み俺を中心として立体魔法陣が形成される。

 紅紫色のオーラに続くように全身は金色の光に包まれた。そして俺は――

 

「なっ、立体魔法陣っ!?」

 

「おいおいゼルファくん、マジかよ。今度は何するつもりなのさ」

 

 後ろから走ってくるザーラとザイルの声を聞きつつも俺は全身にまとわりつく黄金色のオーラを弾き飛ばした。

 

「ハァァアアアアッ!?」

 

「えっ――ぜ、ゼルファさんっ!? ゼルファさんなの!?」

 

「す、凄い……、凄いとしか言えないです」

 

 女子3人組の驚嘆の声を聞きつつも、俺は軽く全身を触って――確かめる。

 耳には例のごとく猫っぽい獣耳が、そして背骨の付け根から生えている細長い黄色と黒の縞々模様の尻尾。

 うむ、どうやら変身成功のようだな。

 

 

「モードチェンジ――覚醒ビーストモード」

 

 

 これぞ、『超オーバーテンション』の状態に更なるステータス補正を加えた俺の第三形態の姿だ。

 

「よお、遅えぞお前ら」

 

「く、クソ無職が……」

 

「ね、猫になっちまった」

 

 ザーラとザイルが走るのすら止めてポカンと口を開けながらそう言った。

 

 

「猫じゃねぇッ!! 虎だよ虎ッ!!」

 

 

「ぜ、ぜ、ゼルファさんっ! 可愛い、可愛すぎますっ!」

 

「――獣人気違いのアンナじゃねぇけど、不覚にも可愛いって思ってしまった……」

 

「ゼルさん……容姿変形技は反則ですっ」

 

「黙れぇッ!! 今はそんな事よりあの人面蜘蛛だろうがッ!!」

 

 今にも起き上がりそうなインセンドを指差しながら俺は言った。

 

「ハッ、私はこんな時に何を――、耳モフりタイムなら戦闘後でも十分にできるというのに」

 

「――やっぱこの人怖いよっ!!」

 

「そ、そんな事より人面蜘蛛でしょっゼルさんっ!!」

 

「あ、あぁ――そうだな。行くぞお前らッ!! 今度こそインセンドをぶっ潰すッ!!」

 

「「「お――ッ!!」」」

 

 そして俺ら7人はほぼ同時に走り始めた。

 この街を脅かす『災厄』――激昂魔将インセンドを倒しこの戦いに終止符を撃つために。

 

 

『クソが……、クソ人間が……。激怒だ、激怒したぞ、もう誰も俺を止めることは出来んッ!!』

 

 

 インセンドが例の如く怒りで表情を歪ませながら突進してきた。

 だが――

 

「風神蹴りッ!!」

 

「無影破斬ッ!!」

 

 ザーラとザイルの攻撃がそれを阻む。

 本来なら力負けするはずの2人だが皆の力が合わさった『超多数共同技術(ロットアーツ)』が発動している今、彼ら1人の攻撃はレベル300の者が放つ攻撃に匹敵している。

 

『グオオオオッ!?』

 

「行けぇ、テメェ達ッ! ザーラ軍団の恐ろしさを思い知らせてやれぇッ!!」

 

「「「へぇいッ!!」」」

 

 街の問題児の集団――ザーラ軍団が各々に武器を構えながら怯んだインセンドに襲いかかる。

 彼らは特に強い力を持っているわけではない、だがその人数の量からして今のインセンドにとっては十分驚異的な存在となっていた。

 

「アンナッ、今こそあれを使うよッ!!」

 

「ええ、良いわよカゲヨ」

 

 ザーラ軍団の横から飛び出してきた女侍と衛兵団長は息ピッタリのコンビネーションでインセンドを正面から十字形に斬りつける。

 

「「ソードクロスッ!!」」

 

 2人の『共同技術(タッグアーツ)』が炸裂、そしてそれに便乗するかのように俺はザーラ軍団を飛び越えてインセンドの下に入り込む。

 

 

「断罪の雷――コンビクションサンダーッ!」

 

 

 七星剣と獣王刀を同時に振り上げ、地獄から引き寄せた雷をインセンドの腹部に直撃させる。

 瞬間――インセンドの腹部をあっさりと貫通し、白い稲妻が奴の全身を駆け巡った。

 蜘蛛の口から吐き出された凄まじい悲鳴を適当に流しながら俺は次の者に場を譲る。

 ――まあ、次誰が来るかわ大体分かっているけどね。

 

 俺は崖の上を眺めながら言った。

 先程からいなかった奴がそこに立っている。

 

 

「オラの渾身の一撃――カオスより生成されしホーリーライトッ、暗黒と深き闇を消し去るこの――神獣の裁きを受けるが良いッ!!」

 

 

 フェンは崖から飛び降りると空中で聖獣フェンリルの元の姿に変身、身体を丸めて縦に高速回転し始めた。

 それは白狼の剛毛な体毛とこの世界では誰にも負けない神速から生まれる自然のカッター。

 名付けて――フェンリルカッター。

 

 

『調子に――乗るなぁぁああああッ!!』

 

 

 胴体から再び前足を出現させたインセンドは直ぐ様身を翻し、崖の上から飛び降りてきたフェンリルを両鎌で受け止める。

 しかしその隙が――新たなる攻撃チャンスとなってしまった。

 

「行くぞ、ウルナッ!」

 

「はいっ!」

 

 俺は彼女の肯定の意を聞いた後、微笑を浮かべながら腰を低く落とした。

 直後、その場にいる全ての者を仰け反らせ、吹っ飛ばさせる程の風圧を生み出す程の力で地を蹴り、垂直方向に高く飛び上がった。

 その速度は人間が出せるであろうスピードを遥かに超え、大気も地面も魔素も、何もかもを揺るがすほどの衝撃波を放った。

 

 

「ハアアァァァッ!!! 頼みましたよっ、ゼルさんッ!!!」

 

 

 今までのとは比べ物にならない程の大きさの漆黒の魔弾を生み出したウルナはそれを虚空を舞う俺に向かって投擲――弾丸の如く彼女の手から撃ち出された。

 

 

「いよっしゃあっ!! 燃えてきたぜえええええッ!!」

 

 

 俺は虚空で身体を半回転させ、地上から放たれた漆黒の魔弾に向かって落下し始める。

 そして伝説の魔剣本来の力を開放した双剣でその漆黒の魔弾を貫く。

 

 双剣に――凄まじい威力とエネルギーを秘めた邪魔法が纏わり付き、唸りを上げて暴れまわっていた。

 

 

 

『グオアアアアアアッ!! この俺が、俺が、卑しき人間なのに負けるわけがねぇえええええッ!!!』

 

 

 

 フェンリルのカッターを最後の力で押し退けたインセンドは空中から落下してくる俺に向かってあの自称虚無から生まれた光線を放った。

 尋常ではないほど太い光線は不協和音を奏でながら上空に放たれ、今まさに俺を飲み込もうとしていた。

 

 

「ゼルさんっ、行っけえええええッ!!」

 

 

「見せてやるッ!! これが俺とウルナの『共同技術(タッグアーツ)』――『グランドエビルクロス』だッ!!」

 

 

 虚無の光線が俺を包み込んだ刹那――信じられないほどの邪悪なエネルギーが炸裂し、放たれし光線を破壊しながらも虚無から生まれた暗闇の中を突き進んだ。

 そして遂に――その双剣はインセンドの鎌に衝突する。

 

 

『ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!!! なぜだ、なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだぁぁぁあああああッ!! なぜ貴様らの様な卑しき人間に、無力な人間にぃぃいいいいいいッ!!!』

 

 

「簡単な話じゃねぇか、お前が俺達に劣った理由は――」

 

 

 邪魔法を纏った七星剣、獣王刀が巨大なインセンドの身体を紙を裂くかのように一瞬で一刀両断した。

 音速を超え、破壊の力を得た双剣の切っ先から世界を斬り裂く真空の衝撃波が生み出され、インセンドをものの一瞬で爆散させた。

 そしてその衝撃波と共に空中に投げ出された俺は軽く身体を回転させた後、静かに着地する。

 

 

「――頼れる仲間がいなかったからだ」

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