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お久しぶりです。(特に書くことがなかった)
で、では!本編にどうぞ!
「はっくしょん!」
小さな破裂音で目が覚める。
それが自分のくしゃみだと分かった途端、一気に身体が冷えた気がした。
「…寒い」
室内の空気は冷え切っていて、とても部屋の中だとは思えないほどだ。
まぁよくよく考えてみれば、冷えた風が部屋の中を占領していてついでに雨まで中に入ってきていたのだから、冷え込むのは当然よね。
「昨日の夜は色々あったものね、うっかりしてたわ…」
後ちょっとのところまで発展したと思いきや窓から雨や風が入ってきて、どうにか後片付けを済ませたと思ったら、今度は彼がおかしくなっちゃってて…
『だってそれは、ゼシカが…それだけ…』
「ぶっっ!!」
思わず目を瞑って昨日の事を思い出したが最後、彼の顔まで瞼の裏に出てきた。
「げほっ、げほっ、し、心臓に悪いったら無いわね…。危うくむせ死ぬところだったわ。
全く、なんて爆弾残してくれたのかしらこの人は」
私の下で寝ている彼を横目で確認する。
こういうのをフラッシュバックと言うのだろうか。
連鎖的に、彼の強気な一面を思い出してしまう。
「…はぁ」
顔が赤くなってるのか、恥ずかしさの余り無意識に当てた左の掌があったかくなってる。
うう、結局何が言いたかったのかしら。
「はっくしょん!」
二度目のくしゃみで現実に戻る。
今の私たちは、オークニスの町のある雪山地方のような寒さの中にいるんだって事を思い出した。
(なにか、暖かいものは…)
小刻みに震える身体を抱き締めながら起きる。
目に映ったのは風雨で揉みくちゃにされた室内と、上着のはだけた彼だけ。
昨夜の薄明かりでは見えなかった彼の鍛え抜かれた身体が、陽の光で輝いて見える。
「あ、改めて見ると凄い身体よね…」
服を着ると細く見えるけど、彼の身体には六つに割れた腹筋と、戦いで負った沢山の傷。
中には私や他の二人を庇った時に出来た傷もある。
それを思わず指でなぞってしまった。
硬いながらも弾力のある腹筋と腹斜筋の間、皮膚の色が少し変わっている傷口の縁を、人差し指で撫でるように。
「冷たくて、鉄板みたい」
こんな風になぞれるのは私にだけ許された特権。
他の人には出来ない特別な幸せ。
けれど、その幸せも束の間。
私はあることに気がついた。
「ん…?冷たい…?……あっ!!!」
急いでなぞるのをやめ、人差し指で小さくメラを作りだして当たらないよう体に近づける。
しまった、私が冷えているなら彼だって身体が冷えているに決まってる!
しかも、彼は上半身が裸と変わらないのだから…!!
「あ、あなた!?起きて!起きてってば!」
ペチペチと頬を叩く事数回、彼は小さく、呻き声にも似た声を上げる。
「ゼ、ゼシカ?おはよ…寒ッ!!何これ、冬!?」
口を開いた瞬間に両手で自分の身体を抱きしめる彼。
いきなり起き上がってきても大丈夫なように指先に作ってたメラを消した。
「ご、ごめんなさい!こ、これ!脱がした服!濡れてないから大丈夫だと思うわ!」
ソファの腰掛けに掛けて置いた服を急いで渡す。
彼は「ありがとう」と言ってそれを着始めた。
「ふぅ、冷たいけどとりあえずこれで大丈夫かな。…って、あれ?僕、上着なんて脱いでたっけ」
「えっ、あっ、うん…ぬ、ヌイデタワヨ?」
「…?まぁ、別にいっか。
って、それよりゼシカは大丈夫!?風邪引いてたりしない!?」
唐突に彼の顔が近づく。
それと同時に、変な感触が全身を巡る。
「わわ!?な、急に…!」
心配して焦っているのか、ペタペタと私の身体を触る彼の顔は至って真剣だ。
腰、お腹周り、手や腕や肩、最後はほっぺたと、一通り身体を触り終えると。
「ダメじゃないか!僕より冷えてるならそう言ってくれなきゃ!」
彼は言い終わるより先に着ていた服を脱いで私に羽織らせる。
彼の体温で僅かに暖まっていた上着は、私の冷えていた身体へとその熱を伝える。
「わ、私は大丈夫だから、あなたが…」
急いで脱ごうとすると彼がその手を掴む。
「それは僕のセリフだよ。ゼシカには、いつだって元気でいて欲しいんだ。だからそれは着てて。僕は大丈夫だから」
そんな、真剣な眼差しに思わず納得して。
「あ、う…わかった…」
頷いてしまった。
ど、どうしよう…
上着を脱がせたのは私だと言わなければいけなかったのに咄嗟に嘘をついてしまった。
それどころか、本来なら彼が着るべき上着を今は私が羽織っている。
大きな罪悪感と後悔が私を襲う。
これも復讐しようとした罰…?
それなら、せめて…
彼を暖かくしなくちゃダメ、よね。
「どうしたのゼシカ?」
今まで彼の下腹部付近に座っていた事に気付きつつ、彼の身体とソファの腰掛けの間に片足を通す。
「ちょ、ゼシカ!?」
そのまま、ぎゅっと彼を抱き締めた。
「知ってる?人を暖めるには人肌が一番いいんだって」
そう言って更に抱き締める腕に力を入れる。
「いや、けど!」
顔を真っ赤にして慌てる彼を尻目に、もう少し身体を密着させる。
とても冷たい。
鉄板のようだと言ったのは自分だというのに、その的確な表現に驚いてしまう。
本当に冷え切った鉄板のような身体だ。
どう考えたって彼の方が冷えてるに決まってる。
なのに、彼は私を引き剥がそうと身体の脇に手を置いている。
といっても、それに必死さはないので、驚いて反射的にしている事だろう。
「いいじゃない。私たち夫婦なのよ?恥ずかしがる事なんてないわ」
「い、いや!そういう事じゃ…!」
それでも脇から手を放そうとしない彼にムッとして、彼のほっぺに私のほっぺをくっつける。
「…どーせこの旅行が終わればあなたはまたお城に仕事に行っちゃうんだから、あと一日くらい甘えさせなさいよ」
ここまですれば彼だって拒めないだろう。
ちょっとずるい気もするけど、これで彼が風邪を引かずに済むのなら。
けど、そっか。気がつけば私たちのハネームーンも今日でおしまい。明日にはまた以前と同じ『いってらっしゃい』と『お帰りなさい』の日々に戻ってしまう。
そうなったら彼とこうしてくっついていられる時間も減ってしまうんだ。
思わぬところで大事なことに気がついて、思わず抱き締める力を強くしてしまう。
あと一日、今日はこのまま…
「け、ケホン!あ、あのー、この惨状はどういう事なのかし…ら…」
突如聞こえた声に顔を向ける。
その先にいたのは、着ている服にも引けを取らないくらい顔を赤くした、草原のような柔らかな緑色の髪を持つ少女・ユッケ。
「あっ…!
うん!そうだね、こういう激しいのもあるんだよね!知ってる、あたし知ってるから大丈夫!それじゃあ!」
「まっ、待ち…待ちなさい!!!」
自分でもびっくりするくらい大きな声が出た。
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「はぁぁぁーーー…」
「べ、別に覗こうとしたわけじゃないからね?朝食の案内をしようとしてドアをノックしても返事が無かったから、何かあったのかと思って入ってみたら…その…エッ…」
「「してないわ(から)!!」」
ユッケが部屋にやって来た後、勘違いをしたままどこかへ行こうとした彼女を間一髪引き止め昨夜の事を伝え、一先ずギャリング邸に案内してもらった。
「ならどうしてあんなカッコウで抱き合ってたんだか…」
「そ、それは、二人とも身体が冷えてたから抱き合って暖め合ってた…って言うか…」
問い質すような、睨むような目で見られて思わず口ごもってしまう。
言い方一つで本当の事が嘘っぽく聞こえてしまうのだから不思議なものよね。
「…まぁいいわ。そういう事にしておきましょう。
それより、服は苦しくない?私とお兄ちゃんの服を貸したけど…」
「あ、うん。僕の方は大丈夫。ゼシカは?」
「私も肩幅とか丈は大丈夫だけど、胸が、ちょっとね」
何とも無しに胸を張って彼に見せる。
ぎゅうぎゅうと胸全体を満遍なく圧迫されるのは、今では実家となったアルバート邸で過ごす時の服に似ているけど、着慣れていない分、ユッケの服の方が苦しく感じる。
懐かしさに胸を締め付けられていると、目の前で紅茶を飲んでいたユッケのこめかみに血管が走る。
「小さくて悪かったわね!文句があるならその無駄肉削いであたしによこせっ!」
その速さは今まで見てきたどの魔物よりも速く。
向かいに座っているユッケがテーブルを踏み越えて私のところまで来るのに、まばたき程の時間すらかからなかった。
「ちょっ、何してるのよ!服が破けちゃうから!」
気付いた頃には両胸を鷲掴みにされていた。
「煩いわ!
間違って買っちゃった胸囲の大きい服すらこんな風にパッツンパッツンにして…!
もう勘弁ならない!あたしの気が済むまで揉ませなさい!!!」
言いながら、鬼気迫る顔をして私の胸を寄せては上げて揉んでを繰り返すユッケ。
この慣れた手つき、従業員にも手を出してるわね。
「あ、あのねぇ、私の胸に勝てる人なんてそうそういないわよ?第一、私が負けを認めたのだって、旅の途中に寄った変わった口調の荒くれ者がいる変な場所にいたバニーちゃんだけだし」
「あたしの知らない人を出されても困るわね!くそぅ!なによ、大きくて柔らかくてなのに弾力があるなんて卑怯よ…!大きさだけじゃなくて質でも負けるなんて…」
次第にユッケの手から勢いが薄れ、力が抜けていく。
気がつけばさっきまで私の両胸を掴んでいたはずの手は、肩と一緒にだらんと落ちていた。
「あら、もう終わりなの?思ったより早かったわね。
ま、服が破れる前に終わってよかったわ。自業自得とは言え、服が破れたら申し訳なかったし」
「ゼシカ?これ以上ユッケをいじめるのはやめた方がいいんじゃないかな…?」
赤面して顔を晒していた彼がそんな事を言ってくる。
「いーのよ、勝ち目がゼロの相手に挑んで来たのが悪いんだし」
別に命を取るわけでもないし、大した問題じゃないわ。
「ま、まぁ、そうかも知れないけどさ。あんまりいじめるから、泣いちゃったみたいだし」
「へ?」
言われて始めて鼻をすするような音に気がつく。
発信源は、どうやら俯いたままのユッケのようだ。
…確かに、少しやり過ぎたかも知れないわね。
「ごめんなさい、ユッケ。私もちょっと大人気なかったわ。
大丈夫よ!世の中には小さい方がいいって人も沢山いるわ!実際そういう人も見てきたしね!」
ユッケを慰めるべく頭を撫でる。
「そ、それは慰めの言葉としてどうなんだろう…」
隣で小さく呟く彼の言葉に反応したのか、鼻をすする音とは別に「ひっく、えぐっ、うぅ…」という声も聞こえて来た。
「なによなによ、いいわよそんな慰めは。そんなんで胸が膨れるなら努力なんてしないわよ」
ボソボソと聞こえる涙交じりの声は恨みや妬みの感情というよりは、心からの切実な思いといった感じで、私の胸に響くものがあった。
「ね、ねぇユッケ?その、本当にごめんなさい?私が悪かったわ。ちょっと度が過ぎたわよね。本当に悪かったわ」
未だに俯いたままのユッケの顔を覗くようにして謝る。
「…せろ」
「へ?」
ほんの少しの沈黙の後聞こえたのは、鳴き声でも怒りの罵声でもましてやお許しの言葉でも無く。
「そんなに言うなら実物見せろ!!!」
「はぁ!?」
謎の理論によって導かれた意味不明な欲求だった。
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「ふぅー、満足満足。これで研究も捗るってものね!」
「うぅ…弄られた…上半身の一部分だけを必要以上に弄られれて物凄く凝視された…」
「ま、まぁ、やっぱりゼシカの胸が最強って事だったんじゃないかな!」
およそ十五分にも渡る、ユッケの手と眼による両胸の蹂躙は彼女の満ち足りた笑顔とともに終わりを迎えた。
しっかりとほぐされた私の両胸は、心なしか柔らかくなったような気がして嫌じゃない気分なのが逆に悔しかった。
「後は、私の仮説が正しいかどうかを七日後の報告で確かめれば終わりね。あ、それまでは毎日、夫である貴方が今私がやった事をするのよ?」
「「えぇ!?」」
突然の爆弾発言に私と彼は顔を見合わせる。
今のを、彼が、毎日、私に…?
真剣な眼差しの彼と、顔を赤くしてそれを望む自分の姿を想像して、咄嗟に頭を振る。
そんなの嬉しすぎ…じゃなくて、彼の負担が大きい!
「ど、どうして毎日する必要があるのかしら!?何か理由があるなら聞かせて欲しいんだけど」
「どうしてもなにも、一回の実験だけじゃ効果が薄いからよ。
それに…」
ぬっ、と顔を寄せて私の耳元まで来ると、ユッケは囁くようにしてこう言った。
「(その方がゼシカさんも何かと都合がいいんじゃないの?)」
「ば、ばばばばバカ言わないでちょうだい!?私は別に、その…」
「あーあ、いやだいやだ。そういうのをカマトトって言うんじゃ無かったかしら。本当は今すぐにでも旦那様にうぐっ!?」
余計な事を言う前にすかさずユッケの口を押さえる。
思わず鼻も閉じてしまった気がするが、気のせいね。
「あーーら、ユッケ?ちょっとおいたが過ぎるんじゃ無いかしら?そういうのって、余計なお世話、って言うんじゃ無かったかしら」
こくこくと激しく頷くユッケの耳元で続けて呟く。
「(あんまり心配しなくても大丈夫だから。貴女の教えてくれたように、私達は私達のペースでやっていくわ)」
言い終えると同時に押さえていた手を離す。
二度ほど深呼吸をしたユッケは私の方に振り向くと、ニカっと笑って。
「そう、なら安心したわ」
そう言って元の位置に座り直した。
「あ、けど毎日揉むのはやって貰うわよ?私の仮説だと、毎日適切な揉み方をする事でバストアップが出来るはずだから。
仮説があっていればゼシカさんの胸は文字通り誰にも負けないモノになるだろうし、間違っていたとしてもそれによるデメリットはないから大丈夫。
精々、旦那様の負担が大きいって位かしらね。
あ、別に穴が開くほど胸を見たりはしなくていいわよ?あれは単に度肝を抜かれて目が釘付けになっただけだから」
脚を組んだユッケは、もう一度笑って。
『それはそうと私の胸を大きくする手伝いはしてもらうから』
と、眼が語っていた。
「はぁ…分かったわよ。やるわ。あなたもそれでいい?」
「ゼシカがいいなら僕からは何も無いよ。まぁ、ちょっと恥ずかしい気もするけど」
薄っすらと顔を紅くした彼の顔を見て、つられて私の顔も熱くなってしまう。
二人同時に目を逸らした事まで恥ずかしい。
「あのねぇ、それじゃ子供のお付き合いじゃないのよ。一緒にお風呂はいったことあるならもっとこう、あるでしょう!?」
言われてその日を思い出して、また顔が熱くなる。
力強い彼の手が私の身体を優しく触れてくれた事を。
「…アホらし。付き合ってられないわ。
もう少ししたらあなた達の服が乾くはずだから、それまでに部屋に戻って荷物を纏めるなり、そこできゃっきゃうふふするなり好きにしたらいいわ。
あーあ!全く、あたしにも恋人が出来たらああなるのかなー!」
扉が閉まる音と同時にユッケは部屋から出ていく。
どこか嫌味にも聞こえる期待を残して。
(私だって、自分がこうなるなんて思いもしなかったわ。一番縁遠いものだと考えていたし。
けど…)
彼の方を見る。
いまだに私から顔を逸らしているから後頭部しか見れないけれど、それでも、気持ちが温かくなっていく。
(こんな気持ちになれる人に、早く逢えるといいわね。ユッケ)
扉に向けて、小さく微笑んだ。
ユッケが出て行ってから数分後、「…行こうか」と切り出した彼の手を握って、部屋を後にする。
その時、視界の端に二つ影が映った気がしたけれど、扉が閉まって確かめられなかった。
「どうしたのゼシカ?」
「ううん、何でもないわ。いきましょう」
残された時間を確かめるようにして彼の手を握り、私たちは宿泊部屋へと帰った。
To be next story.
女の子同士の絡みって良いよね!
特に、胸の話で盛り上がってるのって最高だよね!
そんな趣味全開の話でした。
次回は(恐らく)ハネムーン編(仮)最終回です。
部屋にいた2つの影とは一体…!?
それではまた!