ベルの兄がチートで何が悪い!!   作:シグナルイエロー

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54:来訪✕武神 その2

《side:桜花》

 

タケミカヅチ様による俺たちの兄弟子という存在の暴露から一夜明け

 

(ここ並んでいる全員がオラリオが目的か…)

 

オラリオの外壁が1キロ先に見える

 

それにも関わらず人が成す列はそこから自分たちのところまで伸びていることに驚きを通り越して呆れてしまう、というよりこれに並ばなければならないという事実に辟易してくる

 

「こりゃ下手したら街に入れるのは夕方だな~・・・」

 

遠くを見ながら呟くのはタケミカヅチ様だ

 

さすがに気の長いこの方でも目的地を目の前にしての長蛇の列にはうんざりと言ったところだろう

 

 

「なんだい、あんたらオラリオは初めてかい?」

 

 

全員が並ぶだけの退屈な時間を予想しうんざりしていると、すぐ後ろに並んでいる商人らしき男が話しかけてきた

 

「ん? ああ、出稼ぎのためにファミリア全員でオラリオに来たんだがこの街はいつもこうなのか?」

 

情報収集は大事だ、自分たちみたいな今から一旗揚げようとしている田舎者は特に、だ。

 

「いやいやここまでじゃないさ、兄ちゃん達は時期が悪かったねぇ、もうそろそろここいらの収穫祭だからね、色々な奴らの出入りが一年で最も多くなる時期なんだよ」

 

 

なるほど、収穫祭か

 

俺たちの国でも年で数回、平民や農民が少し贅沢な食事が許される数少ない祭りだ

 

孤児である俺たちですら、その日は祭りのおこぼれに預かることが出来た

 

 

 

この長蛇の列が常ではないことはわかった

 

問題は『グゥ~』と鳴る腹の音

 

切り詰めに切り詰めての旅、食事は質素なものだ

 

街に無事に着けたら前途を祝し、少し贅沢に腹ごしらえをしようと考えていた自分たちの胃の中は期待していたエネルギー摂取の機会を先延ばしにされ随分とご立腹だ。

 

「何だい豪快な腹の虫だな、兄ちゃん達朝飯でも抜いてきたのかい?」

 

「まぁ、そんなところだ」

 

商人には何でも無い様に答えては居るが実は昨夜から何も食えていない

 

街が近くなるとどうしても野生の獣は少なくなるからだ

 

 

 

路銀の少ない自分たちの苦肉の策

 

金も無い飯も無い、だったら狩れば良いじゃ無い! である。

 

実際、この策で道中はどうにかなっていた

 

船に乗れば魚を捕り、山を行けば山菜、運が良ければ獣の肉

 

社に居た頃から慣れたものだ

 

 

だというのにオラリオに近づけば近づくほど治安が良くなり魔物はおろか獣の姿すら見えなくなり狩りがしにくくなった

 

出稼ぎのためにオラリオに向かっているのに目的地に近づくほど困窮するとはなんたる皮肉か

 

皮肉……皮肉って言葉美味しそうだよな…皮、鶏皮…肉、豚肉…。

 

空腹感がいよいよヤバイ、あまりの空腹に自分で言った言葉で夢想するとかアホか俺は

 

 

「ははは、それならあんた達にはちょうどいいかもしれないね」

 

「・・・?」

 

どういうことだ?

 

商人の言葉の真意がわからずに頭を捻っていると

『カラーンカラーン』とオラリオの方から正午を知らせる鐘の音が聞こえてきた

 

「オラリオの商人ってのは儲け話やその時期を決して見逃さないのさ…ほら噂をすれば何とやらだ」

 

「いったい何のこt―…なんだぁ!?」

 

オラリオの方から土煙を上げつつ何かとんでもない数がとんでもない勢いでこちらに向かってきている

 

 

へいらっしゃいらっし腹に貯める美味しいスープはいかがっすかーゃいらっし飲み物はいかがっすか~?ゃいらっしゃい美味しいじゃが丸君だよーー出来立てだよー!はいまいど~いくつご所望で?お、たくさんお買い上げありゃ~すサービスで一個多めに入れとき並んで暇なそこのあなた!オラリオ新聞はどうだいクッキークッキーあま~いクッキーはいりませんか~?どなたかポーションはいりませんかご気分の優れない方~オラリオ名物の金細工はどうだい、お旦那これとかどうだい?はいはい串焼きはどうだい、5本買うと一本おまけだよ~

 

 

 

な、なんだこれは!?

 

目の前には数々の屋台や売り子の数々、それが一瞬で街道沿いに展開、商売を始めてしまった

 

「はっはっはっは、びっくりしたかい?」

 

「あ、ああ…すごいなこいつは」

 

命たちも突然の事態にあたふたしている

 

「はっはっは、だろう? 昼時になるとこうやって商人たちが飯時を狙ってやってくるのさ、どうだい兄ちゃん達にはちょうどいいだろ」

 

「あぁ…まぁうん」

 

どうする? ここであまり無駄遣いはすべきではないがここで飯にありつけなければ下手をすれば夕方まで空腹に耐えなければならない

 

(う~ん…下手に悩むよりタケミカヅチ様に聞いた方が早いか)

 

判断を仰ぐようにタケミカヅチ様に顔を向けると

 

「さすがに皆も空腹が限界だろう、何か口に入れるとしよう」

 

と苦笑いしていた

 

「商人殿、いくつかお勧めを教えてもらえるだろうか? あとできれば路銀が心許ないので手ごろな奴だと尚嬉しいのだが」

 

「まかせてくだせぇどこぞの神様、私もここは長いんでね多少の顔が効きまさぁ…お、ちょうど良い所に顔見知りがきてくれた、おーい!シュトー!!こっちだこっちー!」

 

そう言うと少し向こうに居て屋台で飲食物を売っていたペレー坊を被った小太りの親父がこちらに屋台ごとやってきた

 

「久しぶりだな、サイセー、今回はオラリオで仕入か?それとも売りかい?」

 

「収穫祭が迫ってんだ、売りに決まってんだろ~?」

 

「そりゃそうか、 HAHAHAHAHA!!」

 

互いに気心の知れた会話の様子からどうやら本当に顔見知りらしい

 

「それで?後ろの連中は?護衛か何かか?」

 

「いや、検問待ちの間に少し世間話を楽しんだ出稼ぎファミリア一行様さ、安くて旨い屋台を教えてくれって言われてね、お前さんの所を紹介しようと思ったわけさ」

 

「そいつぁ良い!ぜひうちの煮物を食べてくれ、うちの屋台は安い早い旨い多いの四拍子が揃った優良店よ!」

 

そういって品名と値段の書いた木の板を持ってくる

 

(へぇ、本当に安いな)

 

オラリオという大都市の物価からすればかなり良心的な値段だ

 

「じゃあ俺はこれとこれを一つずつ、お前らはどれにする?」

 

「私はこれを」

「わ、私はこっちをお願いします」

 

それぞれ好きな物を予算の範囲内で注文していく

 

特に待つこともなく、すぐに皿が出てきた

 

「へい、お待ち!オラリオ特性煮込み一丁!!」

 

「お、おう」

 

(テンションたか……っ、これは!?)

 

そして食べてみて全員が驚いた

 

醤油味!?

 

旅に出てから口にすることのなかった懐かしき故郷の味に一瞬固まってしまったが、その味を自覚した後は掻き込む様に残りの煮物を口に入れていく

 

(う、うめぇ……うめぇ!!)

 

惜しむらくは米がない事だが、さすがにそれは贅沢というものだ

 

「おっ!!あんたら良い食いっぷりだな!ほれサービスだ、この煮物はこの『おにぎり』という穀物を丸めたものと一緒に食うとさらに美味しいし腹が膨れるんだ」

 

なんて贅沢か!!

 

しかも、おにぎりには海苔が巻いているだけではない、米の質が故郷の米に近い品種で作られたおにぎりだった

 

「いや~、良い食いっぷりだねぇそれでおか」

 

「「「「「お代わり!!!!!」」」」」

 

「まいど!!」

 

 

この後、タケミカヅチ様を含む全員が予算オーバーということなど忘れてお代わりをしてしまった

 

しかも二回…

 

 

 

 

「お粗末さま~」

 

うっぷ、もう食えね

数ヶ月にわたる過酷な旅による反動がオラリオというゴールを前にしたせいか爆発してしまった

 

だが煮物は絶品だったので悔いはない

 

「ほれ、兄ちゃんたち安物だけど食後の茶だ」

 

しかも緑茶、至れり尽くせりだ

 

「かたじけねぇ、ありがたく頂く」

 

オラリオに居を据えた後はこの店は贔屓にして通いたいと思わせてくれる…っていうかするわ

 

(ふぅ・・・)

 

 

オラリオに入る前にこれほど旨い飯にありつけたのは僥倖だった

 

他の皆も和気藹々とした穏やかな雰囲気で談笑をしている

 

そんな中で先ほどの商人と屋台の店主の話が聞こえてくる

 

「はぁ~、飯も美味いし天気も良い…平和だねぇ」モグモグ

 

「だなぁ~、ほれ茶だ」

 

「おう、すまねぇな、それより最近のオラリオはどうだ?何か変わったこととかあったか?」

 

「おう、あったぞ」

 

「へー、どんなことだ?」

 

 

 

「昨夜に『ロキ・ファミリア』と『フレイヤ・ファミリア』が派手にぶつかったことだな」

 

 

 

「「「「「ブーーーーーーーーーーーーーーっ!!??」」」」」

 

 

質問をした商人は食べていた物を噴出し、それを何となく聞いていた俺たちは茶を噴出した。

 

 

「どどどどどど、どういうことだそりゃあ!?」

 

「落ち着けって、サイセー」

 

「いや落ち着けるかよ、天下の二台派閥がぶつかったなんて世紀の大ニュースじゃねぇか!?」

 

「ぶつかったって言っても小競り合いみたいなもんさ」

 

「そ、そうなのか?」

 

聞き耳を立てている俺たちも小競り合いと聞き少し胸を撫で下ろす

 

店主の落ち着きようも本当に大した事が無いからだろう

 

「それで街の被害は?大したことないといってもかなり出たんじゃないか」

 

「家屋が少し被害を受けたのを除けば―――――――」

 

どうやら本当に大した被害は

 

「闘技場が半壊したな」

 

大した被害だった!!

 

俺たちは被害の大きさに驚いているが

 

「う~ん…まぁ、小さくは無いがまだましな被害だな」

 

「だろ?」

 

(ええ~~~…)

 

おかしい、2人の会話がおかしい

 

「しかも、Lv.6が4人も暴れて闘技場が半壊程度で済んだんだぜ?」

 

半壊で程度なのか・・・

 

「そりゃ確かに奇跡に近いな、暴れたLv.6ってのは誰と誰なんだ?」

 

「ロキファミリアの『切札(ジョーカー)』とフレイヤファミリアの『女神の戦車(ヴァナ・フレイヤ)』『白妖の魔杖(ヒルドスレイヴ)』『黒妖の魔剣(ダインスレイヴ)』この4人だな」

 

その名を聞いた瞬間に時が止まったのを感じた

 

切札(ジョーカー)

 

兄弟子が?

 

聞く限りでは同格の冒険者相手に1対3という圧倒的不利な状況で戦ったと聞こえるが大丈夫なのか?

 

 

「4人の内3人は重症だとさ、特にその中の1人は今もディアンケヒトファミリアの治療院で生死の境をさ迷ってるんだと」

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

俺たち全員の顔色が変わった

 

同格相手に多勢に無勢

 

その生死の境をさ迷う程の重症を負ったのは兄弟子である可能性が高い

 

頼りにしていた兄弟子がまさかの瀕死

 

いきなり聞かされた凶報に動きを止めていると、誰かが俺たちの中から飛び出し話をしていた店主の肩を荒々しく掴んだ

 

「カイトは!カイトは無事なのか!?怪我の程度は!?生死の境とはどういうことだ!?」

 

タケミカヅチ様だ

 

「ちょ、どうしたんでさぁ!?神の旦那!?」

 

店主に問いただす目の中には真に子供を心配する親の光が見て取れる

 

兄弟子が生死不明と聞き自分はオラリオでのこれからの生活に対して打算的な考えが一瞬よぎったが、この人の場合はそんな考えなど微塵もないのだろう

 

(俺たち孤児を無制限に引き取るようなお人好し、いやお神好しだからなぁ)

 

「ちょちょ、ちょっと待って下せぇ!あんた『代表』と知り合いなんですかい!?」

 

タケミカヅチ様に肩を前後に揺らされなが店長が声を上げる

 

っていうか『代表』?

 

「す、すまん、カイトとは知り合いなのだが、というか代表?誰のことだ」

 

「あー…『代表』ってのは『切札』の下町での愛称になりやすね、あの人は『下町屋台連合』の顔役もやってるんで」

 

なんだそれ

 

「そ、そうなのか、いやそんなことよりカイトは―――」

 

「だから、待ってくだせぇ!神の旦那!!あんた何か勘違いしてますぜ?」

 

「なぬ?勘違い?」

 

「死にかけてるのは『女神の戦車(ヴァナ・フレイヤ)』で重症なのも『白妖の魔杖(ヒルドスレイヴ)』『黒妖の魔剣(ダインスレイヴ)』で『代表』は今朝もピンピンしてやしたよ!」

 

 

「「「「……え?」」」

 

全員が先程とは違った意味で固まる

 

「い、いや、だが相手は同じLv.6が3人だったのだろう?」

 

「そうですが…『代表』は色々規格外な方ですからねぇ、なぁ?」

 

「いや、俺に同意を求めるなよ、あの人とはあんま話したことないし」

 

店長が商人に同意を求めるも袖にされる

 

「店主、何度も確認して申し訳ないが本当にカイトは無事なのだな?」

 

「本当ですって、今朝普通に会いましたし」

 

会ったんかい、道理で知り合いであろう店主が落ち着いているはずだ

 

「そ、そうか、無事か、無事なのか…ふぅ、まったくオラリオに着くなり心配させてくれる奴だ」

 

「でも神の旦那、『代表』と会うなら少し気をつけた方がいいかもしれませんぜ、Lv.6を3人病院送りにしてもピンピンしてはいやしたが相当機嫌が悪そうでしたから」

 

同格のLv.6を3人病院送りにできる兄弟子が不機嫌…別の意味で不安感が増してきた

 

いや、昨日のタケミカヅチ様の話では兄弟子は人格者とのこと、大丈夫………だといいなぁ

 

「何があった?俺の知るカイトはそう簡単に怒る奴ではないはずなのだが」

 

「えぇ、確かに普段の『代表』はめったにぶち切れたりする方じゃあないんですがね…何でも先の3人に屋台を破壊された上に、屋台が破壊された際には命よりも大事な嫁の一人まで傷物にされたらしく…まぁ、相当やべぇ雰囲気でしたね、ぶっちゃけ今の『代表』には近づきたくねぇですね」

 

顔見知りであるはずの店主ですらこの言い様、合ったことも無い俺たちはどうなるのというのか

 

 

…会うのが少し楽しみだったのがこの一連の話で一転、会うのが怖くなってきたな

 

 

「そうか、自分ではなく大事な人を傷付けられて怒るというのはカイトらしいといえばらしいか」

 

「まぁ、今回の件とは関係ない神の旦那方に八つ当たりするほど代表は小さい人間じゃないんで、あんたたちは大丈夫だと思いますけどね…たぶん」

 

最後の方に不穏な事を付け加えないで欲しい

 

だが俺たちの兄弟子は色んな意味ですごい人だということが実感できた

 

どうか兄弟子が良い人でありますように

 

 

 

マジで。

 

 

 

 

《side out:桜花》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




勤めてる会社が倒産しそう、生活がヤバくなりそうなので今以上に更新止まります。
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