手短に買い物を済ませ、思いもよらなかった後輩の出現に喜んだシオンは少しばかり機嫌を良くして集合場所へ向かった。
少しばかり調査も手間取ったのか、集まったのは夕陽も完全に落ちそうな頃合い。同僚たちは手に持つリンゴを頬張るシオンを少しばかりじっとりと見続けたが、律儀に人数分買って来られて渡されたので何も言わないことにしておいた。
夕食を適当に食べながらの情報交換。シオンはマゴットの元で地ビールを仰ぐことを切に願ったが、意外に真面目なケイルスとフェイの非難によって普通の軽食店で食べることになる。と言っても、ケルディックだけあって十分にうまい店なのだが。
集まった情報は、シオンが把握していることとそれほど変わりなかった。全員がアルバレア公爵家の無茶な増税の結果揉め事が生じているということは理解しており、また状況を改善するための策も無さそうだということは理解できていた。
食事を食べ終えた五人は見事に意気消沈する。
「まったく、どこの領邦軍も力を持ちすぎたせいで苦労するもんだな」
そんなことを言ったのは、年長者のサハド。この会話により、一同の話題は増税から領邦軍のことについてに移る。
領邦軍というのは、大貴族の私兵である。金持ちが継続して雇うような傭兵を大規模にして組織化させたものに過ぎない。あくまで忠誠を誓うのは大貴族にのみ。他の存在はついででしかない。
つまるところ、帝国の中に複数の国があるようなものなのだ。しかも皇帝が治め、名目上とはいえ民主化された政治ではない。一人の領主が領地を動かす、独裁の政治。大袈裟な物言いかもしれないけれど、そう過言してもおかしくはなかった。
「はい、本当に。この後詰め所で寝なきゃいけないのが腹立たしいです」
そしてそのような状況なら、現在のこのケルディックの領邦軍の態度も理解がいく。
主に弓引く民を救うはずがない。それが常識的に善か悪かは別として。
「マゴットさんとか良い人がたくさんいるから何だかんだ二年間やってこれたけど、本当はいつも嫌だったんだ。上司の偉そうな態度がさ」
ケイルスは盛大にため息を着いた。昔はここまで露骨ではなかったが、それでも昼間の部隊長の嫌味や領主先行の価値観にあおられ続けてきたのだ。思った以上に体が悲鳴を上げているらしい。
「だとしたら、そもそも何でアルバレア公爵家はここまでの増税をしたの?」
フェイが前提を理解したうえでそもそもの原因であった増税の話題に踏み込む。
「確かに……どの四大名門でも、財政が危ういという話は聞いたことがありませんし」
あれやこれやと議論は進む。しばらく黙っていたシオンが、唐突に口を開いた。
「領邦軍の戦力増強のため。これが理由だろうさ。革新派に対抗するために」
それぞれ予想を立てる中での一言に一同が静まり返る。答えを予想できていたらしいサハドが、他を差し置いて付け加えた。
「恐らくそうだろうな。フェイに、レイナもなんとなくは判っているだろう。クロイツェンほどではないとはいえ、俺たちの州でも少しずつ増税が進んでいるのを」
領邦軍は、貴族派という四大名門が中心の一派の戦力ということが言える。なら、それに対する勢力は? 答えは簡単、革新派が擁する正規軍だ。
ここ最近は戦車の発注増加などもある。上同士のくだらない対立のせいで、領民に理不尽な弊害が起きているのだ。
「自分が勤める組織ながら、つくづくため息が出るな。元々、家族を養うために入隊したとはいえ」
正規でないとはいえ、一応は軍人であるあえに収入は悪くない。サハドはそう言った経済面の理由で入隊したとのことだが、『守るため』でないとはいえ納得したくはなかった。
「でもこの五人で良かったですよ。自分と似た価値観の人たちが集まってよかった」
シオンが明るい声で言った。まだ一ヶ月もたっていないが、お互いの性格をなんとなくでも掴めてきた今日この頃だ。凝り固まった貴族主義の思考が身につき、罪悪感も薄まりやすい領邦軍の中で、今日の自分の愚痴に同調する人間がこんなにも集まるというのは奇跡に近かった。SUTAFEに派遣されてから色々と疲れる毎日だが、そこだけは良かったと心から思える。
「ははは、そうだな。シオンはいつも上司や先輩と喧嘩してばっかだったから」
「うるせぇよ」
少しばかり喧嘩腰となる親友たちを、サハドは優しく諌める。
「確かに、そこも班長殿に賛成だ。今までで一番過ごしやすいからな。この班に集められて、正解だった」
新たな話題を投じたのはレイナ。
「そう考えると、……私たちってどうして集められたんでしょうね」
すなわち、SUTAFE設立における人選の基準である。この三週間誰もが一度は考えた、けれど判らずじまいになっていたこと。その予想は自然と盛り上がった。
「性別は?」
「フェイさん、私がいます……」
「なら経験年数は?」
「重鎮こそ少ないが、三年から十年程度と幅広いぞ。俺を見てみろ、フェイ」
「平民だけかと思ったらそうでもないし」
「お前と初日からいがみ合ってたローレンスは伯爵家だしな。至近距離から見てて面白かった」
どれをとっても、いまいち納得がいかない。楽しい会話ではあるが、結局は平行線だ。
「……士官学校の出身、て訳じゃないもんな」
シオンのぼそぼそとした呟きも、残念ながら不正解だ。シオンとケイルスは名門トールズの卒業生だが、残る三人は士官学校を卒業したことがない。
「あ、そういえばシオン」
「どうした? ケイルス」
「昼間、面白い子たちを見つけたんだよ。たぶんトールズの学生だ」
ケイルスからの報告で、昼間大市で喧嘩沙汰一歩前まで発展した商人がいたことは知っていた。申請し、許可された店のスペースが重なってしまったとのことだった。この件に一同は違和感を覚え、翌朝にでも詳しい経緯を聞いておこうとの方針を決めたのだが、どうやらその場を収めたのが紅い制服を身に纏った学生だったらしい。
「あれ、間違いなくトールズだよ。珍しいところに後輩がいた、って思ってさ」
「あれ? 大市のアルバイトをしてたんじゃないのか?」
「いや、それがどうやら面白いカリキュラムらしくてさ。色々雑用を請け負ってたみたいだ」
「……便利屋?」
「かもな。卒業してもう三年、いろいろ変わってるんだろうさ」
その学生たちの中には、夕方みた黒髪の少年も含まれているのだろう。
三人にトールズのことを説明したり、学生たちの話題を続けたり。ため息も多く出たが、少しは楽しく一日を終えられた。
そして一同はケルディックの詰め所に戻り、いそいそと寝所に向かい意識を閉ざした。慣れない簡易的なベッドのせいか、夜が明けてもなかなか眠気は取れなかった。
五人は話し合いの最中、今日はなるべく早めに帰ろうという意志を固めていた。自分たちが介入してもあまり効果が期待できない以上、留まり続ける理由もない。何も出来ないのは心苦しいので、シオンが考えたように大した期待もできない対策案を作成して元締めたちに提出することにした。
問題が起こったのは、早朝、八時頃になってのことだった。
朝食ぐらいは風見鳥亭で食べようとしたのだが、その前に五人で散歩をしていたところで大市から喧騒を感じ取る。嫌な予感がして様子を見に行ってみると、そこには屋台の骨組みから破壊されている店と、その正面で一触即発の様子の二人の商人だった。
「いい加減にしろ! もう怒ったぞ!」
「それはこちらの台詞だ! どうせ君がやったんだろう!?」
ケイルスが言っていた、昨日店のスペースが重なって喧嘩沙汰になった二人だ。もっとも、今回はそれ以上に怒気をにじませているが。
「そこの二人! 一度落ち着け!」
シオンが怒鳴り、先頭にして五人が割って入った。見慣れた青い軍服でない突然の乱入者に、大市の人々は驚いた。
喧嘩腰の二人、若者の方がシオンたちを見て呆気にとられる。
「な、なんだあんたらは!?」
「俺たちは領邦軍の兵士だ。こんな成りだがな」
「ともかく、事件になったら多方面に被害が出るだろう。一旦は落ち着いてくれ」
ケイルスが場を諌めようと試みる。ようやく、騒ぎも落ち着いてきた。
視界の端に昨日話題になった紅い制服を捉えたが、今は非常事態だ。声をかける暇はない。
「ふぅ。まずは事情を――」
「君は、もしかしてシオン君ではないかね?」
商人二人に話を聞こうとした矢先、近くにたたずむ老人から声をかけられる。帽子の奥に隠れていて気付かなかったが、シオンにとって見知った顔である。
「オットー元締め!? お久しぶりです!」
帽子と整えられたスーツは、好々爺な雰囲気に誠実な印象を与える。この御人がケルディックのまとめ役であるオットー元締めだ。どうやら、この騒ぎを抑えるために駆け付けたらしい。
「久しぶりじゃのお。どうやら仕事で来てくれたようじゃが……」
「はい。色々話したいことはありますけど……それは後でにしておきましょう」
そんなことを話す町長と班長を余所に、同僚たちがその場を諌めている。
「ふん、昨日は何もしなかった癖に、今日に限ってずけずけとくるのかね」
「生憎、領邦軍と言っても正規の組織から外れていてね。ともかく、落ちきましょうや」
増税によって気を張り詰めているせいもあるが、頭に血が上っているせいか中々言葉まではとなしくなってくれない。
そのせいか、ようやく調査を始めようとしたところで、邪魔が入った。
「ともかく、様子を見る限りどう見てもこれは『事件』だろう。まずは事情聴取を――」
「おい貴様ら、何をしている!!」
正真正銘クロイツェン州の領邦軍のお出ましだった。
小隊長の紋を付けた兵士が、数人の一般兵をつれてやって来る。無駄に周囲を威圧しつつ、ずけずけと中心に入り込む。
シオンは一度同僚たちを下がらせた。
「貴様ら……SUTAFEの輩だったか」
「はい。第二小隊第八班班長、シオン・アクルクスです」
「貴様らの職務は別のものだと聞いているが、何故この場にいる」
「偶然ですが、騒ぎを聞きましたので。一触即発の状況ですし、場を鎮圧するために前に出た次第です」
「ふん……」
小隊長は苛つきを隠さずに当たりを見回した。
「状況は理解した。とっととこの場から去れ」
「な……お言葉ですが小隊長」
「口答えをするな、余所者が」
「しかし」
「黙っていろ!」
暴力的な言葉に、レイナは既に目を伏せている。フェイは横に反らし、ぐっと口をつぐんでいる。
どうしてこうも苛ついているのかは判らないが、仮にも上の立場の人間に無理にたてつく訳にも行かなかった。シオンの指示の元、五人はその場を離れる。
シオンたちが開いた空間に、紅い制服を身に纏った少年少女が入り込んだ。実習とやらでこの地に来ている彼らが何故前に立つのか。その真相は判らなかったが、できれば文句を言ってやれと念を送りながら立ち去った。
五人は、大市を後にしても歩き続ける。そうしながらも、不満は正に垂れ流し状態だった。
「なんだ、相変わらずバカか小隊長殿め!」
「さすがに、酷いです……」
「あの人、自分が雰囲気を悪くしてるって気づいてないんじゃないの?」
ケイルス、レイナ、フェイが思ったままに口にし続ける。全く持って同調する残り二人だったが、これはまずいとこらえて話し合う。
「……班長殿、次に行く場所は?」
「揉め事の予防策を練るって昨日言いましたけど、それは止めにしましょう。まずは詰め所に行きます」
「ふむ。どうせ厄介者扱いされるだけだと思うぞ?」
「それは百も承知ですけど、俺たちがあの場にいたのはまだあの小隊長たちだけしか知らない。部隊長もまだ俺たちが余計なことらしいあの事件に介入したとは知らない。今のうちに目に物見せてやりましょう」
あの大市での状況は、器物破損と物品の盗難、明らかに事件と呼べるものだ。そして商人二人は明かにお互いを罵倒し合っていた。一方が罵倒し他方が言い返すのではなく、
なのにあの小隊長は自分たちを調査の頭数から跳ね除けた。彼らの性格上面倒事には首を突っ込みたくないはずなのに。SUTAFEの意義は領邦軍の補佐であり、厄介事を押し付けることができる者たちのはずなのに。それは、自分たちを事件の調査から除外したい理由があったということだ。
どこか、後ろめたいものがある気がしてならない。そもそもあの物言いが頭にきた。
どんな形であれ、自分たちはあの事件の調査から外されたのだ。本来は彼ら小隊長たちには媚を売っておくのが正しいのだろうが、それはこの腹立たしさを解消できてからでいい。SUTAFEの本分、規定上
そこからの行動は早かった。行動指針を四人に説明し、一目散に詰め所へ向かう。シオン指揮の下、詰め所の内部にある書類を片っ端からあさる。
レイナとフェイを大市に残して二人には大市の小隊長の同行を探ってもらった。彼らは思ったよりも早くその場から去ったらしく、早々にシオンたちは切り上げて当事者たちへの聴取に向かう。
その途中、大市の手前でシオンたちは足を止めた。紅い制服の少年少女たちと目が合ったからだ。
「……君たちは」
「……あなた方は」
黒髪の少年を先頭に、少女二人と少年一人が連れ立っている。彼らは浮かない顔をしていた。
「トールズの学生だね。ご苦労様」
特に少女二人がこちらを睨んできてる。大方、ぞんざいな扱いをしていた領邦軍に対して怒りを受けているのだろう。それはこちらも同じなのだが、彼女らからしてみれば自分たちは領邦軍に見えても仕方がない。
シオンは苦笑いを浮べながら言った
「ははは、そんなに睨まないでくれよ。二人とも顔も可愛いんだから、花のような笑顔を浮べなきゃ損だぜ?」
「な、何を言い出すのよ……」
金髪の少女は、一瞬顔を赤らめたが即座に呆れる。
「いくら末席だとはいえ、我らを愚弄しているのか?」
対して青髪の少女は棘のある物言いだ。言葉遣いからして貴族らしい。
「班長、なに女の子をナンパしてるのさ」
「ははは、悪い悪い」
後ろからの同僚の非難に苦笑して頭を掻きつつ、一応はしおらしい対応をしてみる。
あんな奴らの代わりなど勤めたくはなかったが、年若い彼らに一応身内である小隊長たちの恥を見せたままというのも、それはそれでいい気分ではなかった。
「……上司たちが、悪いことをしたね。すまない」
「ということは、あなた方はやはり領邦軍の?」
黒髪の少年が聞いてくる
「ああ。ただ俺たちは領邦軍だけど、さっきの隊長たちとは少し枠組みが違ってね」
服装が違う時点で単純な同じ組織ではないことは判っているだろうが、自分たちの口から説明するのは昨日に続き止めておく。代わりに、代表としての自己紹介をした。
「シオン・アクルクス、一応准尉だ。よかったら覚えておいてくれ」
「自分はリィン・シュバルツァー。トールズ仕官学院七組の者です」
七組と聞いておや、と思う。ここ最近でトールズの生徒数は減少傾向にあったはずで、それでも自分が在籍していた時は一学年六クラスだったと記憶しているが。
「それにしても君たち、もしかしてさっきの事件を調べるつもりなのか?」
「……はい」
「えっと……さっきの兵士さんたちは調査をしない、ということだったので」
リィンの肯定に続き橙髪の少年がおどおどとしながら答えてくる。仕官学校に似合わないような風貌だが、髪の色にシオンはどこか既視感を覚えた。
それにしても、やはり領邦軍はこの事件への不干渉を貫くようだ。昨日の調査と今日の言動からなんとなくそれは理解できたが、軍人の風上にもおけないような態度に、八班の面々は一層腹を立てる。
「そっか……」
尚更、好き勝手にやってやろうとほくそ笑む。
そして、凡そ領邦軍に所属する人間としては初めてするであろう行動を試みる。
「だったら、情報交換をしないか?」
――――
貴族派主義に凝り固まり、堅苦しい上下関係を取りやすい領邦軍としては異例の対応である『学生との共同戦線』を張ったシオン一同。場所を変え、彼ら学生が大市で集めた情報を受け取り、そして彼らの奮闘を応援して別れる。
彼らからの情報を基に改めて調査を行い、幾つかの確信を得てから五人は集まり、物憂げな雰囲気を醸し出していた。
「で? どうなの班長?」
フェイが今日一番のぶっきらぼうな態度で聞いて来たので、こちらも投げやりに答えた。
「十中八九領邦軍が黒だろ。あの子たちはまだ確証がなくて動けない風だったけど……すぐにでも気づくだろうさ」
学生たちから聞いたのは、現場の状況だった。
発見者が事件に気づいたのは早朝、大市の準備をしていた時とのことだ。つまり早朝には既に店も壊されており、犯行は深夜に行われたことになる。
被害者は商人であるハインツとマルコ。前者は帝都からやって来て装飾品を売っており、後者はここケルディックで食料品を売っている。この二人は昨日から既に場所取りの件で喧嘩をしており、両者は互いに互いを犯人だと疑っていた。
だが、リィンたち学生が事情聴取をした限りでは、両者ともにアリバイがあった。互いが自分の店を逆恨みに壊したのだと言っていたが、その線は限りなく低い。
だが、シオンたちを跳ねのけた小隊長は不干渉を貫いただけでなく、ろくに調査もしないくせに『同じタイミングで互いが互いの店を壊した』という暴論を持って、強制的に逮捕しようとしたのだ。
どう考えても理不尽な領邦軍の行動に、学生だけでなく自分たちも呆れ果てたものだ。
ここまでの経緯を踏まえて、五人は全員一致でこの事件の犯人を領邦軍だと仮定することにした。
「そもそも昨日まで不干渉を貫いた領邦軍が今日になって急に介入してくるってのがおかしいんだよ」
ケイルスはそう言って俯いた。ケイルスからしてみれば、ケルディック部隊の上司と同僚は曲がりなりにも同じ釜の飯を食らった仲だ。言い切れない罪悪感があるのだろう。
アリバイがある以上商人たちが犯人という可能性は限りなく低いのだが、現実として事件は起きている。ならば犯人は誰なのか、この事件を起こして得をする、あるいは得をしそうな人物は誰なのか。
それは考えるまでもなく領邦軍だ。増税に対する陳情を煩わしく思った領邦軍が犯行を計画した。それが一番納得がいく。
問題の盗まれた物品だが、町人が犯人、あるいは町人を犯人に仕立てたい奴ならば町に物品があるだろうが、隠せるような場所は粗方探してみた。
駅にも訪れてみたが、鉄道で逃げた形跡もなかった。それなら、可能性としては街道の可能性が高い。
「だとすれば、どこに証拠となる物品が……」
レイナが呟いた。
領邦軍が犯人だというのは五人の中で確定しているが、それを彼らに突き付けたところでどうにかできることではなかった。必要なのは、彼らの度肝を抜かすための一手。
そのための盗品や実働部隊の手がかりは、この事件の関係者に最も精通しているシオンが見つけ出した。
「ルナリア自然公園だ」
帝国有数の規模を誇る森林、ヴェスティア大森林の一区画を観光用に整備した自然公園。そういった経緯から、他州の三人も名前だけは知っていた。そしてシオンとケイルスは、何度か訪れたことがある場所でもある。
盗品の保管場所をそこだと決めた理由は二つある。一つは領邦軍のお偉い方の性格上、自分の手を汚さずとも盗品や犯人を自分の管理下に置きたいと考えているだろうということ。
「それと、自然公園の管理人がジョンソンさん──俺が知る馴染みの人じゃなくなっていた。証拠とまでは言えないけど、俺たちが行動する理由には十分だろう」
「ならシオン、この件をさっきの学生たちにも伝えるか? 証拠はないが」
「いや、止めておこう」
学生たちは、これから先程の小隊長殿に直接面会を願い出ると言っていた。領邦軍の行動がおかしいからその真意を探ろうと考えているのだろうが、大した度胸だ。
「学生に協力しているとこを隊長たちに見られるのはまずい。それよりも、彼らが解決するように、俺たちが邪魔者から守ればいい」
「万一、隊長たちが学生たちを捕まえようとしたら?」
「その時は……全力で守る。そのための保険にも、考えがある」
全力で守る。その言葉に反論をする者はいなかった。
思った以上に黒くなっていた領邦軍。その愚行を止めるため、SUTAFEが動き出そうとしていた。