短編を二つ挟んでからの投稿です。
気がつけば十話目なんですねぇ。短編を除けばですが。
ではでは、どうぞ。
薄暗い部屋。
上がる息。
火照る身体。
額を、頬を、首筋を伝う水分。
「あ、あなた…?」
荒い息で、彼を呼びかける。
汗で滲む彼の顔が笑顔に変わり、『大丈夫』と語る。
「うん。…ここでしょ?」
「いいわ…すっごく良い位置」
一人じゃない。
彼の手に支えられてるのがわかる。
繋がってるのが分かる。
「しっかりね?せーのでいきましょう?」
自分に言い聞かせるように口にした言葉で、思わず微笑んでしまう。
少し前のことがまるでウソのよう。
一人が先走っても意味が無い。
二人でするから意味があるんだ。
「それじゃあ…!」
彼の呼吸が止まる。
次のために力を溜めてる。
「ええ!」
私の息も止まる。
彼とタイミングを合わせるために。
一瞬の沈黙が訪れる。
どんな些細なキッカケも逃さない。
集中が最高潮に達した時、部屋の空気が僅かにーーー動いた。
「「せーの!」」
動く彼、持ち上がる影、跳ね上がる鼓動。
この時の私たちの息は、間違いなくピッタリだった。
数秒後の落ちる音を合図に、歓喜が上がった。
「「や…!」」
「「やったーーーー!!!」」
月明りが差し込む壊れた両開き窓の前で彼と私は強く抱き合った。
身体が許す限り、力強く。
「やっと、やっと運べたわ!」
「うん…!こんなに嬉しいのは久しぶりだよ!
ゼシカと結婚できた時以来だ!勿論、あの時と比べたら劣るけどね!」
「私だってあなたと両想いだってわかった時に比べたら全然よ!けど、とっても嬉しい!」
なんて笑っていられるのも、風で横転したダブルベッドを元に戻せたから。
今から一時間ほど前。
彼との盛り上がりが達し、…そういう事になるまであと僅かのところで、停電が起きた。
原因はその時の雨や風だと思う。
そこからはてんやわんやだった。
開けっ放しにしていた窓が強風で吹き飛び、強烈な雨が私たちを襲い、慌てふためいている間に一番強い風がベッドを襲った。
その後すぐに窓にはマホカンタを使ったので雨風は防げたんだけれど…
当然そんな中でお楽しみなんて出来る訳が無く、なし崩しにというか、必然的に室内の復旧作業をすることになった。
というか、どうしてあんなに重いのよ。あのベッド。
彼も私もバイキルトを使ってやっと運べたんだけど?
「それで…えっと…」
抱き合ったままの彼が何かに気づいたように口を開いた。
「うん?」
「今日は、どこで寝る?」
「あ…」
彼の視線の先にあるのは、雨でびしょびしょになってしまったベッド。
床は薄い水たまりのようなものがいくつかある上、小さな木片も散らばっている。
唯一寝れそうで無事だったのは、すっかり冷え切ってしまっていたソファだけ。
「…とりあえず、お風呂に入りましょ?このままだと風邪引くし」
「そう、だね。うん、そうしよう。
じゃあ、お湯入れてくる」
「わかった。着替え用意しておくわね」
それからお風呂のできる約十分、用意を終えた私たちはソファに座ってそわそわしていた。
「は~…どうする?」
「やっぱり、僕が床で、ゼシカがソファで寝るしかないんじゃないかな。バスタオルで拭けばとりあえずは平気だろうし」
「ダメよ、そんなの。もう一枚タオルがあれば床に敷いてその上でって事もできたけど、さっき私たちが使ったので最後だし…
そうだ、三人くらいなら腰かけられるし、座ったままで寝ればいいんじゃないかしら」
「それだと身体に負担がかかって、明日帰る時が大変かも。さっき結構な力仕事もしたから、変に疲れが溜まるとと大変だし」
彼はうんうん唸って顔をしかめる。
お風呂を出てからというもの、どうすれば眠る場所を確保できるかを考えているのだけれど、どうにもいい案が出ない。
多分、眠いせいもあるんだと思う。
彼も私も微妙にろれつが回ってない。
「うぅ~ん。どうしようかしら」
どっちかが床で寝るなんて絶対ダメだし、かと言って座ったまま寝たら彼の言う通り起きてからが怖い。
…そうだ、それならいっその事。
「一緒に寝る?ソファで」
何も、ソファは座るためだけの物じゃないんだし、この大きさなら大丈夫かもしれない。
「え、けど、座っては…」
突然の提案に彼は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに何かに気が付いてソファを眺める。
「…この奥行きならいけるかも」
そう言うと彼はすぐにソファの上に横になる。
続けて私も余っているスペースに横になる。
けれど…
「横向きになって寝ても身体が半分近く出ちゃうわね…」
スカスカする面積を少しでも減らそうと、彼の背中に身体をくっつける。
「ゼ、ゼシカ?」
「これ以上詰めるのは無理かしら。
これだと寝てる時に絶対落ちるわよね…」
出来る限り身体を背もたれにの方に押し付けるが、胸があるせいで肩一つ分が出てしまう。
う~ん、これだと、並んで寝るのは無理そう…。
「あの、ゼシカ?」
「なに?
…って!ご、ごめんなさい!あなたの事すっかり忘れてた!」
彼の潰されそうな声を聞いた私はすぐにべッドから降りた。
どうやったらソファに収まれるかに夢中になっていて、すっかり彼の事を忘れていた。
「ううん、大丈夫。そんなに苦しくなかったし、むしろ嬉しかったというか…」
「へ?」
「いや!何でもないよ!それより、並んで寝るのは無理そう?」
慌てた様子で起き上がった彼はソファに腰かける。
つられて私も隣に座った。
「あ、うん。さっきくらい近寄れば寝る時は大丈夫かもしれないけど、多分、朝には落ちてるでしょうね」
「そっか。なら、後はもう重なって寝るしかないか…」
「重なって…って言うと、一日目に鎖で繋がれたみたいに?」
彼の提案で思い出したのはベルガラックに泊まりに来た日の夜。
フォーグとユッケの企みによって彼がベッドに繋がれてしまい、解放するために彼の下敷きになる形で私が横になって一夜を過ごした事。
「うん。ソファの上だし寝心地はあまり良くないだろうけど、この前は寝起き自体は平気だったし、どうかな」
「いいと思うわ!そうしましょう!」
勢いのあまりソファから立ちあがってしまう。
今思い出してもドキドキしちゃうアノ事をまた出来るなんて…不幸中の幸いってやつかしら!
「…じゃあ、この前はゼシカが下だったし、今回は僕が下になるよ」
そう言うと彼はすぐソファに横になった。
仰向けで。
と思えば、少し顔をそらして小さな咳払いをすると。
「…おいで?」
挑戦的で、でも少し恥ずかしそうに、私をしっかり見据えて右手を差し出してきた。
そんな彼をまじかにしても冷静さを保っていられるほど今の私は落ち着いているはずもなく。
「失礼しまぁぁぁぁす!!!!」
「おっふ!!」
本能のままに彼へとダイブした。
胸の下では彼が軽く咳き込んでいる。
けど、自業自得よ。
あんな事されたら飛び込んじゃうに決まってるじゃない!
「…幸せに重さがあるとしたら、きっとゼシカくらいだね…」
私が馬乗りに体勢を変えると、彼は悶え気味に呼吸をしながらそんなことを言った。
全く、失礼しちゃうわ。
私がそんなに重いはずないじゃない。
「あら?じゃあ、たいしたことないんじゃない?」
そっぽを向きながらも目の端で彼の顔を伺う。
「た、確かにね…そんなこと言ったらゼシカの体重は、大きくなったラプソーンよりもあることになちゃうもんね」
「なっ…!」
そこに見えたのは、慌てふためく彼の顔ではなかった。
余裕を見せるだけじゃない。
誘いも含めた彼の笑顔は、今ある思考をすべて捨ててでも抱きしめたくなるものだった。
驚いたわ。
まさか彼が【相手に嫌味を言ってから褒める】なんて技を使うなんて。
おかげで、落ち着いているフリをするので精いっぱいだ。
すぐにでも顔を寄せたい衝動に駆られている。
でも、ここで味をしめさせたらダメよね。
そうなったら最後、二人目のククールが出来てしまうもの。
「…褒めても、何も出ないわよ?」
出来る限り平静を装ってそう言った。
けれど、私の必至の抵抗もむなしく。
「ううん、ゼシカの笑顔が見れただけで十分だよ?」
「へっ!?」
とんでもなく歯の浮くような事を言われた。
な、ななな何!?今日の彼はどうしたの!?
普段なら言わないようなことをこんなに続けて言うなんて!!
「うん?どうしたのゼシカ。顔が真っ赤だよ?」
「ええっ!?ちょ!」
こ、これはどう考えてもおかしい。
だって、彼は今、私の事を抱き寄せた!
文字通り目と鼻の先まで!
いつもの彼ならこのタイミングで抱き寄せたりしないのに。
こんな裏のありそうな笑顔をみせながら、私の事を見つめたりしないはず。
「あ、あなた?今日はどうしたのかしら…?随分と積極的だけど…」
「だってそれは、ゼシカが…それだけ…」
「そ、それだけ!?」
そう余韻を残したまま、それっきり彼の寝息しか聞こえることはなかった。
「な、なんなのよーーー!!!」
身体の殆どが重なり合った状態から再び馬乗りの体勢に戻る。
「これだけ人を惑わせておいて、当の本人はあっさり寝落ち!?思わせぶりなのも大概にしてほしいわよ!ちょっと期待しちゃったじゃないの!
全く、いい度胸じゃない!今のうちに別の人のところにいっちゃおうかしら!?」
なんて怒りのままにまくし立てていても、頭の中にいる冷静な私は知っていた。
他の男に今みたいなことをされても、きっと私は何にも思わなかっただろうなぁ、と。
むしろ、サクッと魔法でどうにかしていた可能性まである。
私は、彼だからあんなことをされてドキドキするし、おあずけされればもどかしくなるんだ。
「…はぁ、とことん惚れちゃってるのね。私」
呆れたように吐いたため息と、同時にこぼれた笑み。
矛盾に思えるそんな行為も、なんだか嬉しく思えてしまう。
うん、思ったよりも楽しんでるみたい。
「けど、寝落ちしたことは許さないわよ?」
彼が起きた時に驚かせるため、適当な感じで服を脱がせていく。
「ふふふ、乙女の純情を弄んだんだもの、このくらいしないとね?」
後は朝起きた時に、彼になんて言うか考えておかないと。
「そうね…『私に、あんなにえっちなことしておいて覚えてないなんて…サイテー!』あたりかしら」
ラジュさんに聞いた話だと、そういう事をしたのに何も覚えてないと、男性側はとてつもない罪悪感に襲われるらしい。
世の中にはそれを逆手にとってゴールドを稼ぐ詐欺師もいるのだとか。
正直、聞いた時はあまりいい気はしなかったけれど、けど、今回に関しては私にも彼を慌てさせる権利があると思うの。
だって、未だに彼の言いかけの言葉が頭から離れないの。
「だから!これは仕返しなのよ。あなたが悪いんだからね」
そう言って、そっと頬に口づけをした。
全くなにもしないで今日を終えるのは、明日仕返しをするにしてもなんとなく物足りなさを感じたから、彼が寝ている間に、彼が喜びそうなことをしてみた。
私だけが一方的に知っている幸せ、とでも言うのだろうか。
そう考えると、急に胸の高鳴りが増した。
そのまま頬を密着させて横になる。
この高鳴りが彼に届いて、もしかしたら起きてくれるかもしれない。
いっそ私も脱いでしまおうかと考えたけれど、彼の体温と呼吸を感じると安心するからなのか、いつの間にか私も眠ってしまっていた。
To be next story.
え?期待していたのと違がったと?
それはまぁ、ねぇ?私だってそう書きたくはありましたが、書けない事情があるというかなんというか。
ですが、それ以上にラブラブに書いたはずなのでお許しを。
では、次のお話で!