攻略本の上巻にある、ちょっとしたフリートークがあるのですが、もう、可愛くて可愛くてしかたがないですねぇ…
ゼシカは可愛くない、なんて言われたら「異論は認めるが、聞く耳は持たないね!」と返すくらいには好きです。
っと、少しばかり駄文が過ぎましたね。
それでは、お楽しみ下さい!
『行ってきます』
彼のセリフを聞いてからどれだけの時間が経ったのだろう。
二時間か三時間か、それとももっと長い時間だろうか。
時計を確認すると、まだ一時間くらいしか経っていない。
「そっか…そうよね…。
結婚したからってずっと一緒に居られるわけじゃないのよね…」
ため息にため息を重ねてため息を吐く。
彼とずっと一緒に居られない事には未だに慣れない。
今までは彼と一緒に居られなくなるなんて殆どなかった。
だからこそ、ここ何日かはかなり堪えている。
暮らして行くためにはゴールドがいる。
ゴールドを得るには仕事をしなければならない。
彼の能力を活かした仕事をするためには、トロデーン城に行かなければならない。
そんなことはわかっている。
わかってはいても、私の心はブリザードのように冷え切って凍えてしまうのだ。
「…少しくらい、一緒に居てくれたっていいのに…」
そんな事を言いながらベッドにダイブする。
そのままうつ伏せになって、シーツなんかに顔をうずめる。
ここにはまだ、彼の匂いが残っているから。
彼がトロデーン城で剣の指南を始めてから幾日かが経った。
朝は早くに家を出て、夜は遅くに帰る。
そんな日が今日までずっと続いている。
当然これからも続くのだろう。
最初は彼も、『以前のように魔物と戦うわけではないし、大丈夫だよ』と、安易な気持ちで指南役を引き受けたのだが…
「まさか、今度は国との闘いが起きるなんてね…」
と言っても、それは無辜の血を悪戯に流す争いでは無い。
俗にいう『剣闘』と言うものだ。
発祥は荒くれ者たちが集う地ーーーパルミド。
詳しくは分からないが、なんでも訓練用に使われる【ひのきのぼう】と【おなべのふた】を携え、【かわのよろい】と【ブロンズキャップ】で身を包んだ兵士達が多く出場してしのぎを削るのだとか。
以上の理由により、彼は剣闘をする兵士を育てるために、日夜指導をしている。
「って、そんなのどうだっていいじゃ無いのよー!」
勢いよく仰向けになってモヤモヤを晴らすように叫ぶ。
こんな時、お隣さんが居ないというのはとてもありがたい。
「魔物と戦うために彼がいろんなことを教えるのは分かるわよ!?
でも、わざわざ人同士を闘わせるために彼を使うってどうなのよー!!」
その勢いのまま身体を起こして、更に続ける。
「トロデ王もトロデ王よ!
なーにが『もし、剣闘中に我が兵達に何かあったら大変だ、だから此奴の力を貸してくれ』よ!
そんなもっともらしいく言ったってわかってるんだからね!一番剣闘を楽しんでるのはトロデ王って事は!!」
ここまで叫ぶのはどれくらい振りだろう。
軽い酸欠を起こした私は、クラついてもう一度仰向けの状態でベッドに倒れ込む。
「ていうか、そんなこと心配するくらいなら剣闘なんてやらせるなっての…
……あの人もあの人よ…まったくもう…」
そうは言っても彼に落ち度は無い。
仕事をして帰ってきて、疲れたから食事とお風呂を済ませて寝る。
私が家事を終わらせてベッドに着く頃には、彼はもう夢の中。
どこの家庭でもある普通の光景…だと思うのだけど…。
「もう少しくらい構ってくれたっていいじゃない…」
仕事を始める前までは、旅をしてる時とは比べ物にならないくらい話しをしてくれたのに、最近は眠気や疲れもあるのだろうけど殆ど話さなくなってしまった。
いや、正確には話す暇がなくなってしまった、のだろう。
「………んん…。
んんんん〜〜!!」
おもむろに足をバタつかせてみる。
鏡で今の自分の姿を見たら多分、駄々っ子のようだろう。
「よし、決めた!」
勢いよくベッドから降りて立ち上がった私は、化粧棚の引き出しにしまってあったキメラのつばさをとりだす。
「こうなったら実力行使よ!
彼が私を構いたくなるようにしてみせるんだから!」
そう息巻いた私はキメラのつばさを胸に当てて飛び先を思い描き、空に放り投げた。
ドゴッ
鈍い音と共に尻餅をつく。
「し、失敗したわ…。
外で使わないと頭を打つんだったわね…」
鈍痛を訴える頭頂部をさすりながら家の外に出て、再びキメラのつばさを放った。
脚に受ける小さな衝撃と共に耳を刺す盛大な音楽。
ここは夢と希望と欲望と絶望が渦巻く巨大なカジノ街・ベルガラック。
ここに来た理由はただ一つ。
それは当然カジノ。
では無く…
「おじさん!この、【おどりこの服】一着頂戴!
あ、そっちのおじさんは【キメラのつばさ】を5つね!」
そう、私のお目当はここかパルミドでしか手に入らない【おどりこの服】だ。
旅をしている時に買った物は途中で【シルバーメイル】と錬金して【ダンシングメイル】へと変わってしまった。
結構値の張る装備品だけど、まだ旅の途中で稼いだゴールドもあるし、懐には余裕がある。
キメラのつばさは単純にストックが底をつきそうなので、今のうちに買いだめする事にした。
『お嬢ちゃん!随分気前がいいねぇ!
オマケだ!こいつも持ってきな!』
そう言って武器防具屋のおじさんが出してくれたのは、【どくばり】だった。
「え、でも、そんなに良い物頂けないわよ」
『いいっていいって、気にすんな!
正直、売れなくて手に余ってたんだよ。魔物との戦いん時はあんまり役には立たなかったらしいが、獣どもにはまだまだ使えっからよ!
ほら、この解毒方法とか毒の成分の載ってる説明書も持ってきな!』
そう言って、筆記体で書かれた説明書もさしだされる。
どうしようか…
旅の途中だったら間違いなく貰っていたけれど…
『ギャリングさんの事もあったんだ、護身用として持っておいた方がいいと思うぜ?』
包み終えたキメラのつばさを私に渡しながら忠告混じりにそう言う道具屋のおじさん。
ギャリングーーー七賢者の子孫の一人で、身寄りのなかったフォーグとユッケを引き取った、クマをも倒すカジノのオーナー。だった人。
「う〜ん、確かにそうね…」
魔法は使えるけど、家の中でつかっちゃったらとんでも無い事になるし、ムチに関しては狭い所じゃそもそも振り回せないもんね。
「よし、わかったわおじさん!大切に使わせてもらうわね!」
『お、良い返事だ!それ、持ってけ!』
武器防具屋のおじさんは、買った物を手早く包んで渡してくれた。
「それじゃあ、またね!おじさん達!」
代金を支払い終えると二人に手を振ってさよならをし、キメラのつばさを放った。
『なぁおい武器防具屋よ』
「なんだ、道具屋』
『今日はスッゲェいいもんが見れたな。これで後十年は長生き出来そうだ』
『ちげぇねぇぜ』
『あ!!!』
『どうした、武器防具屋』
『やべぇ、あのネェちゃんに渡した服、見立てたサイズの一個下だった!』
少し前と同じく足に軽い衝撃を受けて、部屋に戻った私はおどりこの服の着付けに戸惑っていた。
「ちょ、なによ…これ…!
全然、胸が…収まんないじゃ、ない…の!」
胸当ての窪みに胸を入れようとする事数分。
何度やっても溢れてしまい、どうにも着ることが出来ない。
「も〜!イライラするわね!また胸が育ったのかしら!」
胸当てをベッドの上に放り投げ、同様に自分も横になってどうしたものかと腕を組む。
「何か、代用出来るものはあったかしら…」
何度か体勢を変えながら頭を悩ませていると、次第に視界がぼやけ始める。
「そう言えば、今日はあの人に合わせていつもよりも早く起きたんだっけ」
なんでも、今日は剣闘の模擬戦があるらしくらしく、普段よりも二時間くらい早く起きて支度をした。
通りで眠いわけだ。
「ふぁぁ…
取り敢えず、一旦眠ろうかしら」
言うが早いか、流れるようにシーツに包まると、すぐさまラリホーにかかったような深い眠りが訪れる。
やがて意識は完全に落ち、闇の世界さながら真っ暗闇へと視界は消えた。
『…シカ…、ゼシカ?』
どこからか彼の声が聞こえる。
目の前は真っ暗で、どこにも彼の姿は見えない。
どこにいるの?あなた。
どうしたんだろう。
何故か、上手く言葉が喋れない。
口が動いているのはなんとなくわかるけれど、発音はできていない。
そこまで理解して、ようやく気が付いた。
ここは多分、夢の中ね。
だから聞こえるはずのない彼の声が耳に届くのよ。
だって、彼は今頃仕事をしているもの。
それならばと、私は思い切って言ってみたかった事を言ってみた。
好きよ、あなた。大好き。
だから今度、一緒にお風呂に入りましょう?
やっぱり声にはならなかったけれど、少しは気分が晴れた気がした。
それは小さな頃の思い出。
サーベルト兄さんが生きていて、私の身体が貧相どころか小さかった日の記憶。
村の警護で疲れて帰ってきた大好きな兄さんの背中を流す事が幼い頃の私の日課だった。
成長期に入ってからは兄さんに止められてしなくなったけど、それまでは大好きな兄さんを労う事が私の楽しみであり、誇りだった。
そして今は、兄さんと同じ…ううん。それ以上に大好きな彼の背中を流してあげたいなと、いつからか考えていた。
でも、流石にそんな事は言えない。
彼に初めて逢った日から今日まで、イレギュラー的に弱い部分を見せてしまう時もあったけど、基本的には勝ち気で男勝りな姿ばかりを見せていた。
彼はそんな私を好きになったんだと思う。
そうじゃなきゃ私を選ぶはずがない。
だからもし、意味もなく弱い部分を見せて仕舞えば、多分もしかしたら、彼は私を嫌ってしまうだろう。
それだけは避けなければならない。
それにそこまで望むのは欲しがりと言うものだ。
『え…それって?』
再びどこからか声が聞こえる。
仕事を始めてからは殆ど聞く事が出来なくなった、彼の困った時の声だ。
「私だって、たまには可愛らしい少女みたいに甘えたい時もあるのよ?」
返事をするように考えを返すと、何故か今度は声を出せた気になる。
…というか、確実に声が出ている。
それどころか、暗闇で覆われていたはずの視界が仄かに明るくなったように感じる。
『そう…だったんだ』
彼の声がはっきりと聞こえる。
これは…?
まさか…まさか、まさか。
恐る恐る身体を動かしてみる。
指先ーーー動く。
足先ーーー動く。
瞼ーーーー開く。
開かれた瞼、歪む視線、その先にいたのは。
心配そうに私を覗き込む彼の顔だった。
「お、おはよう…ございます。
あ、あああ…あなた?」
「お、おはよう…?ゼシカ」
「私、何か変なこと言ってたり…した?」
「え?えーと…
取り敢えず、『おはよう』じゃなくて『おかえり』かな?」
彼にそう言われて初めて気がついた。
朝早くに仕事に行ったはずの彼が今ここにいる、と言う事は…
弾かれたようにベッドから身を起こし、即座に降りる。
「ご、ごめんなさいあなた!私、晩御飯の用意どころかお風呂すら洗ってない!」
「ゼ、ゼシカ!?」
「まってて、今すぐお風呂だけでも用意するから!」
そう言って、急いで部屋から出ようとした私の肩を彼が掴んで止めた。
「ゼ、ゼシカ。
わかったから、取り敢えず、上を隠して…」
「上?」
彼は私を見ずに俯きながらそう言うと、近くにあったおどりこの服の上を差し出す。
瞬間、全てを理解した。
私は今、胸を布で覆っていなかったのだ。
服を着替えようとした後、サイズが合わなくてイライラしてそのまま寝てしまったていたのだ。
「あ、あわ、あわわわ!ご、ごめんなさーい!」
ほしふるうでわを付けた時よりも早く普段着を着直して、彼の持っているおどりこの服の上を受け取る。
彼は持っていた上を私が受け取ったのを確認すると、すぐに背中を向けて。
「大丈夫!大丈夫ゼシカ!僕は何も見てないから!」
半ば焦り気味にそう言った。
「えっ!?
全然…見てくれてない…の?」
「えっ?
少しなら見ても良かったの…?」
「う、うん。まぁ…ね。
一応、私たち結婚してるんだし…」
「あ…確かに」
そうだ、私たちは結婚をしているのだ。
なのに何故私は恥ずかしがることがあるのだろう。
私たち二人は将来を誓い合った、
ならばいずれ彼とは…その…そういう事…もするんだろうし、さっきの対応はおかしかったかもしれない。
…いや、やっぱりまだ恥ずかしい。
流石にまだ心の準備が出来ていないし、えぇと、その…
「大丈夫、ゼシカ?顔が真っ赤だけど…」
「うぇ!?だ、大丈夫、大丈夫…。
そ、それより…本当に見てない…の?」
「……ごめん、嘘ついた。
実は、少しだけ見ちゃったんだ」
恥ずかしそうな、申し訳なさそうな感じで彼はそう言う。
「どう、だったかな…?」
「す、凄く…凄かった…」
そこまで聞いてから私は、自分の頬っぺたが熱くなるのを感じた。
自分で言うのもなんだけど、私の胸は凄い。
正直誰にも負けない自信がある。
今までも色んな人にそう言われて来た。
でも、違かった。
自分が恋した人にそう言われるのは思ってた以上に…恥ずかしいし、嬉しい事だった。
「ねぇ、あなた。もう一度…言ってくれないかな?
ちょっと、聞き取れなくって」
「え?えぇと…。
凄く、凄かった…よ」
「どんな風に凄かったの?」
「形とか…色味とか…やっぱりボリュームとかかな?
って…何言ってるんだ僕は」
「…もっと見たいって思った?」
「それはまぁ、見たくないと言えば嘘になるけど…って何かなこれ。
ニノ大司教に監禁された時よりも辛い気がするんだけど…」
「じゃ、じゃあさ!今夜辺りに…その…見せてあげましょう…か?」
「えっ!!??」
旅の途中で何度か見た彼のリアクション。
このポーズは、本当に驚いている時にしかしない。
そして、私も当然驚いていた。
まさか、自分からこんな事を言うなんて夢にも思っていなかったのだから。
でも何故だろう。
勢いとは言え、後悔はしていないのだから不思議だ。
「ゼシカからそんな事を言うなんて思いもしなかったよ。でも、ごめん。
実は、今日の模擬戦で対戦相手をしたら、運悪く左腕と腰を打っちゃってね…」
「うわ、ホントね…。しかもよく見たら結構酷いケガ…
私も、ホイミとか使えればよかったんだけど…」
「完全に油断してた。
何があっても利き手だけは守らなきゃ行かなかったのに。これじゃ回復魔法が唱えられないんだ」
「お風呂とか大変そう…」
「うん。
だから、その、1つお願いしたいことがあるんだけどさ…」
「え?」
どこか改まる彼の言葉に、私も自然と背筋を正す。
「ゼシカが良ければなんだけど、さ。
腕とかがある程度動くようになるまでその…一緒にお風呂に入ってくれないかな…
身体を洗ったりが出来ないからさ…」
「勿論いいわよ!」
即答してしまった。
余程驚いたのだろう。
また彼がさっきみたいなポーズで固まっている。
自分でも失敗したと思う。
もう少し含みをもたせた方がよかったのではないだろうかと、思わなくもない。
しかし、これは不可抗力と言えないだろうか。
彼の望みが叶うのと同時に私の願いも叶う。
これほど素晴らしい状況が今後訪れるだろうか。
それは無いと言えるだろう。
と言うか、彼がケガをして帰ってくるなんてもう二度とあって欲しく無い。
だからこそ、もう二度と絶対に同じ状況になる事はない。
「それじゃあすぐにお風呂の用意をするわね!待ってて!」
「妙に張り切ってるみたいだけど、どうしたの?」
「そんな、張り切ってるわけないじゃない!
今すぐにでも、旦那様をこんな風にした奴を魔法で叩きのめしてやりたいわよ!
でも今日はもう遅いし、キズの具合も見なきゃいけないしだから、すぐにお風呂に入っりましょう!」
「全然話が繋がってない気がするけど…
でも、僕がこうなったのは僕が悪いんだし、魔法でどうにかしちゃうのは見送ってもらえないかな?」
「わかったわ。
それじゃあお風呂の用意をしてくるわね!」
なんて、言い終わる頃には既に部屋を後にしていた。
大丈夫、彼はきっと気づいてはいないはずだ。
昂る気持ちをどうにかこうにか抑えて話せたのだから、彼には私が喜んでいるようには見えなかったはずだ。
鼻歌混じりに階段を降りる。
「なんだかとっても気分がいいわ!
久し振りにスキップでもしてみようかしら!」
独り言を言い終わる頃には既にスキップをしている私。
彼の背中を流せる日が来るなんて思いもしなかった。
彼がケガをして帰ってきた事については後でトロデ王にしっかり責任を取ってもらうとして、今からお風呂が楽しみでならない。
「今日はご馳走を沢山作らないとね!」
浴室に着くと、そんな事を呟いていた。
彼のケガを早く治すために美味しいものを作ると言うも勿論あるけれど、沢山作るのにはもう1つ理由がある。
「一度でいいからやってみたかったのよね…!」
それは恋人同士が行う、俗に言う『あーん』というもの。
片方が片方の開けられた口に食事を送るという、マナーも何もない食事方法。
旅の途中にいたカップルがしているのを見て、憧れていた。
いつかはそんな事を好きな人とやって見たいな、と。
「楽しみー!」
そんな歓びに満ち満ちた声が家の中に響き渡った。
ゼシカはいずこ…
なんで3次元には存在しないの…
こんな世界間違っている…ふざけるな!ふざけるな!馬鹿野郎!馬鹿野郎!
私はゼシカにバブみを感じていた…それだけなのに…。
などと気持ちの悪い事は置いといて。
ゼシカがお風呂を洗うため部屋を出た後の事。
主人公はこんな事を言っていました。
「やっぱり、一緒にお風呂に入りたかったんだね、ゼシカ」
という事はつまり、ゼシカが夢の中で言っていたと思っていたセリフは、実は寝言として主人公に届いていたのです。
俗にいうレム睡眠ですね。
主人公…いいなぁ…
自分もゼシカと一緒にお風呂入りたい…
などとアホな事を書くのはやめて、早い所次の内容を考えなくては。
それでは、次回の更新で会いましょう!
さようなら!