私と旦那様と祝福された純白の日々   作:カピバラ@番長

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おっすおっす。
ドラゴンクエストライバルズにサンタコスゼシカスキンが追加されて絶賛発狂中のカピバラ番長です。
今回は題名の通り、とうとうハネムーン編が終わります。
前話ラストに現れた謎の影とは一体なんなのか。その答えが今回明らかに!
え、察しはついてる?そんなぁ〜。

では、どうぞ!


第十二話 例の黒い影とハネムーンの終わり

『い、良いものが観れたな…』

 

部屋の一角。

歴史を感じる木製の机の影から現れた長身のシルエット。

続いてもう一つシルエットが浮き上がる。

それは先に上がったものよりも頭一つ分小さく見える。

 

『良いものな訳あるか。あんなの、観たくなかった…!うぅ、吐き気がしてきた…』

 

屈んだような形をとった小さい方の背中に手が添えられる。

 

『そんなもんなのかね。

…まぁ、自分のアニキが女とイチャついてるところなんぞを見た日には発狂もんだろうがな』

 

『しかし、いよいよどうしたものか。片方は仕方ないにしても、もう片方はどういうつもりなんだか…』

 

それに頷く大きいシルエット。

 

『オレを呼んだのも不本意だったんだよな?』

 

『ああ。だが、私の思い違いだったみたいだ。貴方が良ければうちに常にいてくれると助かるが』

 

それを聞くと大きいシルエットは左手を口に当てて微笑んだ。

 

『冗談。俺は自由な身でいたいのさ』

 

『そうか。

さて、これからどうしたものか』

 

外の廊下へと続くドアへと忍び寄る小さいシルエットはそこから外の様子を慎重に確認した。

微かに照らされたシルエットから蒼い色が浮かび上がる。

 

『流石にもういないみたいだな。助かった」

 

同様に、大きいシルエットも僅かに開かれたドアから外を覗く。

照らされた爽銀の髪が光を拒むように闇へと消える。

何故か響く床に恐怖を覚えながら。

 

 

 

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「ねぇ、そっちは終わった?」

 

 

綺麗に片づけられた室内で彼の進行状況を尋ねてみる。

 

「うん。もうほとんど終わりかな。そっちは?」

 

「こっちも。

後は何時にチェックアウトするかね」

 

衣類やらをまとめたバックを彼のまとめた荷物の近くに運びながら今の時間を確認した。

私たちがギャリング邸から戻ってきて既に一時間。

外で輝く太陽の光が柔らかに差し込み、室内がほんのりと紅に染まりつつある。

窓から見えた暮れてゆく街並みに寂しさを覚えるのはきっと、明日からまた始まる日常に胸を締め付けられるから。

 

…なんて、感傷に浸ってる場合じゃないわね。

帰り道にかかる時間を考えなくていいのは楽でいいけれど、それはそれでかえってだらだらしちゃいそう。

ここはいっそ、今すぐ帰るっていうのもありかも。

 

「ねぇあなた、何かやり残したこととかはない?もしなければ、そろそろ帰りたいかなーなんて思わないでもないんだけど…」

 

私の提案に彼が首を傾げる。

その理由は多分、私の歯切れの悪さだ。

どうしてこんなにおかしな質問をしたのか自分でもわからない。

むしろ、『帰りたい』と断言したかったのに。

 

そんな私の疑問に気付いたのか、彼は優しく笑うと。

 

「ゼシカの方こそ何かやり残したことはない?」

 

なんて聞いてきた。

 

やり残したこと、なんて言われても…

彼とこんなに長い時間一緒にいられただけでもう充分だし、抱き合って寝たり、酔った私を介抱してもらったりと普段ならあり得ない体験をいっぱい出来たんだから、やり残しなんてあるはずない。

だから、だから…

 

「…ちゅー、したい。かも…」

 

だからこんな事口走るのはおかしい。

いや、したいかどうかで言えばそりゃあしたいけれど、家に帰っておやすみの前にすればいいと思うし…

 

「だめ、かな…?」

 

続けて口からこぼれる言葉を合図に、彼は私を抱き寄せる。

 

「僕の方こそお願いしたかったんだ。もちろん、しよう。

ここでの、最後の記念に」

 

彼は言葉を紡ぎ終わると、その閉じたままの唇を、ぼうっと待ち惚けている私の唇に静かに重ねた。

なんてことのない、いつもと同じただの口づけ。

ほんのりと感じる弾力もいつも通りで、彼との距離もほとんど変わらない。

劇で見る激しくて熱烈で互いを求めあうようなものじゃない。

なのに、とてもあなたを感じている。

だから、切なくて…

 

「…うぅ…グスッ…」

 

いつの間にか、私は涙を流していた。

 

「…私ね、もっとあなたと一緒にいたい。

旅をしていた時みたいに命の危険があってもいいから、毎日野宿でもいいから、あなたと同じ時間をもっと一緒に過ごしていたい」

 

彼の唇が離れると思いが静かに溢れる。

このハネムーンの間に時々過っていた考え。

二泊三日の特別な日々が過ぎてしまえば再び私たちを縛りつける日常。

求めていたのに、戻りたくないあの日々に帰らないといけないんだ。

 

「私ね、寂しいの。あなたが家にいない間、あの辺境の場所でずっと一人でいることが寂しくてたまらないの。ううん。たとえベルガラックに住んでいたとしてもそう。あなたがいないことが寂しくて寂しくて仕方ないの。

だって、旅をしていた時に比べてあなたといる時間はとっても減ってるのよ?なのに、私ったらいつの間にかそんなことに慣れちゃってて…」

 

彼は、私の情けない感情をただ黙って聞いてくれている。

私の身体に腕を回して、自分の体温を伝えて私に安心を与えてくれている。

 

これだけのことをして私はようやく自分の口から飛び出てきた言葉の意味を理解した。

スタンプラリーの時に理解してしまった事実は気付かない内に私の心を深く強く握っていたんだと。

時間と共に風化して、いずれ消えていってしまう『寂しい』という感情。

どんな魔法や道具でも食い止められないこの現象を、私は放っておけなかった。

だから私は、非日常から日常への帰還を拒んでいる。

 

それでも、それでも戻らないといけないのなら、私は…

 

「…だから、あなた?もう一度だけ、私に日常に戻る勇気をちょうだい。あなたに望まれれば私は…」

 

彼の胸から顔を遠ざけて瞳を覗き込む。

やがて薄明りすらなくなった視界で彼を待った。

早鐘が耳を覆う。

自然と瞼に力がこもる。

普通の中で、今でも特別に輝いているそれを貰えれば私は何も怖がらずに帰る事が出来る。

だけど、彼は恥ずかしそうな声で私に胸の内を告げた。

 

「…ごめんね、ゼシカ。僕は君に勇気を与えられない」

 

「えっ…?」

 

眼に映ったのは彼の照れ笑いした顔。

 

「実はね、僕もそうなんだ。

初めて仕事をしに行った日は辛くて仕方がなかった。ゼシカと離れないといけないことがあんなに辛かったなんて思いもしなかった。でも、いつの間にかそんなことにも慣れてる自分がいた。ゼシカといられない時間を、仕方ないで片づけようとしていた自分がいたんだ。…しかもそのことに今日まで気付けずにいた。

だから、僕は君に勇気を与えられない。

だから、君に勇気をもらいたいんだ」

 

「あなた…」

 

私は彼の告白を受けてどうしてか嬉しくなっていた。

このやるせない気持ちを彼も感じていたんだって、勇気をもらえた。

だから…

 

「…もうっ!しょうがない人ね。

わかったわ。私がどうにかしてあげる!」

 

 

そう言って彼と勇気を分かち合った。

いつもと同じように、ただ静かに重ね合って、心地いい弾力を感じ合った。

そうしていつもより少しだけ長かった特別に別れを告げて、二人で顔を見合わせて笑いあった。

 

 

 

 

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〈同日・同時刻・ギャリング邸〉

 

 

「…で?何か言うことはある?二人とも」

 

三人掛けのソファに一人で腰を落とし、侮蔑の視線を美しく組んだ脚の下に向ける女性ーーーユッケ。

その視線を甘んじて受けるのは兄と呼ばれた威厳なき男・フォーグと、世界の傷を癒し続けついに救済へと導いた僧侶…もとい、色男な破戒僧・ククール。

あの後、彼らは地響きを立てながら戻ってきたユッケに見つかり、正拳突きをそれぞれ三発。顔、腹、右腿の外側に受け、崩れ行くようにして土下座の体勢をとっていた。

正しくは、腰が持ち上がり床に顔を預けているだけなのだが。

 

「お…お前が計画を壊したんだろう!?」

 

咳交じりに抗議する兄にしかし妹は公然とした態度で見下し続ける。

 

「…いや、確かにユッケの言う通りだ。

計画があったとはいえ乙女のあられもない姿を見たとあっては神に使える末席を汚すものとして…いいやそれ以前に男としてあるまじき行いだったと反省している。

本人の前で謝るというのは死を意味するので勘弁してもらいたいが、ここでせめてもの謝罪をしたいと思う。

申し訳なかった。そんな言葉で許されるとは思わないが、どうか受け取ってほしい」

 

「おまっ…!」

 

つらつらと呼吸をするように流れ出る薄っぺらい言葉に息をのむしかないフォーグ。

隣で自分と同じように床にめり込みかけている男のその目はまだ深淵に落ちてはいない。

 

(悪いなフォーグ。これ以上顔を殴られるわけにはいかないんだ。俺には…約束が、ある!)

 

「こいつウソついてます」

 

「お前!!」

 

視線で知らされた薄汚い告白にフォーグが黙ってはいるはずがない。

 

(ここまで来れば一蓮托生…!共に死のうじゃないか兄弟!)

 

(クソッ!!!)

 

この男、間髪入れずに事実をユッケに伝えて二人で罰を受けようというのだ。

更に付け加えるなら、フォーグは知っているのだ。この後ククールと約束のある女性、それは、プランCとして用意したバニーちゃん・セシーとの一夜の戯れだということを。

正直なところククールが誰と過ごそうがフォーグは興味がない。だが、本来なら同等の罰を受けるはずの人間が罪から逃れ、あまつさえ幸せを享受することが許せないのだ。

そんな切な思いが通じたのか、魔王の如く君臨していたユッケは組んでいた脚を解くと額に手を当てて。

 

「…はぁ。全く呆れた。男同士もっと協力したらどうなのよ

もういいわ、なんか、怒る気なくなった」

 

そう言ってソファから立ち上がり、廊下へと続くドアを開いた。

 

「ほら、ククールさん。もう帰っていいわよ。約束の時間まであと少しでしょ?」

 

仕方ないわね、なんて聞こえてきそうな顔をして外へ出ることを促すユッケに、困惑の表情を見せながらもククールは右腿を抑えながら部屋を後にする。

 

「…どういう風の吹き回しだ?」

 

「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ。ってね」

 

腹部に残る鈍痛を抑えてその場に座り直すフォーグに、ソファへと戻りつつユッケは理由を口にする。

 

「あの男がそんな殊勝な心掛けで口説き歩いてるとは思えないが?」

 

「バカね、あの人は必死なのよ。

どうしてもチラつく、いつの間にか好きになってた人のことを忘れられるようにって。

だから頭まで下げて、追いかけようとしたのよ」

 

寂し気に持ち上がった口角を視界の端に捉えたフォーグは、隙間風が吹き込んでくるドアを見直す。

 

「だからあんな影法師を選んだのか。私はてっきり、旦那の方を誘惑するためだけだとばかり」

 

それを聞くとユッケは自嘲気味に笑って言葉を繋げた。

 

「同性の気持ちにすら思いやれないからモテないのよ、バカ兄ぃ」

 

「異性に気を回し過ぎてもいいことがないのを知っているからな。アホ姉ぇ」

 

ゆっくりと立ち上がり隣に座ったフォーグは鼻で笑う。

 

「な、なによ!?」

 

その行為に頭に来たユッケは握った拳をいつでも放てるように準備したが、その必要はないとすぐに解く。

笑っていた。

最近はめっきりしなくなっていた、兄の何かを楽しむ時に見せる不敵な微笑みだ。

 

「…上手く、行くといいね」

 

「相手はされるが捨てられるに二十コイン」

 

「じゃあ、上手くいくに同じだけ」

 

こうやって賭けをするのはいつ振りだろう。昔はよく怒られてたっけ。

 

あぁ、そうだな。

 

無邪気に微笑んで顔を見合わせる。

視線で交わされた二人の会話は夕暮れに照らされていた。

 

 

 

ーーーー ---- ---- ---- ---

 

 

「ん、ん~~~~っ!ただいま~!

やっぱり我が家が一番落ち着くわね!!」

 

「ただいま。

なんだか安心するよね。自分の家の匂いって」

 

すっかり心落ち着く場所となった我が家の居間に荷物を下ろして、二人で背伸びをしあう。

ついさっきまでいた非日常からの帰還は、もっとも見慣れた空間に到着することで否定できない現実に変わる。

少し前までは怖くて怖くて仕方がなかったけれど、今はもう違う。

彼と勇気を分け合ったこれからなら大丈夫。

きっと寂しい気持ちは変わらないけれど、それが一人じゃないって分かったんだもの。

私ばかりわがままは言ってられないしね。

 

「あなた、明日は早いの?」

 

これまでのように彼の起きる時間を確認する。

心弾むハネムーンはもう終わり。

明日からまた気を引き締めていかないと!

 

「いつもと同じ時間かな」

 

「了解。

旅の疲れがあるからって寝過ごしたらダメよ?」

 

ツンと指先で彼の胸元をつつく。

すると彼は苦笑いして「気を付けないと…」なんて呟いた。

 

「それじゃ、お風呂の用意してくるわね。

あなたは荷解きお願い」

 

「任せて」

 

洗濯する物をまとめておいた方のバッグを預かり、部屋を後にする。

私の後をついてきた彼は途中で二階へと登っていく。

 

「さ、今日は彼とずっといられる最後の日!今のうちに旦那様パワーを蓄えておかないと!」

 

いつの間にか着いた脱衣所の扉に手を掛けた時、ふと気付く。

 

「ふふっ、旦那様パワーってなによ」

 

 

 

 

 

 

 

 

To be next story.

 

 

 




さてさて、ここで補足。
フォーグとユッケが建てた四つのプランと一つの奥の手とは以下の通り。
プランA・ベッドに縛り付けて抱き合わせてチョメらせる。

プランB・酒を盛って酔わせてチョメらせる。

プランC・恋人にそっくりなバニーちゃんを用意して誘惑するが、男がどうにか理性を保ち、部屋に戻って怒っている恋人に一言「自分にとって最愛の人は君だけだよ」女「まぁ!ステキ!」そしてチョメ(略)。

プランD・街のゴロツキを雇い、恋人のどちらでも良いからその愛を疑わせるような言葉を浴びせる。(ゴロツキは相手に対応した性別を用意)。

奥の手・恋人のどちらかの大切な友人を呼び助言をしてもらう。そしてチョ(略)(今回の場合、主人公に対してククールが呼ばれたのは最初に声かけしたヤンガスに断られたから。)

といった内容のものでした。
実際のところ、チョメらせようと心がけたのは主人公とゼシカが相手だったからで、その他の人の場合は多分、「どうでも良いわ」「だな」とこだわりを見せることはないと思われます。
と言うのも、以前書いたようにさっさと進展してほしいという親切心と言う名のお節介が働いたから。
ハネムーン当日にしていた小芝居はフォーグの遊び心です。

とまぁこんな感じでした。
もしなにかわからないことがあれば感想で気軽にお聞きください。

ではまた次回!
さよーならー。

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