月に至る2番目の歌   作:きりしら

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前の投稿から時間を空けてしまいました。
AXZも最終回を迎え、予想だにしなかった展開で今後の小説展開をどうするべきか思案しておりました。

UA2000突破ありがとうございます。
初評価も頂いたようで、読んでいただける上に評価もしてもらえるとは思ってもいませんでした。
本当に嬉しいです、頑張ります。


第5話 潜伏5日目

潜伏生活5日目、浜崎病院地下モニタールーム

 

 

『行きます!S2CAトライバースト!』

 

 

薄暗い部屋の中で私は、ライブ会場で放たれた絶唱の三重唱を見ていた。

 

モニターの中で彼女たちが歌う。

命を燃やす歌、奇跡の欠片が生み出す力の奔流。

 

立花響 風鳴翼 雪音クリス

 

ルナアタックの英雄と呼ばれた三人の放つ歌は強大で、また輝かしい。

 

しかし彼女たちは知らないのだ。月の落下と、それがもたらす未曾有の被害を。

マリア達の目的が悟られる前にこの人類救済計画を遂行するためにも、この3人は特別警戒しなくてはならない。

 

 

既にあの宣戦布告の日から5日が経過している。

 

忙しそうなマムにできる事はないか考えていた時に、ウェルは教えてくれた。

この三重奏だけではなく、もっとデータを遡り彼女たちの歌を聴くことが今の私にできる仕事だと。

 

他人の歌の理解と同調、自分の歌を持たない私にはそれが一番の訓練になるのだろう。

 

 

「アーニャ、まだ見てるんデスか?

 もうお昼デスし、そろそろ休まないと身体を壊すデスよ」

 

 

扉を開けて切歌が入ってくる。

朝からモニターを見ていたが、気づけばもう12時を回っていたようだ。

 

 

「切歌。ありがとう、でも大丈夫。

私はもっと相手のことをよく知らないと、いざという時に対応できないし、それに…」

 

「それに?」

 

 

そうじゃないと、私は役に立てないから。

そんな言葉を飲み込んで笑顔を向ける。

 

 

「ううん、何でもない。

 お昼はもう少ししたら食べるから、切歌は先に…」

 

 

せっかく見つけた私の仕事、今はご飯を食べる時間も惜しいのだ。

しかしそんな私の決意とは裏腹に

くぅ、と没頭しすぎた代償(お腹の音)が小さく警鐘を鳴らした。

 

 

「っ!?」

 

 

恥ずかしさで顔を朱に染める、間違いなく切歌にも聞こえていただろう。

なんという失態。

おのれ私の身体、大丈夫じゃないではないか。

 

 

「可愛い音が聞こえたデスよアーニャ。ほらほら、一緒にご飯にするのデス!」

 

「はい…」

 

 

やはり聞かれていた、私の音は。

切歌はニコニコと笑いながら私に手を伸ばす。

 

主だった活躍が無いせいか、私は少し焦りすぎていたのかもしれない。

 

ここは観念して切歌と手をつなぎ、引かれる手を眺めながら食事場まで歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「醤油を取ってください、アーニャ」

 

「ん。はい、ナスターシャ」

 

「マム、アーニャも駄目じゃない。塩分の摂りすぎよ。」

 

 

今日のお昼は野菜炒め。

調がおさんどんしてくれたもので、味は折り紙つき。

ナスターシャが私を気遣って分けてくれた野菜を食みながら、近くにある醤油を取って渡す。

 

 

この1年で分かったことではあるが、ナスターシャは相当塩辛いのが好きなようだ。

特に日本に来てからはこの醤油という真っ黒い調味料にご執心のようで、毎食大抵のものにかけては食べている。

塩分過多で身体に悪いと言うマリアもどこ吹く風なナスターシャは、ある意味怖いもの知らずなのかもしれない。

 

 

「今日も美味しい、ありがとう調。次の買い出しは私も行くね」

 

「今日は良い野菜が入ったって商店街のおじさんが言ってたのを買ったんだけど、美味しいなら良かった。」

 

「調の料理は最高なのデス!出来立てを食べるのが一番なんデスから、次は渋らずに来るデスよ?アーニャ」

 

「うん、ごめんなさい切歌」

 

 

皆で食べる昼食、少し環境は悪いけれど、ここは暖かくてやっぱり好きだ。

 

しかし、ここにはウェルがいない。

菓子類しか食べない彼は、何故かいつも食事に対して文句をつけるのだけど

 

 

「そういえばウェルはどこへ行ったの?

 

「うぇ、いいじゃないデスかあんな奴、いてもご飯に文句をつけるだけデスし」

 

「こ、こら切歌、そんなこと言わないの。」

 

 

ふとウェルの居場所を聞くと、切歌があからさまに嫌な顔をする。

あまり彼が得意じゃないみたい、彼は彼なりに優しい所もあると思うのだけど。

 

 

「博士は部屋で次の作戦の準備を進めています。食事もそちらで摂られるそうですよ。」

 

「そうなんだ」

 

 

それなら邪魔をしないほうが良いだろう、ちょうど聞きたいこともあったのだけど。

 

 

「ごちそうさまでした。食器、片付けておくね」

 

「うん、ありがとうアーニャ」

 

 

作ってくれた人に感謝を。

これも大切なことだとナスターシャは教えてくれた。

 

食べ終わった食器を流しに置いて、手早く洗う。

時間もまだあるし、これが終わったらまたモニタールームで画面とにらめっこでもしていようか。

 

 

「アン、ドクターから連絡です。次の作戦に必要な話があると」

 

「ウェルから?分かったよナスターシャ、すぐに行くね。」

 

食事場を離れようとした私に、ナスターシャがウェルからの連絡を伝える。

振り返ると、どこか心配したようなマリア達の姿が目に入った。

 

 

「マム、その連絡はアーニャだけなの?」

 

「ええ、詳しくは聞けませんでしたが。後ほど報告を受ける予定です」

 

「何をされるか分からない…気を付けてねアーニャ」

 

「あいつに何かされたらすぐお姉ちゃんたちに言うんデスよアーニャ!」

 

私は彼に何をされると思っているのだろうか。

 

「ありがとう、ちょっと行ってくるね」

 

心配が過ぎるマリア達に笑顔を向けてその場を去る。

 

機嫌を損ねやすいウェルを待たせてしまってはいけないと、私は少し急ぎ足で彼の所へ向かった。

 

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