果たして期待に添える物語となったのか…非常に不安ですが書いてしまったものは仕方がない。
それでは、どうぞ。
夢を、見た。
懐かしくも苦しい想い出を見た。
空洞を走る死んだ風。混沌とした冷たさに身震いが治らない。
ここは、島全体が薄暗い北西の孤島。中心から少し上に外れた場所にある闇の遺跡、その深部に最も近い場所。
〔オォォォォン…ォォオォォオン!!〕
「ほんっと、悪趣味な顔もこれだけ並べば壮観よね…!」
並ぶ敵の数は八。それまでに倒した敵は十。わずか数歩の距離の先で悪夢を彷彿とさせる暗い息を吐き続けるのは、いくつかの顔が集まるエレメントの集合体・エビルスピリッツ。
(全く!だらしのないわね!男のくせに…!)
眉間のシワに大粒の汗を流しながら悪態をお腹の中でつく。
けど、無理もない。
今でこそこの数だけれど、少し前にはエビルスピリッツに加えてしにがみきぞくまでいた。
あいつらの描く不気味な紋様と疾風のような素早さの突き。それに加えてエビルスピリッツのあまいいきや通常攻撃による身体の麻痺。
全てをいなし続けて私を守ってくれた彼。回復に徹したククール。隙あらばかぶとわりを叩き込み数を減らしてくれたヤンガス。
私がそれほど体力を消耗せずに今立っていられるのは間違いなく彼らのおかげだ。
けれど、ヤンガスが倒れ、ククールが倒れ。
『ごめん…』
あの人まで倒れた。
今生きているのは私だけ。
八体の強敵を前に私には僅かな回復手段しかない。魔力も十全とは程遠い。
「万事休す、ね」
ルーンスタッフが握った手から滑り落ちそうになるのをギュッと堪える。
大丈夫。私達にはまだ不思議な力が…神様の加護がある。ここから生きて帰れればみんなを生き返らせる事は充分に可能だ。
「ま、問題があるとすれば生きて帰れるのか、だけどね」
諦めにも似た言葉が溢れる。
〔ォォオォォオンンンン〕
三重にも四重にも聞こえる怨嗟の声に身構える。
「ぐぅぅっ!!」
エレメント…ようは魂の集合体のくせになんて重い一撃…!身体的なものだけじゃない、まるで魂を吸い取られるような脱力感に左の指先が僅かに痺れる。
「…なめんじゃ、ないわよ!!」
手にしたルーンスタッフで力任せに殴りつける。手応えは確か。
ホント、どれだけ高密度の魂なんだか…!
〔ォォオォ…オォォォォ…!〕
「聞き飽きたわよあんたの断末魔。死んでるんだからとっととの元の場所に帰りなさい」
初めは悲鳴を上げてしまうような呪いの叫びも十や二十も聞いていればいい加減飽きもくる。
つまらない子守唄は色気のない石の部屋に吸われて消えていく。霧散する紫色の顔たち。
瞬間、連鎖する怨讐の音。石畳を捲り上げんばかりの生気なき復讐の歌は私の身体を竦みあげる。
「っは!なによ、仲間がやられて怒ってるってわけ?」
堅くルーンスタッフを握りしめ、ギリッ、と歯を鳴らす。
冗談じゃないわ。仲間をやられて頭にキてるのはこっちの方なんだから…!
「いいわ!かかって来なさい。この大魔法使いゼシカ様がもれなく全員相手してあげるわ!
数の利だけじゃ私には勝てないわよ?」
大口は竦む筋肉を叩き上げるための詠唱。不敵に微笑むこの心はただの強がり。
けど、それでも、私は絶対に負けるわけにはいかない。
後退は許されない。私一人じゃ三人も抱えて逃げられないもの。
魔力はまだある。唱えられる呪文に限りはあっても、大技が出せないわけじゃない。
回復アイテムは…まぁ、要らないわよね。そんな暇無いもの。
仲間を蘇生する術はある。夜にしか姿を見せない不思議な木の根元で拾った世界樹の葉。けれど、一手足りない。そんなことすれば準備している間に多分死ぬ。
なら、できる事は一つ。
「…運が無いわよね、あんたたちって。だからそんな魔物になっちゃったのかもだけど。
恨まないでよね。私を怒らせたのはあんた達なんだから」
ルーンスタッフをしまい、握り直すのは伝説に名高いグリンガムのムチ。
まさかこんなところでククールのイカサマが役に立つなんてね。…まぁ、もう二度と裏カジノの人間に追われるなんてごめんだけど。
〔オォォ!〕
二撃、三撃と続けてダメージを食らう。
裂けた皮膚から滲む血はまだ少ない。
「悪いわね、私、こう見えても防御力には自信あるのよ?」
仲間になった日を思い出す。
口だけばかりで実力も装備も整ってなかった私に、元兵士の彼がくれたアドバイスは、防具の充実だった。
『力仕事は僕達に任せて、ゼシカはとどめや全体火力をお願い』
お陰で、敵の体力の目測がだいぶ上手くなった。
「ふっ!」
脚を開いて身体を力ませ、心を作り上げる。
そう、今の私にできるのは、ただただ敵の猛攻に耐えて溜めに溜めた怒りのエネルギーを一撃に集約させる事だけだ。
そんな私の覚悟に気がついたのかエビルスピリッツ達は更に攻撃を続ける。
けど。
「…なによ、ちゃんと見れば案外避けられるじゃない」
三つ四つと迫り来る噛み付きに素早く対応し、間一髪ギリギリのラインで避け切る。
余分な動きはできない。不用意に体力を使えば、いらないピンチを招くだけだもの。
「っつ!
さ、流石にそう何度も上手くはいかないか」
それでもダメージは受ける。
一撃一撃が充分すぎるほどに強力なあいつらの攻撃は、七回避けられたところで一回当たれば致命傷になりうる。
…それでも!
「はぁっ!」
我ながら雄々しい掛け声だ。
「ふふっ、びっくりさせちゃったらごめんなさいね」
気持ちの高ぶりは戦意の高ぶり。
叩きつける為の力を腹の底に宿してじっと待つ。
「…?もしかして、へばった?
いや、そんなわけないか」
同様にいくつかの攻撃を受ける。けれど、心なしかダメージは少ない。
理由はわからないけど、今は大した問題じゃない。
「それっ!
ほら、どうする?あと一回、私が掛け声を上げたら形成逆転よ」
事ここに来て私は余裕を口にする。
確信があった。あとたった一度、力を蓄えるだけで目の前にいる敵全てを一撃のもとに屠るだけの力が溜まるのだと。
でも、それはあと二回私にチャンスが回ってくればの話だ。
力を蓄えるのに一回、ムチを振るうのに一回。
そこまで私の身体が持つかは怪しい。こればかりは賭けだ。
〔オォォ…オォォオォォオ!〕
「…ふん、いいわ、そう来なくちゃね」
滴れる冷や汗を拭う。
勇み突撃してくる一体のエビルスピリッツ。現れては消え、消えては現れを繰り返しジグザグに距離を詰めてくる。
翻弄され続けた攻撃パターンも腹を決めて仕舞えばなんて事はない、ただの無駄な動きだ。
大丈夫、今の私は何故かダメージが入り辛い。これなら、余程のことがない限り…
「…えっ?」
目前に迫り、今まさに腹部を食いちぎらんと襲いくるエビルスピリッツ。けれど痛みはどこにもない。
避けたわけでもない。あのスピードで迫られればいくら無駄な動きが多いとはいえ避けるだけの余裕がなかったからだ。
「どこに…
うそ、まって、だめ!」
消えた集合体は私の後ろで横たわる彼の元にいた。
ニヤついた顔でおかしげに漂う姿は死神にしか見えない。
「いやよ、その人を連れて行かないでっ!」
硬直した筋肉の悲鳴に耳を貸す暇はない。距離にして十本。大股で考えてようやく助けられると踏める距離。
「まって、まってっ!!」
崩れかける膝を叱咤し走り出す。
こんな時に限って身体が重い。あぁ、きっとダメージを食らいすぎたんだ。よくよく見れば腕や脚に深い傷が見える。
脚が地面を蹴るたびに脳が麻痺する。
少しでも早くと腕を振るたびに赤い飛沫が視界で捉えられる。
でも、でも、でも!!
「うっうぅぅっ!!」
背中に走る鋭い痛みと鈍痛。幸い麻痺はない。
あるのはただの出血だけ。あつでのよろいを着たような重力感に肺が潰れそうになる。指先はかろうじて動き、首の可動も悪くない。精々が身体を起き上がらせられないだけ。
それでも、私は心が軽かった。
「はぁ…はぁ…。良かった。間に合った…」
血に濡れる手で下にある顔を撫でる。
気持ち悪いかもしれないけど、許してね。このくらいの役得。
おかしくて笑いがこぼれる。
あーあ、なんか腹立つ。なんでそんな顔してられるのかな。
「…私だけじゃなくて、貴方もみんなもいるんだし、こんな姿になっても楽しいかもね」
今度は間違いない諦めの言葉。
冗談じゃない。例え彼と二人きりだったとしてもあんな姿になるなんてごめんだわ。
でも、そうとでも思わないと本当に魔物になっちゃいそうだもん。いいわよね…?
「…バカ、言っちゃダメだ…!ゼシカ!」
「…え?」
とうとう幻聴が聞こえ始めた。
とっくに死んだはずの彼の声が耳元で聞こえる。
「誰がよ、この大バカ」
まさか幻聴との会話が最後になるなんて、私も落ちるとこまで落ちたわね…
でも、彼の幻聴なら悪くないかも…
死ぬ覚悟はできた。
ドルマゲスの奴にメラの一つもぶつけられないのは悔しいけど、今思えばサーベルト兄さんですら勝てなかった相手だ。私がかなうわけ…
「…あれ、身体が、軽い…?」
どうせ動かないだろうと思いながらも、寝返りを打つようにして仰向けになろうとした。
最後に、私たちを全滅させた憎い敵の顔を覚えておいてやろうと。
でも、何故か身体はふわりと浮いた感覚とともに動きすぎる。
「…傷が、治って…る?」
身体を動かしても一ミリも痛まない背中。どくどくと血が溢れてもおかしくはないはずの大怪我なのに、少しも血の流れを感じない。
「…ごめん、後は任せる」
「…!!」
今度は幻聴とは勘違いしなかった。
死んだはずの彼が、僅かに息を吹き返している。
もしやと思い、自分の腰にさげてる道具袋に手を突っ込み弄る。
「…そう、勝手に…」
そこにはあるはずの世界樹の葉が無かった。
本来なら使用者の体力を十全にして蘇生させる秘薬中の秘薬。けど、何かの拍子でそれが使用されたのだ。正式な手順を踏まずに使ったからかとても全快とは言えない復活だけれど、それでも彼は私にベホイミを掛けてくれていた。
「…期待には応えないとね」
癒されたのは背中の傷だけ。でも、それで充分だった。
「私は今さいっこうに怒ってるの。悪いけど、憂さ晴らしに付き合ってもらうわよ」
プツリと、私の中で何かが切れた音がした。
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「…お、おはよう。どうしたのよあなた、そんな顔して」
眼が覚めると目の前には恐怖におののく彼の顔があった、
「い、いや、その、ゼシカが怖い顔してたから」
「…本当だ、しかめっ面してる」
違和感を覚える眉間に当て、寄せられていた皮膚を指先で軽くほぐす。
まぁ、あんな夢見れば現実でも変化くらい起きるわよね…
「他には何かやってたりした?」
「ううん。特には。
…何度か寝言があったくらい」
「なんて言ってたのかしら」
おかしな顔をして明後日の方を向いてしまう彼に顔を寄せて聞き返す。
「えっと、その…あの人に手を出さないで…的な?」
照れた顔で視線だけをこっちに向けられる。
ははーん、なるほど。もしかしてちょっと恥ずかしがってるわね?
「いいじゃない今更。私だって頑張ったのよ?」
「戦う夢でも見たの?」
「まぁそんなところね。正確には、戦った夢、だけど」
ベッドから降りて扉に手をかける。今日は別に休日でもなんでもないただの一日だ。
ならあまりゆっくりしてる時間はない。
「ほらあなた。何してるのよ。今日も仕事でしょ?準備しないと」
「え、あ、うん。
…大丈夫?」
「何がよ。
あなたが生きてるんだから大丈夫どころか絶好調よ」
「どんな夢みてたんだろう…」
後に続いて部屋を出てくる彼。その背後に手を回して背中を突いてみる。
「秘密よ、ひ・み・つ。
私にもあなたにもすこーしだけ恥ずかしいところはあった夢だったし」
「…もっと気になる」
「あはは、後で気が向いたら教えてあげる!」
リビングにある窓を開け、朝の風に髪を揺らす。
なんて気持ちが良いんだろう。夢の中のとは大違い。
「さて、すぐ朝ごはんにするからちょっと待っててね!」
振り向く先には元気な彼がいる。
たったそれだけだけど、けれど心から言える。
私は今日も幸せだ、って。
To be next story.
誰もが一度はつまずくであろう闇の遺跡。あそこのエンカウントした際の敵の数本当ひどい。
マミーとミイラ男の計10体とか割とな確率でありましたからねぇ…
さて、初めてのリクエスト作品ですが、もしも他の皆様もありましたら気軽に感想なりTwitterなりでお申し付けください。
ただしご注意を。独断と偏見で選びます故「選んでもらえなかったから低評価」的なことはやめて下さいね。
そんな方いらっしゃらないと思いますが念のため。
それではまた次回。さよーならー