おやすみ人類   作:トクサン

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仮想訓練

 

 さて、待ちに待ったシミュレーター訓練の時間である。

 少なくとも座学や基礎訓練と比較すれば大分マシな時間だ、多少なりとも興味がある事柄と言うのは軍学校では希少であるが故に。元々これの為に集められた学徒兵、操縦適正という目に見えない数値、これで動かせませんでしたでは爆笑モノだろう。

 

 場所はシミュレーター室――と言う名のハンガー。

 体育館以上に大きな空間、そこにズラリと並んだバトルドレス。コックピットへ乗り込む為に設けられた鋼鉄の階段と橋、機体はレーンとワイヤーで固定されており足の片方が大破している機体は半ば吊り下げられる様な形で残っていた。通常通り動かせる機体ではない、四肢の何処かが欠けていたり、パーツ不足や内部機構、或は電子処理装置に欠陥が残る機体達。これらの機体は前線に送られ戦闘を経験し、そして動作不良、大破修理不可の烙印を押されて後方に戻された機体だ。

 ジャガーノートとの戦闘経験データも入っている、故にそれを再利用してシミュレーター機として国防軍学校に運び込んだのだ。元々機体に積み込まれている処理装置は優秀、多少手を加えればシミュレーターとしても動かせる。

 

「……すげぇな」

「はい、シミュレーター兼パーツストックの機体と聞いていましたが、今にも動き出しそうですね」

 

 大谷と杉田が喉を鳴らして機体を見上げ、女子二人もどこか呆然としたままバトルドレスを眺める。紬も皆と同じ気持ちだった、座学の時間にどういうモノかは知ったつもりだったが、実際足元から見上げてみると中々どうして感じ入るものがある。

 

「さて、待ちに待った操縦訓練です、準備は宜しいですね?」

「ッ、ハイ!」

 

 点呼をハンガー前で済ませ、いざ入室するや否や並んだバトルドレスに目を奪われた操縦科の面々だが、静流教官の言葉に慌てて返事をする。入口付近で仁王立ちする静流教官の前に番号順で並び直立不動のまま指示を待った。

 静流は手に持ったバインダーをパンと叩くと、真剣な眼差しで全員を射抜く。

 

「これからそれぞれ機体に搭乗し全員一斉にシミュレーター訓練を行います、機体は前線から送られて来た返還機である為損傷、或は欠損が残っていますがシミュレーター上では万全の状態で動かせますので問題ありません、現在此処にある機体は計八機、内アサルト三機、ノーマル三機、サポート二機、全員が同種の機体に搭乗する事は出来ませんので機体相性を確かめながら全員が全タイプの機体に搭乗できるようローテーションを行います、全員の番号順に機体横に立ちなさい、機体ナンバーは肩部にペイントしてあります」

「ハイ!」

 

 では、準備始め。

 その声と共に紬達は一斉に散って機体の肩部に視線を飛ばす、番号はハンガー入口から一番近い機体が一番であった。つまり紬の機体だ、紬は一番のペイントが施された機体を見上げると、その隣に姿勢を正して立った。

 

「良し、全員位置に着きましたね? では搭乗口に向かって下さい、コックピットハッチは背部にあり、開閉レバーは外装横のカバーを外せば露出します、本来ならば専用キーが必要ですがシミュレーター機という事で此処の機体は取り外されています、レバーを四十五度回転させ手前に引くとハッチが開く筈です」

 

 流れる様な説明を聞きながら、紬は指示に従って慌てて階段を駆け上りバトルドレスの背部に回る。そこには静流教官の言った通りコックピットハッチらしき分厚い外装があり、その横に四角に線の入ったカバーが見えた。紬が取手を掴んでスライドすると抵抗も無く開かれるカバー。中にはリング状のレバーが存在し、それを掴んで回す。

 力いっぱい引けば、ガシュン! という音と共にコックピットハッチが口を開けた。

 

「報告」

「藤堂紬、ハッチ異常なし、搭乗準備完了!」

 

 静流教官の声に、紬は半ば叫ぶような形で答える。隣と向こう側からも杉田や大谷、恋、風香が声を張り上げて答えた。直ぐ横に視線を飛ばすと緊張に身を強張らせた大谷が此方を見ている。

 

 大丈夫か?

 た、多分、大丈夫です。

 

 アイコンタクト、大谷の真っ青な顔に紬は目を細める。シミュレーターを行う前から吐きそうになっているじゃないか。

 

「宜しい、では各員搭乗!」

「搭乗!」

 

 静流の一声で紬は機体に滑り込む。大谷の心配をしたいところだが、実を言うと紬自身余り余裕が無い。これが自分達の集められた理由、ゲームのように気楽にやろう、恋に向かってそう言ったモノの場に渦巻く緊張感がソレを許さない。

 これから自分達は人類の敵と戦う術を習うのだ。そんな空気は紬の浮ついた感情を蹴り飛ばし、針のように皮膚を刺激した。

 

「一番機、アームリング装着、フットリング装着、脊髄ユニット装着、BT装置装着、チェック――各部完全装着確認、起動準備完了!」

 

 上腕部から小手の部分まで、指一本一本にリングを通し足にも同じことをする。次に脊髄ユニット――この機体の姿勢を制御する装置を背中に取り付け、最後は頭部を半分覆い隠すような薄いヘルム、BT装置を被って準備完了。後部の搭乗口扉は開いたままだが、機体を起動すれば勝手に閉ざされる。

 紬の報告から数秒遅れて、杉田、恋、風香、大谷が起動準備を終える。

 

「起動の手順は堂島教官が座学で教えた通り、セイフティロックを解除しBT装置を使って起動指示を送りなさい、分かりましたね?」

「はい!」

「宜しい、では――全機起動指示!」

「起動指示了解!」

 

 静流の指示に従い、紬は被ったBT装置脇に付けられたセイフティを弾いて思考した。

 内容はこうだ――一番機、起動せよ。

 そう思考した瞬間、目の前に光が溢れ全身から機械の唸り声が聞こえて来た。

 

 《BTによる搭乗者確認、照合、適正問題無し、基準値クリア、機体起動――起動キャンセル、オペレーティングシステム、シミュレーター起動》

 

 コックピット内に響く電子音、背後からハッチが閉まる音が聞こえ全てが遠くなる。被ったBT装置が映像を投影し、目前に広がったのは見知らぬ都市。どうやら上手く機体は作動したらしい。

 

『各機、起動報告せよ』

 

 機体の無線から静流教官の声が聞こえて来る、紬は間髪入れずに「機体起動完了!」と告げ、そっと両手を前に突き出してみた。すると機体の両手が視界に映り、紬の動かす通りに指一本まで動かして見せる。昔ゲームセンターで遊んだ仮想空間のものとそっくりだ。

 新鮮と言うより、懐かしい感覚と言うべきか。

 

『ではこれより機体状況の確認を行います、自身の機体種、武装や装甲状態を一番機から順に報告しなさい』

「ハッ! ――えっと……」

 

 紬は元気よく返事をしながら慌てて機体情報を開く、思考で考えればBT装置が勝手に読み取り視界隅に表示してくれる。表示された機体図は全身グリーンカラー、損傷も無く装甲武装共に標準装備。

 

「機体種ノーマル、武装、装甲共に第二種装備、破損、故障なし!」

 

 紬が答えれば次は二番機、そうして五番機まで報告を終えた紬達は、遂に訓練へと踏み出した。

 

『全機体異常なし――これより操縦訓練を行います、速成部隊である貴方達に掛けられる時間は多くありません、故に今から十分時間をあげましょう……その間に歩行、走行、跳躍等、基本的な動作を完璧に行えるようになさい』

 

 無理矢理な注文、或は無茶ぶり。

 紬は思わず無線機に何かを言いかけて、慌てて口を噤んだ。初めて動かした機体を、ものの十分で十全に扱えるようにしろと静流教官は言っているのだ。明らかに無茶だ、そう思ったがクラスメイトは誰も声を上げなかった。

 

『シミュレーターの世界では幾ら転ぼうが墜落しようが周囲に被害は出ません、存分に街を破壊し、機体を痛めなさい、機体を十二分に動かせるようになったら武器を扱います、棒立ちで射撃を行うバトルドレスはサポートの超長距離狙撃以外ただの的です、まずは動かす事に慣れなさい、十分後にもう一度通信を送ります、以上、通信終了』

 

 そうして不意に途切れる通信、紬は少しの間どうするべきか棒立ちで迷っていたが、今は時間が惜しいとフットリングとBT装置を利用し上手く歩行を開始。それから数秒と経たず駆け出した。

 機体の駆け足に合わせてフットリングが躍動し、紬は違和感を覚える。自分の体を動かしているのに、その感覚が無い。BT装置による動作予測は完璧だ、だというのにフィールドバックだけが無い事が紬の体には不思議だった。

 肉体への刺激と視界情報の不一致、紬はまずその違和を取り除く事から始めた。

 兎に角慣れろ、機体を動かす事に。

 

 歩行も走行も、大して苦労する事もなくこなす。自分の体の延長線上だ、ゲームセンターのゲームと大して変わらない。ただ自分の体が七メートル超えの巨人になっただけ、そういう感覚。紬自身その慣れに戸惑っていた、どうにもコレは――【簡単すぎる】

 

「どうせシミュレーターなんだ……バーニアだって!」

 

 紬は仮想空間という状況を十全に利用し、思考でバーニア使用を指示する。瞬間腰部と両肩部から青白い炎が噴き出し、機体がゆっくりと上昇。そこからグンッと速度を上げて空を舞う。実際のGこそないモノの、自身の体が高く宙を舞うという実感に恐怖感が煽られる。

 バーニア使用停止、そして途切れる炎、偽りの重力に引き寄せられ機体は落下を開始する。このまま普通に着地すれば脚部関節がぶち壊れる、堂島教官の教えには着地時のバーニア使用も含まれていた。

 

 紬は両足が地面に着く数秒前にバーニアを吹かせ、青白い炎でアスファルトを焼く。そして一拍遅れて機体が地面に両足を着き、フットリングが硬直して視界が揺れた。

 着地後、機体内に響き渡るアラート。

 

 《脚部損傷、関節部位に過負荷》

 

 一瞬で開かれた機体情報、そしてグリーンカラーだった筈の機体図、その右足膝関節が赤く染まっていた。着地の衝撃で故障したのだ。

 

「……このタイミングでも遅いのか」

 

 バーニアを吹かせるタイミングが遅かった、或は出力が足りなかったのか。しかし全開でのバーニア噴出は凄まじいGを生みパイロットに大きな負担を掛ける、シミュレーターだからこそ連続使用も可能だが対G騎兵服も無しに行える機動では無かった。

 跳躍一つとっても難易度が高い、それは人間の行えない動作だからか。

 

「ならバーニアの出力を上げよう、機体の着地時だけ稼働率を九十に、全開噴射で三秒――落下速度によっては延長も許可、自動姿勢制御オン」

 

 紬は呟いてフットリング、アームリングを再度動かす。歩き、そこから徐々に速度を上げて走行、バーニアを吹かせて推進加速、脚部が火花を散らしゆっくりとアスファルトから離れ、都市部のハイウェイを高速で移動する。

 そして減速――バーニアを停止させ、推進力を失った機体が着地。

 ガリガリと路面を削るバトルドレス、急激な減速に機体は大きく傾く。平衡感覚もまた人間の時と違う、それでも何とか機体を立て直して次は垂直上昇。バーニアを点火、方向は真下。

 ドゥッ! と青白い炎が噴射され機体がゆっくりと上昇、そこから一気に加速。百メートル程上昇し都市を見下ろせる所まで飛び上がり、バーニアを切る。

 

 二度目の着地、今度は失敗しない。

 紬は落下速度に合わせてバーニアの自動噴射を許可、視界に地面が迫って来て衝突する直前バーニアが全力で噴射。機体がぶわりと浮き上がり機体姿勢を微調整しながら着地、紬が素早く機体図に目を飛ばすがレッドカラーの表示は無い。

 着地成功――紬はアームリングをしたまま小さくガッツポーズを取った。

 

「脚部関節事故なし、故障なし……なんだ、行けるじゃないか」

 

 バトルドレスでの三次元起動は非常に難しいと堂島教官から聞いていた。人間の動きに限りなく近い行動を可能にする機甲兵、しかし同時に人間では不可能な動きさえ可能にする。その最もたる例がバーニアを使用した三次元機動、WDOではドレス・マニューバと呼ばれている。

 機甲兵の関節部位は脆い、硬度だけで言えば人間の関節よりも頑丈だが圧倒的に柔軟性が欠けている。バトルドレスの腕関節、ジョイントは筋繊維の様に伸び縮みしない。故に衝撃を逃がすと言う類が非常に苦手なのだ。

 受け身も取れないし、アクロバットな動きも不可能。

 

 だが、紬はこうも考えた。

 

 バトルドレスには人間のような柔軟性が無い、しかし同時に人にはあり得ないバーニアという第三の足、翼が存在する。ならばそれを上手く使いこなせれば――人間に限りなく近い動き、乃至凌駕する動きが可能なのではないかと。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「堂島さん」

「――静流一尉、お疲れ様です」

 

 ハンガーの隅っこ、機体の足元から伸びたコードが一点に集まっている場所。そこには六つのモニターとPC本体が並び、ここだけ空気が妙に熱い、排熱によって熱気が籠っているのだ。モニターの前に座ってキーボードを叩く堂島、彼は普段の軍服を脱いでシャツを腕まくりしつつモニターを凝視していた。

 画面にはそれぞれバトルドレスの操縦シミュレーター画面が映し出され、機甲兵科の動きが第三者視点で把握できる。堂島は訓練中のデータを取りつつ各員の機体相性を計測する作業に没頭していた、その額には薄っすらと汗が滲んでいる。

 

「生徒は居ません、砕けた口調で構いませんよ」

「……了解、静流さん」

「それで、どうですか皆の様子は?」

 

 堂島がキーボードを叩く傍ら、静流は後ろに回り込んでモニターに視線を向ける。マップは都市部、それぞれ搭乗機体は異なるモノの歩行、走行、跳躍と順調に練習を熟す生徒たちの姿が映し出されていた。

 静流の問いに堂島は首を鳴らしながら答える。

 

「まぁ、まずまずと言うべきでしょうな、虎の子の部隊だけあって皆呑み込みが早い、流石は第二世代と言ったところですか、皆歩行、走行だけなら既にマスター、ドレスマニューバにも通常時間以下で慣れるかと」

「BT装置と脊髄ユニットは成人よりも未成年の方が適正値高、どうやら本当らしいですね……特にその中でも彼らは選りすぐりですから、これ位はやって貰わないと」

「おや、随分と厳しい言葉だ」

「速成学校にアサルト、ノーマル、サポートの実動機を一機ずつ回して貰うんです、これで前線の機体が三つ減った、それ位はして貰わないと割に合いません」

「……ごもっとも」

 

 肩を竦める堂島、静流という女性は人情という奴を理解してはいるものの少々厳しすぎるきらいがある。彼らは未だ民間から出て来たばかりのひよっ子も良いところだ、だというのに初っ端から軍人と同じ成果を期待するのは酷だろう。

 堂島はその辺りを良く理解していた。

 

「風香、杉田の二人は現在走行訓練中、恋と大谷は垂直上昇からの落下訓練、どうにも着地時の噴射タイミングを計っているみたいです……藤堂は――こいつは別格ですね」

 

 堂島は紬を映したモニターを動かし、静流へと向ける。静流は向けられたモニターに顔を向けながら、映し出されるバトルドレスの機動に驚きを露にする。

 腰部と肩部に備え付けられたバーニア、それを駆使して理解不能な行動を取る一番機。その場でバク転やら側転、ビル群を蹴り飛ばしての三角跳び、上昇からのバレルロール、凄まじい動きを繰り返す紬機。

 そして彼の機体がぐりんぐりんと動く度、モニターの隅に機体情報が表示される。三角跳びは脚部関節の損傷、側転は腕部関節の損傷、バク転は腕部、脚部同時、動く度にどこかしら損傷する。

 

「何をしているのでしょうか、彼は」

「恐らくドレスマニューバのつもりでしょう、無駄に大きな動きばかりですか……シミュレーターとは言え、あそこまで自由に動かせるのは凄まじい」

「……あれを現実のバトルドレスで再現可能だと思いますか?」

「まぁ――無理でしょうな」

 

 堂島はシミュレーターの中で動く紬機を見ながら、淡々とそう断じた。

 燃料の消費、関節部位の耐久、パイロットのG耐性、どれを見ても合理的ではない。シミュレーター上だからこそ再現できる動きだ。ノーマルやサポートならば燃料の問題もパス出来るかもしれないが、関節の強度とパイロットのG耐性は如何ともしがたい。

 

「実際の戦場であんなマニューバをとれば、十分足らずで脚部関節がイカれるか、燃料が切れるか、或はパイロットが嘔吐、ブラックアウトするか――正規騎兵でもあんな動きしませんよ、あんなのは『ゲーム』の動きです」

 

 シミュレーターと現実は違う、あくまでシミュレーターは仮想現実に過ぎない。その世界で出来たから、現実でも出来るとはならないのだ。シミュレーターは限りなく現実に近付けてはいるが、彼らが仮想空間で搭乗しているのは『故障確率ゼロ』、『ロールアウト直後新品機体』。

 実際の戦場では整備不良、或は摩擦ですり減った関節が動作不良を起こし命を落とした騎兵も居る。銃器の弾詰まり(ジャム)、スラスターの燃料漏れ、電子機器の不調、どこか一ヵ所でも綻びが生まれれば終わりだ。

 この動きは、機体の消耗を早める。

 

「無論、ここまで派手な動きを繰り返せばですが……緊急時に身軽な動きで離脱、回避が行えるのならアリでしょう、ただ多用すれば関節と燃料が無くなります、実際こんな動きをバトルドレスで再現できるのは凄まじい才能だ、連中の虚をつけるかもしれません」

「……多用厳禁、ただしナシではない、って所ですか」

 

 堂島の意見に静流も頷く、紬がバトルドレスを手足の延長線上の様に動かせているのは事実だ、恐らくそれは彼の武器になるだろう。しかしだからと言って曲芸紛いの動きだけを戦場でされても困る。派手な動きが出来るのは才能だろうが、それが必ずしも最適解とは限らない。そこは後々基本動作として教え込む他ないだろう。

 

「ん?」

 

 紬の操縦技術に内心で驚きつつも、やはり根本的な部分で兵士という人種と異なるのだと納得していると、ふと一番機の動きが変わった事に気付いた。静流はモニターを指差しながら堂島に問いかける。

 

「堂島さん、これは」

「何です……?」

 

 静流が指差したのは一番機の機体情報、先程動く度にレッドカラーを告げていた脚部、腕部の関節部位がグリーンカラーのまま。紬が何度曲芸染みた回避、高速移動を行っても機体は悲鳴を上げない。

 

「――これは」

「……バーニアですか」

「えぇ、それも……何だ、この頻度は?」

 

 堂島は紬の一番機を凝視する。カメラを彼の肩部、腰部のバーニアに向ければ動く瞬間に高速で噴射を繰り返しながら増減速をコントロールしていた。角度が少しズレれば体勢が崩れると言うのに、それを一瞬で、どの瞬間、どの角度、何度吹かせれば良いのか判断している。

 

 機体が横に傾き、側転。

 

 腕を支えに一回転する鋼鉄の塊、しかし両腕で機体を支えているのかと思えば違う。肩部と腰部のバーニアを小刻みに逆噴射し機体の重量を両腕から逃がして負担を軽くしている。更に横へ流れた機体を押し出す様に再度噴射、着地の瞬間は順方向への噴射で膝への負担を軽減。

 それを数秒足らずの時間でこなしている、凄まじい操縦精度。

 

「見た事の無いバーニアの使い方ですね」

「普通出来ませんよ、機体制御だけじゃない、四つあるバーニアの制御まで同時に、一秒で何回吹かせているのか……」

 

 人外染みた判断力、加えて度胸もある。堂島は紬機をじっと見つめながら、その動きが徐々に洗練されている事に気付く。一度動けば数秒程動きを止め、また別の動きへ。そして再び同じ動きを行った時、それは先の動きよりもより無駄が省かれている。

 堂島はその動きを見ながら四十人委員会から送られた選考資料の内容を思い出した。

 

「――メメント・モリの支給機は正しかった、って事か、全く最初数値を見た時はガセだと疑ったものの、こう見せつけられちゃな……」

「……まだ此方には届いていません、判断を下すのは早計でしょう」

「そうは言っても異常ですよ、これで対G耐性があれば一線級です、正直マトモに銃が撃てるならそこらの騎兵より余程使える」

「兵士の常識を持たぬ者は足並みを乱すだけです」

「その為の軍学校ですよ、静流さん」

「……兎も角、一人だけ優秀であっても意味がありません、他の生徒にも気を配って下さい」

 

 腕を組み、少しだけ不機嫌そうに告げる静流。その言葉に堂島は頷きつつ、根っからの軍人である彼女を寂しそうに見た。静流は騎兵乗りではないが歩兵としてジャガーノートと渡り合ってきた『ポーン殺し』である。

 戦場の事は恐らく自分よりも理解しているだろう、彼女の厳しさは戦場を知っているが為だ。

 

「杉田、風香生徒、共に跳躍訓練に移行、特に問題ありません、優秀なモンですよ」

「なら予定通り、あと三分で射撃訓練に移行します、使用武装は全機統一、手筈通りお願いします堂島さん」

「了解、お任せを」

 

 

 

 





 最近ちょっとグロッキー状態です。
 諸々滞っていて申し訳ない……。
 成田空港のラーメン食べたい……。
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