無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~ 作:虎上 神依
俺は憎んだ。ひたすら憎んだ。
無職という職業を――無職無能を差別し、蔑む者達を――
全ては5歳の時だ。
神殿にて行われた儀式、そこで言い渡された絶望の言葉。
――君の職業は……、”無職”だ。そしてユニークスキルは……、なし。
驚愕の表情の神官から発せられたその言葉は俺を絶望に陥れた。
あり得なかった、いや信じたくは無かったのだ。自分が何も能力を持たない無能である事を。
俺の夢は歴戦の戦士になることだった。
すごい職業と能力を授かって魔物を沢山倒して、魔王を倒すパーティーに入って、世界を救った『勇者』になりたかった。
だが、現実は甘くなかった。
超無能という烙印を押された俺はその日から地獄の様な日々を送ることとなった。
「まさか……、私の子が無職無能だとはな……」
「あり得ないわ、こんな子が私の子だなんて……」
無職無能である事が知れるや否や俺は早速、人間として扱われることが無くなった。
「はっ、まさか僕の弟が超無能だったとはね。見損なったぞ、ゼルファ」
「あーもうどっか行けよ、見てんだけで虫唾が走んだよ」
親や二人の兄からは邪魔者扱いされ暴力的を振るわれ、家に居場所が無くなった俺は反抗することもせずただ外をほっつき歩く事しか出来なかった。
だが家を出て、一人で街を歩いていたとしてその無能の波紋は収まることはなかった。
「あー? 何でこんな所に超無能がいんだよ」
「さっさとどっかに行ってくれ、見ていると目が腐る」
俺が街を歩くだけでも周りの冷たい目線が全身に刺さり、乾いた嘲笑が耳に入り、視線が合えば腐った汚物を見るような目をされた。
5歳まで普通に接していた街の人達は、俺が超無能だと知れ渡った途端に態度が変わった。
家族にも捨てられている俺は街の中でもストレスのはけ口となっていて、俺を指差して「日頃の行いが悪いとああなるよ」と他の子供の見せしめにもされていた。
だから俺はひたすら――魔獣を狩ることにした。
八つ当たりなのは分かっているが、こうでもしないともはや生きていくことすらままならない状況だったからだ。
その時の俺は無我夢中だった。
必死になって魔獣と戦い続け、強くなろうとした。
だけど――無能の限界はすぐに来てしまった。推奨レベル8であるコボルト、その大きな壁が俺の希望を打ち砕いた。
『経験値を得るならば、同レベルまたはそれ以上の魔獣を倒さならければならない』
とあるその偉人の言葉が俺に重くのしかかってきていた。だから俺は同レベルかそれ以下の魔獣をひたすら狩った。
ストレス発散のレベルでは収まらないほど魔獣を虐殺してただ強くなることだけを目標とした。
いつか俺をあざ笑った全員に復讐してやる。
そんな負の感情だけを原動力にして俺は動き、街を出ては魔獣を狩った。
だがそれでも俺は一向に強くなることは出来なかった。レベル5の俺がそれ以上強くなることは無かった。
だから俺はある日、遂に覚悟を決めた。
安全第一という言葉を捨て、接近戦ではとても不利になると言われているゴブリンに対して特攻した。
ひたすら木の棒で殴り、血だらけになるまで奮闘した。
悔しかった――強くなることの出来ない自分が、コボルトやゴブリン如きに劣ってしまう自分が……。
全身を自作の皮の防具で包ませながらも俺は木の棒で何度も何度もゴブリンを殴った。
無論、ゴブリンの反撃で何度も何度も地面に転がり、内臓が潰れるような衝撃で血反吐を何度も撒き散らした。無職無能の圧倒的弱さを見せつけられた。
それでも俺は何度も立ち上がってゴブリンに立ち向かっていた。
認めたくなかったのだ、自分の弱さを。
絶対に復讐するというドス黒い感情が俺を諦めさせなかった。魔獣の死体を何とか売って、自分でかき集めた回復薬を何度も使って小さな身体を起こし、何とか立ち上がる。
そして――もう回復の手段もつき限界寸前となっていた俺が最後にはなった渾身の一撃がゴブリンを絶命させた。
「やった……、倒し、た……」
次の瞬間――俺はその場に倒れ、気を失った。
「……きて、起きて……ッ!」
身体を揺さぶられる感覚に俺はゆっくりと目を開けた。
そこには心配そうに俺を見つめている少女の姿があった。
見たところ年齢も然程変わらなそうな容姿、でもどことなく大人びていて美しいような雰囲気すら漂わせている少女だった。
だが、それだけではなかった。少女の頭上からは二本の特徴的な角が生えている。
人間にそっくりだがその角が生えている所から分かることはただ一つ。
その子は紛れもなく魔族だった――。
「……良かった、気がついたんだね」
「……、君が僕を助けてくれたの?」
「うんそうだよっ! だって森のなかで倒れていたから」
俺は直ぐ様、頭の上に表示されているであろうカーソルを見た。
そこにはちゃんと『職業:無職』というステータスが表示されている。どうやら、設定を変更するのを忘れていたようだ。
「僕……、無職なのに?」
「んー? 確かにそうみたいだね、でも無職とか関係なくない? 私なら倒れていたら誰であろうと助けるよ」
「……、そうなんだ」
俺はそれが嬉しかった、無職無能である自分を冷遇せず認めてくれたことを――
話を聞くとその少女はここからちょっと離れた所にある魔族の村の子で、退屈なあまり村を抜けて外で遊んでいたようだった。
「助けてくれてありがと」
「うん! それじゃーねー」
そう言ってその少女は手を振りながら去っていた。
そっか、いるんだね。今みたいな子も――
俺は自分を助けてくれた少女に感謝し、新たな希望を懐きながらもステータスウインドウを開いた――刹那、俺は石化したように固まった。
『経験値を得るならば、同レベルまたはそれ以上の魔獣を倒さならければならない』だからレベル5の俺がレベル4のゴブリンを倒してもレベルは上がらないはずだった……、なのに俺のレベルは6に上がっていたのだった。
この時、俺は全てを悟ったのだ。
『経験値を得るならば、それ相応の過酷な経験を積まなければならない』
その言葉の真の意味を――
同じレベルの敵を倒し続けても経験値は入らない、それは絶対なる世界の仕組みであり、どうしようもない決まり事である。現に過去の偉人がそれを証明した本を書いていた気がする。
だが……、その一方でもう一つ、経験値を得る方法が存在していたのだ。
そう、過酷な経験――即ちレベル相応の死と隣り合わせの苦痛を味わって、経験を積めば、レベルも上がるのだ。
なんだ……、簡単な話ではないか。俺はステータスを見ながらほくそ笑んだ。
誰が同レベルの魔獣に命の危険が伴うような不利な戦いを挑んだだろうか?
誰がそんな自ら死ににいくような挑戦をしただろうか?
答えは否――誰だって死にたくないと答えるだろう。
だから誰もがこの仕組みに気づかなかった。気づこうとしなかったのだ。
そう、その時から俺の全ての物語は始まった。
無職無能という圧倒的弱者による復讐譚が……。