現人鬼人理修復鬼譚   作:K氏

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 続いちゃっ……ったぁ!

 今回の波裸羅様のお相手は、浅黒い肌と白髪が特徴的な彼。いずれはカルデアのオカンと呼ばれる彼は、波裸羅様の愛撫に耐える事ができるのでしょうか。それでは、ご覧ください(KBTIT)

 なお、今回からオリジナルの怨身忍法が出てきます。まぁ波裸羅様の忍法、割と何でもありみたいなところあるし……(震え声)


摘喰錬鉄無限剣製

――日本某県、冬木市。

 

 そこは地獄と化していた。

 

 日本の歴史の中で、これに似た地獄はいくらでもあった。厄災。天災。そして、戦争。

 

「つまらん」

 

 人一人すら生きてはいないと確信出来る程荒れ果て、あちらこちらで火の手が上がるのが見える。

 そんな混沌の世界で、たった一人、退屈を極めた超人、否、英霊が一人。

 

「そんな事言われても……」

「アヴェンジャーさんが強過ぎるだけではないかと……ひっ」

 

 その英霊――霊基の反応からエクストラクラスに属する『アヴェンジャー』である事が判明した彼――あるいは彼女――『現人鬼 波裸羅』は、適当に見つけた瓦礫の上で退屈そうに寝そべりながらも、恐ろしいまでに威圧的な視線をマシュに向ける。

 矛を向けられたマシュは、思わず一歩……どころか、二歩三歩と下がってしまった。

 

 ついでに言うと、画面の向こう側のカルデアの管制室にいるロマニ・アーキマン、通称Dr.ロマンは、あまりもの恐怖に金玉が縮み上がっていた。これは、捕食者に子種を取られまいとする防御本能である。

 

「拙者の事は、単に波裸羅と呼べと言うたぞ、娘。喰われる気概無き者が、生意気(ナマ)言うでない」

「はっ、はい……」

 

 英霊となって日が浅い、それどころか英霊になるなど予想だにしなかったマシュは、未だ戦う者としての有り様がなっていなかった。それも当然と言えば当然であるし、仕方がないと言えば仕方がない。

 しかし、この地獄の中では、そんなものは通用しない。自分自身が、そして何より同行するマスターの少年と、カルデアの所長を守る為には、覚悟を決めなければならない。

 実際のところ、彼女は波裸羅に頼り切りなところがあった。というのも――

 

 

 

 

『■■■ァァAAA……』

『チッ、骨共が……』

『丁度いい! まずは前戯とゆくか! ……チッ。なんと脆い事か』

『あ、あの数をあっさりと……』

 

『コロセ! コロセ!』

『今度はシャドウサーヴァントか!』

『フンッ、今度は楽しませて貰おう……忍法、渦貝!』

『ナンダ、ソノ軽イ張手ハ……ウボゴゲェッ!?』

『う、うわ……臓物(モツ)がうねって飛び出した……』

『……うぅッ!』

『うわ、所長!? って、マシュまで!?』

『生娘にはまだ早いか』

 

 

 

 

――襲ってくる敵を、波裸羅が宝具も使わず素手で、あるいは忍法とやらであっさりと返り討ちにしてしまったからである。

 

 しかしその結果、あまりにも一方的な戦い過ぎたが故に、波裸羅の昂りは鳴りを潜めてしまっていた。

 

『……おっかしいなぁ……カルデア式の召喚方式だと、霊基のレベルが格段に落ちた状態で召喚されるはずなんだけどなぁ……』

 

 ロマンの指摘の通り、カルデア式の英霊召喚でどんな英霊を呼び出しても、基本的にその力はかなり削られた状態で召喚される。それこそ、かの有名なアーサー・ペンドラゴンを呼び出そうとも、だ。

 理由としては、カルデア式はまだまだ未熟である事が主な理由だが、一部からは『カルデアがサーヴァントを制御しやすいようにする為』等と噂されていたりする。が、トップであるオルガマリー・アニムスフィア含め、魔術関係者が口を閉じている為、真相は謎のままである。

 

 しかし、現にこの現人鬼は、そんな力の消耗など最初から無かったかとでも言わんばかりに大暴れしている。理不尽の権化。そんな訳の分からない強者が、どうして素質だけしかない素人の少年に着き従うのか、オルガマリーは不思議でならなかった。

 

 そう、そもそも()()()()()()()()()()()()()()()

 

「くだらん。『泥』を浴びた程度であのように何もかも堕ちるとは。この調子では、その『セイバー』とやらも、高が知れておろう」

「簡単に言ってくれるぜ、鬼の兄ちゃん……いや、ねぇちゃんか?」

 

 先程、既に現地で召喚されていたキャスター、クー・フーリンから事情を聞かされていた波裸羅は、酷く不機嫌だった。この調子では、己が楽しめる事など何もないではないか、と。

 最悪、自ら命を絶ち、『座』に戻る事すら考える始末だった。

 

 

 

 

――そして、なんとか憤怒に燃えかけていた鬼を少年がなんとか宥め、一行は敵が潜伏しているという大空洞に辿り着いた。

 

 

 

 

「……クク」

 

 それはまた、唐突であった。

 

「……ますたぁよ。退け」

「え――」

 

 何、と少年が問う前に、それは起きた。

 

 突然、少年に向かって、高速で何かが飛来。しかし、それは少年に届く事は無く――

 

「は、波裸羅さん!?」

「ほぉ。泥被れの中にも、中々精気漲るものがおるようではないか」

 

――波裸羅の肩に、飛来したそれ――捻れた矢が突き刺さる。しかし波裸羅、一切微動だにせず。それどころか、愉悦の表情すら浮かべていた。

 

「主ら、先に行け。彼奴は、この波裸羅が獲物よ」

 

 秘めたる凶暴さを隠す事なく、寧ろ今しがた自身を狙った謎の弓兵――恐らくはアーチャーのサーヴァントだったもの――を殺すつもりの如き殺気を放つ。

 

「……行こう。ここは、波裸羅に任せる……いや、()()()()()()()()

「せ、先輩!?」

「分かっておるではないか、ますたぁよ!」

 

 少年も、ここまでの戦いですっかり波裸羅の力を信用したのか、それ以外の面々を促す。当然のようにマシュが疑問を抱くが、それに賛同したのは、意外にもキャスターであった。

 

「……チッ。野郎は本来なら俺が相手するはずだったんだが……オイ、ハララ。テメェ、殺れるんだろうな?」

「フン。勘違いをするな。アレがこの波裸羅を快楽(たのし)ませられるか、試してやるまでよ。それとも、貴公が波裸羅の相手をするか? 我が締め付け、光の御子も味わうか?」

「ケッ。遠慮しとくぜ。下手すりゃ、師匠を相手にするよかヤバそうだ」

 

――本能的に何かが危ない。倫理的な、ケツの穴的な、とにかく具体的には言えないが、何かがヤバい。

 クー・フーリンの戦士としての本能、そして男としての本能が、そう囁きかけた。

 

 だが、そんな事など知った事ではないかとでも言いたげに、射手は矢を射る。だが、そのことごとくが、肩から引き抜いた矢を手にした波裸羅に弾かれる。

 

「どうしたどうした! そのようなもので、この波裸羅と突き合えると思うてか!」

 

 文句を言いながらも、なおも殺気を帯びた笑顔を浮かべる波裸羅が、姿勢を低く構える。

 

「奥手だと言うならば……こちらから迫るのみ!」

 

 それと同時に、波裸羅が力強く、一歩踏み出す。

 踏み出した脚の筋肉の上に、更に血管が浮き出る。そして、地が爆ぜた。

 爆発的な瞬発力をもって、波裸羅は数十メートルは離れているであろう射手に、一瞬にして肉薄する。

 

「クソッ!」

 

 これには射手――浅黒い肌と白髪が目立つ、シャドウサーヴァントと化したアーチャーも意表を突かれたのか、悪態と共に距離を取ろうとする。だが――それよりも先に、波裸羅の貫手が、アーチャーの腹に殺到する!

 

「グッ……」

 

 それをアーチャーは、いつの間にか手にしていた白と黒の双剣を重ね防いだ。正に、紙一重。ギリギリの攻防。しかし、攻守は変わらず。攻めは波裸羅、受けはアーチャー。

 

「ハハッ、弓兵かと思うたら、そのような芸もできるとはッ! そらそら、もっと突くぞ!」

「何やらッ! 妙なッ! 含みをッ! 感じるんッ! だがッ!?」

 

 右手に持った矢、そして槍の如き左手で行われる、尋常ならざる、正に神速の猛攻。それに負けじと、アーチャーも手馴れた双剣捌きで攻撃を防ぎいなす。

 しかし、自身が()()()()()矢による刺突はともかく、素手の貫手で双剣が破壊されるというのは、一体どういうわけなのか。

 

 幸いにも、どれだけ双剣が破壊されようと、アーチャーに魔力がある限りは無限に作り出す事が出来る。それに、眼前の敵も、素手で剣を突いたのが効いているのか、手から血を吹きだしている。それは敵、波裸羅にもダメージがあるという事。

 しかし、何故か不安は拭えない。

 

(一体、なんなんだこのサーヴァントは……?)

 

 バーサーカーにしては、どうも理性をもって野性を剥き出しにしているかのような、そんな印象すら感じられる。通常、バーサーカーというクラスのサーヴァントは、理性を失っているものである。だが、このサーヴァントは明らかに理性がある。

 無論、バーサーカー固有の狂化スキルのランクが低く、それなりに理性のあるサーヴァントもいるにはいる。

 だが、それとは違う何かを、このサーヴァントからは感じられる。

 

(止むを得んか!)

 

 そこで、アーチャーは強硬手段に出る事にした。

 

 アーチャーは隙を突いて波裸羅に蹴りを入れると、そのまま後方へと飛ぶ。そして、何を思ったのか、手にしていた双剣を投げつける。まるで、置き土産だと言わんばかりに。

 

「――壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!」

 

 瞬間、彼の投げた双剣が爆発し、波裸羅が魔力の爆炎の中に消える。

 

……だが、アーチャーは構えを解かない。両手には、既に新たな双剣を用意している。

 

(……おかしい)

 

 アーチャーは疑問に思っていた。

 壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)。それは、自らの宝具――英霊を象徴する魔力の込められた武器や装備を相手にぶつけて魔力を暴発させるという、宝具のイレギュラーな使用法である。

 普通の英霊ならば忌避するであろうこの使用法は、魔力の限り宝具を創りだせるという魔術――投影魔術を扱えるアーチャーだからこそ、抵抗なく使えるのだ。

 

――そう。波裸羅の肩に命中したあの矢――『偽・螺旋剣(カラドボルグ)』も、彼が投影したものである。

 

(だが、それにしては爆発の規模が小さすぎる)

 

 だからこそ、波裸羅が武器代わりに使用していた矢も纏めて爆発させたのだが、それにしては爆発がいつもより薄い。

偽・螺旋剣(カラドボルグ)』を暴発させた場合、その威力はAランクの宝具相当なのだが、今のを見る限り、投げつけた双剣――『干将』『莫邪』の分しか無いように思える。

 

 その時だった。

 

――忌々(ゆゆ)しきかな 世に類なき見目形

 

 爆発の煙の中から聞こえるは、異様な響きの声。

 

――百鬼夜行の頂に咲く 黒薔薇(くろそうび)

 

 その声は、類稀なる程、美しくもあり。

 

――おぞましき人草ども 一日(ひとひ)千頭(ちがしら)(くび)り殺さむ

 

 同時に、怨念を湛えるが如き声であった。

 

(――ッ! 奴の宝具の詠唱か!?)

 

 だが、その詠唱を聞いたところで、このアーチャーには決して分からない。

 

 何故ならば、その者は歴史に語られざる者。語られたとしても、精々御伽にて空想の存在と語られるだけ。

 しかし――それは確かに存在した。

 

 煙の中に、黒いシルエットが浮かぶ。それが腕を振るえば、煙は綺麗に真っ二つ。

 

「――うふふふ」

 

 妖艶なる微笑みを、筆舌にし難き化外の面に隠し、それは煙の中から現れる。

 

「……全く。本当に何者なのかね、君は」

「問われたところで問答無用! ――と、言いたいところだが、良いだろう! その脳髄に、心の臓に、眼に、耳に、その身総てに刻み付けるがよい!」

 

 煙の中から現れたるは、異形の鬼。しかして、その立ち振る舞いは、まこと優雅の極みにあり。

 

「我が名は、『霞鬼(げき)』! 溢るる怨念を以て、おぞましき畜生雑草どもを(くび)り殺す者よ!」

 

 怨身忍者『霞鬼』、冬木に現出す。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 先に結論から言うと、この勝負、そもそもの相性の時点で、アーチャーにとって不利極まりない戦いである。

 

 それを補う説は、怨身忍者の特性に有り。

 

 かつて徳川家康により太平の世が訪れ、そして覇府が世を支配していた時代。その時代に現出した鬼――衛府より遣われ、衛府の刃となりて、残酷無惨なる世を駆け、『まつろわぬ民』を守りし者。それが、怨身忍者である。

 その昔、かの剣豪宮本武蔵がこの怨身忍者と対峙したという話もあるが、それより更に後に現出した七人の怨身忍者、即ち『衛府の七忍』が一人。それが、現人鬼 波裸羅が変化する霞鬼である。

 

 怨身忍者には、それぞれに変化する為の条件が存在する。霞鬼への変化に必要なのは、その身に玉鋼(はがね)を埋め込む事にある。つまり、金属の刃による攻撃を食らえども、それを体内に取り込む事により、体内の血液に刃が溶け、波裸羅は無双化身忍法の儀式の遂行が可能となるのだ。

 最も、ある資料によれば、刃を埋め込まずとも変化が可能とする記述もあるのだが、その辺りは気にしてはならない。とりあえず、「鬼半端ねぇ」という事が分かれば良いのだ。

 

 また、波裸羅と同種の変化の仕方をし、姿もどこか霞鬼と似通った零鬼という怨身忍者もいるのだが、そこは割愛する。

 

 とにかく、特定の宝具を持たないアーチャーは戦闘時、宝具の投影によって武器・防具を量産し、それを用いて戦う。そして、使用する主な武器は、刀剣の類である。

 このアーチャー、またの名を『錬鉄の英雄』と呼ばれており、そしてその実、生前は『剣』に特化した魔術師であった。

 

 他にも、アーチャーが防具の中で唯一得意とする『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』や、剣を矢として飛ばす為の黒い弓も彼の投影物ではあるが、ここでは左程重要ではない。

 

 先程、アーチャーが干将・莫邪を投げた折、波裸羅は直感的に、何かが仕掛けられていると察していた。

 

(絡め手か! それもまた良し!)

 

 寛大な心をもって、笑顔でそれと向き合う波裸羅は、すぐさま行動に移った。

 右手に持った、剣から変容を遂げた矢尻を、己の腹部に突き刺す。すると、突き刺さった矢尻が、波裸羅の雪の如き肌にめり込み、そこから血が止めどなく流れる。だが、矢が波裸羅の肉体を貫通する事は無く。

 

――怨

 

 矢尻が波裸羅の熱血に溶融(まじわ)り、その身を鋼鉄(はがね)に変える。この時点で、矢はアーチャーの『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』の通用外となった。

 

――怨

 

 次々と、その身体が異形のものへと置き換わっていく。鬼にして忍者の姿へと、変じていく。

 

――怨!

 

 そして、波裸羅は怨身忍者へと変身した。

 

「なんと……面妖な……」

 

 異形へと変じた波裸羅を見たアーチャーが、思わずそんな声を漏らす。だが、彼とて英霊の端くれ。すぐに弓を投影し、続けざまに一本の剣を投影する。

 『赤原猟犬(フルンディング)』。かの北欧の英雄、ベオウルフが振るう魔剣である。

 

 それを矢としてつがえ、そして放つ。

 

 弓兵(アーチャー)としての優れた技量もさることながら、その矢が内包する性質は、『標的が生きている限り、どこまでも追い続ける』という、正しく猟犬が如きもの。

 一度撃てば、敵に喰らいつくまで決して追う事を止めないその矢を前に、霞鬼は――あろう事か、悠然と歩んでくる。

 

(!? 奴め、命知らずの阿呆か、それとも捌く自信があるとほざくつもりか!)

 

 アーチャーとしては、凄まじい速度で真っ直ぐ射られたそれを、右か左か、どちらかにでも避けるであろうと考えていた。何処へ逃げようとも、何処までも追尾する『赤原猟犬(フルンディング)』の前には無意味なのだから。

 

 だが、霞鬼はそのまま前進すると、突然右手を掲げる。

 

(まさかッ!?)

 

 そのまさか。霞鬼の右手の平に、『赤原猟犬(フルンディング)』が喰らいつく。同時に、鮮血が飛び散る。

 

「ほほぅ。随分と活きの良い犬よな」

 

 だが、霞鬼はその痛みを全く意に介す事無く、突き刺さった『赤原猟犬(フルンディング)』をまじまじと、興味深げに見やる。

 

 そして、再び前進を開始する。

 

「化け物め……!」

 

 それを見たアーチャーは悪態をつきながら、次の矢を投影し――

 

「そうら、主人の元へ帰るがいい!」

 

――ようとした矢先に、霞鬼が動く。突き刺さった『赤原猟犬(フルンディング)』を引き抜いた霞鬼は、それを振りかぶり、投げた。

 

「なッ――!?」

 

 弓で射たわけでもないのに、己のそれに匹敵する速度で、『赤原猟犬(フルンディング)』がアーチャーの元へと殺到。

 こうなっては、射撃する暇もない。アーチャーはすぐさま、その場から飛び退く。アーチャーが狙う事を止めた為か、既に命中したからか、それとも霞鬼の秘めたる何かがそうさせたのか。いずれにせよ、『赤原猟犬(フルンディング)』は再び霞鬼を追う事無く、物理法則に従い、アーチャーの立っていた場所を砕く。

 

「あのバーサーカー並に、出鱈目な奴だな!」

「それは褒め言葉か?」

「なッ――」

 

 英霊となったアーチャーの回避は、常人が走り幅跳びをするよりも更に距離を取る。だが、気づいた瞬間、彼の眼前に異形の面貌が迫っていた。

 

「ふんッ」

「ぬぐぉッ……!」

 

 そして、腹部が急速に熱を帯び、激しい痛みと異物感が腹を満たす。

 変化以前よりも更に速度の増した貫手が、アーチャーのはらわたを貫通せしめたのだ。

 アーチャーのうねり狂う臓物が、霞鬼の腕を締め付ける。

 

「感じるぞ! おまえの奥ひだがひくひくと搦みつくのを!」

 

 鬼の顔ながら、その奥にある波裸羅の顔が更に喜色に染まるのを、アーチャーは痛みを耐えながら感じ取る。

 

「舐め、るな――!」

「ほぉ、では舐めてやろう」

 

 そう宣いながら、霞鬼は腕を抜き――そのまま、舌で舐めるが如く滑らかな動きで、アーチャーの正中線に沿うように、その五指を下から上へと動かす。股間から徐々に上へ向かって手を滑らせ、遂には下顎、鼻、そして額へと到達する。その間、アーチャーは一切動けなかった。本能的に、彼はこの目の前の鬼に、恐怖してしまっていたのだ。だが、同時にその鬼の仕草は、不思議と色っぽさと艶めかしさすら感じさせた。

 

「何――」

 

 それが、アーチャーの最後の言葉であった。

 

 霞鬼がその指を額から弾くように離した瞬間、彼の肉体が正中線に沿って、下から上へと爆ぜる。声にならぬ叫びを上げる間も無く、アーチャーは飛び散る血と共に霧散した。

 

 霞鬼のその手には、アーチャーだったものの血が、おびただしく付着している。

 

「忍法、筆舐め」

 

 いつの間にか変化を解き、一糸纏わぬ姿となった波裸羅は、その血に濡れた指を口元にやると、まるで口紅を塗るかのように唇に這わせる。

 

 紅く、妖艶にてらてらと輝くその口で、今度は指に付着した残り血を、無駄に艶めかしく舐めとり、飲み干す。

 

「――ふむ。超越者とは、退屈なものだな」

 

 その色気を帯びた顔には、再び倦怠の色が浮かんでいた。

 

 




波裸羅「いやいや、お待たせしましたな」
ぐだお「波裸羅!」
アルトリアオルタ「……アーチャーはしくじったか」
波裸羅「あぁ。それなりに出来るが故、少々摘み食いをな。……だが、英霊と言えども、程度の知れた退屈な男であった」
アルトリアオルタ「貴様……」
波裸羅「……ほぅ? 貴公、あの男のコレ(小指を立てながら)か? 挿れた瞬間の締め付けは良しとすれど、絶頂(散り際)の瞬間に微笑みを浮かべぬような、つまらん男よ。あの程度の男に満足するのか、貴公は」
アルトリアオルタ「貴様ァァァ!!!」
ぐだお一行(なんでわざわざ煽るんだ……)

 とか、そんな会話があったとか無かったとか。

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