私と旦那様と祝福された純白の日々   作:カピバラ@番長

27 / 72
美味しいですよね、アイス。
暑い日は何かで涼むに限りますね。

それでは、どうぞ。


第二十三話 私と彼と呪われしお話

外では蝉の声が聞こえる。

ミンミンミンと、うるさいを通り越して煩わしい大合唱。

それだけならまだよかった。音によるうるささ、煩わしさなら野宿の時のヤンガスの寝息で二回分の人生まで慣れているから

問題は、そう。

 

「…死ぬ」

 

「…溶ける」

 

私の呟きに続けられる彼の感想。それはどちらも事実。

 

「暑過ぎて…喋る気力すらないわ…」

 

そう。

問題なのはこの暑さだ。

先週くらいまでは比較的過ごし易い気温だったのに対して今日はヤバイ。暑いなんてものじゃない。家の周りを溶岩で囲まれたんじゃないかってくらいの暑さだ。

私も彼も殆ど下着同然の格好で居るのに、一向に涼める気配がない。

 

「…これ、うちわって非効率よね。仰げば仰ぐだけ涼しくなるけど、その分腕の筋肉を使うから身体があったまるもの…」

 

「だね…。

…最初はちょっと喜んだ暑さだけど、やっぱりそんなことなかった…」

 

ドロドロになりそうな声で話す彼は今日、本来なら仕事だったのだ。けれど、このあまりの暑さにトロデ王が場内にお触れ出した。

 

[やめじゃやめじゃ!こんなクソ暑い中何ができるというんじゃ!今日は休み!]

 

らしいと言えばらしいお触れの内容。

でも、そんないい加減な感じの人にお城を任せていいのだろうかと少し心配になった。

 

「今はこの暑さを凌げる魔道具の開発案を募ってるんだ」

 

「へぇ…それはいいわね。今日中に出来上がらないかしら」

 

「あはは。出来るといいなぁ…本当に…」

 

それぞれのソファの上で今にも死にそうな私達。

夜になれば少しは過ごしやすくなるはずなんだけど、そこまで持つのかが怪しい。

…仕方ないか。あんまりしたくなかったけど…

 

「…?どうしたのゼシカ。窓なら、全開だけど」

 

「あ、うん。ちょっとね。まぁ見てて」

 

溶けそうになる身体を必死に維持しながらリビングの窓へと向かう。彼の言う通り、窓は網戸すらない全開。

その前に立ち、慣れ親しんだ詠唱を開始する。

 

「…あれ、その呪文って…!ま、まった!」

 

焦る彼の声は耳に届かない。いや、仮に届いたとしてももう遅い。

その時にはすでに詠唱を終えていたのだから。

 

「マヒャド!」

 

空中から大地は降り刺さるいくつもの大きな氷の刃。ピシピシと氷の軋む音が耳をつんざく。

鋭い轟音と共に、視界は一瞬にして私の顔を反射させるだけの透明度を持つ氷で覆われた。

 

「び、びっくりした…」

 

ほっ、と胸をなでおろす彼。

当然よね。私の持つヒャド系で最上位の呪文だもの。失敗を想定したら恐ろしくて身震いする。

私も、それが怖くて今まで悩んでいたんだけど…。でも、この暑さでやられるくらいなら、と思い切ってよかった。お陰で少しずつ涼しくなってきた。

 

「ふふ。ごめんなさいね、いきなり使っちゃって」

 

「本当だよ。次からは教えてね?危ないし」

 

「はいはい。

でも、いい感じに冷えてきたんじゃないかしら」

 

元のソファに座りなおし、未だ残る熱の名残りに背中を蒸しながらも得意げになる。同様に、驚いて立ち上がっていた彼もソファに座りなおす。

 

「…うん、確かにいくらが過ごしやすくなったね。

けど…」

 

言葉を濁す彼に私も頷いた。

 

「まだ暑いわね…」

 

考えてみれば当然だ。四面ある家に対して一面分だけ氷を張ったとしても、残り三面が未だに暑いのだ、結果として暑さが勝るに決まってる。

 

「本当は全部の窓と、出来るなら屋根上にも氷を作るべきなんでしょうけど、久し振りに大技使ったからかちょっとバテ気味なのよね…」

 

「僕じゃヒャド系は使えないし…

でも、それでも充分に涼しいからこれ以上は望み過ぎかもね」

 

立ち上がりながらそう言ったと思うと、彼は台所へと向かっていった。

多分、麦茶を持ってくるんだろう。テーブルの上にあるものはもう無いし。

 

「…はい。

台所の方もそれなりに涼しかったし、取り敢えずは平気かも」

 

「ありがと。

そっか、じゃあ無理して他のところにマヒャドしなくても良さそうね。いつあそこの氷が溶けるかもわからないし、体力は温存しとかないと」

 

「だね。

僕も使えればよかったんだけど…」

 

「何言ってるのよ。あなたには冬の寒い日にギラしてもらったじゃ無い。お返しよ、お返し」

 

さっきまでとは打って変わって繋がる会話。

気温一つでここまで変わるのだから不思議なものよね。

 

「でも、こうなると少し暇ね。さっきまでは暑さを我慢するのに精一杯だったけど…」

 

「それなら、怖い話でもする?」

 

「…えー」

 

彼の提案は暑い日にはぴったりの定番だ。

でも、私が怖い話あんまり好きじゃ無いって言ったの忘れてるのかしら。

 

「確か、ゼシカってあんまり得意じゃなかったよね?だったら、普通以上に涼めると思うよ」

 

どこか楽しげに笑う彼に苦笑いをもって返す。

…言い出しっぺは私だものね。

 

「そうね、ちょっと話しましょうか。怖い話。

でも、冷えきったらすぐやめるわよ…?」

 

「もちろん。タイミングはゼシカに任せる」

 

「そう言うことなら…」

 

何故か生き生きと話し出した彼に少しだけ違和感を感じつつも、二人だけの百物語が始まった。

…もちろん、百個も話した頃には私は体も冷え切ってるでしょうけど。

 

 

 

 

ーーーー ーーーー ーーーー ーーーー ーーー

 

初めは私からだ。

 

 

 

暗い洞窟。天井から滴る水滴の音が、ぴちょん…ぴちょん…、と耳を舐める。

手には消えかけの松明。それが無ければ一寸先も見えない程の真っ暗闇の道の中、古びた何かが目の前に見えた。

木製のそれは、ところどころ腐敗していたりカビていたりで、一見すると扉には見えなかった。

 

ギィ…

 

ガシャン、バタン。

 

腐りきっていた蝶番か壊れて扉は地面に倒れ落ちる。

舞い上がる埃を手で払いつつも松明を突き出して先に進む。

部屋の奥はそれほどなくて、すぐに行き止まりになった。

目の前には宝箱。

 

「こんなところにあるなんて…」

 

そうは思いながらも松明を手にした少女は好奇心に負けて宝箱を開けてしまう。

…すると中から…!

 

ーーーー ーーーー ーーーー ーーーー ーーー

 

「ドッカーン!って!ミミックの舌が出てきたのです!!」

 

「うわぁ!

…って、怖い話ではあるけど、怪談とは少し違くない?」

 

「…うるさいわよ」

 

初めは静かに締めは大声で、と以前誰かから聞いたテクニックを実践してみると、案外効果があるらしく、彼はソファに背中を押しつけるようにして驚いていた。

けど、彼の言う通りこれは多分怪談とは少し違う気がする。

 

 

「でも、怖かったなぁ。心臓止まるかと思ったよ。真に迫ってて、凄かった」

 

「あ、ありがと…」

 

それでも話し方がよかったらしく、見事に彼の肝を冷やせたみたいだ。

 

「それじゃあ次は僕だね」

 

そう言うと彼はさっきまでの笑顔を引っ込めて、両膝に肘をついてどこか怖い表情で話し始めた。

 

 

ーーーー ーーーー ーーーー ーーーー ーーー

 

 

とある街に偉大な魔法使いを目指す少年がいました。

ある日彼は古めかしい本を読みます。

 

今は亡き王国。その知恵の終着点に大いなる四賢者が携わりし書物あり。手にせし者、数多の者たちから拒まれるほどの力を得る。

故に、所有者の身を危機に晒すなり。

 

その内容は少年にとっては喉から手が出るほどの価値がありました。

すぐさまその王国を探し当てた少年は近くにある村に滞在することになります。

滞在して二週間。

すっかり村の人たちとも打ち解けた少年はとうとう瓦礫に塞がれた大きな扉を見つけました。

必死に瓦礫を払い、古びた扉を開けると、中には一生かけても読みきれなさそうな量の本が。

 

「ついに、見つけた…!」

 

歓喜に打ち震えた少年はひとりごちつき、取り憑かれたように中を探索します。

 

魔術の書。

武術の書。

知識の書。

兵法の書。

民草の書。

 

どれも一流のものが揃っていて、王国の知恵の終着点と評して差し支えないものばかりでした。

けれど、彼の探し求める四賢者が携わりし本…仮に少年は[賢者の書]と呼んでいたものはどこにも見当たりません。

 

「まだ、明日もある」

 

悲しげに呟いた少年は、夜になり強い魔物が活発になる前に村へと引き返しました。

 

 

村に帰った少年はお祝いと称して酒場に行きます。

滞在費を無駄にできないので飲むのは安酒を数杯。しかし、それまで一つの娯楽もせずにひたすら廃墟となった城を探索していた少年にはそれ以上ないご褒美でした。

そんな幸せな席で、とある話を耳にします。

語っていたのは村の中でも人気のある好漢。力はあっても決して威張らず、魔物が襲ってきたと知れば誰よりも先に駆けつけてて退治するような気持ちのいい男です。

なので、その話を聞いていた少年を含む周りの人たちは皆驚いたのです。

 

「この村に裏切り者がいる」

 

と。

普段なら絶対にそんなことを言わない人物だっただけに、少年はとても興味を持ちました。けれど、久々に飲んだせいかすっかり酔ってしまったため、後ろ髪を引かれる思いで酒場を後にします。

 

 

それから何日かして、少年はとうとう探し求めていた賢者の書を手に入れました。

場所は書物庫の最も奥。壁の裏側に作られた隠し部屋の中に、四賢者の像と一緒に保管されていました。

部屋の隅に一人ずつ賢者の像が立ち、部屋の中央にある魔法陣らしき床絵の真ん中に置かれていた賢者の書。

早速それを手にし、村へと少年は帰って行きました。

 

異変が起きたのはその時からでした。

 

村にある自分の借家まで行く途中、誰からも話しかけられなかったのです。小雨が降っていたというのもあるでしょうが、それでも、すれ違う人に誰からも話しかけられなかったのです。

傘を持っていなかった少年は、少しばかり不親切だな、と考えましたが、今はそれどころではなく、とにかくその本を読みたかったので足早に向かいます。

程なくして借家へと帰り着いた少年。

待望の読書。のはずでした。

しかし、その本はまるで封印されているかのように固く閉じられています。

探し疲れているのもあり、その日はそのまま寝ることにしました。

 

翌日、昨夜の雨とは打って変わった快晴に少しばかり心の弾む少年。空腹のため、三週間通い慣れたお店へと足を運びました。

いつもおまけをくれるお店の女性店員と話すことが日々の小さな楽しみの一つだった少年は、この見つけた本のことを彼女に話したくて仕方がありませんでした。

けれど、少年はそこで悲しい思いをしました。

いつものようにした挨拶に、当然返してもらえると思った少年。でも、返ってくることはありませんでした。

 

一度目は聞こえなかったのだろうと思い。

二度目は慣れ始めたからイジワルをされてるのかと思い。

三度目は苛立ちを見せながら。

 

それでも挨拶が帰ってくることはありませんでした。

いいえ、それどころか、目の焦点すら合っていなかったのです。

怒りは不安に変わり、不安は恐怖へと変わりました。

買い物なんて放り出し、すぐさま酒場へと走り込む少年。その村の酒場はいつも昼からも賑わっていたのできっと挨拶をしてもらえるだろう、と。

 

そこで少年は愕然としました。

 

案の定賑わいを見せていた酒場。だけど、誰一人として少年に焦点の合う人はいませんでした。

一人ずつ挨拶をしに行っても。

大声で店の悪口を言っても。

ヤケになってカウンターの上で踊り狂っても。

誰一人として少年を咎める者は居なかったのです。

 

そんな中、ただ一人だけ、村の外で少年の名を呼ぶ者がいました。

あの好漢です。

少年は喜んでその男のもとへと駆け寄りました。

 

「裏切り者はお前だったのか」

 

厳しい表情で少年は言い寄られます。

 

「どこでこの本のことを聞きつけたか知らないが、すぐに元の場所に返してこい。さもないと、お前は本当に誰からも認識して貰えなくなるぞ」

 

両肩をがっちりと掴まれ、睨む瞳をその目に焼き付けてしまった少年は放心状態で家へと帰ります。

 

「…明日、返しに行こう」

 

そう決心した少年は最後に一度だけ、その本を開こうとしました。

するとその本は昨夜の堅さが嘘のように、一ページ目だけ開きます。

あぁ、最後に一ページだけでも見られてよかった。そう思ったのも束の間。書かれていた言葉に少年は息を呑みました。

 

[お前を知る者は、ない」

 

ページの中央にただそれだけ書かれていた言葉は、少年の呼吸を激しく乱します。

荒れる動悸と止まることのない汗。ぐらぐらと揺れる視界に少年はとうとう我慢できず、その本を置いてどこかへと走り去ってしまいました。

 

翌朝、少年に忠告をした好漢は少年の住んでいた借家へと訪れました。

 

「…また、犠牲になったのか。不運な奴だ。開かなければ他の人間たちには認識して貰えたのにな」

 

机の上に置かれた賢者の書を手にした好漢はそう呟くと、本を元の魔法陣の中心部へと返しに行きました。

 

それから暫くして少年の住んでいた街の本屋に見慣れない薄い冊子が置かれていました。

不思議に思った店主はその冊子の中を恐る恐る覗きましたが、すぐさま店主はその本を放り投げてしまいました。

 

曰く、手にした者は誰からも忘れられ。

曰く、読んだ者は人知れず死んでいくだろう。

そんな本が、とある王国の書物庫に厳重に保管されている。

腕の立つ賢者の四人が三日三晩かけて封印をしたんだ。

だからそれを手にしてはいけない。

だからそれを手にしてはいけない。

だからそれを手にしてはいけない。

手にしたら開くな。

手にしたら開くな。

手にしたら開くな。

手にしたら開くな。手にしたら開くな。手にしたら開くな。手にしたら開くな。手にしたら開くな。手にしたら開くな。

 

太いインクの文字と、ペンを伝うように滴った跡のある血でびっしりとそう書かれていました。

そうして投げられた本の隣に浮かび上がる真っ赤な文字。

 

[開いてしまえば。

お前も仲間だ。]

 

 

ーーーー ーーーー ーーーー ーーーー ーーー

 

「って言うお話だったんだけど、どうだったかな」

 

語り切った彼は満足げに聞いてきた。

私の気も知らないで。

 

「…嫌い」

 

「え?」

 

「バカ!嫌いよ嫌い!あなたなんて大っ嫌い!バカバカバカバカ!アホー!」

 

「ゼ、ゼシカ!?」

 

ソファに置かれていたクッションが圧縮されんばかりに思いきり抱き締める。

目の前で慌てふためく彼のことなんて知ったことじゃないわ!

 

「なんで、なんでこんな怖い話するのよ…。しかも!頭から怖い話だったらすぐ止められたのに、最後まで隠してるなんて…!

卑怯よ!ズルよ!イジワルよ!バカ!」

 

「ご、ごめん!そ、そんな怖がるとは思わなくて…」

 

左にある肘掛に、埋めるようにして身体を押し付ける私のもとへ急いで寄ってくる彼は隣に座って私の肩を引き寄せた。

 

「ごめん、もうしないから許して。

まさかこんなに怖がるなんて思わなかったし、本当にごめん」

 

心の底から謝ってくる彼に、私は鼻をすすりながら答える。

 

「…わかったわよ。でも、一つだけ条件がある」

 

「なんでも言って。どんなことでもするから」

 

「明日も多分怖いから、家にいてくれるかしら」

 

「…分かった。そうしたらまた僕を好きになってくれる?」

 

「…うん」

 

 

 

その日の夜。

寝る頃になっても怖い気持ちが収まらなかった私は、暑いこともお構い無しに彼の身体に抱きついて眠った。

 

 

 





ちなみに今回の怖いお話は元ネタは特にないです。自作です。

それではまた次回。
さよーならー。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。