あらゆる奇蹟が燃え尽きるそこは≪悪鬼≫が住まう≪地獄≫
奇蹟の担い手たる男は魔法使いと悪鬼の挟間でもがき続けた。
世界が橙の炎に満ちていた。男の視界に映る全て。ビルも、道路も、電柱も、標識も。あらゆる物が劫火に包まれていた。
物だけではない。元気に走る子供とそれを微笑ましく見守る夫婦も、仲睦まじいカップルも、腰の曲がった老人も、老若男女を問わず、体のどこかが炎を上げている。
それでいて誰もが炎など知らないように平然としていて、常人が男と同じ視覚を共有していたらこの上なく不気味で破滅的な光景に見えるだろう。
この世の終わりが現出したような空間にいながら男もまた泰然自若としていた。街路樹にもたれかかりながら額に浮かんだ汗を腕で拭って気だるげに息を吐く。
唯一、男の横にいた小太りの中年だけは全身から汗を噴出させ、悲鳴を漏らしながら蹲って小刻みに震えている。
大の大人がみっともないと内心で嗤い、男は中年が持ってきた数枚綴りの資料を捲る。
例に洩れず紙の束も炎を纏っている。というか、この資料に改竄がないか確認する為に世界を炎の洪水で燃やしたというのが的確だ。
魔炎。奇蹟が砕かれた後に残る燃え滓だ。
魔法使いは自身のアイデンティティを奪うこの炎を何より恐れるが、土着した両親の元に生まれてこの世界で育った男にとっては些か不便だという程度の認識しかない。一時期魔法世界で暮らしていた時などは全く見る事がなく、逆に落ち着かなさを覚えた程だ。
目を通す資料の内容はある犯罪魔導師の記録。
昨日、対象は住宅街で窃盗を働き、ちょうど帰宅した住人を壁越しに感電死させている。
他にも事件を起こしているが、どれも似たような内容だった。舌打ちして男は資料を乱暴に折り畳んでジャケットの内ポケットに突っ込む。
異世界からやって来た魔法使い達は認識しただけで魔法を破壊する地球の住人を
男は
既に索敵に秀でた麾下が動いているだろう。日本全国を巡る任務の余暇を利用した趣味の古社寺巡りは終了だ。
日没後。山歩道の途中、肌を撫でる夜気を心地良いと思いつつ男はゆっくりと深呼吸。
市街地から離れた山野。高く茂った木々が外部からの目を覆い隠すこの場所が≪公館≫が割り出した犯罪魔導師の逃走経路だ。
そこにいたのは男だけではない。傍らに少し不安げな表情をした女がいる。
男が目線で合図を送ると女は両手に持っていた四角いミニチュアを一瞥。するとミニチュアが消えて代わりにジュラルミンケースが現れる。それを男に手渡した直後、今度は女の姿が掻き消える。似た物同士に魔力を見出す相似大系の転移術だ。
受け取ったケースはそれぞれ形が異なっていた。
片方は正方形に近い長方形で、ケースと聞いて一般的にイメージされる形。もう片方は細長い長方形で立てれば男の身長と変わらない。
両方のケースを地面に置いて細長い方を開くと中には先端が尖った四本の棒が納められていた。
男は四本の棒を左右の斜め前後、上から見れば四角形の各頂点に位置するように地面に立てる。
底面積が大きくないにも関わらず棒はしっかりと屹立し、もう片方のケースを持って男が歩き始めればそれに応じるように棒も地面を擦りながら動き出す。
男の故郷である創生大系では自然物ではない、生物の手が加わった物は疑似的な人格と生命を持つ。
そして創生大系魔導師は人工物に魔力を見出し、対象を魔法具や魔法構造体に改造する事に長けている。日本における付喪神や妖刀伝説のモデルだとも言われる。
周りの棒を見ながら男は不意に苦笑を漏らす。接触する前に前準備を済ませておくのは戦闘の基本だが、武装の確保はある意味男にとって至上命題だった。
悪鬼に観測され辛い時間、場所は限られ、必然的に人工物の少ない場所が戦場になるケースが多い。
今回のような森林もその一つ。日本ではたとえ首都圏でも身近に森や山があるから魔法使いにとって戦うにはうってつけだろうが、男にとっては事情がまったく逆になる。
本来、創生大系の騎士団は攻勢においては改造した武具を引き連れて戦地に赴くが、この世界でそんな事をすれば移動の過程でたちまち破壊されてしまう。
超高位魔導師ともなれば植林や間伐された森も人工物と見なして自在に操るが、男にはそこまでの技量はなかった。故に一手間かけてでも戦場に直接持ってくる必要があった。
転移に関しては不得手だから刻印魔導師にやらせている。
魔法世界で大罪を犯し、地獄に落とされた魔法使い、刻印魔導師。魔法使いの機関≪協会≫の敵を百人斃せば解放されるものの、歴史上成し遂げた者は存在しない迂遠な死刑宣告。
男が担当する刻印魔導師は現実の前に打ちのめされ、故郷に帰る事を諦めた負け犬揃い。
それでも魔法使いの矜持を捨てきれないから、比較的安全な支援活動だと分かれば率先的に手伝いたがる。
専任係官には刻印魔導師の管理義務がある。
刻印魔導師が罪を犯した場合には担当の専任係官が責任をもって狩らなければならない。
それは面倒だから男は飴を与えている。けれど本当は目の届く範囲に置くのも嫌だった。
ヘマをして死んだ魔導師を悼んだ事はないし、奴等の嫌いな英語で罵ってやりたいという衝動に駆られたのは一度や二度ではない。結局この世界に馴染めずに法を犯す刻印魔導師がいる事実がなおさら男を苛立たせる。
余計な事を考えるのはあまり良くない傾向だ。既に一瞬の気の緩みで落命する戦地なのだと思考を切り替える。
そして邂逅は程なくしてなされた。
道の向こうから現れたのはTシャツにスウェットパンツというラフな出で立ちの青年。服装だけならその辺の若者に見えるが、その剣呑な雰囲気は真っ当ではない。
何より、四方を守るように配置した棒に何の変化もない事が眼前の相手の正体を雄弁に物語っていた。
日本中を巡って犯罪魔導師を始末している男の顔は専任係官の中では知られている方だ。
だが風評の中には恐れや驚異だけでなく嘲りも混じっている。彼等が地獄と蔑むこの世界の道具を好んで使っているからだ。
目の前の魔法使いもその類だったらしい。
基本的に魔法使いは自尊心の塊だ。魔法世界では魔法の才能が絶対的な価値観になる。世界を繋ぐ≪門≫を利用出来るのも力量の証明だ。
それなのにこの世界ではどんなに優れた魔法の腕があっても日陰者にしかなれない。悪目立ちしないよう悪鬼の服を着て、魔法消去を警戒しながらの生活はさぞ屈辱を感じただろう。
溜まりに溜まった欝憤を晴らしたくて、他者を自身の魔法で屈伏させたいという欲望が渦巻いている筈だ。そして相手は悪鬼に迎合した魔法使いの恥晒し。
この犯罪魔導師が戦う事を選ぶのは自然な感情の推移と言えた。男にとっては好都合だ。
犯罪魔導師と対峙する時は嫌悪と高揚を同時に覚える。
手早く終わらせたい。感情的な理由以外でも魔法使い同士の戦闘は早期解決に限る。
一定以上の力量を持つ魔法使いは一撃一撃が必殺。一瞬の油断が致命的。
男は自分が弱いと弁えている。魔法大系自体が戦闘に適しているとは言い難いのだ。運命が違えばとうに死んでいるか、そもそも専任係官になれなかっただろう。
ケースを置いて相手を見遣る。敵は紅宮六位、≪協会≫、否、既知魔法世界でも屈指の火力を誇る円環大系。
この世界でも猛威を振るった魔法大系だ。彼等は電子に魔力を見出して雷を発生させるが、過程は魔法でも生まれた雷は地球の自然秩序に沿っているから魔法消去に強い耐性を持つ。
腕の良い術者は気流を制御して雷鳴が周囲に拡散しないように調整も出来る。この森の中ではそこまで注意する必要もないだろうが。
円環魔導師の足下に認識の影である魔法陣が浮かび、手元で紫電が弾ける。
夜闇を照らし大気を焼く稲妻を生み出して投射。文字通り雷速で叩きこまれた攻撃はしかし、男まで届く事はなかった。
正面に滑り込んだ棒が受け止める。避雷針を雷に反応する魔法構造体にしたものだ。
敵は悪態を吐き捨て、電撃を放ちつつ数個のベアリング弾を取り出す。
電気を操る円環魔導師は電気と密接な関係にある磁力の扱いも得意とする。彼等にかかればベアリング弾は銃声も硝煙反応もないお手軽な銃火器となる。
細い避雷針は盾にはならない。元より期待もしていない。
男の思案中にも相手は動き、複数のベアリング弾が銀の軌跡を引いて飛ぶ。
それに対して男は不動。左手をジャケットのポケットに入れたまま、右手を無造作に払って顔に飛来したベアリング弾を掴み取る。残りは胸や肩に当たるが甲高い音を立てて弾かれる。着弾点に空いた穴から覗く皮膚は硬質化して鈍い輝きを放っていた。
高位の創生大系魔導師は人体も人工物と見なして改造する。それが創生大系の≪
男は全身に金属プレートを埋め込んで臓器を保護しているが、この戦闘時には体内を操作して体の正面に集中させていた。
そして右手に握ったベアリング弾が掌に沈み込んでいく。ベアリング弾も人工物だから一体化させて補強に回す事も出来る。
攻撃をあっさり防がれた敵の表情に憎々しさが滲み、それを見て取った男の心中に喜悦が芽生える。
けれど才覚をひけらかして自慢する余裕はない。雷撃を受け続けた避雷針の表面は赤熱して蝋燭のように溶け始めている。
対応を終えれば今度はこちらの番だ。地面に置いていたケースが独りでに開き、中から無数のメスが飛び出した。
創生大系が生み出す魔法構造体は元になった人工物の創造目的や実際の用途に沿わせているだけ有用になる。
雷を防ぐ魔法構造体が欲しいなら避雷針として作られ、使われた物を用いるのが一番だし、魔法使いを殺すなら――
魔法生物と化したメスが風を切って空を走る。
相手は対応を試みるが如何せん、数が多い。前後左右上斜め。下を除く全方位から刃の激流。
迎撃を掻い潜って肉を切り裂き、貫き、削ぎ、食い込んでいく。さながらピラニアの池に放り込まれた気分だろう。
人権という概念が生まれる以前から存在し、その体質を引き摺っている≪公館≫では
円環大系はその火力に反比例して守りは薄い。≪無尽の光壁≫や自己円環と呼ばれる防御術も存在するが、敵はそれらを扱うまでの技量はなかったようだ。
血飛沫が舞い、絶叫が木霊する。耳に残る悲鳴と漂う臭いに男は不快げに眉を歪める。
たとえ罪人であっても痛めつけるのはあまり気持ちの良いものではない。そんな目に遭うのは自業自得なのにこちらの気分を害するのだから本当にどうしようもない連中だ。
この世界は不条理に満ちている。奇跡の担い手はかくも容易く条理を飛び越える。
この世界の法は魔法使いを裁けない。罪を犯しても直後に
殺された被害者は事故や自殺として扱われるか、あるいは形だけの捜査が行われるものの程なくして打ち切られる。
被害者や遺族の嘆きは黙殺されるしかない。それが嫌だった。知ってしまえば見過ごせない。
だから男は専任係官になり、理想は現実に打ちのめされた。
結局専任係官もただの殺し屋であって弾劾者にはなれない。
殆どの場合犯罪魔導師は殺すし、仮に生きて捕らえたとしても日本の裁判にかける事はない。
現状を変革する力はなく、場当たり的な対症療法が精々。全力を尽くしても抑止力止まりの歯痒さを犯罪魔導師への怒りに転嫁して男は過酷な戦場に身を置き続けた。
挫けなければいつか献身と懸命が報われると、根拠もない想いを信じて。
……ただ、それだけではないのだ。
男は自分が凡夫だという自認がある。これまで殺してきた魔法使いはあり得ただろう男の姿だ。
きっと、魔法の使い勝手が悪いから律儀に≪地獄≫の法を守っているだけなのだ。その生活にままならなさを覚えながら魔法が使える事に優越感を抱いているから故郷に行くという発想はない、どうしようもない小物だ。
己の本性を低俗だと思っているから自己嫌悪を誘発する犯罪魔導師には容赦なく攻撃する。同時に悪と見定めた存在と敵対する事で自分に清廉さがあると信じたいのだ。
そんなありさまだからカオティックファクターのように地獄の魔法使いだと胸を張る事も出来ない。
俗人だと開き直れれば楽なのだが、魔法使いの横暴に義憤を覚えるのも間違いなく本心なのだ。そうでなければ専任係官のような死と隣り合わせの職務には就かない。
どこまでいっても半端者。それが男の正体。
教官だった胡散臭い魔術師には戦いになると集中力が乱れやすいとよく叱責された。そして、我を通す為には命を懸ける精神性をはじめとして、本質がどうしようもなく魔法使い的なのに上辺を悪鬼の道徳や倫理感に染められたから立ち位置があやふやなのだとも。
長生きして様々な人間を見てきただけあって魔術師の言葉は核心を突いていた。
あの隻眼を前にすると何もかも見透かされているように錯覚してしまう。男が≪公館≫本拠である多摩川付近の洋館に寄り付かない理由の一端でもある。
制御を誤り自分の方に飛んできた数本のメスを受け止め、埋没していた思考を打ち切る。
改めて視線を向けると、全身から鮮血を流していた犯罪魔導師は遂に膝を突いた。
そしてその目に怯えが浮かび、体をすくませた。
男は長年の戦闘経験からそれが逃走の前兆だと感じ取る。転移か、磁力の反発による高速移動か。どちらにしろ逃がすつもりはない。
メスを体に同化させると地面を蹴り、一気に距離を詰める。
時を同じくしてカシャっと、命を賭す戦場において場違いともいえる無機質で簡素な音が響き、同時に犯罪魔導師の体が魔炎に包まれた。
ジャケットのポケットに入れていたインスタントカメラで相手の姿を撮影したのだ。
魔法消去は時間を遡って働く。現像された写真を魔法消去者が観測した事で魔法が破壊されたのだ。
対魔法使い戦では割合有効な戦法であるが、撮影時は緊張を強いられる一瞬でもある。シャッターを押しても魔法が消去されなければカメラに何かあったという事であり、十中八九己の身に何かあったという事だからだ。
ともかく、逃走を封じられ、奇蹟を剥ぎ取られた犯罪魔導師は体から噴き上がる焔に慌てふためき、微かに残っていた機運すら手放してしまう。
犯罪魔導師の体に群がって肉を貪っていたメスが魔法消去に晒され、微細な破片に砕けながらより一層肉体を抉る。
敵は口から血を溢れさせながら焦点の合っていない瞳を向けてくる。それがまるで無慈悲な暴力に翻弄される弱者のようで、湧きあがる憐れみを犯罪魔導師の所業を想起する事でかき消す。
間合いに入った。
右手を伸ばして敵の首筋を掴んだ刹那、腕の骨が杭打ち機のように飛び出して喉や頸椎を貫く。片手で首をへし折り、そのまま引き千切る。力を失いこちらに向かって崩れ落ちようとした胴体を蹴り飛ばす。
呆気ない幕切れだった。息はまるで乱れていない。磁力で集めた金属砂による接近戦や転移を活用した頭上や背後からの奇襲を警戒してシミュレーションもしていたがそれらも無駄に終わった。
決して悪い事ではない。魔法使い同士の戦闘は長引けばそれだけ周囲に被害を及ぼし、怪我を負う危険も高まる。
別に技巧を凝らした死闘を演じたかった訳でもない。むしろ一秒でも早く終わらせたかった。
だから本当は喜ぶべき場面だ。けれど、こんな呆気なく死ぬ犯罪魔導師によって貴い命が奪われたのだと思うと遣る瀬無さがあった。
込み上げる激情のまま犯罪魔導師の頭を地面に叩き付けて踏むと、あっさりと潰れて飛び散った中身が靴やズボンを汚した。それでも少しは気が晴れた。
本来は本人確認がしやすいように顔が残っている方が望ましいのだが仕方ない。どっちみちいたるところが切り刻まれていたのだからと男は一人で完結。
血と土に塗れた首がない犯罪魔導師の体の元まで歩いてその姿をカメラに収める。杞憂だと思うが、一部の魔法大系なら首が落ちても生存可能だから念の為だ。
魔炎が上がらない事を確認すると更に簡易の魔法を放つ。すると首なしの体の両手足が跳ね上がった。
魔法は極一部の例外を除いて人体への直接干渉が出来ない。創生魔法が作用したなら完全に死体という事になる。
戦闘終結の確証を得た男は自身の体にも魔法を使う。
≪化身≫はある程度の可逆性がある。地獄の自然秩序を逸脱しない範囲に戻さなければ魔炎にこの身を焼かれてしまう。
この瞬間は自分がこの世界の住人とは違う存在なのだと思い知らされる。
魔法使いとして生きるか悪鬼の真似事をするか、どっちでも良いからさっさと決めないと早死にスルヨ。
魔術師の忠告を思い出す。それが正しいと理解しながら男はこれまでずっと答えを先送りにしてきた。
本性が人を見下し、己の意に沿わない者は力ずくで排除して悦に浸るものでも、別の可能性があるのではとずっと模索してきた。
優しかった友人達との温かな思い出。学校で一緒に学んだ弱者を労り、他者を尊重し、手を取り合う生き方。実践出来ている者が少ない理想だとしても、立派だと憧れて、自分もそういう生き方をしたいと思ったのだ。
……そう思ってもこれまで体現出来なかったのは、本能を理性で律しきれなかったからだ。いくら蓋をしようとしても隙間から傲慢が這い出てくる。
必死にコンベアの上を逆走しているようなものだ。楽な方に流されろと誘惑が絶えず決意を蝕む。他人からはさぞ滑稽に見えるだろう。
おぼろげに無理な事だから憧れたのだと自覚していたが、はっきりと認めたくなかった。どうしようもなく意固地になっていた。
携帯を取り出して≪公館≫に任務終了の報告を入れ、後始末は刻印魔導師に任せて帰途につく。
結局、男は最期のその時まで矛盾を抱え続けた。
超絶潔癖症な男の話でした。
人工物に命が宿る自然秩序? 物理法則? 完全大系や混沌体系を鑑みればありだと信じたい。魔法大系に関してはぶっちゃけマクガフィン(使い辛くてそんなに強くないという条件を満たしてれば良かった)なのであまり突っ込まないのでもらえると嬉しい。
没ネタ
作られてから長い年月を経た物、製作者の強い思念を込められた物ほど強力な代物になる。
また、秀でた創生大系魔導師はロマンチストでありリアリストだ。未使用の大量生産品であっても、そこに至るまでの技術者の努力や歴史の積み重ねの結晶だという認識の元に優れた魔法構造体を作成する。
薄汚れたパネルに書かれた来歴を読みつつカメラで寺の全景を収める。
男の故郷には歴史的建造物は存在しないので興味を駆り立てられる。
長い年月を経た公共物は暴走の危険や悪用を避ける為に破壊するのが最高位魔導師の方針だからだ(数百年前には最高位魔導師の銅像が代替わりの際に暴れ出して少なくない被害を出したという記録もあるらしい)
ただ芸術方面に関しては自己責任という形で認められている。文化面で劣っていると見られたくない見栄だ。
だが芸術も一筋縄ではいかない。像は独りでに動き出すし、絵画は勝手に自分の内容を書き換える。
迂闊な芸術家が芸術品に加わる事が毎年の恒例だ。