織田信奈と正義の味方   作:零〜ゼロ〜

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金色の瞳

「人を殺すことに慣れるな」

 

死ぬ間際、長照さんの言った言葉が脳内で何度も反復する。彼は死ぬ直前ですら、俺なんかのために言葉を残してくれた。命を奪われることを一切恨まず、心が揺れていた俺に“一つの答え”を導いた。

 それが、どうしようもなく心苦しい。

 彼は素晴らしい人物だったと思う。戦を好む訳でもなく、村の民が苦しい生活をしていたから戦場に立ったようだ。侵略するのを良しとせず、村の民だけを思って命を賭ける。自分の欲求を後回しにして、周りの人々の願いを願う姿に感銘を受けるのは無理もない。

 どんな理由があれ、俺は彼を殺したのだ。殺すことに「正義」「悪」の区別など、一般人からすればないものと同義だろう。争いの絶えぬ時代だからこそ「殺すことが得意」な人間が褒め称えられるものだが、平和になった途端に「戦場で人を殺戮し続けた殺人鬼」として非難されることとなるのは、あまりにも報われない。

 彼は、俺に「戦を終わらせろ」と、「人殺しという“悪”は衛宮士郎で終わらせろ」とそう言った。「護りたかった人が将来笑顔でいられるのなら、どんなに幸せだろう」と言ったのだ。本当は「気にするな」と言いたかったに違いない。それでも、俺が悩み続けることを見越したから“希望”を託し、道を示してくれた。故に、俺は彼の最後の願いを叶えてみせる。

 それだけが長照さんと、これから殺す数多の人間への「贖罪」になると信じて。

 

 

 

 

 

 近づいてくる人の気配によって意識を取り戻した士郎は、すでに命の宿らない肉塊から視線をずらし、足音のする方向を見る。

 馬を引いて歩いてくるのは四人。その中には士郎が逃がした少年と少女がいたことで、張り詰めていた緊張感が解けていくのを感じる。

 

「………よかった。今回は護れたのか」

 

 結局、あの少年が言うような“正義の味方”になんて俺にはなれない。本物の正義の味方なら、長照さんや他の武士を殺したりはせずに解決したはずだ。救けたい人間全員を護ることができない己の無力さが悔しい。

 少年少女の二人の前を歩くのは、全身を鎧で身を包む女の子。他の武士と比べてもその鎧は頑丈でありながら軽そうで、その豊満な胸を隠しきれていない。必死な目をしながら此方へ駆けてくるのを見て、前線で馬に乗りながらも足軽たちに指示を出し、暴れている少女を思い出した。そうか、あの時の少女に違いない。こげ茶色の長めな髪はポニーテールで纏めていて、凛とした瞳とまだあどけなさの残る顔は間違いなく美少女である。

 その三人の後ろからゆっくり歩いてくるのは赤毛気味なショートカットの少女。他の三人と比べても簡素な服装であり、そこまで身分は高くないらしい。彼女が馬を引いているのだが、馬も懐いているようだ。日頃の世話を誠心誠意していなければ、ここまで懐くこともないだろう。

 

(戦国時代とはいえ、人の生首をみて気分がいい奴はいないだろうな)

 

 ふとそう思った士郎。自身の魔術回路に魔力を通し、自身が持ちうる数少ない魔術、投影魔術を行使する。

 

「投影開始」 (トレース・オン)

 

 投影するのは大きな布。剣関連以外を投影するとなると、三倍近くの魔力を持っていかれるのだが、幸いにして魔力はまだ有り余っている。すぐに自身が思い描いた布が両手に現れ、それを生首と胴体に掛け、見えないようにした。学生服の少年も何かしらの理由でこの世界に飛ばされたようだ。きっと死体―――特に生首―――を見たら気分が最悪なものになってしまうだろう、そんな風に周りに気を使うあたり、記憶を失ってもお人好しは変わらないみたいである。

 

 

 

 

 

 命を賭けて姫さまの窮地を救ってくれた青年。そんな彼が無事だったことで一先ずは安心したものの、自分が相手の策に気が付かなかったことで彼が死にかけたことを謝るべく、勝家は信奈や良晴よりも早く、真っ先に彼の元へとたどり着いた。

 見れば見るほど変わった服装だ。

 黒の洋袴(ズボン)を白の帯で縛り、その帯には赤く輝く大きな石が金属の紐によって括り付けられている。左半身が赤い射籠手で一応隠されているものの、上半身は殆ど裸に近い状態であり、よく鍛えられているのがわかる。これは魅せるための筋肉ではなく、戦場で鍛えられたものだ。故に無駄な筋肉は一切ついていない。

 そんな彼は、全身を赤く染めていた。大高城城主の息子・鵜殿長照を斬ったときの返り血だろうか。黒の洋袴も所々赤黒く染められており、全身が燃え上がるような赤色に包まれている。

 

「無事かっ!?姫さまの危機を救ってくれたこと、心から感謝する。うぅ、わたしがしっかりしていれば、本陣が手薄になることなんてなかったはずなのに……!本当にすまない」

 

 目の前の彼に対して深々と頭を下げた勝家は、己の甘さと罪悪感に再び苛まれる。どんな風に言われても構わない、そう覚悟を決めていた勝家に掛けられた言葉は―――

 

「え?別に君のせいじゃないだろ?」

 

―――心底不思議そうなものだった。

 

「何を言ってるんだ、あたしが奇襲のことを想定してなかったのが悪いじゃないか」

 

 罵られても仕方ない。そう思っていた勝家にとって、心底不思議そうな声は驚きに値するものであり、思わず下げていた頭を上げて青年の顔をまじまじと見てしまう。

 その言葉の通り、目の前の青年は一切責めるような顔をしておらず、寧ろ「大丈夫」と言わんばかりの表情である。彼の金色の瞳は、勝家の言うことを理解できないとでも言うようで、勝家は混乱してしまった。

 

「作戦を考えた人が上手かっただけだと思うぞ。あの二人が無事だったんだ、自分を責めるようなことはしちゃ駄目だ」

 

 彼は真っ直ぐと勝家を見つめる。その瞳には一切の淀みがなく、本心で言っているのは明らかである。

 

「………ッ!何を言ってるんだ、あたしの警戒が薄かったせいで死にかけたんじゃないか!」

 

 何故自分でもここまで激昂するのかはわからない。寧ろ自分は責められる側の人間だ。だというのに、目の前の男は自分が死ぬ可能性については一切考えず、結果的に死んでいないから大丈夫だと言う。何かが、何かがズレている気がした。

 

「結果的に死んでないから問題ない。あの二人の無事を確保してくれて、本当にありがとう」

 

 唖然とした。

 自身が死にかけたことを何でもないように語り、ましてや感謝までしてくる目の前の青年。主のためなら命を賭ける、それは武士としての誉れだが、彼は織田家家臣ではない。目の前に死にかけの少女がいるからといって、命を賭ける義理などないはずだ。それを平然とやってのけるのは、よっぽどの馬鹿か、お人好しか―――

 

「……そう言ってくれるなら少し気が楽になるな。わたしは織田家家老の柴田勝家だ。よろしく頼む」

 

「よろしく。ええっと、勝家さん、でいいんだよな。俺は衛宮士郎。好きなように呼んでくれ」

 

 

―――それこそ、無力な人が死ぬことを良しとしない“正義の味方”くらいだろう。

 二人は互いに手を差し出し、握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かった、生きててくれて………」

 

「ありがとよ、正義の味方!」

 

 勝家と士郎が握手を交わしていた丁度そのとき、勝家に置いていかれた信奈と良晴が遅れて駆けつけ、同時にそう言う。

 目の前の青年は血だらけで、軽い切り傷を多くの箇所に負っているのが見て取れ、長照との立ち合いがどれほど激しいものだったかを物語っていた。

 

「“正義の味方”か。……俺には、そう呼ばれる資格なんてない。俺の名前は衛宮士郎だ、好きに呼んでくれ」

 

 “正義の味方”と言われ、士郎がほんの一瞬だけ表情を歪めたのには、士郎を誰も気付いていない。というのも…

 

「士郎さん、本当にありがとな。おかげで俺もこの子も助かったぜ。アンタが死んでないか心配で、この子ずっと泣きそうだったんだからな!」

 

…良晴が爆弾発言をしたからであるのだが。

 照れ隠しのように頬を掻きながら「余計なこと」を話してしまう少年。そんな彼に、信奈による華麗なドロップキックが炸裂してしまうのも、自明の理と言えよう。

 

「なななななに言ってんのよアホザル!いつまでも織田家当主に向かって“この子”とか無礼すぎよ!タメ口ばっかり使って……。礼儀を知りなさい!」

 

 これでもかとばかりに良晴の頭を何度も踏み続ける信奈。あまりにも容赦のない攻撃に、良晴はおろか勝家までもがドン引きしてしまっている。

 

「なぁ!?織田家当主って、“織田信長”じゃないのか!?」

 

「誰よそれ。わたしは“織田信奈”。尾張一の美少女にして、天下を統べる者よ!」

 

 よっぽど衝撃的な話だったのだろう。信奈に何度も踏まれても頭だけは打たないようにしていたのだが、今の話によって気が散り、ついに頭を地に叩きつけてしまった。

 連打連打連打。容赦ない怒濤の足蹴りによって、ボールの如く地に跳ねる良晴の頭。それ以上は流石にマズい。照れ隠しで人が死んでしまうのも流石に馬鹿らしいので、士郎は助け船を出すことにした。

 

「えぇ~っと、信奈さま?随分と仲がよろしいのですね」

 

 勝家は後にこう語った。「一瞬で場が凍った」と。例えるなら、真夜中の湖の水面の様。散々暴れていた信奈の足が止まり、みるみると顔が赤くなっていく。勝家が「信奈さま可愛い」だなんて思ったのは現実逃避であろう。士郎は助け船を出したつもりだったのだが、見事地雷を踏み抜くとは流石という他ない。

 

「信奈さま、どうか落ち着いてください!」

 

「わ、わわわわわたしがこんなサルなんかを好きになる訳ないでしょ!」

 

「痛だだだだだだだ!勝家、どうにかしてくれ!I want to help you!」

 

「なっ!?呼び捨てにするなぁ!」

 

「ん、なんで信奈さまは急に赤くなり始めたんだ?」

 

「「うるさいっ!」」

 

「なんでさ!?」

 

 士郎がこの場を収める術を持っているはずもなく。ついさっきまで殺し合いをしている場とは思えない雰囲気が流れていたのであった。

 余計なことを言ってしまったらしい良晴に対し、士郎が謎の親近感を抱いたのはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

「で、信奈さま。落ち着いたのか?」

 

「………こほん。士郎、わたしを護ってくれてありがとうね。本当に死ななくてよかった」

 

 四人が四人とも踏んで踏まれての大騒ぎ。後から遅れてきた佐々成政によって止められたのだが、信奈は咳払いを一つしたことで、今までのことを無かったことにすることを決めたようだ。

 

「本当にありがとう、士郎さん」

 

 信奈と良晴は、士郎に深々と頭を下げた。彼のおかげで生き残ることができ、その代わりに彼が死にかけたのだ。どうしても感謝と謝罪を伝えたい。そんな気持ちが士郎にも伝わってくる。

 

「二人が無事ならよかった。それに越したことはない」

 

 だから、本心で応じよう。お礼を言いたいのはこちら側だ。

 

「デアルカ!ところで、士郎もサルと同じように織田家に仕官するつもり?」

 

「ああ、お願いしたい」

 

 仕官できるのならさせて欲しい。これは切実な願いであるし、目下の最優先事項である。

 卑しい話にはなるが、人間誰しもお腹は減る。野宿という選択肢もなくもないが、冬になればそれも不可能になる。結局のところ、住める場所と食事に関しては早いこと決めなければならない。

 織田家に仕官できるのなら、一先ずは住み家が保証される。士郎にとって、長照との約束を叶えるためにも、織田家仕官は是非とも必要なものだ。

 

「わかったわ。住み家とお金、役職とかの細かい話は後でするとして、褒美を与えなきゃね」

 

「褒美?」

 

「ええ、そうよ。命を救われたのは本当のことだし、士郎は戦力的にも十分。このままうやむやにするのもアレだし、この場で恩賞を与えることを約束するわ!恩賞の規模によるけど、ある程度のものなら三つぐらいはいいわよ」

 

 信奈は満面の笑みを浮かべていた。頬を煤で黒く染め、虎の腰巻きに見せブラと、うつけのような格好ではあるものの、屈託のない笑みは心を温める。

 そんな彼女の発言により、息を呑む人物が二人。勿論勝家と成政であるのだが、そんな大袈裟にも思える反応を見せるのも無理はない。普段から信奈は褒美をケチる傾向にある。そんな彼女が、今日知り合った人物に対して三つも恩賞を与えると言うのだ。感謝の気持ちもあるのだろうが、今後の士郎の活躍に期待をしていることは火を見るより明らかである。

 恩賞を三つ、なんでも与えてくれる。それがどんなに破格な待遇なのかは勝家さんともう一人の少女の表情から伝わってくるのだが。

 

「そんなこと言われてもなぁ。恩賞が欲しくて戦ったわけじゃないし、住み家とある程度のお金が手に入るのならそれでいい。それ以上に望むなら、それは欲張りだ」

 

 そんなにして貰う訳にはいかない。救けたいと思ったから救けた。見方を変えたのなら、俺が勝手にしただけのこと。それで欲張ってしまうのは気が引けてしまうし、住み家が与えられる時点で万々歳なのだ。これ以上に何を望もうか。

 

「アンタ、お人好しにも程があるわよ?………まぁ、何か必要になったら言いなさい。考えてあげるから」

 

「それでいいよ、ありがとう。……あ、ありがとうございます、信奈さま」

 

「なんか気持ち悪いわね。……主君としての初の命令よ、わたしに敬語はやめなさい」

 

「え、いいのか?」

 

「いいって言ってるじゃない。あ、サルは駄目だからね。言っても通じないだろうけど」

 

「なんでや!阪神関係無いやろ!」

 

 ……うん、阪神は関係無いな。

 笑顔で話す信奈と突っ込みをする良晴。後ろでため息をつきながらも楽しそうに笑みを浮かべている成政、「阪神」という単語に首を傾げる勝家。

 それぞれ違う反応を見せる彼女らを見ていて、どこか心が安らぐ。この不思議な感覚を噛み締める士郎だった。




どうも、センター試験30日を切ったことでテンパり中の零です。
 今年最後の更新、ということでお願いします。勉強だけでなく、FGOのイベントとか色々と忙しくて首が回らないんじゃ()
 あ、ユーザー情報のところにID載せておくので、フレになってくれる方々は是非是非。
 まぁそんなグダグダな主ですが、今後ともによろしくお願いしますね!
 では、メリークリスマス!クリスマスプレゼントとして感想や高評価してくれてもええんやで(ニッコリ

※タイトルは誤植ではないです。投稿して即無言低評価された理由がこれしか思い浮かばなかったので、念のため。
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