ここは、私の相方である葉月カンナの作品を紹介するコーナーです。

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この作品は、私の相方である、葉月カンナのものです。本人の許可を貰いましたので、ここに公開させて頂きます。

第八話 「盂蘭盆のとある一日」の元ネタになります。

他にもベースになる話がありますので、興味のある方は下記リンクをご覧下さい。


出典 「 K's Bar 」 管理人 葉月カンナ

http://www.eonet.ne.jp/~chitoki/


Underground

◆ Underground

 

 

 

大吾からのメールが冴島の携帯に届いたのは、寝相の悪い真島に蒲団から蹴り出された時だった。

 

 

起き上がり。

少しだけ痛む二日酔の頭を僅かに振り、気付かんうちに歳取ったわ…

と五月蠅く鳴り続ける携帯に悪態を付きながら手を伸ばした。

 

「うるさいなぁ~…何やねん…電話かいな」

鳴り続ける着信音に、流石の真島も目を覚ます。

やっとの事ボタンを押して、メールを確認した横から、

「お前…メールの着信音何分に設定しとんじゃ」

と真島に指摘され、

「考えた事もなかったわ」と応じると。

手元から携帯を取り上げられ、暫くの操作後、短時間のメール呼び出し時間に設定し直された携帯が手元に戻された。

「…兄弟…あのままやったら、ワシお前殴り殺しとったとこや」

「…すまん」

「まー…そんだけお前が携帯使いこなしてるのは、奇跡やけどな…」

言うだけ言って、再び真島は蒲団に沈没した。

静かになった真島に視線をやってから、改めてメールを確認する。

 

 

「手合せ願います」

 

 

簡潔に書かれたその一文に、冴島は大吾に何か問題があった事を直感した。

待ち合わせの場所から見て、極めて内密であると言う事は明白だった。

時間が書かれていないと言う事は、至急ではないのだろう。

 

しぱしぱする目を擦りながら、洗面所に向かい寝惚けた顔を水で洗い流す。

ちょっとスッキリした冴島は、冷蔵庫から冷えた水を取り出し一気に飲み干した。

ペットボトルを握り潰し、ごみ箱に投げ入れると手早くざっと身支度を整え、

「兄弟、好きなだけ寝とけや」

一応声だけ掛けて、河原に向かった。

 

 

 

冴島組事務所から出て、歩きながら考える。

このタイミングで呼び出されると言えば、施設の件に違いない。

背後の様子を見ながら、店を冷やかしたり食い物を物色したり…フラフラと神室町を歩く。

ハラ減ったな~と呟き顔なじみの定食屋に入り、焼鮭定食を注文した。

黙っていても冴島の場合、此処では白飯が丼に仏飯の様に盛られて出てくるので有難い。

暫く待って食器が乗った盆が目の前に置かれる。

今日はいつもより全ての量が多い気がした。

「おばちゃん、今日は豪勢やな」

「この前の御礼よ、お代わりもしてってね」

「…何や俺、おばちゃんに御礼されるよーな事したか?」

「何言ってるの、この前ウチの娘と友達助けてくれたじゃないの」

「あぁ…あのコぉか」

ここ最近、神室町内でタチの悪いキャッチに捕まる子が増えていた。

たまたま通りかかった時、見かねて助けてやった女の子達の顔を思い出す。

そしてこの店の近くまで送り届けたのを、おばちゃんに言われるまで忘れていた。

冴島は苦笑い、

「ほな遠慮なく頂くわ」と定食をガッつき出した。

「沢山食べてね…あ、毎度~いらっしゃい」

サラリーマン二人がおばちゃんと朗らかに話しながら席に着く。

横目で様子を伺っていてもあからさまに常連で、自分を付ける様な連中ではない事が知れた。

ちょっと気を抜きながら、遠慮なくお代わりを貰いつつオカズを平らげて。

食べ終わって茶を長閑に啜っていると、店は冴島の貸切になっていた。

「おばちゃん、ちょっとええか?」

「追加?」

なんぼなんでもこれ以上食えんと笑いながら答えると、何故かおばちゃんのツボにハマった様でバカ笑いされて、タイミングを外され冴島はちょっと困ってしまった。

 

「あー…そんでちょっと頼みがあんのやけど…」

やっとの事で切り出す。

例のキャッチに付き纏われてるのを巻きたいから、裏口から出してほしい。と。

「そんな事だったら早く言ってくれれば…! 勿論良いよ。

ウチの娘のせいで迷惑かけてごめんね」

「ちゃうちゃう、それは関係ないねん。そいつとは前から因縁があってな。

付き纏われとって困っとったんや。

何や嬢ちゃんの事に乗っかる様なってもて悪いけど、頼むわ」

「そうだったの…ウチで良かったらいつでも使ってよ。

くれぐれも気を付けてね。それからご飯も気軽に食べに来てよ」

 

おばちゃんの好意に感謝しながら、冴島は定食屋の裏口から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大吾はバンテージを巻きながら、体の奥がざわりと疼きそれが脳まで貫いて行く細かな衝動を愉しんでいた。

 

数時間前。

村田を呼び付け「体を動かしたい」旨告げると、渋々ながら予定変更を承知した。

ここの所忙しくてスパーリングどころか、筋トレさえ満足に出来ない有様なのは周知の事実だったし、大吾が実は地下闘技場で極めて特殊なルール枠でトーナメントに出場しているのを、幹部達は勿論知っている事だった。

そのプレミアムトーナメントには東城会を構成している組織連中や、それ以外の組織連中も参加している。

それぞれの力の見せ場でもあり、社交の場でもあり、多岐に渡る動向を一目で見られる絶好の場でもある。

しかも良い小遣い稼ぎにもなり、地下闘技場も各組織も潤い、モメ事さえなければ最高のエンターテイメント事業だ。

大吾は率先して東城会会長と言う看板を背負い、その場に立ち続けていた。

大吾にとっては殴り合いの欲求を満たしてくれる恰好の場で、口実としては有難かった。

花屋はどこまでも闘いに貪欲で、トーナメントが無い日でも特別枠の大吾達は闘技場に行き、相手さえいれば満足なスパーリングが出来る環境が与えられていた。

 

ジムで適度にウォームアップした後、大吾は闘技場の控室に移動する。

ロッカーに荷物を置いた時、小鳥遊(たかなし)に後ろから声を掛けられた。

「よー久しぶりだな」

「あぁ…貧乏暇なし、だ」

大吾の自虐に小鳥遊は苦笑いしながら、

「ちょっとやるか?」ポンと肩を拳固で弾く。

グルリ周りを見回しても今日は誰も居ない様だった。

「…聞きたい事もあるしな」

「おぉ~? 東城会の会長さんが何かな~??」

「…茶化すな」

小鳥遊の顔にチラリと軽く睨みの視線をくれやる。

 

少々バタ臭いが目鼻立ちは最高の部類に入るであろう顔。

黙ってさえいれば、男も女も放っておかないであろうに…という性格。

スラリとした背丈に無駄の無い筋肉を付けていて。

頭のキレは最高に良く、多彩な知識。

それでいて、ベラボウに強い。

大吾ですら、この男にはちょっと嫉妬を感じてしまう。

小鳥遊鷹子(たかなし たかし)…フザけた名前のフザけたこの男は。

 

「まだ早い話だけどさ。

……峯の7回忌やる予定あるの?」

「…こっちでは無いな」

「そ。…じゃボクやるから、来てよ」

「…空けておく」

「香典弾んでよ~…何ならパーーーッとココでやっちゃう?

アイツも殴り合い好きだったしさ」

片隅に吊るされたサンドバッグを見つめながら、大吾はそうだったな…と呟き返した。

 

大吾以外では、死んだ峯の唯一と言って良い友達だった。

小鳥遊の不動産屋という職業から、土地売買や金銭関係での繋がりが発端だった、と言う事は容易に想像出来た。

最近になって、ここでの繋がりも見えてきた。

大吾が小鳥遊についてざっと調べてみると。

やんごとない出自だと言うのに、そんな血筋を嫌って家を飛び出し、己の力だけで何不自由無い今の立場を築き上げた。

…そんなハングリーさが、峯と小鳥遊の仲を取り持っていたのかもしれない。

今ではたまに、思い出した様に気楽に峯の話が出来る相手になっている。

信用も信頼も出来ないが、互いに少しずつ気が置けなくなりつつあるのは此処で拳を交えているせいか、峯のせいか。

 

 

 

――― バンテージを巻きながら細かな衝動を愉しみつつ、頭から色々追い出してゆく。

巻き終わり、マウスピースを噛みスーパーセーフ面を付ける。

仕事上あまり顔に傷は付けたくない。

スパーリングなら、許されるだろう。

それは小鳥遊はじめ、プレミアムシードの出場者に共通して言える事だ。

大吾はオープンフィンガーグローブを選んで装着し、枠内に立った。

小鳥遊も準備が出来た様で、同じく枠内に立つ。

体の内部が沸き上がる。

互いに中心部に進み、拳をコツンと軽く当ててから距離を取る。

見えないリズムを取りつつ、小鳥遊の出方を待つが変化がなかった。

小鳥遊は遠距離も近距離もどっちもokな厄介な相手だったが。

今はカウンターを狙うだけの余裕が、気持ちにない。

大吾は大きく半歩で一気に相手の懐に飛び込んだ。

殴る時に腕を伸ばし切らないのは、捌きで肘関節を壊されない為だ。

間合いを崩してからの第一インパクトは近距離からで攻めると、

案の定あっさりと首相撲に持ち込まれてしまった。

寝技に持ち込むには、今日は体力が足りなさそうだ。

小鳥遊の密着した肘からの寸勁に苛立ち、細かく打撃を入れつつ足を絡め取った。

小鳥遊が倒れる時ニヤリとするのが目に入り、ヤバいと思った時には体を躱され自分が押さえ込まれる形になっていた。

咄嗟に大吾は相手の体に手足を絡め、相手との距離を潰し小鳥遊の肩と首を極めに行く。

うまい具合に三角締めが決まりそうになって、小鳥遊が締めを抜けようと足掻き力が緩んだ所を、大吾はすかさず相手の足を蹴り体をひっくり返して素早く立ち上がって距離を取った。

小鳥遊が立ち上がりながら、盛大に舌打ちをするのが聞こえて来た。

表情を見ると、相変わらずのニヤけ顔だ。

イライラしている時に二度とコイツとスパーリングはしない…と、大吾は内心何度目かの誓いを立てた。

 

さて次はどう攻めようかと、互いに軽くジャブ当てしながらタイミングを取っていると。

 

 

「お~やっとるよーやの」

道場に良く通る声が響いた。

 

「冴島さん」

「お、トラさん」

中心に戻り礼をしてから、互いに枠外に出て防具を外してゆく。

冴島は大吾にタオルを渡してから、少し丸めたタオルを小鳥遊に放り投げた。

上手くキャッチした小鳥遊は、サンキュ~と何処から出してるか分からない甲高い声で冴島に礼を言い、投げキッスまで付け加えた。

「…アイツは相変わらずやな」

「退屈はしませんけど…」

大吾は冴島に礼を言いつつ汗を拭き、

「すいません、呼び出して」

「気にすんな。ゆっくり話出来る場所限られとるしな」

「ここで構わないですか?」

「ええで。他の連中入って来ぇへんよう頼んどいた」

「ありがとうございます…小鳥遊と話、したいんです」

「俺は居らんほうがええか?」

「居てください」

「――― 鷹、ちょっとこっち来てくれや」

「なに~トラさん?」

ロッカールームへ行きかけていた小鳥遊が、フラフラと調子を取りながら歩いてくる。

「すまない、ちょっと聞きたい事がある」

大吾が口を開くと、ああそうだったね~と二人の傍に腰を下ろした。

 

 

 

「株に変な動き、ないか?」

「いきなりだね」

はははっと笑いながら、小鳥遊は少し首を傾げていたが。

「ちょっと前から、ある製薬会社がヘンかな?」

「どんな風に?」

「ん~…勘?」

「…そうか。…その製薬会社の名前が知りたい」

ニヤついた表情の中、唯一笑っていない小鳥遊の目が大吾の目を捉える。

「…大吾的に大問題?」

「お前に聞く程…大問題」

「ボク的には楽しい? お祭り? お祭り??」

「楽しむか楽しまないかはお前次第だ。

……" 好き" にして構わない」

大吾のセリフに満足したのか、笑っていなかった眼光が和らいだ。

「あははっ。さすが東城会の会長さん…太っ腹だねぇ」

にっこり笑った小鳥遊は、大吾ににじり寄り。

「…―――」

耳元に告げる。

「…助かった」

「いえいえ~楽しい事ならいつでも大歓迎」

満面の笑みを浮かべた小鳥遊は腰を上げ、

「また此処でも遊んでね~」

と手を振りながらロッカールームへ向かって行く。

その背中に冴島が「俺ともまた遊んでや」と投げかけると、振り返り。

「トラさんとやったら一ヶ月位再起不能なるから、ヤダ」

ケタケタという笑い声を残して、道場から去って行った。

 

 

「…アイツとおると、一気に疲れるな」

「冴島さんでも、ですか」

と、大吾が微笑みながら突っ込んで来るのに。

冴島は少しびっくりした様に大吾の顔を瞬間凝視した後、口元を緩ませた。

自分にも最近は懐いて来てくれるのを肌で感じていたが、目に見える形で返されるとこうもこそばゆいとは思わなかった。

「俺かて苦手なヤツはおるで」

「それは真島さんには内緒に…と言う事にしておきますか?」

ここまで切り返して来られると、笑うしかなかった。

「大吾も最近はだいぶ柔らこぉなって来たな」

冴島に言われて、照れくさそうに「いえそんな」と口ごもる。

大吾はマジメ過ぎるのがタマにキズだ。

もうちょっとボケとツッコミのノリ教えんといかんな…と内心思いつつ。

 

「…そんで、その疲れる相手にわざわざ何聞いとったんや」

「あ、はい…その事ですが…」

 

 

 

fin.

('13.02.16)

 

 

 

出典 「 K's Bar 」 管理人 葉月カンナ

 

http://www.eonet.ne.jp/~chitoki/

 


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