桜の花びらがひらひらと舞い散る道を駆け走で駆けていく二つの姿がある。吉井明久と姫路瑞希だ。明久は、姫路のペースに合わせて走ってるため少し汗はかいてるがそれほど苦しくはなさそうだ。だが、姫路は自分のせいで遅刻するのは嫌なのでなるべく自分が出せる最大限の力で走ろうとするが、まだ体は本調子ではなく完全に風邪が治ったわけではない。
「瑞希ちゃん。そんな急ぐことないよ?遅刻してもいいからね?」
「はぁ・・・はぁ・・・明久君。それは・・・だめで・・・す。これい・・・じょ・・・めいわくかける・・・わけには・・・いきません!」
息は絶え絶えだが、その言葉は明久には自分のせいで評価が悪くなるのは嫌だと鈍感な明久でもわかった。そんなこと気にすることはないと思うが、そういっても彼女は聞き入れてくれないだろう。もしこれ以上走らすのは危険だと思ったらおぶってでも走らすのを止めないと。
途中ふらふらしながらも迷惑はかけまいとしっかりした足取りで学校を目指す。スピードはさっきよりも遅くなっているが、風邪を引いていて運動が苦手な彼女からすればかなりがんばっているほうだろう。
「あ!鉄人がみえてきたよ!」
「はぁ・・・はぁ・・・ほんと・・・ですか?」
「うん!もう少しだから一緒に頑張ろう!」
早歩き並のスピードになっていて走っているとは言わないが、バカにしたような言葉は吐かずむしろ一緒に頑張ろうと励ましの言葉を姫路に送る。
「遅いぞ!吉井!姫路!」
「す・・・すみません・・・。」
「てつじ―――西村先生!おはようございます!」
ビシッっと僕は敬礼して挨拶をする。瑞希ちゃんは胸に手を押さえて息を整えようとがんばっている。
「吉井、いま鉄人と言おうとしなかったか?」
「いえいえ。そんなこと言うわけないじゃないですか~」
危なかった・・・つい日頃の癖で鉄人と言ってしまうところだった・・・。
「吉井、姫路すまなかったな。職員会議で話し合ってお前らにもう一度振り分け試験をやらせてやろうとしたんだが・・・俺の力が足りずにこんな結果になってしまった。ほんとうに申し訳ない。」
鉄人は申し訳なさそうに僕たちに頭を下げてくる。こういうところが鉄人のいいところなのかもしれない。なんというかほんとうに生徒のことを考えて行動してるというのが伝わってくるというか・・・
「西村先生?頭を上げてください。その気持ちだけで私はうれしいですから。」
「そうですよ。僕も好きでやったことですからあげてください」
「ありがとう。そういってもらえると助かる。」
そういって鉄人はポケットから紙を渡される。おそらくクラス分けの結果だろう。
「手渡しってなんだかやり方が古いんですね?」
「ああ。召喚システムという最新の技術を取り入れているが、クラス分けは掲示板ではなく手渡しでいこうと学園長が決めたんだ」
そうなんですかと納得したあと紙を見る瑞希ちゃん。彼女はFクラスだった。ということは僕もFクラスだろう。
「やっぱね。」
折りたたまれた紙を開くとやはりFと書かれていた。
「「では失礼します。」」
「うむ。しっかり勉強するように!」
西村先生と別れたあと自分たちのクラスに向かった。最初に通ったのはAクラスだった。
「ほへー、Aクラスってすごいんですね~」
「ホントにすごいね・・・ノートパソコンに個人エアコン、冷蔵庫にリクライニングシートとかあるらしいからここが教室なのか疑わしいよね・・・」
「本来なら私たちはこの教室に行く予定だったのに・・・ごめんなさい」
「体長不良ならしかたないよ。試召戦争でAクラスに勝てばいいんだから気にすることないよ!」
「そうですよね・・・一緒にがんばりましょう!」
自分のせいでいけなかったことに申し訳ない顔する瑞希ちゃんだがなんとか立ち直ったようだ。彼女はどうも自分を責めすぎるところがあるようだ。僕は彼女に感謝してもしきれないのにな~
ところ変わってここはFクラス前。さっき通ったAクラスとは雲泥の差で扉がボロボロで2年Fクラスと書かれたプレートが真っ二つに割れている。こんなの教室と呼べるのだろうか?教室より廃墟といったほうがいいんじゃないだろうか?
そう思ったが口には出さず扉を開ける。
「よう、明久。遅かったじゃないか。おっす姫路。今日も二人仲良くデートしてから登校か。」
「な!そんなわけないじゃないか!」
「そ、そうですよ!デートなんてそんな・・・ゴニョゴニョ」
ニヤニヤと僕たちを茶化してくる僕の親友の坂本雄二。なんとか反論するが今の僕の顔は真っ赤だろう。瑞希ちゃんはどんどん声が小さくなっていって最後のセリフはなにいってるのかきこえなかった。
「ところで雄二。そんなところでなにしてんの?」
「ああ。俺はこのクラスの代表になったんだ。みろ。こいつらが俺の兵隊だ。」
雄二は教室にいる今年のクラスメイトたちを指さすが、そのクラスメイトたちはゲームをしていたり、寝ていたり、なんか宗教みたいな黒服を着て鎌など凶器を磨いている人たちがいた。
「雄二なんかいろいろおかしくない?」
「そこは気にするな。気にしたら負けだ。」
「えーっと、そこをどけてくれませんか?」
声をかけてきたのはどこか冴えない風貌でヨレヨレのYシャツを着たおじさん。
席は自由らしいので僕はどこか適当な場所に座った。左に雄二が、右には瑞希ちゃんが座っている。
「みなさんおはようございます。今年このクラスの担任を任された福原慎です。よろしくお願いします」
福原先生は黒板に名前を書こうとしたがやめた。このクラスはチョークすらないんだ・・・チョークくらいは支給しとこうよ。じゃないと勉強すらできないよ・・・
「みなさん?全員ちゃぶ台と座布団は支給されていますか?もし不備があるなら申し出てください。」
このクラスには50人程度の生徒がいる。だが全員机やいすではなく例外はなくちゃぶ台と座布団だ。思った以上にこのクラスはひどいようだ。PTAにいったらこの学校どうなるんだろう?
「せんせー、俺の座布団に綿が入ってないんですけどー」
クラスの一人が先生に不備を申し出る。
「あー、はい。我慢してください」
「せんせー、俺のちゃぶ台の足が折れたんですけどー」
「あー、はい。木工ボンドが支給されていますので、後で自分で直してください」
「先生、窓が割れていて風が寒いんですけどー」
「わかりました。ビニール袋とセロハンテープの支給を申請しておきます」
教室の片隅にはクモの巣が存在しており、幸いクモは見当たらない。瑞希ちゃんは虫が大の苦手だからよかったんだけど、どこかにはいそうだから探して排除しなければ。
「なにか必要なものがあったら極力自分で調達するようにお願いします。」
僕たちがいるこの教室からはかび臭い匂いが漂っている。健康な人でもこれは体調を崩しそうだ。
「では自己紹介でもしましょうか。そうですね・・・廊下側の人からお願いします。」
「わしの名は木下秀吉じゃ。演劇部に所属しておる」
一見変わった口調だが、見た目は男子の制服を着なければ女の子と間違ってしまうくらいにかわいい容姿をしている。姉がいるのだが、確か一卵性の双子だったかな?そして、その容姿のせいでこの前他校の男子高校生に告白されたらしい。姉と間違えたのではと思ったんだけどその人は思いっきり木下秀吉さんとはっきりと言ったらしい。告白とかうらやましいな~。一度でもいいから男子じゃなくて女子に告白されてみたいな・・・。まあ、僕みたいな不細工を好きになるやつなんていないと思うけどね。
「―――――なのじゃ。今後ともよろしく頼むぞい」
そういって秀吉は綿の入っていない自分の席?の座布団に座る。
「・・・・・・・土屋康太」
普通の精神の持ち主ならば今の笑みで堕ちているところだけど、日頃から瑞希ちゃんのおかげで秀吉にはときめくことはない。そんなことを思っていると次の生徒が立ち上がって自己紹介をしていた。って今度も知り合いじゃないか。やっぱり今年もおとなしめのキャラでいくんだ。普段の康太のキャラはさすがにここではフォローできないし、鉄人に見つかったら補修は免れないだろうな。あと、AEDの予備と輸血パックの用意もしとかないと。
「――――です。海外育ちで、日本語は会話はできるけど読み書きは苦手です。」
そう考えていると、また次の人が話していた。このクラス女の子いたんだ?瑞希ちゃん以外ってことね?瑞希ちゃんは仕方なくこのクラスにいるんだからね?そこ間違えないでよ?
「趣味は吉井明久を殴ることです」
誰!?そんな恐ろしく怖い趣味を持つ人!?
「はろはろー」
「・・・あぅ。し、島田さん・・・」
「今年もよろしく吉井」
今自己紹介したのは僕の天敵であり瑞希ちゃんとなぜか仲が悪い島田美波さんだ。なぜだろうか?こんなに知り合いが多いとか逆に作為的なものを感じるんだけど?まさか、あの学園長ババアが仕組んだのか?もしそうだったら抗議しにいかないと。
「えっと・・・姫路瑞希です。」
おっと、次は瑞希ちゃんだったんだ。一応聞かないと。
「――――です。あと、もし明久君に危害を加えようとする虫けらさんは排除するつもりですのでそこのところよろしくお願いします。」
最初は普通の自己紹介だったのに、最後になぜ僕の名前が出てきたのか理解に苦しむし瞳のハイライトがなくなっていてMIZUKIモードに一瞬入ってましたよ?しかも、ある特定された人に殺気をぶつけながら。怖いよ・・・ガクガクブルブル
「――――でーす。よろー」
ずいぶん適当な自己紹介だ。まあ、そういうのもありか。っと僕の前の人が終わったから次は僕の番か。立ち上がったはいいがどういう自己紹介にしよう。こういうのは出だしが一番大事だというのはテレビでやってたしここはジョークは入れつつ明るく面白いキャラだという方向でいこう。そうと決まれば!
「僕の名前は吉井明久です。気軽に『ダーリン』って呼んでくださいね!」
「「「「「「「ダーーーーーーリィーーーーーーーン!!!」」」」」」」
「・・・冗談です。忘れてください。今年一年よろしくおねがいします。」
野太い声の合唱のせいで気分が悪くなってしまった。最悪だ。まさか冗談でいったことが本当に呼ばれてしまうとは。さすがFクラス。最後の人になり僕の親友の雄二の番になるところだったが教卓がいきなり無残な姿に変貌した。なにもしていないのに崩れ落ちるとかどんだけ古いのさ。
「替えの教卓を取ってきます。しばらくゆっくりしていてください。」
「なにもしてないのにああなってしまうなんてすごいです・・・。」
隣にいる瑞希ちゃんは苦笑いしながら教卓のもろさに感心していた。むしろ、このクラスの設備のひどさにだろう。ここまでいくとすごいとしかいいようがない。さっさとこのクラスから出たほうがいいかもしれない。よし、雄二に相談しよう。
とりあえず、ここらで一旦区切ります。
感想、意見、誤字脱字等あればよろしくお願いいたします!