私と旦那様と祝福された純白の日々   作:カピバラ@番長

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あけましておめでとうございます!(手遅れ)
作中では年が明けてすぐとなっていますのでご了承下さいませ。

それではどうぞ!


第十四話 私と彼と誘惑の道具と

みんな。新年明けましておめでとう!

…なんて、もう遅いかしら。

 

「はぁ…」

 

半分食べたミカンを新しいテーブルの上に置いてため息を吐いてみる。

今日は三が日最後の日。明日からは彼も働きに戻って、このだらけきった生活ともお別れしなくちゃいけない。

そう、それは分かっているんだけど…

 

「無理よね~~~~。こんなにいい物があったら~~~」

 

ゴロンと床に寝そべり、身体を肩のところまで潜り込ませる。極寒と言っても差し支えない外へと脚が出ないように折り畳んで、極楽の空間を満喫する。

 

「ゼシカ、ちょっと潜りすぎじゃない?」

 

「え~、そうかしら~」

 

彼の忠告も何のその。今の私はこの【コタツ】と呼ばれる新しい道具の虜なのだ。

クリスマスの翌日、私の身体を掴んで離さないコタツと呼ばれるものに出会った。製作者は我らが王様・トロデ王。錬金釜の時のように密かに作り上げ、感想を聞きたいと渡された素敵な道具。

ここに更に、お茶・ミカン・お正月の緩い雰囲気、の三つが揃うとどんなに素晴らしい人でもあら不思議。堕落したダメ人間に早変わり。

 

「ゼシカ、やっぱり潜りすぎだよ。もう少し出てくれないかな」

 

「イヤよ。そっちにも十分スペースあるでしょ?」

 

運ぶような力加減で私の足をちょっとずつ端っこに追いやる彼。すかさず私も運ばれている足を持ち上げて元の位置に戻す。けど、彼もその動きに当然ついてくるわけで、やっぱり私の足が端に運ばれて…

という攻防が一日に数回、繰り広げられている。

ある種の楽しさも感じるこの攻防はお正月に入ってから始まったんだけど、日に日に彼の脚捌きが上達していってるみたいで気を抜くと直ぐ外に追いやられそうになる。

 

「ふふふ、年末はゼシカに場所をとられっぱなしだったけど、今日という今日こそは絶対にいいポジションを手に…ううん、脚にしてみせる」

 

「大きく出たわねあなた。いいわ受けて立ちましょう!この大コタツ使いのゼシカ様から一番暖かいポジションを奪い取って見せなさい!」

 

大見得の後に僅かな沈黙。妙に心の落ち着く静けさはクセになりそう。

そうしてどちらともなく結んだ口から小さな音が溢れる。

 

「…あははは。このやり取り、これで何回目だっけ」

 

「さあね、もう数えてないわ」

 

ミカンを片手に肩まで潜って、お行儀が悪いけれどうつ伏せになったまま一切れ口に放る。薄くも頑丈な皮から現れる自然に育まれた極上の甘味。人の手で作られたそれとは異なる、味覚に染み付いた甘さを口の中で広げ、余韻をさらなる主役と仕上げる豊かな緑を流し込む。僅かに攻撃的な温度は、けれど心を落ち着かせる最上の至福。

 

「「はぁ~~~」」

 

一日中やっても飽きない、いいえ、むしろ永遠に続けていきたい時間。一種の作業のようであるにも関わらず今日まで一度も飽きの来たことがない。まるで、ご先祖様も嗜んでいたのかなと錯覚するほどに違和感のないルーティーン。

あぁ、お正月が終わってもずぅっと続けていたい。

けれど…

 

「でも、もうお別れなのよね…コタ子とも…」

 

「そうだね。今日の夕方までにはお城にこれを返しに行かないと。感想と一緒に」

 

「そういう約束とはいえ、ここまで慣れ親しんだコタ子と離れるなんてちょっと辛いわね…」

 

コタ子の脚を撫でつつそんなことを呟いてみる。

コタ子が来てから二週間も経っていないというのにこんなにもこの子が恋しく感じるなんて不思議だわ。

 

「というか、いつの間にこのコタツに名前を付けたの?コタ子、なんて」

 

「…コタ子?」

 

不意な質問にコタツ布団から身体を起こしてしまう。

コタ子、とは恐らくコタツの事だと思うけど…。

 

「あ、あぁ。もしかして自覚なかった?」

 

そう言ってとても楽しそうに微笑む彼。

 

「え?どういう事?」

 

コタ子という単語といい、急な笑いといい、お正月の間抜けた雰囲気にやられてしまったのかしら。

 

「あぁ、ううん。いいんだ、なんでもないよ。

さて、コタ子の件だけど、何時頃返しに行こうか。あんまり遅い時間だと王様達も大変だろうし、かと言って今直ぐっていうのもちょっと寂しい。

僕としては、後二〜三時間くらいしたらって思うんだけど、どうかな?」

 

「そうね。妥当じゃないかしら?それだけ時間があればコタ子と別れる決心もできるでしょう…し?」

 

ふと、違和感を感じて喋るのをやめてしまう。今私はなにかこう、とても恥ずかしいことを口にしたような気がして。

 

「うん?もしかして気が付いた?」

 

「え?あなた、私が何に悩んでるか分かるの?」

 

「まぁね。これでも君の旦那だし」

 

彼はえへんと腕組みをしてみる。変に様になるのは普段から何かを考える時によく腕を組むクセがあるからだ。

 

「そう。…なら、教えてもらえないかしら。ちょっと、わからなくて」

 

ミカンに手を伸ばしつつ尋ねる。同様に彼も新しいミカンをむきながら答えた。

 

「ゼシカ、僕たちが今使ってるこれってなんて名前だっけ」

 

「え?」

 

ミカンをむく手を休めることなくそんなおかしなことを彼は聞いてくる。

疑問に思いつつも。

 

「なにって、コタ子で…あ」

 

「ふふふ。ゼシカ、途中からずっとコタツの事コタ子って呼んでたよ」

 

むきおえたミカンを小気味良い音を立てながら皮から外し、乾いたような音を響かせて半分に割る彼。そのうちの片方から一粒取って口に運び、お茶を飲んでほっこりとしている。

その間というもの、私はまだまだ下準備なしに飲むには難しいお茶よりも熱を出してる顔をどうにかして両手で覆い隠すことに精一杯だった。

 

「あ、あなた!?気づいてるならどうして言ってくれなかったのよ!」

 

「割と直ぐに言ったと思うよ。僕」

 

「あ、う…た、確かにそうだったけど…でも、もっとちゃんと止めてくれても良かったんじゃないかしら!?」

 

「いやだって、物にあだ名をつけるゼシカが可愛いくて。つい、もっと見たいなーなんて」

 

お茶を飲みながらそんな事を言ってのける彼。

普段の私ならここで抱きついたりしちゃうのだけど…今回は違う。思い返せば私はいつからか彼に一言『かわいい』や『好き』と言われるだけでコロッと気分を直してしまっていた。

でも、私にだって意地がある。惚れた弱み、なんて言葉があるけど、向こうだって私が好きだから結婚したんだから条件は同じはずだわ!

 

「あ、あのねぇ!いい、あなた!もしもコタ子…コタツを返す時に同じこと言っちゃったらどうするのよ!トロデ王の事だからそりゃあもう大笑いするわよ!?あなたはそれでもいいのかしら!!?」

 

「…それはちょっと…」

 

そう言って彼は苦笑いする。

 

「でしょう!!」

 

一気にまくし立てて腕を組む。

そうよ。他のみんなが私のことをよく知らない以上、今の私を見せれば爆笑必至。そんなのは私は勿論、彼だって嫌なはずだ。なら、そこを突けば彼も認めるしかない。

…我ながらイヤな手段だなぁと思いつつも、考えを改める。

そうよ、たまには私だって怒るんだから!

 

「なら、次からは…」

 

「それだと…」

 

「え?」

 

締めの一言を口にしようとした時、彼は呟くように言葉を漏らした。

 

「それだと、みんながゼシカの可愛いところに気がついちゃうもんね」

 

「…へ?」

 

ばくだんいわのメガンテよりもよっぽど破壊力のある一撃が鼓膜を揺らす。

彼は今、『恥ずかしい姿を見られたくない』ではなく、『可愛いと気付かれたくない』と言ったのよね?それって…つまり…?

 

「ゼシカがこんなに可愛いってことはみんなに教えたいけど、でも、誰にも教えたくないとも考えちゃうんだ。

だってほら、そんな事言ったら誰かがゼシカを誘惑しちゃうかもしれないし」

 

頭をかきながらそんな事を言う彼。顔は笑っているけれど、ちょっとだけほっぺたが引きつってる。

それはつまり、無理して笑ってるって事だ。なら、つまり…

 

「あなた、自分で言ってて恥ずかしくなってる…?」

 

ピタリと後頭部をかく手が止まる。ピクピクと口角が揺れ始めて、冷や汗が滲み始める。

やがて。

 

「あ、あははは。

…バレた?」

 

コタ子…コタツのテーブルに突っ伏して、泣いてるんだから笑ってるんだかよくわからない声でそんな事を言い出した。

 

「はぁ。バレバレよ。バレバレ。

…前から思ってたけど、あなたってそんな口説き文句的な事を言うような人じゃないでしょう?どういう風が吹いたからかは知らないけど、慣れないことは身体に良くないわよ?」

 

私の言葉が俯いたままの彼の背中にいくつも刺さるのが見える。

どうやら無理をしていたのは本当みたいだ。

 

「あ、あはは。だよね。やってて僕もちょっと思ってた」

 

「ならなんで続けてたのよ」

 

少し突き放すような言い方で聞いてみる。すると、彼は顔を突っ伏したままの状態で。

 

「…だって、ほら、僕がそう言うとゼシカもまんざらじゃなかったでしょ?だから、ね」

 

痛いところを突いてきた。

 

「うっ…」

 

思い当たる出来事がちらほらと…いいえ、かなり思い出せてくる。

…どうやら、彼が慣れない事をした原因は私にもあるみたいだ。なら、はっきりと言わなければ。

 

「ま、まぁそうね。言われて嬉しかったし、舞い上がってたのは認めるわ。でも、それならあなたの言葉で言って欲しかった。

私のためにって言うのなら、なおさら」

 

「…確かに」

 

私の言葉に頷き、テーブルに置かれていた頭をコタ子布団まで降ろして顔を隠す彼。

ホント、優しい人。脱線してることに気がつかないくらい私のことを想ってくれてるなんて。嬉しすぎて胸が張り裂けそうよ。全く。

 

「…ゼシカ?」

 

僅かに燃える暖炉の薪。部屋の中とはいえそれだけだとやっぱりまだ肌寒い。

 

「…今日は一段と冷えるわね。ほら、あなた?もう少し端に詰めて詰めて」

 

「え、うん、それはいいんだけど…」

 

ギリギリ二人が並んで座れるだけの幅があるコタ子。なぜ私は今までこの使い方を思いつかなかったのだろう。

…答えは簡単。

 

「やっぱり、こうすると狭いわね」

 

「…うん。でも、この方があったかい」

 

「…ふふ、そうね。あなた」

 

火照る顔を見せるのが恥ずかしかったからだ。

 

 

 

ーーーー ーーーー ーーーー ーーーー ーーー

 

 

 

 

 

 

 

それから約二時間。

私達は狭くてキツくて、でも、柔らかい暖かさをよく味わってからコタ子をトロデ王に返しに行った。

翌日からは以前と同じようにテーブルと椅子を使った生活が始まった。前まではなんとも感じなかったテーブル下の空間や椅子の座り心地に今は少しだけ戸惑っている。

でもそれも少しの間だけ。

一週間も経った今では、むしろコタ子…コタツを使ってた日々の方がおかしく感じているのだから不思議だ。

 

「はい、あなた。これそっちに置いといて」

 

「了解。

こっちの料理は?」

 

「それは私が持っていくから大丈夫」

 

「了解」

 

ただ、それでも一つだけ以前とは違うことがある。

 

「それじゃ、食べましょうか」

 

「…ん、今日はこっちに座るんだね」

 

「そ。たまには、ね?」

 

それは。

 

「「いただきます」」

 

時々、ご飯の時彼の隣に座るようになったことだ。

 

 

 

 

 

 

 

To be next story.

 




好きな人とコタツって良いよね。
私が言いたいことはそれだけです。

ではまた次回お会いしましょう。
さよーならー
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