閃の軌跡~翡翠の幻影~   作:迷えるウリボー

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序章 軌跡の分岐
1話 過去の幻影


 見渡せば、そこには鮮やかな花があった。

 室内、しかし広々としたその場所は、多くの人がいる。先ほどまで、行われていたその式典は、これまで日々に別れを告げ、人々と再会を誓い、自分の道を行くための扉だ。

 屋外へ出ると、やはりたくさんの人がいる。青年、女性と言えるような希望に満ちた若者たち。そして、それとともに少しばかり幼さの残る少年少女たち。そして、優しい瞳を携えた老若男女の大人たち。

 自分もその一人だった。彼ら若者と同じような服を着て、若者と同じように喋り、笑い、時に泣き、そして離れる。

 見知った場所を名残惜しげに歩く。見知った一団の下へ歩く。

 心に蘇る、数々の想い出。悪友と走った階段。親友と腰を下ろしたベンチ。いけ好かない奴らと睨み合った裏道。大切な人と歩いた坂道。

 昼寝をしては、誰かに怒られ、たたき起こされる。夕日にうつつを抜かしては、自分や誰かの青春に想いを馳せ、揺さぶられる。闇夜に紛れて忍び込み遊んでは、誰かと笑い、そして肝を冷やし続けた。

 かけがえのない人々と、数えきれない景色を映した建物。

 その建物に背を向ける。振り返れば、見えるのはかけがえのない人々。

 彼らが、自分に声をかける。

 シオン、またな。と。

 アクルクス、貴様との日々はとても有意義だった。と。

 アクルクス、これからは、たまにでも真面目な姿を見せろ。と。

 シオンさん、それではまた会いましょう。と。

 多くの人が自分に声をかけて来る。自分もまた、彼らに声をかける。

 お前こそまたな、楽しかったよ。と、晴れやかな笑顔で。

 お前も故郷に戻って、腑抜けるんじゃないぞ。と、不敵な笑みで。

 お世話になったけど、そのお願いは聞けないかも。と、少しだけ涙を浮かべながら。

 ……ああ、またな。と、寂寥を少し滲ませた口元を緩ませて。

 そこには、彼らがいたのだ。そして、彼女がいたのだ。

 その瞳には、自分が写る。褪せた黒髪を整髪もせずに流した、少しばかり野生児じみた顔つき。それでも年相応に落ち着かせた雰囲気と瞳は、実は赤の他人に本性を悟らせないための隠れ蓑だったりする。体躯はそれなりに鍛えたつもりだが、服を着こめば細く見える。最近になって伸びなくなった身長は1.8アージュ。

 そんな、男性としては平均よりやや上の身長。女性として平均の身長を持つ彼女からすれば、やはり見上げるのは当然だった。

 どうして彼女がこの場にいるのか。それは当たり前だ。彼女もまた、自分と同じように今日の主役である。そして、自分の一団にだって顔を持つほどの社交性。

 それは友人としての挨拶だった。だから、彼女はこの場に来たのだ。普段と変わらない、優しい笑みで。

 それはいつの日かの、出来事。もう遠い、それでも淡く思い出せる、青春の一幕。

 そう、これは昔のこと。過去を映した夢だった。

 夢だった。だから、視野以外の景色が不鮮明だった。場所と場所の位置関係がめちゃくちゃだった。時系列や行動の順番が、史実と比べておかしかった。

 現実ではあるが現実ではない。夢という、あやふやな現象として片づけられる意識。そうと判ると、自覚すると覚醒は早かった。

「……んぁ」

 視界とぼんやりとした思考という、二つの概念で構成された世界が消える。代わりに入ってくるのは、幾らか不快な感覚情報だった。

 毛布の下の素足から感じる寒さ。使い古した敷布団と木製寝台の柔らかさと臭い。寝ぼけ、寝違えた首の痛み。今、自分は布団に突っ伏しているのだという感触。カーテン越しに伝わる朝日と、時間を告げる腹の音。思わず飲み込んだ唾の味。

 何より、一番勘弁願いたい鼓膜の震え。

「おーい、朝だぞ! 起きろアクルクス!!」

 それは同僚の、この上なく快活なご挨拶だった。

「んん……まだ寝る……」

「おい、アクルクス! もう時間だって、着替えないと飯も食えないし朝礼にも遅れる……あーもう! この不真面目寝坊助め!」

 こうして、俺の――シオン・アクルクスの一日は始まるのだ。

 

 

 

 

 

The Legend of Heroes

SENNOKISEKI

If Storys…

 

-Phantom of jade-

 

 

 

 

 

「相変わらず、あいつの声はよく通るな……」

 何度も何度もたたき起こされては寝るを繰り返し、ようやく意識を本格的に覚醒させた。同僚に起こされる前、自分は夢を見ていたはずなのだが、それももう、今となっては内容も何もわからなかった。

 ぼんやりと頭を掻き、欠伸をしながら洗面台へと向かう。冷水を顔にかけると、たちまち背中が震えてくる。春を待つこの季節は、未だ暖かいとは言えないのだ。

 顔を洗うついでに寝癖を控えめに整える。目の前の鏡を見ると、相変わらずやる気のない――というより朝の生気のない自分の顔が見える。褪せた黒髪は少年だったころよりもいくらか伸びた。着替え途中、裸の上半身は申し分ない程度に鍛えられている。白い肌が背伸びして日に焼けたくらいの褐色だが、これでも帝都の子女から見れば活発的な風貌に見えるに違いない。八月、有休を使って友人と行くつもりの海都オルディスでは、絶対にうら若き乙女たちを砂浜で射止めるのだと今から息巻いているくらいなのだ。

 特徴のない、黒の瞳。何の感傷もなく見つめてから、青年は着替える。機能重視のニッカポッカの白ズボンに、特徴もない黒のブーツ。そして、これは逆に特徴的な青の服。傍には鉄兜もあるが、今はまだ被らない。

 おもむろに時計を見る。導力仕掛けの長身と短針は、六時三十分を指していた。

「やべっ」

 急いで自室を出る。自分と同じ立場の同僚がいるはずの宿舎、その廊下は、既に閑散としていた。

 しかし廊下を歩き、二階、一階と降りる頃にはいつもの喧噪が聴こえてくる。

 宿舎の玄関前にある食堂は、朝食のこの時間は当然騒がしい。

「やあ、アンタかい」

 席に座る前に、配膳された食事を受け取る。声をかけてきたのは、馴染み顔となった食堂の婦人。肝っ玉母さんともいえる、皆の胃袋の管理人だ。

「おはよう、おばさん。今日の飯も美味そうだね」

「そうかい、数少ない感想だからね、ありがたく受け取っておくよ」

 席に座る。今度は、同僚たちに声をかける。

「よっ」

「お、シオンか。おはようさん」

「いい朝だな、アクルクス」

 大人であっても子供であっても、人間であることは変わらない。食堂という大勢が集まる場所となれば、必然人々は幾つかのグループに判れるけれど、今日も今日とてその様相は変わらない。

「なあ、最近変わったニュースはないか?」

「さあな。別段面白いこともない。いよいよ三月が始まったくらいだ」

「そうか。じゃあ面白い情報とかは?」

「それもないよ、アクルクス。むしろ君が何かないのか教えてくれ」

 七耀歴千二百四年、三月一日。何の変哲もない一日の始まりである。

 無理やりに口角を引き上げて、暇つぶしの材料を会話の中に投下してみる。

「ふーん、じゃあもうすぐ四月だしな。これから入隊してくる後輩君たちのことでも予想しようぜ」

「どうだろうな、今年は。平民出身はどうでもいいとして、貴族様で入隊する奴なんていたか?」

「さあな。アルバレア次男坊のユーシス様は、今年士官学校への入学が決まっているっていうし。他の伯爵家以下の事情も判らねえよ」

 ゼムリア大陸西部に君臨する巨大軍事国家、エレボニア帝国。それが、シオンたちの祖国の名前である。

 南に封建性の国であるリベール王国。帝国と関わりのあるクロスベル州を挟んで、東には君主の存在しないカルバード共和国。北にはかつて大公が治めていたが国としての体裁を亡くした、旧大公国のノーサンブリア自治州。それぞれの歴史と彩を持つ国々だが、そうした中にある帝国の特徴は、貴族制度が残っているということだろう。

 貴族。帝国の身分制度において平民の上に立ち、その特権を持って領地運営や指揮を握る人間たち。

 ここは帝国東部、クロイツェン州の一角にあるオーロックス砦という名を冠する軍事拠点の一つだった。

 しかし、この拠点を利用しているのは帝国軍ではない。クロイツェン領邦軍という組織である。

 貴族の筆頭である、アルバレア公爵家が運営し、領地であるクロイツェン州防衛のために働く私兵。それがクロイツェン領邦軍であり、シオンたちが勤める職場でもあった。

 そんな職場にいる自分たち平民にとって、同じ場所で働く貴族様というものは、行儀が悪いが酒の肴にするにはぴったりの存在だった。

 下っ端の兵として働くのは当然平民だ。そして公爵家の御子息などはそもそも軍を指揮する立場にある。そしてそれ以下の伯爵・子爵・男爵の嫡子たちも家督を継ぐのが使命なので、貴族が擁する軍とは言え平民の集まるこんな所にいやしない。基本的にここにいる平民でない人間は、名のないような男爵家の人間か、子爵・伯爵家の次男坊以下だったりする。ようは、世の跡取りレースから一歩外れた存在だ。

 だから彼らは機嫌が悪く徒党を組む。大抵は、平民を小馬鹿にしつつ、利用しようとしたり、時によろしくない騒動に発展したり。人間年をとっても、どんな環境でも馬鹿馬鹿しい争いはあるものだ。

「あ、一つ思い出したことがあるぞ。アクルクス」

 そう言ったのは同僚の一人だった。眼鏡をかけた静かな男、しかし自分より体躯が大きいので、シオンは密かに毎日敗北感を味わっているのだが。

「なんだ? アクト」

「最近、上層部が慌ただしいみたいなんだ。ここ最近のアハツェンの発注増加もあるし、近々大きな発表があるかもしれないな」

 アクトは素行も真面目で、上司からの信頼も厚い。その意味で、彼の耳に入る情報は信憑性が高かった。

「うへぇ、戦争勃発とか言わないよな? せめて戦車内でお泊り大会程度にしておこうぜ」

「いやシオン……そりゃ日曜学校の遠足にしちゃ物騒だし、シオンらの催しにしちゃ馬鹿らしいだろ」

 そう突っ込んでくれたのは、平々凡々な平民の同僚リュカ。

「まあ、そろそろ新しい赴任先もわかるだろう? この見るものもない砦で一年間頑張ってきたんだ。次の場所がバリアハートになることを期待しておこう」

 赴任先と聞いて、少しくらいは自分のやる気が起き出したことを自覚する。

 そうだ。四月になれば、またこの閉鎖的な環境から脱することができるかもしれないのだ。

 クロイツェン領邦軍は、幾つかの場所に別れ陣を敷いている。ここオーロックス砦に勤める者、バリアハート市内に勤める者、アルバレア公爵の城館に勤める者、交易町ケルディックのような領地内の町村の詰め所に勤める者などだ。

 その配属先は一応希望できるが、基本的には身分や能力、素行などが主な因子となって決定する。優秀であったり貴族の者であったりするとバリアハート市内やアルバレア城館に配属されることが多く、逆に新人であったり不真面目な者は地方に駆り出される。

 オーロックス砦はその中間、というのが領邦軍に勤める噂好きたちの結論だった。真面目な者もいる程度に厳しく、そして不真面目な者の尻を叩くための場所、という噂だ。

 今年の四月で領邦軍勤め四年目となるシオンは、過去三年のうち後ろ二年をオーロックス砦で過ごしてきた。非番の日はバリアハート市内に繰り出すこともできるが、基本的に砦の食堂や宿舎の自室で同僚と駄弁ることの多い日々だった。

 できればケルディックなんかへ赴いて気ままにライ麦のビールでも煽りたいなと、そんなことを考える。

「あーあ。こいつ(シオン)、また酒のこと考えてるぞ。みろ、このだらしのない顔。今日の訓練生き残れるか?」

「問題はないだろう。アクルクスの能力はこの一年で大体つかめた。むしろ俺たちの平和のために、女神の下へ旅立ってくれると助かるんだが」

 同僚二人の容赦のない口撃にも反応せず、来るかもわからない桃源郷に想いを馳せた。

 領邦軍は、組織分類で言えば『私兵』であり帝国の正規軍とは違うが、それでも日々の業務はさほど変わらない。違いといえば支給される食事が美味しかったり、常識が貴族よりなため危機感や訓練の質が微妙に異なったり、そもそも想定された敵が違う事だったりする。有事のために訓練に明け暮れること、担当の場所を哨戒し異物に備えることは帝国正規軍や他国の軍隊と変わらない。

 だからこの後のスケジュールも、日々のものと変わらなかった。朝食を食べればその後点呼があり、午前の訓練と哨戒、午後の訓練と哨戒、たまに座学で時事の出来事に気を配り世間の流れを掴むことなどが仕事なのだが。

 今日は、そのいつもの流れとは異なっていた。

「シオン・アクルクス准尉」

 食堂が、にわかに静まり返る。誰もかれもが手を止めて、一つの方向を見た。

 宿舎の入り口は食堂から見える場所にある。居酒屋のごとく、疲れを見せて椅子に座ればすぐさま食事にありつける。

 だから食堂のどこからも、その場所は見える。入り口には、オーロックス砦における領邦軍隊長が立っていた。

「シオン・アクルクス准尉。いないのか?」

 一瞬何を言っているのか判らなかったのだが、瞬時に隣に座っていたアクトが自分を叩いた。反射的に立ち上がり、踵を鳴らして敬礼。少しばかり上擦った声で答える。

「はっ。シオン・アクルクスです」

「なんだ、いるではないか。返事が遅いとはどういう了見だ?」

「も、申し訳ありません」

「ふん、まあいい」

 少しばかり不機嫌そうな声。子供嫌いが泥んこまみれの子どもを見るような眼だ。返事に遅れたことがそんなに気に障ったのだろうか。確かに軍人としては注意されて然るべき対応だったが、早朝の食堂に隊長が現れるなど、予想外もいいとこだ。

 隊長は、なおも機嫌の悪そうな相貌をして続ける。

「食事中悪いがな、連絡がある。朝礼点呼後、司令室まで来るように」

「はっ。了解しました」

 それだけだった。他に何を言うでもなく、隊長は早々と出ていく。

 バタンと、扉が閉まる音。それから五秒ほどの沈黙を経て、食堂内の視線が自分へ向けられた。訝しげに見る貴族兵や見世物を見るような平民兵、そして面白がるような同僚たちの目線。

 それらを一つ一つ丁寧に侮蔑してやって、ようやく食堂に先ほどまでの喧騒が戻って来る。

「……巻き込まれたみたいだな。面倒事に」

 できれば面倒事は眺める側でいたい。そんな意志を乗せて、何となしにアクトとリュカを見る。

 返ってきた表情は、空気を読むのが下手な人間でも察することができる表情をしていた。

 『諦めろ』と……。

 

 

――――

 

 

 オーロックス砦は、峡谷地帯にある巨大な中世の城塞だ。その為内部構造としては現代の要塞に見て取れるような、狭い通路やこじんまりとした部屋の造りではない。

 司令室はとても広く、隅には応接用のテーブルや椅子なども兼ね備えている。

 そんな場所に、貴族でもなく、優れた功績を持つ訳でもない自分が、オーロックス砦を統括している隊長に呼び出される。なんとも言えない緊張感だった。

 司令室の奥、豪奢な執務机には多種多様な資料に羽筆。革張りの椅子に座るのは、中肉中背に卑しい眼光が目立つ髭の男。クロイツェン領邦軍オーロックス大隊長官ジェイク・ガルシア。彼は執務机に両肘を当て、両手を顎の下で組み合わせていた。その姿勢はシオンが入る前も、入った後も、そしてシオンが彼の正面に立ち敬礼をしても変わらない。目線はただ一つ、肘の近くに乱雑に撒かれた資料に向かっている。

 その紙に、何年前だったか導力カメラで撮られた自分の写真が貼られてあることに気づく。つまりはシオンの経歴書、あるいは調査書というわけだ。

「シオン・アクルクス准尉、二十四歳。クロイツェン州ケルディック出身の平民。トールズ士官学院を卒業し、二十一歳の頃にクロイツェン領邦軍へ入隊を果たす」

「随分と、重要でもない昔の資料を引っ張っていますね」

「私が集めたわけではないがな」

 点呼も終えれば、そろそろシオンの調子も戻って来る。少しの予想外で動揺するのではなく、状況を面白がる遊び人のような青年がそこにいた。

「例の士官学院の出身を経ての領邦軍入りか。なるほど、大した経歴もないのにその年で准尉を名乗れるというわけだ」

「身に余る階級なのは百も承知です。しかしその階級だと胸を張れるよう、日々精進を続けていますよ」

「随分と口が回るな。公爵家の加護を受けるだけの農家の平民が?」

「お褒めに預かり光栄至極」

「ふん……」

 未だ一兵卒を見る目は変わっていない。やるせないような大きなため息を吐き出してから、隊長は続けた。

「貴様に問う。我ら領邦軍の存在意義は?」

「クロイツェン領邦軍においては、アルバレア公爵家が運営し、その意向に沿いながら領地であるクロイツェン州の治安維持を主任務とする組織であります」

「では、我らの運営母体であるアルバレア公爵家とは?」

「アルバレア公爵家。所謂『四大名門』と称される貴族派の代表格であり、我々領邦軍兵士・平民にとってはやはり領地という財産を提供されるお方です」

 帝国に存在する貴族の中でも、特に位や財力の高い家がある。それが四大名門だ。アルバレア公爵家以外にあと三つの家が存在し、それぞれが領邦軍を組織している。

 しかし、一体なんの質問だ。いつまでたっても要領を得ない会話に、シオンは居心地が悪くなる。自分の生活態度が目の前の隊長には気に入らないのは百も承知だ。それは何カ月も前から判り切っている。今更独りでに呼び出す理由は何なんだ。

「では、そのような組織にいながら貴様の目指すものとは?」

「目指すも何も……私が勤めるのは今しがた唱えた領邦軍の理想を体現させるためですが」

「どうだかな……」

 まるでテロリストが唱える信念を馬鹿にするような仕草だ。そんな存在になり果てた覚えはないのだが、隊長にとって自分は同列だとでも言うのだろうか。

 再び、隊長は視線を資料に戻す。

「シオン・アクルクス准尉。トールズ卒業生という肩書きに恥じぬ優秀さで領邦軍へ入隊する。座学は科目毎にムラがあるものの総じて合格ライン。実技においては剣と銃の扱い、どちらも大隊の中で上位を誇る」

「……」

「しかしその勤務態度は難を示す。領邦軍の理念たる公爵の意に沿わず、どちらかといえば守られるだけの民草に重きを置いた発言が目立つ……」

 それが資料に書かれたシオンの評価なのか、それともジェイク隊長の印象なのか。どちらにしても気持ちのいい言い方ではなかった。

「そんな貴様に今日の伝令を下すこと、吐くような気持ち悪さだ」

「はあ……」

「どこまで察しがついているか判らんが、これは配属通知となる」

 今朝も同僚たちと噂していた件のものだ。確かに、そろそろ一兵卒でも誰がどこに転属されるのかを把握する頃ではあるが。

「本来なら、貴様のような不真面目な輩は万年この砦で過ごしてもらうはずだった……だが貴様の新たな配属先が決まった。通例では三月半ばに砦の兵士全員に通達するが、貴様は例外とし今この場で行う」

「例外……?」

 しかし、やはり面倒ごとに巻き込まれたという事実は変わらないみたいだ。でなければ、こんな所に呼び出されるはずがない。

「どこに配属されると思うか?」

「……わざわざ隊長殿から伝令されるのですから、砦に連勤ということはないでしょう。バリアハート市内やアルバレア城館に私のような輩が配属されるとも思いませんし。個人的な希望では、ケルディックあたりですが」

「残念ながら、貴様の勤務先はそのどれでもない。他の町村への配属でもない。

 貴様には、三月をもってクロイツェン領邦軍から外れてもらう」

「え」

 なんてことだ、まさかの辞令宣言とは。

 実はそれほど悔しくないけれど、さすがに体裁が悪い。少しばかり反論をしないと。

「ちょ、ちょっと待ってください。いきなり辞めろというのは……詳しい理由を説明してもらわないと納得がいきません」

「本当の辞令であれば、どんなに楽であったことだろうな」

「そうですよ、本当の辞令なんて俺に来るはずが……はい?」

 ちょっと待て。会話の流れがどこかおかしい。

「改めて通達する、シオン・アクルクス准尉。貴様には本日をもってクロイツェン領邦軍を出向してもらい……」

 そして、目の前の大隊長は告げた。

 これがシオン・アクルクスの、波乱に満ちた日々の始まりになるのだった。

「『領邦軍・四州連合機動部隊』……通称SUTAFE(ステイフ)への配属を命ずる!!」

 

 

 










皆さん初めまして、はたまた別作品でお世話になっております。
羽田空港です。

始まりました、閃の軌跡~翡翠の幻影~
こちらは心の軌跡と比較し不定期更新の予定ですが、どうかよろしくお願いします。
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