織田信奈と正義の味方   作:零〜ゼロ〜

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一日目の終わり 後編

 

「さて、何を作ろうか」

 

 長秀に厨房まで案内され、調理の準備を進める衛宮士郎。筋骨隆々とした180cmオーバーの男が着ていることを考えると可笑しく感じるが、彼は彼女から受け取った割烹着が信じられないほど似合っていて、それを見た長秀は何かに負けたような気分に陥ったとのこと。

 

(もう夜も遅いし、そんなに重たいものを食べるのもな。良晴と俺は大丈夫だろうけど、他の三人は女の子だし…)

 

 もう時刻は九時を回っているのだ、普通の夕飯よりは少し軽めの方が体にはいいはず。ならば、極力軽めのご飯物に味噌汁を付ける形にしよう。そう考えつつ、近くに置いてあった野菜を入れている籠に視線を向ける。

 

「お、じゃがいもと玉ねぎか。味噌汁にすると玉ねぎ独特の甘さが出て、なかなか美味しいんだよな」

 

 よし、味噌汁は決まった。あとは醤油を使った料理を考えるだけである。理想は調理の時間がかからないものだろうか。あまり長時間待たせてしまうと勝家さん辺りが飢えそうだ。

 

「ん、これは…」

 

 少し目線を横にずらしたところ、木製の箱のようなものを見つけた。金属の刃が重なるように交わっており、何かを削るような形状をしている。これは多分…

 

「それは鰹節を削るための削り器ですね。削りたての鰹節は香り高くて大変美味です」

 

 彼の目線で判断したのだろうか、彼女はわざわざ説明をしてくれた。大方予想通り、なかなか現代ではお目にかかれない鰹節削り器だ。市販で売っている鰹節も十分美味しいのだが、削りたての鰹節の香りは市販されている物と比べてレベルが違うと言ってもいい。

 

「少しズボラかもしれないけど、鰹節ご飯にしよう。シンプルだから醤油の味も映えるし、そんなに重くない。玉ねぎとじゃがいもの味噌汁とも高相性だしな」

 

 献立は決まったので、あとは如何に早く調理を終えて皆に出せるかの勝負だ。ゆっくりしていたら勝家さんが餓死してしまう。

 

「お手伝いしましょう。献立の手順を教えてください」

 

「ありがとうな、長秀さん。じゃあじゃがいもをくし切りに────」

 

 すっと長秀さんが隣に立ち、俺の手伝いを申し出てくれた。彼女も勝家さんのことを心配しているようで、少し顔に焦りの表情が見て取れる。ここまで心配されてしまうというのは女性として如何なものかとも考えてしまうが、それも彼女の愛嬌の一つだ。それに、空腹に勝る料理のスパイスなど存在しないのだから、ある意味で彼女は美味しい料理を食べる準備が整っていることとなる。

 料理は真心。食事を楽しみに待ってくれている人たちのことを想いながら、真っ白な割烹着に身を包む巨漢はまな板の前に立ち、そのままじゃがいもへと手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 さて、それからしばらくして。士郎の処遇をどうするか。これが信奈にとっての悩みの種となっていた。

 彼が運んできた料理、鰹節をご飯にまぶし、その上から"醤油"なるものをかけただけの簡単なご飯に玉ねぎとじゃがいもの味噌汁。手の込んだ料理とは言い難いものの、その味は確かだった。具体的に言うならば、勝家がただの一度も話そうとせず、無言でご飯を五杯食べたほど。

 醤油と言われた調味料は、その単体では真価を発揮できないらしく、少し舐めさせて貰ったときもただしょっぱいだけに感じたのだが、他の食材と掛け合わせることで大きく変化した。鰹節の香りを引き立てつつ、そのまましょっぱさと旨味を生み出す。ここまで他の食材の良さを殺すことなく際立たせる調味料など、未だに味わったことがないほどだ。

 それに汁物の味噌汁も外せない。ホクホクとしたじゃがいもに火を通したことでより強くなった玉ねぎの甘さが味噌と非常に合うのは驚きだった。なかなか玉ねぎを味噌汁に入れるという発想には至らないため、長秀も興味津々といった様子だ。

 未来の人間はみんな料理上手なのかと信奈も思ったのだが、良晴の「俺が今まで飲んだ味噌汁の中でも一番美味い」という発言によって思い直す。単純に士郎の料理の腕が良かったようだ。

 

「満足してくれたようで良かった。簡素なものだったけど、夜遅くに重たい料理を作るのはどうかと思ったんだよ。勝家さんは五杯も食べたから、少し想定外だったけど」

 

「…士郎、あんた記憶ないくせに料理は覚えてるのね」

 

「どうやら体が覚えていたみたいでさ」

 

 既に良晴は長屋へと向かっている。彼の身分は"足軽"であり、処遇等は他の足軽と同じ。そもそも目立った活躍をしていないのだから処遇について考える必要すらないのだ。

 しかし衛宮士郎については違う。彼は単身で織田信奈の命を救い、次期大高城城主となる予定だった鵜殿長照を討っているのだから、足軽だなんて立場に収めていい功績でないのは明白である。

 

(本当なら家老にまで身分を上げたいんだけどね。………そんなことしたら他の者たちが不満爆発しちゃうだろうけど)

 

 思わずため息をついてしまう。織田家中が荒れていなければ無理矢理周りの人間を黙らすことでも問題ないのだが、生憎真っ二つに分断しつつある現状そんなことは出来ない。

 身分だけではなく住処の問題もある。こう表現するのもどうかと思われるが、長屋は良い環境とはお世辞にも言えないのだ。かと言って、新参者に早速武家屋敷を与えられる訳ではない。そもそも家に空きが無いのだから仕方がないのだが、どうにか出来るのなら考慮してあげたい。

 

「えっと、その、衛宮。また料理を作ってくれないか………?」

 

「言ってくれればいくらでも作るぞ」

 

「ほ、本当かっ!?」

 

 にぱっと可愛らしく笑う勝家を見て微笑む信奈。やはり、彼女の笑顔はいつ見ても可愛らしくて人を笑顔にしてくれる。

 和気藹々と話す三人を羨ましそうに見つめながら、信奈は自らの思考に沈んでいく。彼女が悩み続ける理由、それは漠然とした不安からくるものだった。

 織田の家臣と比較しても一二を争うほどの剣技を有し、弓を引かせれば日本一と言っても過言ではないほどの腕前の男。その男が未来人と自らの素性を明かし、その上魔術師と自称し、挙げ句の果てには記憶喪失だと言う。怪しいと言えば怪しいのだが、何故か裏切られるような感じは微塵もしていない。これは彼から溢れ出てくる雰囲気からだろうか。

 

(士郎は頼れるだけの信頼を寄せていいはずなんだけど…。どうしても一人にはしたくない)

 

 魔術師の世界は血生臭いと言っていたのだが、それにしても躊躇いなく人を殺すのは異常に思われる。それに。

 

(わたしと良晴を護ってくれた時、なんであんなに儚く見えたんだろう)

 

記憶喪失で自分が誰なのかすらよくわからない。仮にその立場がわたしだとしたら………わたしは不安で押し潰されるだろう。

 戦場での彼の背中。任せろと言わんばかりの大きな背中。だと言うのに、何故か儚く見えてしまった。それが不安で仕方ない。

 どっちみち家を建てるのには時間がかかるため、どうにかするしか無い。

 結局、彼女がたどり着いた結論は────

 

「士郎、あんたを侍大将に任命するわ。次に何か成果を挙げたら家老に昇格させるわよ。あんたの家を建ててあげるから、それまでは長秀の家に住ませて貰いなさい」

 

────後に波紋を呼ぶことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 時は流れて。士郎と長秀は屋敷の前に立っていた。

 

「本当に大丈夫なのか、長秀さん。嫌なら信奈に言ってくれれば………」

 

「いえ、姫さまにもお考えがあるのでしょう。問題ありません。……はぁ。結婚していないのに同棲だなんて、本当に婚期を逃してしまいそうですね」

 

「ん、何か言ったのか?すまん聞こえなかった」

 

「何も言っていませんよ」

 

 出会って数時間しか経っていないのに同棲することになってしまった長秀と士郎。長秀のため息も仕方ないだろう。ただでさえよい出会いをしていないために婚約出来ていないのに、なぜお互いのことをよく知らない者同士で同棲しなければならないのか。一応母がいるので変な事態へと発展することはないと思われるのだが、そういう問題ではない。同棲しているとの噂が広まれば、いよいよ貰い手がいなくなってしまうのだから、多少のため息は見逃してもらいたいと思ってしまう。

 

(確かに士郎どのは信頼できる殿方ではありますけどね。話してみても礼儀正しいですし、料理も大変お上手ですし。何より暖かい人です。姫さまが信頼を寄せるのも頷けますね)

 

 信奈からも「士郎のことなんだけど、記憶喪失ってこともあって心配なのよね。サルの違って襲ってくることは絶対ないし、短い期間だけど見守ってあげて頂戴!」と言われているのだが、彼女の目的がそれだけでないことは何となく長秀にもわかっている。

 

「では入りましょう。お母様もいらっしゃるので三人暮らしとなりますが、以後よろしくお願いしますね」

 

「よろしく。こちらは住ませて貰う立場だから、何か問題があれば何でも言ってくれて構わないぞ。出来ることであれば何だってやる」

 

「そう言っていただけると嬉しいです。まずはお母様とお話してください。姫さまから説明されているとは思いますので、軽い自己紹介で大丈夫かと」

 

「未来からやってきた記憶喪失の魔術師、衛宮士郎です。よろしくお願いします」

 

「あたらめて聞くと恐ろしいくらい怪しいですね…」

 

「……全くをもって同感だ」

 

「では開けますよ。今更なのですが、お母様は何と言いますか…なかなか個性的な方ですのでお気をつけてください」

 

「ええ……」

 

 ふふふ、と笑いながら戸を開ける長秀。当たり前のことであるが、生まれ育ってきた家の戸を開ける動作に迷いが生じる訳がない。…はずなのだが、今日ばかりは何故か戸に触れている手が震えている。必死に震えを抑えようとしても、一向に止まる兆しが見えない。これは身体が本能的に危険信号を発している、そう気づくのにそう時間はかからなかった。長秀の母は普段はお淑やかであるのだが、少し勘違いしやすい困った性格であり、今回も何か盛大に勘違いしている予感がする。それでも戸を引く手を止めるわけにはいかない。何より、こうして外に長くいるほうが事態が悪化する可能性もある。長秀は意を決して、震える手を無理やり駆使し、そのまま戸を開けたのである。

 

「ただ今戻りました。お母様、例の方をお連れしましたよ」

 

 声が震えているのを気にしてはならない。震え声に気がついたのか、士郎は不思議そうな表情を浮かべつつも「お邪魔します」と口にする。

 士郎の声に反応したのだろうか。ガタッ!といった音と一緒に「今行きますッ!」との返事が返ってきた。その声色により、さらに疑いを深める長秀。

 

(絶対に何か変です。妙に声色が高く、高揚しているような………?)

 

 弾むような、それでいて踊るような足音。間違いなく居間から響いているのだが、近づいてくると同時に不安に駆られてしまう。

 

(そんなまさか。姫さまの使いがしっかりと説明なさってるはずでは……。いえ、説明しに行った人は確か……!?)

 

 嫌な予感は確信に変わった。突如として閃いてしまい、その衝撃は雷を生身で受けたかのようである。信じたくない。信じたくない。それでも……。

 説明しに行ったのは佐々成政。彼女は勉強が出来ない訳ではないが、人間観察が苦手な節がある。勘違いしやすい長秀の母に「男と同棲する」という話をしたらどうなってしまうのだろうか。…………そう、絶対に勘違いをする。勘違いしていることに説明する者が気づいたのであれば誤解を解けたのであろうが、事もあろうに話をしたのが佐々成政である。人間観察が不得手でかつお調子者の成政であれば、長秀の母が勘違いしたまま説明を終える、などという事態に発展することは容易に想像できた。

 

(0点です。完全に迂闊でした…。士郎どのが声を上げてしまったため、そのまま隠れて貰うことも出来ませんね。これは既に詰んでます…!)

 

 徐々に近づいてくる足音。あぁ、もう手遅れある。絶望に染められた表情の長秀に対し、事態を把握できていない様子の士郎。事実、彼は「長秀さんのお母さん、何か嬉しそうだったな。俺を迎えることに良い事なんてないと思うんだけど、何かあったのか?」ぐらいにしか思っていない。そんな彼女らを迎え入れたのは────

 

「どうもはじめまして、万千代の母です。この度は万千代の婿となってくださるようで……わたくし、本当に嬉しいんです。うぅ、採点癖などという癖で殿方がより近づかなくなってしまい、もう貰い手がいないかもと思っていた矢先でした。きっと仏様のお力ですね。ありがとうございます…!」

 

 満面の笑みでありながら嬉し涙を流す女性であったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 良晴と士郎が戦国の世へとやってくる前日の夜。武田家の敏腕軍師であり、幼女へ愛を捧げるロリコン野郎、山本勘助は軍議を少し離れ、美しい月を見ていた。今現在、武田家は大きな問題に窮している。駿河を奪取するから否か。その大きな選択を迫られているのだ。家が荒れている最中、彼は一人で心を落ち着かせるべく月を見る。

 

「あれは……なんだ。あの蒼い星は…!!」

 

 思わず隻眼を見開く。あの星は宿曜道の秘伝でのみ語られる幻の星。本来、この時代に輝く星ではなく、遥か先の未来で輝く運命にあるはずだ。

 

「もしや、『天命を動かす者』が現れたというのか!?」

 

 ならば、必ず掴み取らなければならない。御屋形さまのもとへと連れて行かねばならない。その者こそ、御屋形さまの心を救える者だ。

 

「なんだ、あの星は。あの禍々しく煌々と煌く、紅い星はッ!?」

 

 様々な文献に目を通してきたのにも関わらず、あの星だけは見た事がない。その星は今もなお輝き続ける。

 

「あの煌めきこそ、この世界にはあってはならぬもの。この戦乱の世を終わらせる英雄かもやしれぬ…!」

 

 なればこそ、掴み取らなければならない。二つの星。それらは御屋形さまのために必ず必要となる人物であろう。

 勘助は必死に手を伸ばした。夜空に向けて、「天命を動かす者」と「錬鉄の英雄」の宿星を、御屋形さまのために、晴信のために掴み取ろうとあがいた。

 星はそのまま落ち続ける。諏訪にも、川中島にも、甲斐にも落ちてこない。その二つの星は真っ直ぐと、一直線に落ち続ける。

 

「なぜ、なぜじゃ。なぜ尾張に向かって落ちるッ!?頼む!どうか御屋形さまのもとに……!」

 

 勘助は必死に駆けながら、手を伸ばし続けた。そのまま躓き、地に転がりながらもなお叫び続ける。

 

「どうか、頼む…。御屋形さまをお助けくだされ…!!」

 

 彼の願いが届いたのだろうか。二つの星のうち、紅く煌めく星の軌道が少し動き、二つの星は尾張の方向へと落ちていった。




 はい、遅れました。すみません()
 まぁツッコミどころ満載だと思いますが、いろいろ暖かい目で見守っていただければ、と。そう思っている次第であります。
 皆さんは味噌汁の具材は何が好きなんでしょうか。僕は豆腐とお揚げのやつです。なんだかんだ豆腐の入った味噌汁に外れはないと思ってます。作中のじゃがいもと玉ねぎの味噌汁も美味しいので、食べたことのない方は是非作ってみてくださいね。鰹節ご飯も美味しいんですけど、鰹節削り器ってなかなかないので作るのは難しいですよね。うちにもないので祖父の家にある鰹節削り器をたまに使わせてもらってます。
 最後の山本勘助の話は後の伏線になる(予定)ですので。よろしくお願いします。


 ではでは、特に話すことがなくなってきたのでこの辺で無駄話は終わりにしましょう。次回の話は3月の序盤に投稿したいな………。こればっかりは無言低評価の数や勉強の進み具合によるので何とも言えません。心は硝子なんで。申し訳ありませんが、ゆっくりと待っていてください()
 これからも「織田信奈と正義の味方」をお願いします。
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