「貴女は……疑問に思わないのですか、この状況に」
ジュノー海上要塞、司令室。シオンが向き合うのはただ一人、ラマール領邦軍総司令オーレリア・ルグィン。
意を決して放たれた問いに、しかしオーレリア将軍は間髪を入れずに答えた。
「貴族派の
「……っ」
「ならばこちらからも問おう。そなたは必然だとは思わないのか? 貴族派がなそうとしている内戦が、どうあがこうが遅かれ早かれ始まってしまうことに」
機甲兵訓練の際に露呈してしまった、シオンのエラルドとの連携の不和。そこから始まった対談で、オーレリア将軍は正直に話せと言った。
だから、正直に問うた。使われる存在とは言え、四大名門にも一石を投じられる影響力を持つ武人に、その大義を。
だが、オーレリア将軍自らが貴族派の行動を愚行と呼ぶとは。
「必然だと……思いたくはありません」
「それは少なくとも、私の問いに是として答えているな」
「必然だから仕方ないと……そう考えるのですか」
「自惚れるな。そなただけが停滞から抜け出しているとでも? 自らの意志で誇りを持って行動している人間は山ほどいるぞ」
「そんな……誇りなんて」
「まずはそなたの考えを、決意を言って見せろ。それからだ」
「……内戦を防ぎたい。この無理して油を注しているボロボロの飛行船という帝国を、何とかしてでも安全な場所へ。それが、俺の決意です」
「それは決意ではない。
「……っ」
言葉の一つ一つに、獣の咆哮のような圧を感じる。
無意識に本筋から逸らそうとしていたシオンは、とうとう自分の素をさらけ出す。
「俺は、貴族派の
堂々と、正面から貴族派を非難する言葉。オーレリア将軍と同じ言葉を使うことで、初めて彼女と同じ盤上に立てる。
少しだけ、オーレリア将軍の圧が和らいだ気がした。
「つまりそなたは、革新派を、かの鉄血宰相を支持すると?」
「貴族派を否定することが、革新派を肯定することに繋がるわけではありません。ですが、これはあまりに……」
両者の軋轢は年々増している。原因を片方に押し付けることはできない。しかし今この時、多くの血が流れる内戦を画策しているのは間違いなく貴族派だ。
「あまりに、早計で愚かとしか言えない。中央集権とは形こそ違っても、民を守るのが貴族ではないのですか!?」
言葉を重ねるたびに、怒りにも似た感情が湧いてくる。
自分は貴族派を擁護しない。革新派も擁護しない。どちらも、帝国をどこに連れていくのか判らないから。
貴族の領地に生まれた自分は、貴族という存在を知りたくて領邦軍に入隊した。権力の下で帝国の実情を知り、二大派閥のどちらも選べない。だから、この力のない、拙い自分であってもできる何かをしたかった。
けれど、世界は力のない自分を待ってくれない。気がつけば、内戦の足音はもうすぐそこだ。
結局何もできなかった。そんな悔しさも滲み出る。
オーレリア将軍は、シオンの分を弁えない言葉にも表情を変えない。先ほどの『上下関係など気にしない』という言葉が生きているのか、それとも単純にシオンの言葉に返そうとしているのか。
沈黙の後、一口紅茶をすすってから口を開いた。
「
「……」
「それが大儀だと、そう思うものはそういないだろう。領邦軍には平民出身の兵も多い。そして、私もこれが正義などとは決して思わん」
「なら、なんで」
「貴族派の愚行に賛同しないことが、愚行に協力しないというわけではない」
それは、先ほどのシオンの言い回しを借りたものだ。否定が必ずしも肯定ではないということ。
「しかし、貴族派の将として動く理由はある」
「……貴女の目的は?」
「私には、目的がある。武勲を立てる」
その言葉にオーレリア将軍らしいと思うと同時に、全身に針が刺さるような感覚が襲い、鳥肌が立つ。
「貴女ほどの人が、今更何を言うんですか……」
「そなたはそれほど武に興味はないか。私が越えねばならぬものは多いぞ? 《光の剣匠》に《雷神》という二人の師。《隻眼》、《紅毛》という革新派の猛者たち。身内であれば、《黒旋風》も一度決着をつけたくはある」
実際オーレリア将軍が
「だが、それだけではない私の目的は」
「……っ」
覇気。
「リアンヌ・サンドロットを──槍の聖女を超える」
二百五十年前、獅子戦役という帝国最大の内紛。それを調停した獅子心皇帝ドライケルスに協力した、槍騎術を操る恐るべき武人として知られる伝説の人物だ。帝国人なら誰だって知っている。
「槍の聖女を超えるって……」
かの聖女は元から辺境でその端麗な容姿と実力で有名だったが、事実上伝説となったのはやはり獅子戦役の逸話があってこそだ。それは、つまり。
「これから始まる内戦で、聖女以上の戦火をあげること」
「勇猛ぞろいの革新派を相手にな。先ほど言っただろう。越えなければならぬものは多いと」
常人には到底理解できないその決意。シオンは重ねて問い続ける。
「そのために、この内戦を利用すると。貴族派に利用されると?」
「そうだ」
「貴女ほどの力がありながら、駒であることに甘んじると?」
「そうだ」
「将軍である貴女が……?」
「そうだ。私はそなたが言うところの
使われる身であると、将軍は言った。武の世界において帝国最強の座を狙えるほどの覇者が。
「私は悦んで駒となろう。武人として、至高の頂を踏めるのであればな」
閉口せざるを得ない。自分とは、考え方も、優先順位も、立っている次元も、すべてが違いすぎる。
「そなたは私を、鉄血宰相や四大名門と同じような《盤上の指し手》として扱いたいらしいな。確かに私には現状を変える力はあるかもしれない。たがそれは誰かの下で、剣として仕えてこそできることだ」
驚きを隠せないシオン。
「そなたの考えを否定する気は毛頭ない。誰かの力を望むのなら、精々そなたと同調できる指し手を探すといい」
「貴族派内部には、いないのですか。その誰かも判らない《指し手》殿は……」
「そうだろうな。少なくとも現状では」
別にオーレリア将軍を味方にするという意図はなかったが、面と向かって否定されるとくるものがある。
幸いにも革新派の手先として囚われるということはなさそうだが……そう考えたところで、シオンはここに連れてこられたそもそもの理由を思い出した。
「オーレリア将軍」
「なんだ」
「そもそも、自分とローレンスの連携の不出来の原因について話すことではなかったのですか?」
「なんだ、そなたは無駄話は好かぬのか?」
「い、いえ。そういうわけでは」
「まあいい。そなたの本音はある程度引き出せたことだし、核心に移ろうか」
シオンは口の渇きを潤そうとティーカップに手を伸ばす。しかし飲み過ぎたのか、いつの間にか紅茶はなくなっていた。
「先程もいったが、連携そのものに何を言うつもりもない。が、ローレンスとの連携を鈍らせている貴様の姿勢だけは、正さねばならぬ」
そうして、オーレリア将軍は告げた。偶然か必然か、シオン自身が必要だと理解していてもできなかった問答を。
「貴様は決めなくてはならない。このまま貴族派に残るのか、それとも革新派に寝返るかをな」
「……貴女は、私の考えを否定していないのに、ですか?」
「一個人の考えだ。職務としてはともかく、どちらがいいなどと決めるつもりはない。寝返るなら好きにするがいい。もちろん行動まで裏切ろうものなら領邦軍の将として全力で狩らせてもらうがな」
淀みのない、はっきりとした行動原理。思想よりもむしろ己の立場において従順な役割。
「ローレンスが貴様に対し怒りを禁じ得ない真の理由は、貴様がいつまでもどちらにつかない行動をとっているからだ」
喉がつまる。
『貴様にそれが出来ないのは……貴様が貴族派にいながら平民の利を考える半端者だからだっ!』
かつて兵棋演習でエラルドに言われた言葉だ。
「そんなに……半端者に見えますか」
「見えるな。少なくとも、既に革新派に寝返っているならもっとうまく立ち回っているだろう」
自分は貴族派に属している。しかしこの内戦には賛同できず、かといって付いていくには不安の残る革新派にも傾倒しているわけではない。
実力のない自分には、誰かを導くこともできない。
「中途半端な姿勢が、多くの人を巻き込んで、誰にとっても不利益を生む……」
「そうだ」
信念を砕かれる音が、聞こえた気がした。
「内戦が始まっても、貴様はもう己の立場に従って戦うしかない。今の姿勢のままでは前と後ろから撃たれることになるぞ」
それはシオンのみならず、シオンとともに戦う人々の行く末も案じたものだ。
深く考える必要はなく、オーレリア将軍が重ねた言葉が全てだった。決意を持って貴族派に属すると決めたこの道は、裏を返せばどちらも選べないということ。
両派閥が本気でなかったからこそ浸れていたシオンの道は、とうとう分岐点を迎えている。
「さて、そろそろ演習場に戻るとしようか」
「……はい」
満足したのか、目的を果たしたのか。
オーレリア将軍は普段と変わらず、シオンは苦々しく席を立つ。
この会話の結果、シオンがどちらの道を選ぶのかは判らない。だが、シオンの行動を追い詰める契機となる。
扉を開いた直後。オーレリア将軍が静かに、けれど力強く呟いた。
「たとえ思想に反していたとしても、貴様自らが混じり気のない《悪》にならなければ、貴様の信ずる《正義》は貴様自身を貫いてはくれまい」
それきり物言わぬ将となったオーレリア・ルグィンの最後の言葉が、鮮烈にシオンの中で衝突を続けていた。
日々は流れていく。
それからもSUTAFEは、機甲兵訓練を続けていった。内戦のリミットが近づくほど、本格的に各領邦軍への機甲兵の配備は進んでいき、いつしかジュノー海上要塞以外の場所でも訓練は行われるようになった。
シオンは焦る。どう動けばいいかも悩めず、けれど帝国は、大陸は混迷の様相を呈し始めていた。
既に八月には帝国東端のクロスベル州が、宗主国である帝国と共和国を差し置いて、大陸諸国に『クロスベルの国家独立』を宣言していたのだ。クロスベル州を《属州》として扱う二国は当然これを認めず、しかし自治州の人間もクロスベル市長主導の下独立の声をあげだし、至るところから爆弾の導火線がちらつき始めている。
クレアをはじめとした多くの旧友たちとは、連絡を取ることができなかった。どんな顔をしてあって、どんな声で話せばいいのか判らなかった。
九月下旬には、ノルティア州の鋼都ルーレでテロリスト《帝国解放戦線》が鉄鉱山を占拠するという事件が発生。鉄道憲兵隊やトールズの七組の活躍もあって戦線は壊滅に追いやられたとのことだが、嬉しさは毛ほども感じなかった。その報道の数日後に、《貴族派と志をともにするよき協力者》という存在として、見覚えのある面々が領邦軍に紹介されることとなったから。
十月初めには、さらなる好戦の風潮が帝国を包み込む。度々話題に出ていた金で動く猟兵団の中も高位の団が、クロスベルで襲撃事件を起こしたのだ。その猟兵団《赤い星座》は八月の通商会議で帝国政府と契約していたが「既に関与はしていない」と否認しており、それがクロスベルのさらなる帝国からの独立の風潮を高めていく。
その襲撃事件の後日。貴族派が仕掛けるXデイが領邦軍兵士にも明かされることになった。秘密裏に、密やかに、しかし確実に。クロスベルが独立のため、独自の力と兵器を持って帝国と共和国に反抗する《運命の日》、その後必ず起こる鉄血宰相によるクロスベル侵攻のための演説の日。その日を、
何故、クロスベルの動向が判るのか。それも、帝国解放戦線とは別の《よき協力者》のおかげだという。クロスベルでも、恐らく多くの者が好まない凄惨な独立劇が始まる。帝国革新派にとって好まないその状況を推し進める何者かと繋がっている貴族派。シオンは、何かを考えることを放棄しそうになった。
十月二十三日。シオンは事あるごとに空を見上げる。母校トールズ仕官学院で、学院祭が開かれる日だから。たった二度の邂逅、けれど強烈な意志や未来を感じさせた若者たち。少しでも、青春を謳歌してくれればいい。全てが壊れてしまうその前に。
十月二十四日、昼。世界の密度が変わった。霊的なものなど感じ取れもしないシオンだが、それは判っていた。SUTAFEの司令部、貴族派の情報網、帝国時報の報道、外国の報道組織。全ての組織の導力通信が大陸中を飛び交い、一つの凶報を告げていた。すなわち、帝国・共和国の侵攻を跳ね除けたクロスベルによる《独立》という信じられない真実。
大陸の双璧を成す二大国への軍事的な勝利。当事国である帝国民は考えもしなかったクロスベルからの反撃を恐れ、クロスベルと共和国が手を組んだという事実を知る者からすればあり得ない不安に駆られる。
帝国は、大陸は、激動の時代を迎える。
────
夢を見た。
学院生だった頃の夢だ。
自分の故郷に不安を覚えて、でもこの道を歩けばきっと輝ける明日が待っていると信じていた日々。
人並みに不安はあったが、士官候補生としての忙しい日々はあっという間に自分を馴染ませて、着実に自分を成長させていった。
ケルディックの大市で育っただけあって社交性はそれなりにあったし、多くの人の多くの価値観に触れることができた。
ケイルスを筆頭に馬鹿騒ぎをする友人もできて、青春はさらに彩りを増していった。
多くの知識を吸収し、見聞を広めつつ、年頃の青春も謳歌する。
肝試し、部活動の対抗戦、貴族生徒との抗争、屋上での即興の演劇、などなど。
真面目なものなら、教室を借りての勉強会、帝都まで行っての憲兵隊見学、学院の敷地を利用した市内戦の模擬演習、などなど。
そんなやんちゃな青春を楽しんでいた時、クレアと出会った。
入学した一年目、クレアとは別のクラスだった。
当時シオンは、貴族生徒からの嫌味嫌がらせには多少は目を瞑るが度を越されると相手を口車に乗せて、自分の勝てる戦いに持ち込んで勝負を挑んでいた。
一年目の夏の頃、ケイルスと共に無駄に偉そうな貴族生徒に灸を据えようとした作戦を立てていたのだが、その過激さを見かねた同級の女子生徒が連れてきたのがクレアだった。
今でこそ氷の乙女などと言われているクレアだが、当時は士官学院生だとは思えないような物静かな少女だったことを覚えている。
だが、友人から一通りの事情を聴いたらしい少女クレアは、優しいが少し素っ気なかったのを覚えている。
とはいえ別にコミュニケーションに問題があるわけでもなく、友人の願いに応じて平然と自分たちに忠告をしてきた。
その時はクレアのことをただの美人優等生だとしか考えていなかったシオンだが、その時に見事に貴族生徒の横暴も沈静化しつつ冷徹な作戦でこちらにも灸を据えられたのを機に、後に呼ばれる氷の乙女の原型を知ったものだ。
それを機に、クレアに興味を持ったシオンは度々彼女と話しかけるようになった。
それからも度々騒動にクレアを巻き込むことになり、暴走するシオンをクレアが制御するようになった。
青春の、彩りが深まる。
そして……。
────
目を覚ます。広がった光景は、いつもとは違っていた。故郷ケルディックの家の中でも、トールズの第二学生寮でも、オーロックス砦でも、リーブスの下宿先のいずれでもない。
というより、今は朝の時間帯でもない。
「いつの間にか、寝てたのか」
どうして、そんな半端な時間にも関わらず夢を見るほど眠りについていたのかは判らない。目の前に広がるのは、最近になって慣れてきた機甲兵のコックピットだ。暗いコックピットでの待機命令。最低限の導力源だけをつけていたせいか、寝心地は悪いのに意識がなくなるのだけは早かったらしい。
起動している集音マイクからは、ずさんな振動だけが時折伝わってくる。
ケイルスも、サハドも、レイナも、フェイも。頼りになる八班の仲間は、今この場にはいない。
だが、代わりに大勢の人間はいた。SUTAFEも四大領邦軍も関係ない、大勢の領邦軍兵士も、同様に、機甲兵のコックピットの中で。
通信機から司令室の応答要請のアラームが鳴る。恐らく、自分と同じように全機甲兵の通信機から同じ音が流れているだろう。
『当艦はラマール州、グレイボーン連峰を通過。現在、帝都圏北部の森林区域上空へ侵入。帝都上空への到着まで、十分の予定。各自、引き続き待機せよ』
日付は七耀暦千二百四年、十月三十日。
時間にして、午前十一時五十六分。
場所は、
各四大領邦軍やSUTAF単体ではない。打倒革新派を掲げた貴族が連合を作り、その旗艦として造られた、全長二百五十アージュを超える世界一巨大な飛行船。多数の飛空艇や機甲兵も収容できるほどの巨大さを誇っている。
今日。
貴族連合は。
鉄血宰相ギリアス・オズボーンを殺し。
帝都と皇族住まうバルフレイム宮を占領し。
そして、革新派に引導を渡す。
作戦は、帝都と共にいくつかの革新派の軍事施設を強襲することから始まる。
作戦にあたり、シオンは帝都及び近郊の施設を占領するパンタグリュエル本隊の機甲兵部隊に引き抜かれた。八班をはじめとしたSUTAFの面々も、その能力に応じて各部隊に散り散りとなっている。
クロスベル侵攻に向けた演説中の鉄血宰相を、地上に潜伏している帝国解放戦線のリーダーが狙撃し、暗殺する。その一発の銃声を合図に、パンタグリュエルから機甲兵が降下し、帝都を占領する。
そのために、今日この場所に、自分はいる。
賛同しきれない行為をなすために、今日この場所に、自分はいる。
「……」
過去の風景だった夢を思い出す。
もはや戻れない、過去の幻影。
多くの軌跡を分岐させてしまったかもしれない、青春の選択肢。
そして、氷の乙女との出会い。
「もっと、二人で楽しいことをしよう……」
クレアには自分から交際を申し込んだ。
その時の様子は正直、あまり覚えてはいない。
ただ、ちょっとした安心感に浸れていたのを覚えている。
あれから卒業までの日々は、楽しくて、暖かった。
そして、月日がたつごとに少しずつ寂しくなっていった。
自分の領邦軍入隊は、大切な人との別離を意味していたから。
入隊してしばらくして、貴族派の闇の深さに気づいた。自分如きが変えられるわけではなく、かといって気づいた以上簡単に抜け出せるわけでもない。
だから、できることをしようとした。あの場所にいながら、少しでも悪あがきをしてやろうと。
だけど、その信念は砕かれた。
『私は悦んで駒となろう。武人として、至高の頂を踏めるのであればな』
『たとえ思想に反していたとしても、貴様自らが混じり気のない《悪》にならなければ、貴様の信ずる《正義》は貴様自身を貫いてはくれまい』
自分の行動は、多少の結果を変えていたかもしれない。だが、大きな力を持つ者に否定をされた。
どちらになるのか、選ぶしかないのだと。
「……」
そうして今、自分はこの場所にいる。
革新派に引導を渡すために。
『帝都上空到着まで、およそ五分。現在、鉄血宰相が演説を行っている。皆の者、覚悟せよ』
意識が浮上してから二度目の通信。そこかしこから、機甲兵の駆動音が唸りを上げ始める。
シオンも、同様に起動シークエンスを踏む。
「喜んで……駒になってやる」
自分の目的のために。一先ずは貴族派の忠実な駒に。
「いつか、ボロボロの飛行船を直すために。その道を見つける、ために、だ」
震える声で、新たな決意を言葉にする。
「革新派と、戦う」
クレアとも。
「正義を貫くために、悪に、な、る」
震える手で、機甲兵のアイドリングモードを解除した。
十二時八分。司令室の連絡役の声が張りあがる。
『帝都上空に到着』
十二時九分。
『鉄血宰相への狙撃、成功!』
十二時十分。
『帝都制圧作戦、開始! 時代を切り開く英雄たちよ、
降下ハッチが次々と開き、ワイヤーに繋がれた機甲兵ドラッケンが、隊長機シュピーゲルを筆頭に地上へ降下していく。
「……シオン・アクルクス」
自分の名前を呟く。
シオンもまたドラッケンを操って、ハッチから地上へ降下する。
みるみるうちに近づく地上では、帝都市民が蜘蛛の子のように散らばっていて、遠くには帝都守備隊である第一機甲師団の戦車アハツェンが走行しているのが見えた。
軋む胸元。浅くなる呼吸。狭まる視界。
一度だけ、シオンは自分の胸倉を鷲掴む。
戦え、戦え。
迷いを振り払って、いや迷いから逃げて。ただその言葉だけを胸に流し込む。
「さあ、行くぞ……」
決意と共に、シオンのドラッケンにそれなりの振動が襲い掛かる。同時に画面に広がる、緋い街並み。
混迷に揺れる帝都のレンガ道に、鋼鉄の騎士が降り立った。
次回、17話
両価の内戦