織田信奈と正義の味方   作:零〜ゼロ〜

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正徳寺でのお話

「なぁ信奈。次はどこに行くんだ?」

 

「ほんっとにどうしようもないサルね。主君を呼び捨てにするなんて…。」

 

 日が傾き始め、肌を突き刺すような暑さも少し和らいできた頃。若干辺りが暗くなり、山に囲まれていることで比較的狭い道を進む信奈御一行。例のごとく話を聞かされていない良晴と士郎は行き先に疑問に思っていたのだが、良晴は好奇心を抑えきれずに聞いたようだ。相も変わらず敬語を使わない良晴に対して渋い顔をする信奈も、口では厳しいことを言っているが、そこまでは気にしていないのが見て取れる。

 

「今向かっているのは正徳寺。最近斎藤道三から文が届いてね、同盟を組むかどうか決めるために会談をするの」

 

「さ、ささ斎藤道三だって!?」

 

 "斎藤道三"という単語に対し、過剰に感じてしまうほどの反応を見せる良晴に皆の視線が集まるのは当たり前だ。この時代の斎藤道三、その美濃の城主となるに至った経緯故に嫌われることが多い。にも関わらず、名前を聞いた瞬間に目を輝かせる青年は、周りからは異質に感じられる。

 

「何?サルのくせに斎藤道三のことは知っているのね。心の底から意外だわ」

 

「当たり前だろ!斎藤道三、"美濃の蝮"と言えば、戦国時代の超絶有名人物じゃねーかっ!一介の油売りから城主になるなんて、下剋上の体現者と評しても過言じゃないぜ!」

 

 ちなみに言っておくが、相良良晴という青年が「サル」と呼ばれているのには理由がある。彼の名誉の為に言っておくのなら、彼はいたって普通の青年であり、そこまで似ているわけではない。顔面偏差値で言い表すなら48といったところか。そこはかとなく猿の雰囲気があるだけで、そこまで気になることもないのだ。顔のバランスは取れている方であるし、それだけではサル呼ばわりされることはない。

 顔のバランスがそこそこ取れているのに"サル"と呼ばれる真の理由。それは…。

 

「良晴、興奮しすぎで顔が凄いことになってるぞ。一先ず落ち着いた方がいいと思う」

 

「姫さまに鼻息をかけるとは、なんてことを!今すぐ叩き斬ってやるっ!首を出せっ!」

 

「六、あんたも興奮したら稀にああなるわよ。気をつけなさい」

 

「ええっ!?嘘だと言ってくださいよ姫さまぁぁぁぁ!!」

 

 …興奮したときの顔と、空気の読めない言動である。興奮すると鼻息が荒くなり、行動が人間の範疇を超えて猿の次元へと達してしまうのだ。戦国時代に来てから間もないということもあって常に興奮し続けている今の良晴ならば、サルと呼ばれても仕方ない気もしてしまう。士郎ですらも「これは庇いきれない」と諦めてしまうくらいには似ている。

 酷い言われようでも全然気にしていない良晴と、何故か巻き添えを受けてしまった勝家の表情は対照的であり、勝家はかつてないほどの悲壮感を漂わせていた。

 流石にオーバーキル状態にある勝家を放っておけず、彼女を励ましている士郎。この空気を変えようとすべく、彼がふと疑問に感じたことを口にした。

 

「同盟ってどういうことだ?対等な立場なら判るけど、"日本最弱"とも言われる織田と"難攻不落の城"と呼ばれる城を所有している斎藤の同盟なんて、斎藤道三にとって得をするとは思えないんだけど…」

 

「きっと同盟のフリをして奇襲してくるに違いないです、姫さま!どうかお考え直しください!」

 

「六は黙ってなさい」

 

 えぇ!?なんて声には気にも止めず、信奈は士郎の疑問に答えるべく、士郎の方を向いた。

 

「向こうには向こうの考え方があるのよ。斎藤道三は息子の義龍と上手くいってないみたいだし、道三派と義龍派で割れてるみたい。少しでも戦力が増えれば上々ってことなのかもしれないし、他に目的がある可能性も十分にあるわね。近々今川義元が上洛するって話もあるし。向こうから話を振ってきたんだから、向こうとしても理由があるには違いないわね。尾張国内も荒れに荒れてるから、他所様のことなんて言ってられないけど」

 

「でも、勝家さんが言っていることも一理あるんじゃないか? 取り敢えず織田家を潰すってことも無くはないと思うし、この地形なら不意打ちしやすい。狡猾と称される斎藤道三ならやりかねないと思うぞ」

 

 士郎の話を聞いていた勝家は、そうだよな!あたしもそう思ってたんだ!なんて言っている。長い髪を後ろで雑に束ねて縛っている────現代風に言うところのポニーテール────が跳ねるように上下しているのが、どこか面白く見えた。どうやら勝家は無邪気な女性のようだ。

 

「いや、それはないよ勝家。正徳寺は尾張と美濃の境目にある寺院勢力が治める門前町にあって、軍勢が立ち入れない非武装中立地帯だからな」

 

 ぐっ、サルに諭されるなんて…と項垂れる勝家。士郎が「なんというか、感情表現豊かだな」と思えるほどである。

 

「織田家も荒れてるのか?…………あ、織田信勝か」

 

「こらっ!弟君のことまで呼び捨てにするんじゃない!」

 

「うおっと、どうしたんだよ勝家。というか、こんな狭い道で槍なんか持つな!マジで危ないって!」

 

 一人で勝手に自己解決し、口に出した良晴の言葉が逆鱗に触れたのだろうか、勝家がおもむろに槍を構え何回か突いた。

 …のだが。流石はサルと称されるだけのことはある。一撃一撃に力を込めていたので普段よりは鋭い刺突でなかったのだが、それを狭い道という悪条件でありながら完璧に避けてみせた。

 

「勝家さん、どうどう。その"織田信勝"がどうかしたのか?とにかく槍を構えないで深呼吸しよう。な?」

 

「あたしは馬じゃないぞっ!?…ふぅ、頭に血が上っていたみたいだ、すまない衛宮」

 

「俺に謝れよ!」

 

 士郎の声で少し落ち着くことができたのか、勝家は槍を下ろし、申し訳無さ気な顔を浮かべている。良晴の華麗な突っ込みも何のその。士郎も最初は良晴イジリをやめさせようとしたのだが、良晴本人を含めて楽しんでいるようなので黙っていることにした。

 

「えぇ~とだな、弟君は姫さまのことを『うつけ』呼ばわりしていてな、『そんな姉上が国を治めるなんて無理だね。僕が当主になろうじゃないか』なんて言ってるんだ。昔はあんなに仲睦まじかったのに…。昔の姫さま、愛らしかったなぁ…。あ、違う。そうじゃない。多分、姫さまや信勝さまのお母さまであられる土田御前さまが口八丁でお調子者の信勝さまをその気にさせて謀反させてるんだろう。もう常習犯だからな」

 

「はあ?こんな大事なときに何やってんだよ、尾張の危機が迫ってるっていうのに。こんなときこそ信勝の側近が働いてないのか?そこまでいったら側近たちで止めなきゃならないだろ」

 

 良晴の発言により、少しだけビクッとした勝家を見逃さなかった士郎は苦笑いを浮かべる。本当にわかりやすいのも考え物だな。後ろからでも冷や汗を流す勝家の姿がわかるのだ、流石に可哀想である。

 

(勝家さんだったら仕方がないだろうな。この子って良い子だけど、話し合いとかには一切向かない性格してるし)

 

 話の矛先が怪しくなってきたので、士郎は無理やり話を終わらすべく、信奈に矛先を変えるために言葉を紡いだ。

 

「まぁ、今は会談が優先事項だな。良晴の話を聞く限り、かなりやっかいな人物なんだろ?その話は後でだな。信奈もそれでいいか?」

 

「………………そうね。姉弟の話は後。今は集中しなきゃいけないことが沢山あるんだから」

 

 少しだけ間を開けて、そう言い残した信奈。士郎、勝家、良晴の三人と並走していたのだが、彼女は言い終わると同時に一人で前に進む。それは、追求から逃げるようにも、そのことを考えたくはないというふうにも見えて。

 出会ってわずかな時間しか経っていないのだが、良晴や士郎には、その背中がとても小さく、そして寂しそうに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 姉弟……か。何故だろう。とても懐かしい。これは自分の思い出せない記憶だろうか。姉と聞くと心が暖かく。それと同時に、気が狂いそうになるのを感じた。

何故だろう。

胸が締め付けられる。

この圧迫感はなんだろうか。この、ドロドロとした、例えようのない気持ちは一体何なのだろうか。

これだけは言える。これは、恋しいといったものではない。

 段々と強くなる閉塞感は何だ?

 目の奥が波を打つように、頭は何度も地に叩きつけられたかのように痛み続けるのがわかる。

 痛みの強くなった瞬間に見えた光景。

 背景はセピア色に色褪せてしまっている。焼き回された、古いビデオテープを見せられているような感覚に包まれ、痛みの感覚すらもが感じられなくなってきた。

 その中で、楽しそうに動き、笑顔を振りまく女の子がいた。

 真っ白でお人形のように透明な肌に、真っ白で絹のように滑らかで艷やかな髪。白の二つによって際立つ、宝石のような赤い瞳。その瞳は大きくて、見つめたら最後、引き込まれてしまうような錯覚に襲われてしまう。

 彼女はその場でくるくると回転しながら笑顔を振りまいている。

 それは、本当に美しくて。それでいて愛らしくて。

 

「シ■ウ。お姉ち■■ね、■っと前から話■てみたか■た■だ。少しぐら■いいでし■…?」

 

 ノイズが走る。ところどころ聞き取れない。

 俺はそのとき、何と答えたんだろうか。

 目の前の少女は嬉しそうに手を差し出し、顔を赤らめた。

 間違いなく暖かい思い出。それがどうして、何故だ。こんなにも色褪せて、こんなにもノイズが走る。それが堪らなく嫌に感じられた。

 

 

 

 

「おい、衛宮!大丈夫かっ!?急に意識を失ってたぞ」

 

 

 

 

「……………………大丈夫だ、勝家さん」

 

 気がつけば、勝家さんに意識を取り戻されたらしく、彼女が俺を覗き込むような形で見つめられた。顔が近く、お互い息がかかるほどの距離。

 

「本当か?辛そうな声を出してたぞ…?」

 

 どうやら心配してくれていたらしい。全く、年下の女の子に気を使われてしまうとは、まだまだだな、なんて思ってしまう。それよりも

 

「ありがとう、勝家さん。ただ、少し顔が近いぞ。色々と危ない」

 

「へっ???…………あっ!?」

 

顔が近くて少しばかり緊張してしまう。年下とはいえ、可愛らしい女の子と顔が近ければ動揺してしまうのは男の性ってヤツだ。こればっかりは仕方がないだろう。

 案の定気がついてなかったらしく、大きく仰け反って顔を反らす勝家さん。少し顔が赤くなっているが、当たり前のことなので気にしないようにする。

 

「え、衛宮。取り敢えず井戸まで歩いて顔を洗ってこい。酷い顔をしているからな。この後すぐに会談が始まる。あたしとお前は部屋の隅で正座。サルは足軽ということで庭で待機だ。井戸はこの突き当りを右に進めばすぐそこにある」

 

 …やっぱり勝家さんは優しい人みたいだ。突き放すわけでもなく、気持ちの整理をつけるために一人にしてくれる。そんな彼女の気遣いがありがたい。

 

「わかったよ。心配かけてゴメンな、勝家さん」

 

 できる限り顔を見ないで礼を言おうとしたのだが、一瞬だけ彼女の顔を見てしまった。それを悟られないよう、早足で井戸に向かう。

 

「心配かけちゃったな。気を引き締めないと」

 

 水を汲み、顔を洗いながら。さっきの光景を忘れられるように水を顔に浴びせていった。今は会談に集中しろ。考える時間はこれから沢山ある。

 一瞬見えた勝家さんの顔は、苦痛に歪んでいるように見えた。あの天真爛漫な笑顔が似合う勝家さんに申し訳ない。

 

「よし、頑張るぞ」

 

 そうだ、これから時間はいくらでもある。今はそれに集中しなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 士郎が井戸から帰ってすぐに会談が始まった。信奈と斎藤道三が向かい合って座り、両名の後ろに士郎と勝家、そしてデコの広い利発そうな少女が控えている。足軽兼草履取りである良晴だけは庭で正座をしていた。懐には信奈の草履が入れられているのが見て取れる。勝家はそんな良晴のことを怪訝な目で見ていたのだが、士郎がそれを宥めて何も言わなくなった。

 士郎は日本史が詳しいわけではない。それでも、かの豊臣秀吉が草履を懐に入れて温めていたという逸話は有名だ。別に匂いを嗅いでいたりするわけでないので、わざわざ言う必要を感じられなかった。

 会談は淡々と行われる。

 随分とラフな格好の斎藤道三と、美しい着物を身に纏う織田信奈。二人が話している内容は壮大なものだった。日の本を治めるために必要なこと。これからは何が活きる時代か。勝家の頭には疑問符が大量に浮かんでいるが、士郎と良晴、そしてデコの広い少女──明智十兵衛光秀──は話を黙って聞き続ける。特に良晴と少女は目を輝かやかせていた。それほど話は広大で、それでいて未来のことを見定めた話だったのだ。

 

「蝮。天下統一を成し遂げてあげるわ。あんたの生涯の夢、商人が自由に商いを行える国を作ってやるわ!」

 

「なぜワシが天下統一を企てていると思ったのじゃ?」

 

 道三がほくそ笑みながら語りかける。まるで信奈を品定めしているかのようで、信奈の顔つきも変化した。

 

「わたしがあんたの立場なら、必ず美濃を狙うからよ。美濃こそが日本の中心だもの。西は京の都に繋がり、東は肥沃な関東の平野へと繋がってる。ここに難攻不落の城を建てて兵を育て、好機が巡ってきたら一気に日の本を平定し、平和な国に置き換えるのよ。商人が自由に商いできる、そんな平和な世を作るのがあんたの夢でしょ!わたしは更にその先を見る。この狭い島国だけでなく、世界も見据えているのよ!!」

 

 信奈の語る熱い野望。彼女の話を聞き、強い衝撃を受けた光秀と良晴はただ絶句してしまった。

 対する道三はまるで待ち望んでいた者を見るように、心底面白そうに信奈を見つめている。

 

「フッ………ふははははっ!参ったわい!お主、わしの予想通り、ただのうつけではないようじゃな。『先が見えすぎている』から周りが理解できない。知恵者と自負するワシの頭ですら、天下統一で思考が止まっていたのがな。お主、まさか世界を考えていたとは!」

 

「あんただからわかってるだけね。他の人間に聞かせれば、『気でも違ったのか』なんて言われるわ」

 

 その言葉に対して「理解できる者がここに一人おりまする!」「俺にもわかるぜ、信奈!」との声が響き渡った。先程強い衝撃を受けた光秀と良晴の2人はまさか自分以外に声を上げるとは思っていなかったのか、お互いを見つめ合い、光秀が舌を出してそっぽを向いてしまった。

 

「ほう、声を上げたのは十兵衛だけでなくそこの少年もか。なかなか面白い奴を控えさせているな」

 

「拾ったのよ。未来から来たって言ってるんだけどね」

 

「ほぅ…。お主、良い目をしておるな。未来から来たというのなら、ワシが何を考えているのか知っておるのか?」

 

「ああ、知ってるぜ。爺さん」

 

「どれ、言ってみろ。ワシとしても、織田信奈に美濃を譲るとはできぬ相談よ。政略問答の次は、軍略でも勝負したくなってきたからのう。余計な事を言えば、後ろの十兵衛が即座にお主を斬るぞ」

 

 黙ってなさいよ蝮に謝りなさいよ!と信奈は良晴に言っているが、良晴は前に進み続ける。勝家も立ち上がって良晴を止めようとしたのだが、士郎が彼女を押さえつけた。

 士郎にもよくわからない。それでも、彼の目は真っ直ぐだった。思いつきで立ち上がったわけでも、出世欲のために立ち上がったわけでもなく。純粋な気持ちで立ち上がったように見えたのだ。

 

「道三、あんたはこの会談の後にこう言うんだ。『ワシの子供たちは、尾張の大うつけの門前に馬をつなぐことになる』ってな!」

 

 場が凍りついた。信奈は良晴を庇おうとし、良晴と道三は睨み合い続ける。その緊張の場に響いたのは

 

「なんとっ!?貴様、どのような術を使って我が心を読んだ!?」

 

「言っただろ。俺は未来からやってきたんだ。だからこそわかる。あんたは息子たちが信奈の器に遠く及ばないことを理解して、こっそり美濃譲り状をしたためるつもりだろ?意地を張るんじゃねぇ!」

 

 再び訪れた静寂。その場にいる人間は誰しもが動けない。それほどまでに良晴が場を制していた。

 

「そうじゃな、その通りじゃ。小僧のおかげでこの蝮、正直になれるわい!この場で譲り状を書こうではないか!」

 

 誰しもが緊張して佇むその場で美濃の蝮が見せたのは、蝮と称されていることが信じられないほどに優しい笑み。

 ここに、美濃と尾張の同盟が成ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正徳寺に着いてから数時間が経過したからか、夜の帳が完全に降りてしまっている。そんな中、ゆっくりと馬を走らせているのだ。

 結局、良晴が蝮の心を読んだことで、彼が正直な気持ちを打ち明け、夢を信奈に託した。

 蝮の心を解いた張本人である良晴は既にボロボロ。懐に草履を入れて温めていたのだが、信奈に勘違いされて追いかけ回されたのだ、今まで走りっぱなしだったのもあり、そうとう疲労している。今は信奈の後ろに座り、馬に乗せてもらっていた。どこか嬉しそうにしている信奈を見て勝家は嫉妬していたのだがそれはまた別の話。

 良晴以外の三人は別々のことを考えている。

 信奈は、良晴が会見の最後に言い放った言葉が頭から離れないでいた。

 

『織田信奈は確かに理解して貰える人が周りに居なかった。でも、それは昔の話だ。今は斎藤道三も、そこのデコの広い可愛いこちゃんも、そして俺だっているんだ!大きすぎて周りと共有できない夢は野望だって言ってたけどな、今ここに三人もいるじゃねぇか!俺も、信奈を全力で支える!」

 

 今まで誰も理解してくれなかった。それが、急に現れて、しかもわたしの考えを理解してくれる人間が現れたのだ。胸に暖かいものが流れ込んでくるのが感じられて、自分の頬が緩んでいるのに気がついた。それでも緩みはなかなか取れない。

 

 士郎は、良晴についてだ。彼は戦士でもなければ、魔術師でもない。平和な日本で学生生活を楽しんでいた、ただの高校生である。それでも、彼の目には強い意志を感じる。声はデカいし、少しばかり考えることが苦手なようにも感じられるが…それでも、彼の目は真剣そのものだった。信奈のことだけを思って立ち上がり、自分のことを顧みない。その姿に、士郎は彼を絶対に生きて帰らせると。そして、殺させないと誓った。

 

 勝家は、会談直前の士郎が頭から離れなかった。

 あれだけ苦しそうにしていたのに、会談でずっと行動を見ていても異変を感じられなかった。というより、会談の話が全くわからなかったから士郎を見つめ続けていたのだが。

 彼の素性は全く知らない。野武士にしては装いが奇抜でかつ立派だ。特に、紅い射籠手は上質な素材だと見て取れた。彼についてわかることは、記憶を失っていることと、

 

(姉さん、か。魘されていたとき、確かに衛宮はそう言った。もしかして、お姉さんがいたのかな)

 

姉がいたかもしれないということ。剣の腕が良く、そして心優しい性格をしていることぐらいだ。突然意識を失い、姉さんと呟く士郎の声が、耳から離れてくれないでいた。

 彼のことはよくわからない。でも、彼のことを見守りたいと思ったのだ。辛そうな声で姉を呼ぶ姿は、どこか幼少時代の織田信勝を連想させた。

 

 それぞれが違うことを思う中、確実に清州城へと近づいている。

 勝家は夜の帳が降りた空を見上げ、そして目を閉じた。とても、綺麗な星たちが見守ってくれているように感じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正徳寺から離れ、美濃へと戻っている斎藤道三たち。その集団の中、斎藤道三と明智十兵衛は並走し、ゆっくりと馬を歩かせていた。

 

「十兵衛、お主は織田家をどう見る?」

 

「織田信奈どのの噂を聞いておりましたが、どれも見当違いなものでした。あのお方は誰よりも日の本の先を見据えています。それ以外にも、猛将・柴田勝家に、智将・丹羽長秀など、優秀な部下に恵まれておるかと」

 

「そうじゃな。それと、あの二人もじゃ。相良良晴と言ったか。未来人とほざいておったが、非常に目が真っ直ぐな男。あの小僧さえいれば、信奈ちゃんも道を外れることなどないわい」

 

 ふぅ、と笑う道三。普段から言われる"美濃の蝮"とは何処へやら。今は孫を思う爺のような、安らかな笑みを浮かべていて、十兵衛も心が軽くなるのを感じた。

 

「もう一人。名前はわからんが、後ろに控えていた赤銅色の髪をした男には気をつけよ」

 

「はい?」

 

 狡猾で名が知られる蝮の道三が"気をつけろ"と言うのは珍しい。彼ならば、危険と判断した男など罠に嵌めて殺すのは容易いだろう。

 

「ワシは元商人じゃから、人を見る目には自身がある。……あの男、目の奥には何も映していない。何か、決定的なモノが欠けてしまっているようじゃのう」

 

 彼は心底哀しそうに言った。まるで、見てはいけない物を見てしまったかのようで。

 明智十兵衛光秀は、背筋が凍るような感覚に襲われたのだった。

 空を見上げれば、そんな心を見透かしているかの如く輝く星たち。そんな星が、今はただただ冷たく感じられた。




 どうもこんにちは、お久し振りです。遅くなってしまい申し訳ない。センター試験で忙しかったんじゃ…。
 で、なんですが。センター試験がおぞましく爆死しまして、二次試験の勉強に専念してもかなり厳しく、浪人することになりそうなんですよね。大変申し訳ないんですが、二次試験が完全に終了するであろう3月末まで待っててくださいお願いします。浪人したらこのSSの更新が一年遅くなってしまいます()
 お待たせしてしまったことにより、二話に分割する予定の話を一話にまとめました。色々と連想してくれると嬉しいです。ちなみに、シリアスとほのぼのは半々かほのぼの成分多めで考えていますので、そこのところはよろしくお願いいたします。
 ではでは、次のお話でお会いしましょう。次は清州城でのお話ですね。ヒロインの一人である、激かわ採点お姉さんが登場しますよ!お楽しみに!
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