おやすみ人類   作:トクサン

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機甲兵

 

 

 点呼を行いHRが終わると、授業開始前の挨拶を数十分仕込まれ、そのまま授業が行われた。ノートもペンも無いのにと思ったが、彼曰く「ノートに書く必要はない、この場で覚えろ、どうせノートを読み返す暇もない」との事だった。聞いて駄目ならやって覚えろと男は言う、因みに彼の名前は堂島正臣と言うらしい。

 この機甲兵操縦科の副担任との事だった。

 

「まず君達――いや、貴様等に教えなければならないのは『機甲兵』についてだろう、これは国防軍と世界防衛機構(WDO)が開発した対ジャガーノート用の強化外骨格……分かり易く言えばロボットだ」

 

 そう言って堂島が体をズラすと、教室天井に設置されていたプロジェクターから画像が黒板に向かって投影された。投影された画像は恐らく機甲兵と呼ばれるもの、人間に限りなく近い形をした二足歩行のロボットの前面、横、後ろの図が映し出されている。

 その形状は何と表現すべきだろうか。

 まるで鉄の塊――人間の体に装甲を打ち付けた様な、そんな外見だった。ひと昔前のアニメに在りそうなロボットなどではなく、酷く現実的で物々しい雰囲気を醸し出していた。

 

「大きさは大体七メートル前後、人間を乗せて尚且つある程度の戦闘行動が可能な大きさがこの程度だったらしい、WDOはこの兵器を『バトルドレス』、国防軍は『機甲兵』と呼んでいる、特に名称には拘らないが将来的にWDOと共同戦線を張る事もあるだろう、機甲兵よりはバトルドレスで憶えておけ」

 

 バトルドレス、バトルドレス。

 紬は小さく呟きながら小さな脳味噌にその名前を刻み込んだ。これから乗り込むマシンについてだ、紬の命を預けるモノと言っても良い。見れば周囲のクラスメイトも真剣な目で堂島の授業を聞いていた。やはり命懸けとなると真剣にもなるだろう、なにせ失敗すれば死ぬのだから。

 

「種類は大きく分けて三つだ、近距離用、中距離用、遠距離用、WDOとの協議でこれらのタイプは『アサルト』、『ノーマル』、『サポート』と呼称している」

 

 堂島がそう説明して手首に装着したブレスレットに触れると、プロジェクターから投影されていた画像が切り替わった。先程の機甲兵(バトルドレス)から三種類に分かれた画像、恐らく近距離、中距離、遠距離のバトルドレスだろう。

 堂島は一番右端のバトルドレスを指差した。

 

「コイツが近距離用のバトルドレス、要するにジャガーノートと殴り合う為の兵装だ、小難しい話は整備科に任せるとして、貴様等が知らなければならないのは種類による差異、長所と短所だけだ、これから掻い摘んで説明する」

 

 再び変わる画像、今度は近距離用バトルドレスの前面、側面、背面が映し出される。ついでにバトルドレスに搭載されていると思われる銃器の画像も添えられていた。最初に見たバトルドレスはノーマルの武装だったのだろう、近距離用のバトルドレスは装甲に固められた要塞の様な見た目をしていた。そして所々にバーニアと思われるノズルが見え隠れしている。

 

「近距離用のバトルドレスは関節部位を除いて全面に増加装甲を装備した最重量バトルドレスだ、武装はデフォルトで高周波ブレードとサブマシンガン、それと目くらまし用の煙幕弾頭」

 

 煙幕弾頭は斬り込む場合か、一時撤退する時に使用する逃走と強襲用武装だ。堂島はそう説明すると、搭載されている武装の画像を拡大させた。

 

「高周波ブレードはハーモニックスカルペル、高速振動の熱で溶断する兵器だ、炭素繊維化合物(カーボン)製だからそこそこ丈夫で継戦能力に秀でている、近接武装は弾薬を気にせず済むからな、扱い慣れていて損はないぞ、サブマシンガンはバトルドレス用にオーガス社が開発した武装だ、装弾数四十、弾倉は腰部ポケットに二つ、口径と発熱の問題で連射するとバレルが溶ける、交換用のバレルは積載容量過多で搭載されていない、弾倉三つを撃ち切ったら潔く捨てろ」

 

 早口で端的、必要な事を必要な分だけ、そんな説明。

 紬はブレードがメインで、サブマシンガンは全弾撃ったら捨てる、そう慌てて記憶する。細かい部分まで憶えている暇はなかった。そうこうしている内に今度は機体そのものの説明に切り替わった。

 

「機体は先程も言ったが装甲でガチガチに固めた重量機、機動性はノーマル、サポートと比べて約五十%も劣る、ハッキリ言って鈍足だ、更に装甲に積載重量を大幅に食われている為改良、及び追加武装の積載が殆ど不可能、言ってしまえばブレード一本で戦わなければならない玄人機体か」

 

 ブレード一本で戦う、それを聞いた紬はコイツだけには乘らない様にしようと思った。そもそも敵に自分から近付きたいとは思わないし、自分にはそんな玄人向きの機体など無理だと確信している。こういうのはきっと凄まじい適正を持っているだとか、とんでもない手練れのパイロットか、そういう類の人間が乗る機体なのだ。

 

「さて、次は長所だがコイツは凄まじく硬い、積載容量の殆どが装甲な分並大抵の攻撃なら装甲で全て防ぎ切れる、ジャガーノートの繰り出す攻撃の七割は近距離用バトルドレスにとって有効打に成り得ない、それに鈍足とは言ったが素早く動くのが不可能な訳ではないんだ、脚部と背部に計三ヵ所バーニア機構がある、燃料の関係で十分程度の使用が限界だがブーストによる緊急回避も可能だ、無論パイロットの対G耐性も関係あるが上手く使えば撤退も容易になる、現バトルドレスで最も敵に接近するが、最も生存率が高いのがこの機体だ」

 

 訂正、生き残れるならこの機体でも構わない。

 

「さて次だ、今度はノーマルについて説明する」

 

 再び切り替わる映像、今度は先程のバトルドレスより幾分かスマートな外見をしていた。装甲が少ないのだろう、全体的に薄い印象を受ける。細いと言うよりは『薄い』だ、それは基本的な骨格が変わらず、装甲だけが削られている事を意味していた。

 

「この機体がノーマル、恐らく貴様らの練習機もこの機体になるだろう、武装は内蔵武装でディフェンスナイフと連射砲、備え付けの武装はこれだけだがノーマルはカスタム性に富んだ機体だ、サポートやアサルトと比較して積載容量に大分余裕がある、パイロットに合わせて武装の取捨選択が出来る故に『マルチドレス』の名を冠している、バトルドレス用の武装はそれ程多くはないがあらゆる局面に対応した戦術が取れる、現在在籍している国防軍のパイロット、その半数はこのノーマルに搭乗している」

 

 武装の画像と機体の画像が交互に切り替わる。どうやらノーマルは万能、或は器用貧乏とも言える機体らしい。堂島の言うディフェンスナイフは、先程の高速振動(ハイメルト)ブレードと比較して刃渡りが短く、切れ味も余り良さそうには見えなかった。堂島曰く、これはあくまで全ての攻撃手段が無くなった場合の切り札で、斬るのではなく突く武装だそうだ。

 

「さて、最後の機体はサポートだ、この機体はノーマルの武装にも依るが恐らく俊敏性だけで言えば全機体の中で最も高い、武装はデフォルトで狙撃銃(ライフル)と展開装甲、近接装備は装備されていないので注意しろ、それとサポートの名の通りこの機体の背部には索敵用のアンテナが装備されている、基本的には索敵を行い事前の敵の位置を掴みつつ長距離射撃で味方を援護する戦い方だ、展開装甲は狙撃時のカウンターを防ぐ為にある、ジャガーノートに関する説明は追々行うが、連中の中にも狙撃可能な個体が存在する、近距離攻撃手段が存在しない機体だが、場合によっては追加武装も可能な機体だ、上手く使え」

 

 以上三機が現状WDOと国防軍によって開発された機甲兵、バトルドレスだ。そう締めくくった堂島はプロジェクターを停止させる。

 紬は脳内に記憶したバトルドレスの説明を反芻した、目下重要そうな事は『機甲兵』ことバトルドレスには三つの種類があり、アサルト、ノーマル、サポートと呼称される。

 アサルトは近距離用で玄人志向、尚且つ生存能力が高い。ノーマルは万人向けでカスタム性に富んでいる、サポートは遠距離で索敵しつつ狙撃する軽量機。

 大雑把だがこんな所だろう、間違っては居ない筈だ。

 各々の武装については正直良く分からなかったので、実際に動かしてから学ぼうと思う。

 

「まぁ話だけ聞いても良く分からないだろうから、実際に乘って操縦の感覚を掴むまで知識として知っておけば良い、そろそろ授業も終わるが……午後からは体育館での訓練を行う、体操着が支給されるので各々更衣室で着替えを行う様に、集合時刻は十三時だ、以上、号令」

「え、あ……き、気を付け!」

 

 号令の声が聞こえたと同時に紬は声を張り上げる、授業前に教わった挨拶だ。この学校では起立、礼、着席の順では無く、軍隊式の挨拶が採用されている。全員が席を立って背筋を伸ばし、堂島を真っ直ぐ見据えた。

 残念な事に、今日の号令当番は自分だった。

 

「堂島二等陸尉に敬礼!」

 

 全員が同じタイミングで堂島に頭を下げる、十度の敬礼だ。

 授業前に十数分だけ習った敬礼だ、正直体に馴染んでも居ないし不出来であると自覚している。堂島は全員の敬礼を眺めた後、ふっと口元を緩めて「まぁ、お前達は速成部隊だ、敬礼など学ぶ時間があるならば操縦を身につけろ」とフォローらしき言葉を漏らした後、「休め」と告げた。

 全員が腕を降ろし、そのまま席に着く。

 その一連の流れに堂島は満足そうに笑い、「では午後の授業も遅れない様に」とだけ言って教室を出た。上官兼先生が居なくなった瞬間に全員が息を吐き出して安堵する。

 

「っァ~、何ていうか、気が抜けねぇな、此処の授業」

「そうですね、居眠り何てしたら大変な事になりそうです」

 

 杉田が伸びをしながらそう言えば、大谷が大きく頷いて同意する。それは多分授業内容についていけなくなるとかそういう意味では無く、単純に先生に何をされるか分からないからだろう。無言でぶん殴られるとか、そんな事もありそうだ。

 

「午後からは訓練って言ってたけれど、やっぱり軍隊式?」

 

 紬が背を逸らして骨を鳴らしながら問いかけると、大谷は曖昧に頷く。

 

「まぁ多分、前の学校と同じ体育の授業を期待していたらマズイでしょうね」

「きっとスパルタだぜ……と言うか俺は、さっさと機甲兵とやらの操縦訓練でもやらされると思っていたんだがな」

 

 杉田は頬杖を着きながら少しだけ不満そうにボヤく。どうやら彼は肉体の訓練よりさっさと操縦を体験してみたい様子。単なる好奇心か、或は単純に生き残るために必要だと思っているからか。

 紬には分からなかったけれど、確かにと紬も同じように思った。

 

「アレを操縦するのにも、体力が必要って事じゃないの~?」

 

 紬たちが顔を突き合わせて話していると、ふと一つ高い声色が混じる。声のした方に顔を向ければ、金髪の女が笑みを浮かべながら自身の机へと近寄って来た。その背後には大人しそうな黒髪の子も居る。金髪の子は笑みを浮かべているが、黒髪の子は無表情のままだ。

 

「私、佐々木風香、それでこの子が――」

「……伊藤恋」

 

 金髪でフレンドリーな方が佐々木風香、黒髪で大人しそうな方が伊藤恋。どちらも可愛い部類の女性だ、黒髪の方は可愛いと言うよりは美しいというのが正しいか。紬は二人の名前を記憶に刻みながら、「えっと、宜しく、俺は」と自己紹介しようとして、風香が「知ってる、藤堂紬でしょ?」と笑みのまま告げた。

 紬は自分の名前を知っていた事に驚き、思わず口を閉じた。

 

「ごめん、さっき三人で話していた時に聞こえちゃったんだ、そっちの二人は聞こえなかったけど」

 

 そう言って茶目っ気のあるウィンクを飛ばす風香、何というか今まで出会った事のないタイプの女だった。

 

「あぁ、僕は大谷傑、それで彼は」

「杉田、杉田和典だ」

 

 風香の言葉に二人は互いに名前を告げ、クラス全員の名前が出揃う。全国から招集されたバトルドレスパイロット、そして戦場で命を預ける戦友――それがこの五人だった。

 

「折角同じクラスになったんだし、仲良くしようと思って、別に良いでしょう?」

 

 どこか探る様な視線で風香は口にする。無論、紬としてもクラス全員で仲良くしたいと言うのが本音だ、これだけクラスメイトの少ない場所なら尚更。紬は大きく頷くと笑顔で答えた。

 

「勿論、これからは同じ部隊の仲間だしな」

「えぇ、仲良くしましょう」

「おう、宜しく頼む」

 

 男衆の言葉に笑顔を見せた彼女は、背後にいた恋の腕を掴んで「ほら、恋」と前に押し出す。どうやら風香と異なり彼女は余り積極的にコミュニケーションを行うタイプの人間ではないらしい、実際その瞳は眠たげに下げられており表情も微動だにしない。

 口を噤んだままの彼女に代わり、紬は疑問に思った事を素直に述べた。

 

「えっと、二人は知り合いなのか? 何となく、親しく見えるんだけど」

「あーっと、うん、そう、元々同じ学校なの、それで同じ学年に同じクラス、恋とは親友と言っても過言じゃないよ、ね~?」

「……ん、まぁ」

 

 小さく頷く恋、成程二人は同じ学校出身だったと、通りで親し気な訳だ。更に同じ学年にクラスだと言う。

 

「二人とも出身は?」

「私達は石川だよ、石川県、近くに海があったんだ~」

「石川か、青森程じゃねぇが随分遠いな」

「本当に皆バラバラですね」

 

 青森に京都、島根に石川、本当に全国中から集められているらしい。皆はその事に驚く、紬にとっては同じ地元の人間しか居ない学校に通っていたから尚更だ。

 皆が思い思いに言葉を交わしていると、不意に教室の扉が勢い良く開け放たれた。

 大きな音に思わず肩を竦ませ扉の方へ視線を向けると、「すみません、遅くなって」という声。その声には聴き覚えがあった。

 

「体操着を届けに来ました」

「あれ……橘さん」

 

 自分を教室まで案内してくれた陸兵だ、彼は微笑みを浮かべたまま教室に踏み込むと手に持った段ボール箱を教卓の上に置いた。全員で彼の元へと集まり段ボール箱を覗き込めば、ビニールに梱包された体操着が中に入っている。

 一番上のビニールにはマジックで『藤堂紬』の文字が。

 

「皆さんのサイズに合わせた体操着です、自分の名前が書かれた物を持っていって下さい、女性の二人は更衣室に案内しますので体操着を受け取ったら付いて来て下さい」

「はーい」

「……はい」

 

 橘さんの言葉に段ボール箱から体操着を取り出した二人は教室を後にする、その際に恋が扉を潜る前に紬の方へと視線を向けた。取り出した体操着のビニールをバリバリと破く二人に続き、段ボールから自分の分を取り出した紬は彼女の視線に気付き手を止める。

 

「……? どうした」

「いえ、何でも」

 

 それだけ言って恋は視線を元に戻し、扉を閉める。彼女の姿は扉の向こう側に消えて、暫くの間紬は硬直した。

 何とも掴みどころのない人だ、風香もそうだが恋もまた出会った事が無い様なタイプだった。もしかしたら自分が知らないだけで、日本にはああいうタイプの女性が多いのだろうか。

 日本って、俺が思っているよりも広いのか?

 そんな事を一人思った。

 

 





 恐らく今日の更新はこれで終わりです。
 続きはのんびりお待ちください。
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