ベルの兄がチートで何が悪い!!   作:シグナルイエロー

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まさか残りの石4個と呼符1枚で孔明が来るとは・・・


襲撃編!
13:倍増×倍増 前編


オラリオ南東・第三区画、時間は既に日も大分前に落ちた時間帯

 

色欲の街区とも呼ばれる第三区画を一手に牛耳るイシュタル・ファミリアの本拠『女主の神娼殿(ベーレト・バビリ)』で二柱の神が対峙していた

 

対峙していると言っても片や冷や汗をかき、もう片方の神はニヤニヤとしてはいるが全身から今にも吹き出しかねない憤怒が漏れ出し、飄々としている普段からは想像できない威圧感を放っている

 

「それでぇ、この落とし前どうやってつけたろか、おどれらは滅ぼされる覚悟は勿論あるんやろなぁ?」

 

威圧感を放っているのはロキ、言わずと知れたオラリオの双璧を為すファミリア、その片翼である、そして冷や汗をかいているのは美の女神イシュタルである

 

「ま、待てロキ、今回の件、私は完全に関与していなっ『ガン!!』ひっ」

 

「・・・イシュタ~ル、うちはいい訳聞くためにわざわざ足運んだんとちゃうんよ、お前んとこのガキがうちの子に手を出した、しかも襲われた4人のうち2人は重傷、その内の1人に至っては瀕死で万能薬(エリクサー)使うてもまだ生死の境をさ迷うくらいに衰弱しとる」

 

ロキは今でこそ大人しくなったが、かつての天界では領土を無視して誰それかまわず、文字通り見境なく殺し合を吹っかけてくる手の付けられない暴れん坊であったのは神々なら誰でも知っている、そしてかつてのその姿を実際に目の当たりにしたこともあるイシュタルは焦りに焦っていた

 

(くそっ、どうしてこんなことにっ、あのガマガエル女なんて事をしでかしてくれたんだい!?)

 

 

 

―――――――――事件が起こったのは今から二日前。

 

 

イシュタル・ファミリアの団長、『男殺し(アンドロクトノス)』フリュネ・ジャミールによるロキ・ファミリア所属の『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタイン及び下級団員3名への襲撃

 

しかし、駆け付けたフィン達のおかげで襲撃は失敗。

 

ちなみに、フリュネの動向を怪しんでいた同じイシュタル・ファミリアの構成員からイシュタル本人に密告があり、その報告を受けたイシュタルはすぐさま事の顛末をロキに知らせた、おかげでフィン達の救援は間に合ったが事は既に起こった後であった。

 

ただ、死者が出なかったことが不幸中の幸い、そうでなければロキはこのような話し合いの場など用意することなく問答無用でここを襲撃してきていただろう

 

 

(下手な手打ちを行えば、こちらが潰されるか・・・くそ)

 

 

 

数日後、

 

ロキ・ファミリアはイシュタル・ファミリアから多額の賠償だけでなく、希少なマジックアイテムや魔剣を譲渡させることで手打ちにした

 

余談だが、このときの賠償のせいでイシュタルのとある目論見は大幅に遅れることになる

 

 

 

 

 

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―――――――二柱の神が話し合いの場を設ける二日前

 

 

 

 

場所は上層の10階層

 

「お嬢、前方1時方向にオーク3、同方向45度にインプ2」

 

「ん!」

 

『円』でいち早く相手の構成を読んだ俺がパーティメンバーに報告するやいなやアイズが相手に向かって飛び出す

 

独断専行気味だがもう慣れたのでこっちがお嬢に合わせる様に動く

 

「オークは俺とお嬢、インプはラウルとアキで対処、こっちが済み次第すぐに来るから最悪時間を稼げ、もしくは倒せるならそのまま倒してくれ」

 

「「了解!」」

 

お嬢に遅れること数秒、着いたときには3体の内一体が腕を切り飛ばされて頭をかち割られていた

 

「おいおい、あんまはりきりすぎないでくれよ、俺の分の獲物がなくなっちまう」

 

お嬢の後ろに迫っていたオークを抜き手で魔石を抜き出して瞬殺しながら愚痴る

 

「早い者勝ち」

 

「さいですか、じゃあ残りは――――」

 

俺がもらっちゃうぞ、と言い切るまえに文字通り目にも止まらぬ速さで残りの一体をアイズが袈裟切りにする

 

「だああああ、早すぎるだろ!?」

 

獲物を先に倒されたのは悔しいがそれよりもラウル達の方の救援に向かう

 

「ってこっちも終わってるし!?・・・あれ、ラウルどうした」

 

現在のステイタスでは2人がかりでも相手にするのが厳しいはずのインプを倒しきったというのに何故かラウルだけが項垂れていた

 

「うう・・・アキに踏み台にされたっす」

 

「しかたないでしょー、最後のインプが飛んで逃げようとするんだもん、仲間とか呼ばれたら厄介じゃん」

 

「だからって何も顔面を踏み台にしなくていいじゃないっすか-」

 

顔を上げたラウルの顔面には綺麗な足跡が残っていた

 

「「・・・ぷっ」」

 

「カイトはともかくアイズさんまでヒドい!?」

 

 

現在俺たちはパーティを組んで上層の中でも中層に近い10階層にきていた

 

アイズを除く、俺を含めた三人は本来ならこの階層はまだ早すぎる、だが俺がパーティに入るという条件でなら9階層まで、さらにアイズが加わった場合は11階層までの進出が認められていた。

 

無事に戦闘を終えてひとまず弛緩した空気が流れる、もちろん最低限の警戒は維持したままだ。

 

 

 

 

そのおかげで誰よりも早くこちらに迫ってくる()()に気付けた

 

 

(な!?)

 

 

『円』を張りっぱなしにしていたおかげで全員の顔面に向かって飛んでくる拳大の石を関知

 

しかも当たれば大怪我ではすまない速度、声をかけていてはとてもじゃないが間に合わない

 

(やばい!?)

 

判断は一瞬、気付いたと同時に身近に居たアキを押し倒してなんとか回避、だが残りの2人には声を掛けることすら出来ていない、一瞬最悪の光景を想像する

 

(ラウルとお嬢は!?)

 

お嬢の方を見るとラウルを突き飛ばし、自らは屈むことで難なく回避していた

 

「さっすがお嬢、そこにシビれる憧れるってな!」

 

「ちょっ、カイト!?なにすん「敵襲!!」!?」

 

押し倒したことでアキが文句を言ってくるが俺の言葉を聞いてすぐさま寝たままで体制を立て直し、すぐにほふく前進でその場から移動する、移動してからすぐさま先程まで居た位置に凶悪な速度の投石が襲ってきた

 

「っ・・・なによこれ!?」

 

ほふく前進しながらアキが悪態をついてくる

 

「だから敵襲だって、しかもたぶんモンスターじゃなくて人の」

 

この階層でこの速度の投石が出来るようなモンスターは存在しない、そこからおのずとこれが人による襲撃であると説明する。

 

「まさか、闇派閥(イヴィルス)じゃないでしょうね・・・」

 

「ひぃぃぃいいい死ぬっすまじヤバイっす!?」

 

いつのまにかラウルとお嬢も合流していた、ってかラウル無駄に洗練されたほふく前進だな・・・

 

「落ち着けってラウル、ちったぁお嬢を見習え、あと騒がしいと集中的に狙われるぞ」

 

「~~~~~~~!!!」

 

「ちなみに、お嬢、こんな感じの襲撃に心当たりは?」

 

「んーー・・・わかんない」

 

「さいですか・・・」

 

まさか、ダンジョンでの初ピンチがモンスターではなく人の手によるものになるとは

 

(それにしても闇派閥(イヴィルス)の襲撃? こんな浅い階層でわざわざ低級の俺たちを? なんの意味があるんだ、人質とか? くそ、せめて9階層ならまだ楽に対処できるんだが)

 

10階層からは初のダンジョンギミックとして霧が発生するようになってくる、そのためこのような遠距離からの襲撃の場合、目視での確認が困難になる、ちなみに俺の『円』の半径は初のおためしダンジョンから数ヶ月、リアルに血のにじんだ努力の結果半径20メートルまでは伸びた、だがこの程度の範囲では遠距離の相手を感知するのは不可能だ、放ってきた何かを感知して何とか避けるくらいが精一杯だ

 

(このままじゃ、相手に一方的に攻撃されて嬲られるな・・・)

 

石が飛んできた方向から相手の位置を移動していることを含めて大凡で推測する

 

(問題はどうやって相手の遠距離からの攻撃をいなしつつ接近・・・は駄目だ、先程の攻撃から相手はおそらく格上・・・逃げるしかない)

 

状況分析から現在の最善手は一つのみと判断する

 

「全員聞いてくれ、相手はおそらく格上の冒険者、しかも複数の可能性もあるんでここから全力で逃げる、異論はないな?」

 

全員が俺の提案に頷いてくれる

 

「よし、じゃあ――――」

 

「逃がさないよぉぉぉぉぉおおお」

 

ズドン、という衝撃音と共に全身鎧を着込んだ、おそらく今回の襲撃をしたであろう敵が逃げようとした方向を塞ぐように降ってきた

 

「ゲッゲッゲッゲっゲ、最初のでやられてりゃいいものを生意気だねぇ」

 

鉄仮面の中から聞こえてくる不気味な声はつぶれたガマガエルを想起させるような醜い声だ、手に持っている強大なスパイクと相まって余計に嫌悪感を与えてくる

 

 

「はああああああーーーー!!」

 

問答無用でお嬢が斬りかかる、おそらく相手は上級の冒険者、この中ではお嬢のレベルが一番高いため先手必勝は正しい判断ではあったが・・・

 

「甘いんだよぉおおお!!」

 

「くぅっ!」

 

「お嬢!」「アイズ!?」「アイズさん!?」

 

Lv.2のお嬢があっさりと吹き飛ばされた

 

(やっぱLv.3以上か!)

 

「アキ、ラウル!!全速で救援を呼んできてくれ、時間は俺とお嬢で稼ぐ!!」

 

いつもの余裕もかなぐり捨てて全力で叫ぶ、こいつ相手にはマジで余裕はない

 

「で、でも!!」

 

「行け!早く!!」

「させると思ってんのかい!」

 

お嬢が復帰する間、先にこちらを仕留めると決めたのか襲撃者が襲ってくる

 

 

(オーラ!!全!!!開!!!!!)

 

「早く行けえええええーーーーーーーーーーーーーー!!」

「ぬがぁ!?」

 

こちらをただのLv.1と思い油断していた所に後先を考えないくらいオーラを込めた体当たりをぶちかます

 

「でりゃああああああーーーーーーーーーー!!」

 

そのままの勢いでアキとラウルから襲撃者との距離をとらせるためにオーラを噴出させるようにして一緒に吹っ飛ぶ

 

「ぎ、ぐ、こ、このっ・・・調子に乗るなこの雑魚がぁああああああ!!」

 

「ぐばぁ!?」

 

吹っ飛んだ勢いが無くならない内に地面に叩き付けられる

 

「雑魚がこのアタシに何してくれてんだ、このクソビチグゾ野郎があああーーーー!!」

 

「ぐぅぅぅぅぅぅああああああーーーーーがはっ!?」

 

地面を紅葉下ろしよろしく引きずられて振り回されたあげく、投げ飛ばされてダンジョン内に生えていた木に叩き付けられた

 

(ぐぉ・・・やっべぇ、まじで死ぬ)

 

 

後先考えずにオーラを全開にしていたのが功を奏したのか、幸いなことに深刻なダメージはそれ程なかったがそれも時間の問題だった、このままでは早急にオーラが尽きてしまい立っていることすらままならなくなってしまう、そうなれば後はただの人間サンドバックだ。

 

だが身体を張ったかいもあってアキとラウルは離脱に成功したようだった、すでに先程居た場所にはその姿が確認できなくなっている、おそらく襲撃者の方も一緒だろう

 

「ちっ、面倒な、すぐに追いかけて殺してやろうか」

 

「させない」

 

アキとラウルを追いかけようとする襲撃者の前に復活したお嬢が立ちはだかる、かっこいいなおい・・・ちなみに俺は現在死んだふりをしている

 

「・・・ゲッゲッゲッゲッゲ、まぁいいさ、元々の目的はあんただからねぇ」

 

「わたし?」

 

「そーさ、最近調子に乗ってるガキがいるって聞いてねぇ、世界記録だかなんだか知らないが男神を含めた男共がうるさいったりゃありゃしない、その不細工な面ズタズタにして二度とダンジョンに潜れないくらいに痛めつけて、ガキに世の中の厳しさを教えてやろうと思ってねぇ~ゲッゲッゲッゲ」

 

(うっわ、くっだらねぇそんな理由で襲撃したのかよ・・・)

 

どうやら闇派閥(イヴィルス)ではなく敵対ファミリアによる襲撃のようだ、しかもファミリアというか個人的で理不尽な怨恨によるものっぽい、しかも口調や会話の内容から襲撃者は女のようだ

 

・・・・・・あれが女? 

 

ゴリラに豚の贅肉を十倍にしてくっつけたような体系、声を聞いた者に不快感しか与えないような・・・あれが女!?

 

 

 

「そんなことのためにこんなことを?」

 

「そーさ、あんたはそんな理由で潰されるただの雑魚って事だ!おらぁ!!」

 

 

俺が目の前の現実にフリーズしている間にもお嬢と敵の戦闘が激化していく

 

 

『おい、どーすんだこれ、呼びだされて出てみりゃ大ピンチじゃねーか』

 

死んだふりの俺の横に居る『ジャンプパイレーツ』が小声で話しかけてくる、

 

何を隠そう、お嬢に全部丸投げで死んだふりをしていたわけではない、実はこっそりこいつを召喚していたのだ

 

ちなみに既にスロットの方も回し済みだ

 

「それで数字は?」

 

『6だな』

 

「6か・・・」

 

初めての数字だ、というか今までデメリットがやばすぎるので初めて使って以来フィン達から使用を禁じられていた、暇なときに話し相手としてこいつを呼ぶことはあってもスロットを回すことはなかったがさすがに今回は緊急事態だ、デメリットを鑑みても使用をためらう理由はないだろう。

 

そんなことを考えている間にスロット番号『6』の能力についての知識が頭の中に染み込んでくる

 

・・・こいつは、また、なんというか、えーー・・・

 

強力なのは間違いないが俺の身体が耐えらえるかわからない能力だった。

 

だが、目の前で徐々に、しかし確実にお嬢を追い詰めていくこの格上の襲撃者をどうにかするには多少の無茶はしなければならない

 

覚悟を決めて起き上がる

 

 

幸い、敵はこっちに気付いていないので『練』を全開にしつつ能力を使用する

 

「第一開門・・・開!!」

 

纏うオーラの総量が一気に倍になる

 

俺の頭の中に刻み込まれてきた『6』の能力は『八門遁甲の陣』

前世ではおそらく世界一有名な忍者漫画に出てきた禁術の一つ

その能力は単純明快、本来なら身体に負荷がかからないように無意識にセーブしている力を強制的に解除し、文字通り限界を超えた動きができるというものだ

 

(やっぱ、この技けっこうキッツぅぅぅ~)

 

ただし、この技は先程も言ったように無意識のブレーキを外すため身体に多大な負荷がかかるというデメリットが存在する、身体にかなりの負荷がかかるのがわかるが止めるわけにはいかない

 

「ぐっ・・・続いて第二休門・・・開!!」

 

(ぐぴゃああああ痛いいいいいいいいいい!)

 

 

この技、思ってた以上にヤバかった

ガイ先生もリーもすごいなぁと僕は思いました。

 

 

 

 

===============================

 

 

《side:アイズ》

 

 

「ゲッゲッゲッッゲッッゲ、おらおらどうしたぁ!チマチマ避けるだけかい『剣姫』!」

 

(くっ・・・)

 

 

現在アイズは明らかに自分より上のレベルの冒険者を相手に防戦一方の状況を余儀なくされていた

 

それでも格上の相手に対して薄皮一枚の攻防が出来ているのは相手が動きにくいフルプレートの鎧を着ているのが原因だった、おそらく正体を隠すための全身鎧だろうが、今回はそれがアイズに味方した。

 

小柄な体型を活かして相手の攻撃を何とか避けていくが追い詰められているは誰の目にも明らかだった

 

(せめて、風を溜める時間があればっ!!)

 

それが出来ないことに対して歯嚙みをしていると

 

 

「おらああああああああああああ」

 

誰かが敵の背後から頭に跳び蹴りを放ってきた、完全な不意打ちのため敵も避けることができずに自分の頭上を越えて吹っ飛んでいった

 

「ヨォ!ブジかァおジョーーー!?」

 

「カイト!?」

 

乱入してきたのは先程まで気絶していたはずのカイトだった・・・・声が裏返っているのは何で?


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