「――奇なり」
「ホントそうよねー。私も最初はびっくりしたもんよ」
二天一流の祖たる侍と言えば、宮本武蔵。常識中の常識である。
宮本武蔵――新免武蔵藤原玄信と言えば男。これもまた、常識
――さりとて、可能性というものは一つだけに
例えば、妖退治の専門家として名を馳せる宮本武蔵がいる。
しかし、異なる可能性に至れば、ただひたすらに人を斬り、剣を極めんとした武蔵もいる。
またある時は、姫路の
ともすれば、遠い未来にて、自らの遺伝子やら何やらから生み出されし肉体をもって蘇り、現代の闘士達と相まみえるやもしれぬ。
――が、しかしながら、この場においてはあまりにも奇怪極まりない光景があった。
「この武蔵、
「そうは言っても、納得してるみたいじゃない? さっしーってば」
そう朗らかに男武蔵に笑いかけるのは、武蔵に似ても似つかぬ女剣士。格好からにして、武蔵からすれば女々と言わざるを得ないような――いや、実際に女なのだが――ひらひらとした着物。
しかし、分かる。分かってしまうのだ。他ならぬ、宮本武蔵であるが故に、彼女もまた、宮本武蔵であると。
中身に差異あれど、歴史に差異あれど、確かに彼女もまた、二天一流の祖たる宮本武蔵なのだと。
何より――
「え? 私のトコの
「否定はせぬ」
「あ、そっちも似たような感じ?」
――剪定事象。木の枝の如く、無数に枝分かれした、可能性の世界の数々において、文字通り消えた世界。
元の世界を失ったが故に、数多もの世界を流離う放浪の剣士。それが彼女。
その彼女が
己とはまた異なる考えを持ち、何よりも逞しい己。人呼んで、魔剣豪武蔵。
異なる二天一流により、鬼を斬る者。携えしは、無銘の刀。島津の当主を介し得た、『実高』と銘打たれた拡充具足なる鎧。そして、かの佐々木小次郎を討った、神童殺し。
同時に、この魔剣豪は
(覚えておるのは、この神童殺しにて彼奴を……
疑問は数多く、しかし解決する見通しも無し。おまけに共に戦った中馬大蔵も行方知れず。
途方に暮れた武蔵が出会ったのが、この女武蔵であった。
「いやー、びっくりするでしょ? 私もさぁ、最初は狸か妖に化かされたのかとばかり思ってさぁ」
「武蔵、眉唾は喰わぬ……と、言いたいところだが。摩訶不思議奇怪なるものもまた実在すると知れば、これもまたあり得る事よな」
「順応はっや! 私も人の事言えないけど。流石
こうして、二人の武蔵による奇妙な旅が始まった。
「ちょっとちょっと、お爺ちゃん強過ぎじゃない!? 出鱈目過ぎんだけど! 弱い者いじめはんたーい!」
「ならばこそ、異界にも武蔵の名、刻み付けねばならぬ!」
「負けず嫌いにも程度ってモンがあんでしょ! 加減しろ馬鹿!」
流れ着いた世界にて、剣神の域に達する程の剣士と相まみえ――
「こ、この島、何となく覚えてるような覚えてないような……」
「あらま、君ってばこの鬼まみれの島の事、知ってるっぽい?」
「此処が何処かは関係ない。ただ、我が剣にて切り開くのみ」
そして、彼らは星見の者と――人類最後のマスターと邂逅せり。
「我ら七騎、英霊に非ず。――我ら七騎、英霊剣豪也」
やがて対峙するは、七人の悪鬼。守護者たる英霊の骸。
埋め込まれしは、"一切鏖殺"の宿業。民草の虐殺こそが、狂いし彼らの役目。
「やっば。どいつもこいつも、とんでもない手練れじゃないの」
「では、この場における勝利とはなんとする」
「兎にも角にも、生きる事!」
「ならば、殿は任せてもらおう」
「ちょ、さっしー!? 本気で言ってんの!?」
「そ、そうですよ武蔵さん! 俺の目から見ても分かる――あいつらは、今の俺達じゃ!」
「……ほう。この武蔵には斬れぬと申したか」
「げっ」
「ならばこの武蔵、斬らねばならぬ」
しかして、退くか武蔵。いや進むか、二天一流。
「実高よ! 久方振りに鬼を喰らうがいい!」
「愚かな! 我らは滅びぬ! 故に英霊剣豪!」
「不死身の悪鬼、英霊剣豪何するものぞ!
――此れより始まるは、残酷無惨、斬った張ったの時代劇。
迎え撃つは、我らが剣豪、二人の宮本武蔵。
かたや、鬼を斬る魔剣豪。関ヶ原より帰り、天才佐々木小次郎を斬りてなおまだ若く、功名への飢えを隠しきれない虎の中の虎。
かたや、世界を彷徨う女剣豪。無名なれど幾多の戦いを潜り抜け、それでもなお未だに空位に届かぬ放浪者。
異なる歴史を辿りてついに交わった二つの二天一流が、一切鏖殺の悪鬼を斬る!
「時に女の
「へ? ……まーね。そういうのがどうにも嫌いなもんで」
「なれば、拙者がこの有象無象を相手に蹂躙すれば修羅となるか」
「……って、悪霊相手じゃない! まった難しい問答するでしょそーいう! ちょっとマスターくん、この虎男に何か言ってやって!」
「え、えーと……本当に蹂躙できるん、ですか? かなりの数ですけど……」
「えっ」
「蹂躙できんと申すか。この武蔵が」
「やっぱりこうなるんじゃん! てかマスターくん、ちゃっかり彼の御し方分かってない!?」
――魔剣豪鬼譚異聞! 英霊剣豪七番勝負! いざ、尋常に!
(始まら)ないです。
元々考えていたのは『衛府の七忍 対 七騎の英霊剣豪』とか『武蔵三人』とかそういうネタだったんですが、前者は本編に未だに姿を見せない怨身忍者がいるから無理だし、後者はそもそも宮本武蔵というキャラの考えてる事を文章にできないというか、文章力とかが追い付かないんですよね...ちなみに三人目の武蔵は刃牙道のクローン武蔵だった模様。
以下、「これいる?」となり、予告には入れなかったネタ
お玉「あらあら、見るからに精悍なお侍の兄さん♪ うちによっていきませんこと?」
ぐだお(こ、これってもしかして、誘われてるってやつ……? さ、流石武蔵!)
さっしー(ふむ。なるほど、この女、何やら上玉らしい。……が)
さっしー「このあたりで一番の
ぐだお(流石にごつ! 流石虎にごつ! 遥かな古より、醜女と交わう者、千日の武運満ちると言われておいもす)