21/他人からのサインを正しく受け取れる人なんて滅多に居ない
風呂に入ってすっきりさっぱり。精霊の恩恵で汚くなることもない、常時温かなお風呂を抜け、再び食堂に集まった僕ら。
スキルのことを教えていたからなのか、出てくるまでに大分時間がかかった女性陣も、今はここに居る。マリアはミレアノさんに髪を纏めてもらったらしく、えーと……なんだっけあの髪型。図書館図書館…………おお、ハーフアップとかいうらしい。ともかくそんな髪型でにっこにこ笑顔だ。シアンは多少の外ハネがあるショート。ただし耳の部分は長く、肩あたりまであって、先にいくほど細くなっている感じ。丸くない。
早速材料を並べて調理を開始したミレアノさんの姿を興味深そうに見るマリアと、料理スキルも教えてもらっているのか、一緒に厨房に立っているシアン。
で、どんどんと鍋やフライパンに入れられてゆく材料を見送る過程、カウンターに頬杖突きながら調理を見守っていたマリアが、何故か不思議そうに投げ込まれてゆく食材と僕とを見比べていた。
……いや、入れ忘れとかじゃないからね? そもそも入れないからね? 不思議そうな顔したってダメ。
「うー」
あ、不満そう。
するとマリア、テーブルの椅子に座る僕のところまでてこてことやってきて、座っている僕ごと椅子をガーっと引くと、正面から僕の膝の上に乗っかってきてってキャーッ!?
「え、ちょ、まりあっ!? なにをっ……」
「ミト、ミートー」
「ヒト! ヒトだからね!? なんで肉になってるの僕!」
「う~……!」
なんだかとってもご機嫌ナナメ。
美味しい料理って聞いたのに、僕が入っていないのがご不満らしい……って僕の方が不満だよそんなの! いや僕が入ってないからって意味じゃなくて! 入ってて当然とか、いつから僕は鰹節とか昆布と肩を並べる存在になったの!
「よーっ! 熱いねーっ!」
「食堂で正面から抱き合うなんざ、大胆だなぁおい!」
「祝福するぜぇお二人さん! カンパーイ!」
『カンパーイ!!』
まだ解散していないさきほどのお客さんも、乾杯するネタが欲しかったのか、また酒を呷っている。
僕は僕で、綺麗な女の子に膝に乗られた上に、正面から抱きつかれて、しかも肩と首の中間をかぷかぷ噛まれて恥ずかしいったらありゃしない。え? 不可視化した鎧? とっくに破壊されとります。
でもだ。妙な噂が出すぎても困る。ペットにそういう躾をしているとか思われたら、もう恥ずかしくて死ねる。だからと、とりあえず彼女のSTRを全て他に回した状態で、べりゃあと強引に剥がす。で、「やー! やー!」とイヤイヤする彼女の口に、人差し指をすぽりと突っ込んだ。
途端、「?」と僕の人差し指を銜えたまま首を傾げる彼女。
……痛いのは好きじゃないけど、これも平穏のため。
僕は小さく“食べていいよ”と伝えるように頷くと、彼女の目がきゃららんっと輝いた。
で、かりこりちゃむちゃむと食べられてゆく人差し指。
厨房から僕らを見て、やさしい顔でシアンになにかを語りかけているミレアノさんと、なにかを決意した顔で振り向くシアンが、僕の人差し指を銜えているマリアを発見。垂れていた耳と尻尾が再びシャキィーンと天へと向かうけれど、あわあわおろおろしたのちに……またペターン。
だ、大丈夫だよ、シアン。痛覚麻痺成分を癒して活性化させてるから痛みは誤魔化せているんだ。食われている恐怖はもちろんあるけど、周りからしてみれば、人差し指を銜えて笑顔でいる女の子、程度にしか見えない筈だ。
彼女の口内が、指を舐めているだけにしては不自然に躍動、ゴリボリベキバキとか鳴っているのなんて気の所為だよ? だから噛み千切ったあとに、切断面からちゅーちゅー血を吸うの、やめてください。
「こ、ここまで。ここまでね?」
肉と骨が咀嚼されて、たっぷりの血とともに嚥下された頃、マリアの口からちゅぽんと人差し指を引き抜いた。
もちろん全力で癒しを送ったから元のカタチのまま。素晴らしい手際だ……自分で言うのもなんだけど、完璧だ。きっと怪しんでいる人なんていない。自信を持ってちらりと他の客を見てみる……と。
「おいおいマジか……!? 今日連れてきたばかりの奴隷に指ちゅぱ教え込んでやがるぜ……!」
「ばっかお前アレ奴隷じゃなくてペットって話じゃねぇか……! 躾なんだよ躾……!」
「マジでか……近頃のルーキーはやることがとんでもねぇな……!」
「もうすっかり馴染んだシアンちゃんだって、初日にゃ自分が寝不足になるまでみっちりいろいろ教えたっていうじゃねぇか……!」
「見かけによらずエロいなあのボウズ……」
「あんな可愛い娘たちを奴隷とかペットって……おお怖ぇえ」
別の疑いが生まれていた! いぃいいいやいやいや違いますよ僕にそんな趣味とかありませんから!
あれただの寝不足ですから! いろいろ教えてたのは事実ですけど、ってなんでそんなこと知ってるんですか! どこから広まったんですか! なんで───ア。
(ア~……)
そういえばあの時、冒険者の皆様からの知識からもシアンが学べることはたくさんあって、いろいろあったんだっけ。
でも断じて違うんです、エロスなんて、そんな気は全然ありません。大体“いろいろ教えた”って事実を知ってるなら、僕が寝不足だった理由だって知っている筈なのに!
(うん、まあ……こういう時って尾ひれはひれがついて、胸びれと背びれが追加されて、自分のところにその情報が届く時にはエラ呼吸になっているもんだって悠彰も言ってたし)
なんでエラ呼吸? と訊ねてみたら、“想像以上に脚色された状況を知った本人が何も言えず、口をパクパクさせている状況のことを指して言う”んだって。日本って面白い言葉があるよね。
あのあと香織が悠彰に対して怒ってたけど、なにかあったのかなぁ。
と、僕の懐かしき日々なんてうっちゃるとして、ミレアノさんとシアンが料理が乗った皿を持ってきてくれた。
「まったくどうなってんだい? シアンちゃんたら教えたことを面白いくらいに吸収するじゃないか。ヒトちゃんは幸せだねぇ、こんな子を引き取れて。きちんと幸せにしておやりよ? シアンちゃんはヒトちゃんを幸せにしておやり」
「優秀じゃなかったら、僕ももっと心に余裕があったのカモね……」
「な~に幸せを蹴るようなこと言ってんだい。さ、たんとおあがり。マリアちゃんも、遠慮しないでいいからね」
「さーいぇっさー!」
「《がぶぅ!》痛ぁあああーーーーーーーっ!!?」
どこで覚えたのそんな言葉と言う暇もなく、マリアに
「はいはい、食事の時に燥ぐなとはいわないけど、じゃれつくのもほどほどにするんだよ、マリアちゃん」
「じゃじゃれじゃれじゃれジャジャジャアアーーーッ!!!」
じゃれつくとかそういう次元じゃないんですけど、と言いたいのに、ゴリュゴリュと食われそうになっている肩への恐怖で口が回らない。
ナ、ナルホドー! 吸血鬼に首を噛まれてる時の女性の気持ちってこんななのかー! これは思うように抵抗できなくて当然ダー!!
なので強行手段。マリアのステータスはMNDMAXで、シアンをSTRMAX。そしてシアンにヘルプミー!
「シ、シアン! 助けて!」
「!!」
───……なんとなく。シアンの目を見てそう言った瞬間、彼女の顔を見て……僕は思ったのです。
彼女はマリアが怖くてしゅんとしていたのではなく……僕が明確に助けを必要とするまで耐えていてくれたんじゃないかなぁって。
救助は直後でした。
僕の首に噛み付いているマリアの口に指を突っ込んで、歯と歯を強引に上下に開かせて、僕が離れることで解決。
当然邪魔をされたマリアは邪魔するなとばかりにシアンに向かうけれど、グルービィパンチ(ぐるぐるぱんち)がシアンに当たりそうになった時、シアンはそれを片手ずつでぱしんと受け止めて完全に押さえつけてみせた。
OH……さすがSTRMAXとSTR1。力の違いが目の前ではっきりと明確にされた。
「あ、あ、う?」
マリアは掴まれた自分の拳と冷静なシアンの顔とを見比べて、かなり困惑している。
それはそうだろう、きっと自分が殴ればなんでも吹き飛ぶような世界に立っていたのだ。それが当然だと思っていた常識を覆されて、困惑ばかりが頭の中を埋めている状況なのだろう。
「……マリア」
「!!《びくぅっ!》」
そんな、ステータス移動の詳しい意味も飲み込んでいない状態でのこの状況。
彼女にとって、目の前のシアンは初めての自分の力を容易くねじ伏せる存在として映っている……のかもしれない。だって低い声で名前を呼ばれただけで、肩がすっごく跳ね上がったし。
「私はべつに、あなたがご主人様にじゃれつくことを良しとしないわけではありません。私はあなたが、ご主人様のやさしさの外からご主人様に害を為すことを許せないのです」
「う、うう、う……? ヒ、ヒト、やさしい……わたし、知ってるよ……?」
「そうですね。もちろん私も知っています。けれど今、あなたはご主人様の許容とやさしさの外から、ご主人様に噛み付きました。本気で嫌がっていないのならと私も我慢はしてきましたが、先ほどの“遠慮無用”はミレアノさんが許可したものであって、ご主人様の許可ではありません。加えて、痛がり恐怖するご主人様の一番傍に居るというのに構わず噛み続けるあなたを……! 私は……!」
「《めきり》あうっ!?」
「私はぁあ……!」
「《ぺきぺきこきめき……!》や、やー! やー! いたいいたいー!!」
手に力が入っているのか、掴まれているマリアの手から段々と奇妙な音が……。あ、あの、シアンさん? そこらへんで───
「いたいのきらい! いたいことする人、きらい! あっちいけー!」
目に涙を浮かべたマリアが、自由の利く足を振り上げてシアンへ攻撃。STRMAXのままだから、蹴られたシアンは多少痛そうにしていたけれど耐えた。STR1とVIT1の攻防だけど。
それでもマリアにしてみれば驚愕の事実だったらしい。思い切り蹴ったのに多少痛がっただけで、平然と立っているシアンを前に、困惑ばかりが顔に浮かんでいる。
「抵抗と攻撃の意思を受け取りました。ミレアノさんに曰く、これも躾だそうなので覚悟してもらいます」
「《ぱっ》───!! うぁあううっ!!」
ぱっと手を離されたマリアが、その瞬間に拳を思い切り振るう。シアンを最大の敵と見て、自分の中の最高の一撃をぶつけようとしたんだろう。
対するシアンも振り被って、マリアの拳を顔面で受け止めたまま、驚愕に染まるマリアの顔をずっぱぁーーーんとビンタした。
その破壊力はマリアが床にどかーんと沈むほどの威力であり、ヒィと喉を鳴らした僕が即座に癒しを流すほどでした。
……。
……さて。
宴会騒ぎをしていた冒険者の皆様が顔を青くしつつ出て行った食堂。
その中央に……僕の足にしがみついてがたがた震えるマリアと、ミレアノさんにぺこぺこ頭を下げるシアンがぁ……おがったとしぇ(おりましたとさ)。
「あっはっはっは、いいっていいってぇ。ペットだってんならきちんと躾てやらなきゃねぇ。まあでもあの音は凄かったねぇ……! 酔っ払いどもがみぃんな目ぇ丸くして出てっちまった!」
「あぅう……」
「ま、なんにせよだよ。竜に勝った猫の伝説なんざそうそうないんだ、胸張って笑っちまえばいいさ!」
食堂の一角、その床には、マリアの顔の大きさ程度のヘコミがある。デスマスクじゃあないけど、まあ……躾の痕とも呼べる、その破壊力を窺い知れるものだ。
あとマリアがかわいい。かたかた震えて僕の足にしがみついていて、「しあん怖い、しあんこわい……!」ってずっと言ってる。名前を覚えたようだ。あと、序列的なものも刻み込まれたんじゃないかなぁ。
「マリア」
「ひゃうぅっ!《びくぅっ!》」
で、その恐ろしい強さのシアンの主人が僕だっていうんだから、マリアもカタカタ震えて僕を見上げつつ、涙目で首を横に振っている。いやキミ、怖がってるのにどうしてその人の足にしがみついてるのさ。
「べつに怖いことしないから」
「……! ……!《ガタタタタタ……!》」
「えーと……」
バイブレーションがすごい。
抱き締められた足に伝わるぬくもり……なんぞよりも、震えがすごい。
こんな時は……どうすればいいんだろう。生憎と、女性に対する……えっと、マナー? あと自分が持ってる、女性に対してのぽりすー……ぽ、ぽりしー? みたいなの、あんまりないんだよね、僕。
悠彰もあんまり人付き合いはしなかったし、香織も僕と悠彰以外とは距離を取ってた感があった。ひとりぼっちが集まった僕らの関係は、本当に気安いものだったのだ。他との交流が壊滅的だったけど。
ただ……うん。ただ。いじめ実行犯の足を砕いて、親にサンドバッグにされて、それでも休むんじゃねぇぞと言われて学校に行ったあの日。親から離れて暮らせていても、結局は言いなりまがいでぼろぼろだった僕を、香織は───
(……ああ、そっか)
人にぬくもりを与えるようなことをした記憶、本当に少ない。それでも僕自身がぬくもりをもらったことなら、数える程度だけれどあったのだ。
“頑張ったね”って、自分がやった無茶な行動を褒めて、抱き締めてくれた。世間的に言ってしまえばとても褒められたことじゃあない。大人は話し合いでなんとかできなかったのかって言うばかりで、いくらいじめられていたって言ったって、それを隠そうとするばかり。証拠を出したって擦り付け合いが始まるだけだ。
そんな世界に呆れ果てて、もういいやって思えたから踏み出せた一歩。踏み出した先で、こんな温かさもあるんだな、なんて救われた二歩目。
いじめられていた自分からしてみれば、やらなきゃなにも変わらない世界だったのだ。それを褒めてくれる人が居た。救われたって言葉を使うことが許されるのなら、僕は確かに救われたのだ。
「………」
でも、ここで頑張ったねと言うのは違う。じゃあ、なんて?
「ね、マリア」
「う……?」
「僕たちはね、平穏な癒しの人生を歩むために、日々を生きているんだ。その過程でキミと出会って、こうして話し合う機会も持てた。僕の目的は、たぶんこれからも変わらない。病気に苦しんでいる人を癒してやりたいし、死ぬしかない人を救ってあげたいと思う」
「ん……うん」
「もしマリアがそれを手伝ってくれるなら、これからも一緒に居よう。それとも別の用事があって、そんなことをしている暇がないなら……ペットなんてものにならずに、自分の住処に帰るのもいいと思う」
「………」
「僕はキミに強制はしない。躾って言葉で怒られるのが当然なのが嫌なら、きっと僕らと一緒に居るべきじゃないよ。僕らは僕らの目的のために行動しているし、その行動のいくつかが気に入らないって言われたら、僕らはそれを受け入れられないと思う」
「うー……」
「どうかな。もし一緒に頑張ってくれるなら……」
「いたいの、や」
「うん。僕だって、マリアに噛まれれば痛いよ」
「う、あう……」
それはそうだと納得できたのだろう。尖った耳をしょぼんと垂れさせて、俯いてしまう。
「でもね、僕は癒すことが出来る。マリアが痛かったら癒してあげる。つまらなかったら一緒に騒いであげられる。“楽しい”を探しながらでもいい、ゆっくりと、確実に、癒しの平穏に辿り着くことを夢見てる。マリアはどうかな。そんな日々は退屈かな?」
「………」
マリアがじぃいーーーっと僕の目を覗き込んでくる。俯かせていた顔とは思えないくらい、真っ直ぐな目が、僕の内側を除くように。
「……わたし、しあんより弱いよ?」
「それには事情があるから大丈夫」
「ヒトに、痛いこといっぱいしちゃったよ……? あっきー、言ってたのに。自分がされて嫌なこと、しちゃだめだって言ってたのに」
あっきー? ……彰利さんかなぁ。だろうなぁ。
「痛い思いなら多少は慣れっこだよ。やせ我慢だけど」
「…………あじん、だよ? 知ってるよ? ニンゲンは、あじんが嫌いなんでしょ?」
「へえ、そうなんだ。でも他人は他人だ。僕は大好きだね。譲れるもんか」
「あぁそうだね、あたしだって大好きさ。自分が悪いことされたわけでもないのに、なんだって嫌わなけりゃならないんだい」
僕の言葉に、よく言ったとばかりに背中をばぁんと叩いてくるミレアノさん。
おかしなところに当たって、さすがに咳き込んだ。
……おかしいなと思って調べてみれば、こういう“ツッコミ”とか“頑張んなよ”的な打撃にはVIT効果は適応されないらしい。ただし相手側のSTRも反映されないため、ツッコミで死ぬことなんてまず無いそうだ。それが戦いなら別だけど。
「………」
「ほ~ら、マリアちゃん。いいから頷いちまえばいいんだよぉ。今時こぉんな風に亜人を好んでくれるやつなんざ珍しいんだからっ」
「ん、んー……ううー……」
ミレアノさんに促されつつも、思うところがあるらしいマリアは僕の目から視線を外して、うろうろとあっち見たりこっち見たりだ。
けれども何かを決心したのか、人差し指をピンと構えるとがぶりと噛んで、僕の目の前に突き出してくる。血が出てる……えと、癒せって意味? それとも……? いや、こういう時は全てのもしもの裏を突くのが嫌われ者の道! 僕は行くよ悠彰! 様々な人に嫌われても、君達と友達だった僕だから、あえてその道を───!
というわけで、癒さずに口に含んだ。マリアが僕の指を齧ったように、軽くかぷりと。その瞬間、血液を癒しても水分は多少減ったようで、喉が渇いていた僕はごくりと口内に溢れたものを嚥下してしまった。血と、少しだけえぐれて、ささくれ立っていた彼女の薄皮を。
するとどうでしょう。
ピピンッ♪《竜の血肉を飲み込んだ!》
ピピンッ♪《魂結糸が繋がった! 竜属性が付加された!》
ガカァン……!《攻撃力方面で伸びる筈のステータスの一切が伸びない!》
ピピンッ♪《代わりに防御面が強化された!》
……なんだかとんでもないことになっちゃったぞ。
え? なに? こんけつし? りゅうぞくせい?
困った時はマクスウェル図書館だと、プレートから図書館にアクセス。
◆魂結糸───こんけつし
魂を結ぶ糸、と書く。死神が使う能力であり、魂と魂を結ぶ。そのまんま。
弱っている魂へ自分の魂の力を送ることも出来るし、魂レベルで繋がっているので、一心同体に近い。
◆竜属性───りゅうぞくせい
某魔物ハンターの龍属性とは違い、付加している状態だとクリティカルが出しやすくなる。
防御側でこれが発動した場合、クリティカルガードが可能。
敵からの致命的一撃をガード出来たり、受けるダメージを究極的に減らすことも可能。
ただし確率なので、あまり過信しすぎると怖い。
「へええ……」
魂レベルで。それとガード方面にもクリティカル要素が。
……で? マリアの指を差し出してきた理由はこれを僕にあげたかったってことで、いいんでしょうか? と、未だに指を銜えたままに、こてりとマリアを見つめつつ首を傾げた。
と、ログに新たにピピンッと文字様が光臨。
◆竜族の同胞
竜族に認められた者。
竜族は通常、他種族の在り方を認めず、下に見る傾向がある。
生まれた時から“竜族としての誇り”を持つため、どうしても己より弱きを下に見てしまう。
そんな竜族が、討伐されて血肉を喰らわれるのではなく、生きたまま相手を認める行為が、己の一部を認めた相手の血肉とすることである。
と言っても、前提条件として血肉を飲み込めとは一切言わないので、大抵の者が傷を癒したり顔を背けたりで受け入れない。
そもそも前知識もなく竜族に傷口を突き出されて、舐めるという行動を取るなど阿呆の極みであろう。この阿呆。
おのれ天秤。
またしても最後の一行に余計なことを。
でも確かに舐めるとかは普通はしない。やっちゃったけど、しないだろう。
そしてどうやら僕は、マリアに同胞として認められたようだった。
だってほら、今までにない笑顔で僕の腰に抱き付いてきて、すりすりと頬擦りされております。だが甘い、不可視化されているけどそれはオーガアーマーで「むー! じゃまー!《ベキゴキバキゴキ》」オーガァアーーーッ!! オーガがオーマイガァーーーッ! ってヘンテコなこと言ってる場合じゃっ……あ、あー……。
鎧を砕かれて不可視化が解けたソレの隙間から、マリアが僕のお腹に頬をすりすり。めちゃくちゃくすぐったいです。鎧を癒そうものならまた破壊されるのが目に見えているから、このままで居る以外ないのかナ───ってちょっと待った! またステータスが無視されたよ!? STR1の筈なのに!
マリアのステータスを覗いてみれば、やっぱりステータスが戻っている。とんでもないSTR数値がそこにあった。ナ、ナルホドー、鎧くらい砕けるワケダー。
でもどうして? やっぱり竜族の謎の力が働いているから?
……もうちょっと詳しく調べてみたほうがいいのかも。書いてあるかは別としても。
「で、マリア? 一緒に歩いてくれるってことで……いいのかな」
「えへへぇ、ヒト、家族! 竜族、家族は大事にする! まりあが痛いとヒトも痛い! だからヒトとわたし、一緒!」
「それはこの魂結糸ってやつのこと?」
「んーん、それが竜族。血を分けようとして拒まなかったの、とっても珍しい。んと、こんけつし、っていうの? よくわからない。でもヒトは家族! おいしい家族!」
「“おいしい”は抜きなさい!」
「? まりあのことも、食べていーよ?」
「食べないから! ……あっ!? ちょ、ちょっとマリア!? 僕べつに、等価交換ならいくらでも食べていいって意味で誘ったんじゃないからね!? 痛みを共用するならいいじゃないとかそういう意味じゃないから!」
「うふふぅ~、ヒトー、ひ~と~♪」
「さっきまでの恐怖はどこに《ぺろり》舐めるなぁあーーーーっ!!」
お腹を舐められた。剥がしにかかるけどSTRじゃ全然敵わない。
すぐにステータス移動をしてべりゃあと離し、オーガアーマーも完全に回復再生させたけど、今度はオーガヘルムをベキャアと破壊された上で首に抱きつかれた。
も、もうやめて! 一応この鬼憧さん、悲しい過去の末に出来た鎧なんだから! これ以上壊さないであげて!
「よーしよし、いい具合に懐いたねぇ。……い~かいヒトちゃん? 亜人ってのはねぇ、いつだって不安を抱えてるもんなんだから、受け止める時は全力で受け止めてやんなきゃいけないよ?」
「流されるように受け止めることになった気がするのですが……?」
「そうだったなら、これからの頑張り次第さね。それより、マリアちゃんも泊めるなら先払いされた料金じゃあ足りないんだけど、どうするんだいヒトちゃん」
「あっとと、そうだった。じゃあまずはマリアのプレートを作らないと」
精霊王様のお陰かどうかは別としてもマリアは確かにプレートを持っている。けど、それがきちんと彼女のものかはわからないのだ。なのできちんと申請をしなければ。じゃないとクエストこなしてもランクアップしないかもしれない。
って、ああそっか、この場合マリアはランクFからになるのか? ということはまたコボルトの捕獲やらを───
と。
そう思っていたのだけれど、申請してみれば「あなたのギルドにはもうコボルト関連は頼みたくありません」と受付嬢にキッパリ言われて、マリアさん、特例としてEからの出発。プレートはきちんとマリア用のものだったらしく、正式にトーテムポールロマンスへの加入手続きも終わった。
宿に戻ってきた僕らは改めて宿泊代を支払うと、ようやく一息。
ギルドに登録されたことで独特の輝きを放ち始めたプレートを手に、子供のように燥ぎ、抱き付いてきたり甘噛みしてきたり舐めてくるマリアを前に、「見て見てー!」と自慢するために突き出されたプレートから、落ち着きなさいとばかりにステータス移動。今までのように奴隷紋からじゃなくて、自慢を褒める意味も込めて、すごいなーとばかりにプレートに触れて……他を1、MNDをMAXにすると、動きが遅くなって力強さもなくなって、喜ぶだけの少女に変身。
するとどうでしょう。どっかで見たログが目の前の半透明ウィンドウに現れて───
◆マリア・M・簾翁/JOB:奴隷
…………マリアがペットから奴隷にクラスチェンジした。
OH……───OH……!
そうかしまったそうだったぁあーーーっ!!
よよよよくよく考えてみよう!? 僕の能力って奴隷にだけ通用するものだよね!?
それってつまりペット相手で出来ることの方がおかしくて、だからこそ完璧じゃないから本人の強い意思とかでステータスが元に戻ったりして、さらに言えばプレートを見せられてそのプレートでステータス移動=……リシュナさんの二の舞ぃいーーーっ!?
「……マリア」
「? なに? ヒトー」
認めてくれた同胞を奴隷にした罪悪感は半端じゃございませんでした。
なので誠心誠意謝ってみたら、「ペットで奴隷で家族! 繋がりいっぱい! はっぴぃ!」と喜ばれた。
……うん。なんかね、もうね。泣いた。主に罪悪感で。
え? 主じゃないものってなんなんだって? ……ほら、黒竜王に会った時とか……さ。僕が生きている未来が想像出来ないんだ……。
22/僕らの勇気-未満屠死-
かちゃかちゃかちゃかちゃ……と、僕らとミレアノさん以外に居ない食堂に、編み棒が動く音がする。ミレアノさんの指導のもと、シアンが編み物を編んでいる音だ。
食事も普通に美味しく終わってから少しあと。まずは“ものを作る”と意識せず、編み方のみを覚えなさいとのことで、シアンはひたすらに毛糸をあみあみ。
「懐かしいねぇ。娘は毛糸と同じ名前だってんで、あたしが毛糸に触るのを嫌がってねぇ。“わたしを構え~”って、やかましかったもんさ」
「そうなんですか? って、そういえばミレアノさんの娘さんの種族は?」
「種族かい? 妖精だよ」
「妖精? 妖精ってあのー……小さくて、ひらひら飛んでるイメージの?」
「そう、それだ」
へえ、妖精……って、妖精って獣人の内に入るの?
ミレアノさんの娘は、それが原因で服屋に嫌われてたんじゃ……って、そういうヘンクツ野郎にとってみれば、亜人だろうが獣人だろうが同じなんだろうね。よくある、嫌な話だ。
「あたしの旦那は妖精が秘術で人間サイズになったって妖精でね。大恋愛の末に結婚、子供を産んだのさ」
「え、と……その。その場合、子供のサイズはどっち寄りになったんで……?」
「それがおかしくてねぇ。最初はきちんと赤ちゃんサイズに産まれたってのに、成長するにつれ妖精サイズになっていくのさ。旦那も大笑いしていたよ」
そ、そうですか。随分パワフルというか、ミレアノさんと大恋愛したってだけのことはある旦那さんですね。
「ちなみにその旦那さんは……」
「うん? ああ、別に死んじゃいないさ。ちとエーテルアロワノンっていう、特殊な場所に行っているだけだよ」
「エーテル……」
変わった名前だ。っとと、僕も人のこと言えないなぁ、踏み込みすぎだ。
初日にミレアノさんに言った言葉がブーメランだ。反省。ところでブーメランって並び替えるとラーメン部になるよね。どうでもいいけど。
「ああ、それでヒトちゃん? マリアちゃんはなにをやってんだい?」
「はい。今ちょっと、月操力っていうのを使ってみようって状況です」
「げっそうりょく?」
「はい」と頷いて、集中しているマリアを見る。
テーブルの向かいに座っている彼女には、まず“月光力”というスキルを確認してもらうところから始まった。
図書館に曰く、月光力……総じて月操力と呼ぶらしいそれらは扱えればほぼ出来ないことがなくなるといわれるものだそうで、だったらと。
総じて、というのは月操力にはいろいろとあるから。その中の力に、なんと癒し系のものまであるとマクスウェル図書館に書いてあるじゃないか! それはすごい! とシアンと一緒に驚いていたら、ログにメッセージが流れてきて“ミルハザードの娘からは癒し系能力は抜いておく スピリットオブノートより”と。なんとも外道である。
べつに僕、自分以外の人が癒しを使えても、嫉妬とかはしないのに。自分の価値は疑うだろうけど。うん、自分で言っててアレだけど、HIMOな自分を考えると、いろいろとね……。
考えてみよう。癒しと防御力くらいしか取柄がない僕の他に、マリアが癒しを使えたら…………ほぅら、癒しの店を出したとしても、僕が要らないコに! …………いや待て落ち着こう。癒しっていったって、ピンからキリまであるんだし、マリアの癒しがどれほどのものかも僕は知らない。むしろもう知ることも出来ないのかもしれない。
「マリア、どう?」
「ん!」
訊ねてみれば、笑顔でバッと操作中だったプレートを見せてくるマリアさん。その様たるや、大好きな親に自慢の通知表を見せる子供のようだ。あっはっはっはァ、懐かしいなぁ、子供の頃は隣の家の子供がこぉんな笑顔で親に通知表見せてたっけー。……僕は興味すら持たれず、帰宅すれば舌打ちされただけだったけどね。
まあ僕の過去はいい。それよりマリアのプレートだ。ええっと?
◆月操力───げっそうりょく
神と死神の子たる、月の家系の者に宿る力。
月の顔の数だけ姓と能力があるとされ、始まりの名を月神力。神と死神の力を制御出来る者にのみ、その力の名と“屠神冥月”の名が与えられる……筈だったが、名を授かった者は結局一人だった。
神と死神の制御を外した能力解放からなる名は月光力。全ての月操力を扱える素質と、家系に伝わる三刀、壊塵刀、滅人刀、断影刀を扱う素質を持つ。
以下はそれぞれの月操力の名に分かれており、血が濃い者でしか他の月操力を扱うことは出来ないとされている。
家系の中でも死神の血が濃いとされるのが弦月の姓を持つ者であり、神の血が濃いとされるのが朧月。それぞれの力を月壊力、月蝕力と名づけられている。
*姓と能力の詳細についてはココをクリック
「………」
クリックしてみると、ドザーと現れる文字、文字、文字。長ぇ。
ナルホドー! マリアが特に何も言わずに見せてくるだけあって、説明しづらい量だ。……見るのか? これ結構面倒だぞ? 本当に見るのか? 詳しく読んでしまうのか?
……見るべきか。後回しにするのも面倒だし、そもそもマリアの能力拡張のためだ。
僕らのギルドの中には魔法特性が高い人が居ない。リシュナさんも含めて、僕らは物理ばかりが秀でている。僕に限っては防御ばかり。しかも魔法防御は0。ひどい状況だ。
なので、いざという時のためにも調べておくべきだろう。
◆家系の姓、印、能力一覧
月の顔の数だけあるといわれる家系の姓の一部。
派生したものや忘れられたものもある。
能力は神や死神が使えたものから枝分かれしたものとされ、人間が急に使えるものではない。
読み方を変えている姓もあり、本来ならば十日夜は“とおかんや”、十三夜は“じゅうさんや”と読む。日余の読みの本来は“二十日余り月”から来ている。
世界融合に伴い、同じ読みの能力が多かったため、自力でほぼ全てをマスターした月の家系代表の変態オカマホモコンが名前の変更を提案、受理される。
*能力
*注意
過去より、望月の印って月癒力なのに癒しじゃねーのかと言われてきた。月生力のほうが癒しなために、これは仕方ない。
しかしながら月癒力は死者さえ蘇らせるとされ、そういった意味で過去では“癒し”として認められてきた。
ただし空界では死者蘇生が禁止されているため、なんかもう癒しどころではない。
でも転生、融合は許可されている。過去にルナ・フラットゼファーやその旦那は、別の時間軸の自分との融合を果たしているらしい。
過去に戻って、過去の自分を喰らって融合した竜王も居るが、気にしちゃならない。
あと朧月の力は神や死神や月の家系相手じゃないとあまり意味が無い。
月空力は過去や未来、別の時間軸へ飛ぶことも可能なものの、最近ではいろいろあって精霊王様に禁止されている。やってもいいけど歴史を変えるとかはやっちゃいけません。
なお、たとえ変えたとしてもその時間軸はキミが育った時間軸とは繋がってないから、キミの時間軸の過去がハッピーに変わるなんてことは一切ない。本当の意味で、“自分”の過去を変えることは出来ません。
「………」
やっぱり長い。
でもちょっと待った、気になったことひとつ。
マリアは“簾翁”なんだよね? なのにどうして月光力? 月神力じゃないの?
疑問を抱けばあっという間にメッセージが現れる。便利だなぁこのプレート。
◆力の素質、成長
その姓の家系に産まれたからといって、全ての素質があるとは限らない。
その代表として、弦月彰利の父親は才能ゼロで態度だけはでかいクズだった。
その末路はレオという名の死神による斬殺であり、別の時間軸では亜人にされた上にヤムベリング・ホトマシーに拾われ、死なない実験道具にもなった。
素質云々はいろいろあるが、足りないものを補って制御までを可能にすれば、開花の可能性もある。
常識なんぞは破壊してしまおう。
……いろいろあるんだなぁ、月の家系。
でも、そっか。悠彰ってやっぱり能力とか使えたんだなぁ。全部の力の素質とか、すごいじゃないか。ビッグシールドガードナーで食料扱いな僕とはえらい違いだ。比べて落ち込む性格はしてないけど、これは嬉しい。自分が好きな友達にこれだけの素質とかがある。それは、言ってしまえば香織が助かって、幸せになれるあの説明への確証の判断材料が増えたからだ。
僕も頑張らなきゃ。幸せになろう。そのためにも、今出来ることをこつこつと!
「よし、じゃあマリア、癒し以外の月操力を勉強してみよう」
「いぇっさー!」
「……ちなみにその返事は誰から教えてもらったの?」
「? えとえと、んー……んん、名前、知らない。すっごく綺麗な人と一緒に居た。あっきーの知り合い。んん、んー……あと、んーと……」
指折りに説明しながら糸目になって、んーんーと唸っている。ただともかく、楽しい気分にさせてくれた人なんだそうな。
「えっとね、綺麗な人のほうが、どりあーど、って呼ばれてた。でーとなんだ~って笑ってたよ?」
「ドリアード? ……ナギーかな」
確かに綺麗だったけど。でもデート? デートって性格じゃないよな、ナギー。
きっと別のドリアードだろう。なんか精霊は普通のと黒とで二人居るとか言ってたし、きっとそうだ。
「まあいいや、じゃあ攻撃的じゃないものから。さすがに食堂で破壊活動をするわけにはいかないし」
「ん!」
こくりと元気に頷く。その横で黙々と編み棒を動かすシアンは、それはもう幸せ顔だ。なんでも僕のために自分のスキルがぐんぐん上がるのが嬉しくて仕方ないそうで……そんな話されたら、こっちが照れてしまう。
「まずはこの……月清力? からいってみよう。静める力……いろいろなものを沈静する力があるって。これを使えるようになれば、暴走とかも怖くないだろうし」
「お~……でもわたし、ヒトに静められるの、好き」
「出来れば食わないでください。それに、言ってはみたけど暴走なんてなかなかしないでしょ」
「暴走すれば食べていいのっ!?《ぱああっ……!》」
「そういう意味じゃなくてね!?」
「ヒトちゃん? いくらお金を節約してるからって、ご飯を食べさせないのはよくないねぇ」
「ほらー!」
「ミレアノさん!? 食事の意味がいろいろ違うからやめて!?」
食堂は静かなものだ。外からは賑やかな声が聞こえてくるけど、たまに他の宿泊客が通路側を通るくらいで、僕ら以外の声や姿は特に無い。
そんな中で食事事情で騒ぐ僕らは、案外平和といえるのだろうか。もちろん僕だって、彼女の食事が僕じゃなければここまで騒いだりはしない。いろいろあるんです、いろいろ。
「とにかくほら、月清力。なにかを静める気持ちでやってみよう」
「うん。ヒトへの我慢を静めてみるね、ふぁいとふぁいと~」
「そこは我慢しよう!? 欲望を静めよう!?」
にっこり笑顔でなんてこと言うのこの娘! でも笑顔でなにかに取り組むこと自体は間違ってない……よね? 何事も楽しく。それがこの世界の自由であるのだから。
「しずまれしずまれ~……げっしんりょくー!《バァアーーーン!》」
「………」
「………」
「………」
「……う?」
手を突き出して言葉にしてみるも、SPが減った~とかそんなことはない。でもなんだか心が穏やかだ。急に穏やか。何事?
ピピンッ♪《マリアが月清力を覚えた!》
ピピンッ♪《マリアからの月清力で、ツァガ・ヒトのツッコミ心が落ち着いた!》
……ツッコミ心ってなにさ。
でも発動はしたらしい……のに、消費無し。もしかして僕のIYASHIみたいに消費がない能力とか? だとしたらとんでもない。これ全部をマスター出来れば、どれほどありがたいことか。
ほらごらん、いきなり成功したもんだから、マリアったら連続で使いまくって燥いでおるよ。おっほっほ、僕の心もまるで孫を見守るお爺様のようじゃわい。ああ穏やか。とってもやさしい気分だ。……とか思ってたらマリアがばたーんとテーブルに突っ伏した。
ガカァン……!《ムーンポイントが足りません》
なんか項目にはないSP的な何かが枯渇したらしい。
あー……そりゃそうだよなー……。溜め息を吐きながら、困った時のマクスウェル図書館でムーンポイントを調べてみれば、MPとして表記された説明がそこにあった。
◆MP───ムーンポイント
月の家系に伝わる月操力を扱うための精神力。
普通に生活していてはなかなか回復しない厄介なもので、月光浴以外に回復手段がひどく少ない。
ただしその人物の好物を食べることで回復すると昔からの言い伝えがある。
ちなみに弦月彰利の好物はレタスであり、雲の無い満月の夜、レタスを手にした彼ほど厄介で面倒くさい者は居ないとの噂。
「………」
ただしその人物の好物を食べることで
「……《ごしごし》」
ただしその人物の好物を
「…………《ぱちくりぱちくり》」
その人物の好物
「………」
好物
「───……」
神様───……
静かに、穏やかな心のままにテーブルに肘を突き、頭を抱えた。
そして穏やかな心のままに涙をこぼすと、笑顔で彼女の横までを歩き、横抱きにして立ち上がる。
急に倒れたマリアを心配したミレアノさんが僕を見るけど、僕はどこまでも穏やかな笑顔で返し……そっと食堂を出て自分の部屋までを歩き、中へ入ると…………食事となったのでした。
喜べば落とし穴がある。なるほど、実に秤にかけられたような出来事ばかりだ。
痛覚を麻痺させてカリポリ食べられる中、未だに静かな心のままで、そんなことばかりを考えておりました。
……追伸。
コ、コレで回復しなければ、もう食べさせる意味とかないヨネ!? ナッ……ナイヨネ!? なんて淡い期待は、元気に月清力を扱う彼女を目にした時点で、その全てを綺麗に粉砕されました。
頭の中で悠彰がヘンテコなポーズを忙しなく取りながら、「平和を願う哀れな少年の期待を粉砕する男! スパイダーマッ!」とか叫んでいた。もうどうにでもしてください。
動くけど停止するPCに代わり、ノートPCを購入。
繋ぎのためのものだから一応って程度のスペックだけど、慣れてくると使いやすいです。
というわけで更新再開です。