一人は、隠すために。
一人は、戦うために。
一人は、救うために。
『姫様! よくぞご無事で…!』
エメラナは、胸を押さえながら体を起こした。周りを見回し、何が起こったのかを理解する。
「ミラーナイト…ミラーナイトが!」
窓から自分の惑星を見下ろすと、ベリアル軍の艦隊で埋め尽くされていた。ミラーナイトがこちらへ向かってくるような様子は、全く見受けられない。
『姫様、ここから離れます。席にお戻りください』
AIのジャンはそう言うと、エンジンを稼働させた。
「いいえ…ミラーナイトを。彼を、待たなくては」
『しかし、早く脱出しなくてはなりません。彼なら、きっと大丈夫でしょう。そうやすやすとやられるはずは』
「ですが!」
『私は、あなたを護らなくてはならないのです!!』
彼の必死の声に、エメラナは口を結んで黙りこんだ。
『…申し訳ありません、姫様』
「いいのです…あなたは、間違っていないのですから」
彼女はそう言うと、悲しそうに目を伏せた。
『ミラーナイトが…彼が、私に姫様を託しました。だからこそ、私はあなたを彼の分まで護らなくてはならない』
エメラナはしっかりと頷いて、席へと向かう。
「…行きましょう、ジャンバード」
『はい、姫様』
ジャンバードは猛スピードを出し、惑星エスメラルダを後にした。
エメラナはもう一度自分の胸を押さえると、目の前を真っ直ぐに見据えた。
「ぐ、あ…あぁ!!」
自分の中に、ベリアルの闇が侵食していく。抵抗しようにも、その闇は強すぎてどうすることもできない。ミラーナイトは、己の未熟さを悔いた。
突き刺された背中を押さえ、目の前の王宮を見つめる。まだ自分が張ったバリアーは、そこまで崩れていない。
――――これならば、まだ…。
「思ったより、しぶといじゃねぇか…なぁ?」
後ろから、おぞましい低い声が聞こえてくる。
ミラーナイトは、息を荒げながらも振り向いた。そこには、右目に傷を負っている黒い影が立っている。苦しむ相手を見て楽しげに笑うと、突き立てている爪に力を込める。
「かはっ…!」
その時、黒い影の隣に幹部らしき二人が上から降りてきた。
「カイザー、ベリアル陛下」
名前を呼ばれたベリアルは、振り向くと共に爪を引き抜く。それにより、ミラーナイトが地面に倒れこんだ。
「この場所以外の制圧が、完了いたしました」
「残るは、王宮のみですが…いかがいたしましょうか?」
それを聞いたベリアルは、自分の傷を撫でながら何かを考え始めた。その隙を見て、彼の後ろからミラーナイトが空へ飛び上がっていく。幹部の一人がビームを撃ち足止めしようとするが、うまく避けられそのまま逃げられてしまった。
「こしゃくな!」
追いかけようとする幹部だったが、ベリアルは興味がないといったようにマントをひるがえして逆方向へ歩き出した。
「陛下?」
幹部は立ち止まり、彼の方を見る。
「こんなクズ共を消したところで、退屈しのぎにもなりやしねぇ」
「…では、どういたしますか?」
「それよりも、エメラル鉱石だ。この惑星から、全て奪い取れ」
「はっ…仰せのままに」
三人はそのまま、バリアーが張られた王宮から離れていった。
「よいしょお!!」
小惑星の上に複数の戦艦をぶん投げると、両手に炎を溜めた。
「ファイヤァァァァァァァ!! フラァ――――――――――――――ッシュ!!」
放たれた炎の弾が小惑星を破壊すると、こちらへ向かってきた無数のダークロプスに攻撃を与える。その後ろで、大きな宇宙船がレギオノイド達を蹴散らしていた。
「はい、お疲れさんと!」
最後の一体を思いきり殴って爆発させると、頭をかきあげて炎を散らした。彼らの周りには、ガラクタと化した機械の部品しか漂っていない。
「グレンファイヤー、行くぞ! もうここに用はない、アバンギャルド号に乗れ!!」
船内からの声を聞き付けて、彼が振り返る。
「おーう船長、分かってるって!」
彼は手を振って宇宙船の上に行くと、どっかりと座り込み片膝を立てた。
「ったく、まーた妙なロボット出してきやがって。ダークロプスだけじゃ物足りねぇってか」
やれやれと首を回し、コキコキと音を鳴らした。
「そのわりには、楽しんでいたように見えたが?」
「確かにな、いつもより燃えていたように見えた!」
「おかげでこちらも、燃えてしまいそうな勢いだったぞ!!」
船内から三人兄弟の船長の声と、大勢の笑い声が聞こえてくる。
「へへ…そりゃあ、ちょいとやりごたえがあったからな」
軽く笑い返しては、拳をグッと握った。あれぐらい敵が多くなければ、心から燃えることなんてできない。
…それでも彼は、少し物足りなく感じていた。
「ま! どうせあいつらどこにでも居るし、退屈はしねーけど!」
ヘラヘラとしているグレンファイヤーを、長男のガルがじっと見つめる。だが、すぐに目をそらして大声で叫ぶ。
「とりあえず、今日のところはここまでだ! 帰るぞ、お前達!」
船内から、おぉーっと手下の声が響いた。もちろん、グレンファイヤーも声をあげている。そして、彼は鼻唄を歌い始めた。
…彼らが光の戦士に出会うまで、あと数時間。