無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~ 作:虎上 神依
この世界の仕組みに気づいた俺はそれをきっかけに今まで以上に魔獣を狩りまくった。
時には血だらけになり、HPも2桁を切ることなどざらにあった。それでも強くなるため俺はひたすら魔獣に立ち向かった。
全ては俺を嘲笑った人々を見返すため、復讐するためである。
いつしか魔獣を殺すことに快感を覚え、出会う度に殺して殺して殺しまくる。
ストレス発散のレベルでは収まらないほど魔獣を虐殺してただ強くなることだけを目標とした。
そして6歳になる頃には俺はレベル18となっていた。当時の兄達のレベル、増しては父や母をも超える領域に俺は達していた。
このまま行けば、世界最強も夢じゃない。
無職による復讐という建前で世界の頂点に立つという目標を成し遂げるため俺は更に魔獣を殺すことに励んだ。
しかし、ある日を境にその状況は変わる。
俺は何とかこっそり村を抜け出していつも通り食料を得るため魔獣を狩っていた時だった。
「うわぁ~、凄いね!」
とある魔獣を倒した直後声が聞こえたので振り返ってみるとそこには拍手している少女の姿があった。
そう――あの時、俺を助けてくれた魔族の少女の姿がそこにはあった。
「大したことないよ……、僕はまだ強くならないといけないから」
「――でもそんな血だらけになって大丈夫なの?」
「うん……、僕は強くなるためならなんだってするから」
「ふーん……」
少女は珍しい何かを見るような表情で俺を見た。
「もしかして――無職が関係していたりするの?」
彼女ははにかみながら幼い笑顔を俺の目の前で見せてながらそう聞いた。
――図星だった。俺はただ何も言う事が出来ず彼女の姿を見つめていた。
「……、私時々思うんだ――何で人族と魔族が対立しているんだろうって」
遠くを見るかのような目で彼女は言った。
「人族と魔族……、大した差はないのに種族が違うという理由だけで争ってばかり。そんなのっておかしいと思わない?」
「……、おかしい?」
「うん……、確かに人族と魔族は昔から対立し合っていた仲だけどさ、怒りや憎悪だけで争ってると――本当の敵が見えなくなっちゃうと思うんだ」
「本当の敵……?」
「そう、本当の目的を見失っちゃうってこと」
「へえ……」
俺はその少女の言葉に不思議な感動を覚えた。
それは彼女が種族や能力で差別するような人ではないという事を指し示しているようにも見えた。
「……君はどう思う?」
「え……?」
「差別されている側として……、どう思う?」
俺をいたわるかの様な優しい表情を浮かべながら彼女は聞いた。
「……、分からないなぁ。でも平和が一番だと思う」
無職無能を差別するようなクズ人間は許せないし、復讐したいけど……。
「ふふっ、そうだよね……。でも案外上手く行かないんだよねそう言うの。互いに負けを認める様な物だから」
「――そうなんだ」
「君とはなんか気が合う気がするな……、私はそろそろ行かないといけないけど、よかったら今度も話さない?」
「……うん、いいよ」
これをきっかけに俺はその魔族の少女と話すようになった。
暇があれば街を抜け出し少女との待ち合わせ場所に急ぐ。死に物狂いで魔獣を殺すことも忘れて……。
そしてその少女いろんな話をした、好きな食べものや遊びから魔族の文化や魔法の事まで。
本当に興味深い話ばかりだった。自分の知らない事、少女の知らない事を互いに教えあって話す、そんな些細な事に俺は喜びを感じ少女と話し続けあっという間に時間が過ぎていった。
狩りも一緒にした、普段は狂気のままに魔獣を狩っている俺だったがその少女と一緒にいる時はなぜか不思議と狩りが違う意味で楽しく感じた。
魔獣を倒した後にハイタッチをしたり、魔獣の肉を一緒に食べたりとあらゆることを少女と共有した。
人間だろうが魔族だろうが関係ない。その日々は俺にとってとても幸せな日々だった。
――だが、そんな日々は呆気無く終わってしまった。
それは空が黒く雨が降っていたどことなく薄気味悪い日だった。
俺はいつもと変わらぬ日常を送るべく、皆に軽蔑の目を向けられながらも魔獣の素材を売っては回復薬を買うため街を歩いていた。
だがその時――
「大変だッ! 魔族が……、魔族が来たぞッ!!」
「街の防壁は崩壊ッ! この街はもうすぐに制圧されます、逃げて下さいッ!!」
その衛兵の声こそが絶望の始まりだった。
そう、この街に突如、魔族が侵攻を始めたのだった。
街の皆が逃げ惑う中、俺は必死に迫りくる魔族と戦った。
街の人間は憎かった、憎くて仕方がなかった、だが――死んでほしいわけではなかった。
一人でも多くの人を逃がそうと俺は衛兵に加勢した。
始めは無職無能の俺を邪魔者扱いした、だが超無能に見合わない6歳の俺の圧倒的な実力に衛兵は皆驚き、邪魔と言う人は誰ひとりとしていなくなった。レベルもこの防衛戦だけでも10は上がった。買いだめしていた回復薬を使い切ってまで俺は皆のために戦った。
だが――こんな小さな子どもが戦った所でいつか限界が来るのはもはや当然の事である。街の人がほぼ全員逃げた所で俺はとうとう魔族の連中に追い詰められてしまったのだ。
殺される恐怖感が全身に戦慄を走らせた。それと同時に解放されるという安心感が俺を優しく包み込んだ。
ああ、ようやく死ねるんだ。
与えられた職業という運命をひたすら憎みながらも俺はただ殺される瞬間を静かに待った。
「やめてッ! 殺さないでッ!!」
その時だった、あの少女の声が聞こえたのは――
閉じていた目を開けるとそこには大きく手を広げて俺を庇おうとしている泥だらけのあの魔族の少女が立っていた。
「貴様……、魔族でありながら人族の味方をするつもりか!?」
「ゼルファは悪い子じゃない! だから殺す必要ないでしょ!?」
「何を言っている、人族は我ら魔族にとって絶対悪だ。排除せねばならない存在だぞッ!!」
「なんで……、何でそうなっちゃうのよっ。本当なら分かり合えるはずなのに……、どうしてそうなっちゃうのよっ!!」
魔族の少女は必死に俺の事を庇ってくれた。
無職無能の俺の事をよく知っていて、思っていてくれていた彼女だからこそ出来る行為だったと思った。
「何をふざけたことを言っている! さあ、早くそこを退きなさいッ!」
「嫌だ!! ゼルファは絶対に殺させないッ!! 殺すなら私を殺してからにしろッ!!」
少女はステッキを腰から取り外すと構えた。
そして自分と同じ種族である魔族と戦い始めたのだ。
その子はとてつもなく強かった、当時の俺とは比べることが出来ないほどに――
だが……、大勢の魔族の手前――彼女にどうにか出来る問題ではなかった。
数十分戦い続けた後、その子は俺の前で無残な姿を晒しながら倒れる。
俺は彼女の名前を叫びながら無我夢中で倒れる彼女に歩み寄ろうとした。
刹那――少女の体は突き抜かれた。
魔族の持つ槍で――
「人族に味方した罪……、その生命で償ってもらうぞッ!」
槍は少女の急所を正確に貫いていた。
そして大量の血を胸から流しながら絶命していた。
俺は最期のお別れも言うことできず――目の前でその子を失ってしまったのだ。
「ど……、どうし……て……」
「ッたく、魔族の誇りを忘れやがって――、本当にバカな野郎だ」
「あ……、あぁ――アアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
目の前で起きた光景を信じることが出来ず俺は発狂していた。
唯一俺を認めてくれた少女が目の前で殺された――
それは俺の心の奥底に眠る凄まじい憎悪の感情を引き出すには十分すぎるほどだった。
俺は恨んだ。
何もできなかった自分を、臆病極まりない自分を――
弱かったが故にただ見守ることしか出来なかった自分を――
「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
込み上げる怒り、憎悪、哀しみ、それが全て入り混じって俺は負の感情に支配される。
そして目の前は真っ白に染まり、信じられないほど発狂し俺の意識は飛んだ。
再び意識を取り戻し、目を開けると目の前には原型すら残っていない街の残骸と無様な人間と魔族の死体だけが広がっていた。
辺り一面焼け野原となっていて、焦げ臭い匂いが漂っている。
ふと横を見るとそこにはあの魔族の少女が、苦痛で顔を歪ませた少女の死体が転がっていた。
「…………」
俺は守れなかった、大切な人を――
「下らねぇ」
人族と魔族の不毛な争いが――
「気に入らねぇ」
大切な人を守れなかった自分の弱さが――
「分からねぇ」
なぜ無職無能という肩書きだけ虐げられなければいけないのか?
なぜ種族が違うだけでこうも争わなければならないのか?
なぜ種族が違うという下らない理由で大切な人を殺されなければいけないのか?
「――どうして俺だけ無職なんだよ……」
「――どうして俺だけ無能なんだよ……」
力が欲しかった、人を守れる力が――でも無職無能という壁が俺の欲望を容赦なく阻む。
憎いのに、とてつもなく憎いのに――今の弱い俺には結局どうすることも出来なかった。
「……、こんな世界もう耐えられないよ」
こうして全てに絶望した俺は自らの身を『魔獣の巣』として有名な樹海に捧げることにした。
そして――魔獣に殺されかけた所を師匠に助けられるのであった。