とうとうゼシカの番が回ってきましたね!
可愛い!ゼシカ!好き!
では、どうぞ!
「それでは再開したいと思います!みなさま、席に着きましたね?では、暗転!
語り手はこの方。大魔法使いのゼシカさんです!」
司会の言葉で会場は暗闇に落ちる。
ざわめいていた観客席も、今では私の声に耳を傾けるだけ。
目の前で揺らぐロウソクは、私の決意を映すようにひと揺らぎもしていなかった。
「…あれは、私がまだ小さい頃に聞いたお話…」
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その頃、私はこんな噂を耳にしたの。
[生き物を石化させる道具がある]
って言うね。
不思議と興味を惹かれた私は噂を知ってそうな人に片っ端から聞き回ったわ。
村の大人、子供、隣町の人にまで聞きに行ったりして事の真相を確かめたわ。
結果からいうと、それは昔に実在した魔道書で今はどこにあるのかわからないらしいの。
でも、私はその話を聞いてもう本を探そうとは思わなくなったわ。
…それどころか、しばらくは本が読めなくなってしまったの。
それはすごく昔のこと。
まだ、神様と人間が手を取り合っていたくらい昔のこと。
ある魔物を倒すべく、一人の勇者が立ち上がった。でも、周りの人はその人を勇者とは呼ばなかった。
勇者とは文武に優れた勇気ある人のことだと、その頃の人たちは思っていたから。
勇者は、魔法しか使えなかったの。
筋力は短剣を振るうほどもなくて、体力は村の少年の方があるんじゃないかってくらい少なくて。
それでも、勇者は諦めなかった。
その魔物は、自分の村を石に変えてしまった仇だったの。
復讐と呼べる心の炎が原動力だった勇者は自分の傷を、疲労を顧みることなく毎日毎日経験を積んでいった。
やがて、魔法だけなら誰にも負けないくらい強くなった勇者は、仇の魔物が住む遺跡へと向かったわ。
左手に、あらゆる魔法を留め置いた一冊の本と一緒にね。
勇者が魔物の根城に着くと、そこは惨状だった。
勇者とは違い、文武に優れた勇気ある人…つまり、当時の人たちが本当の勇者だと呼んでいた人たちの、石像にされた姿がいくつもあった。
男も、女も、優しい心に目覚めた魔物も。みんな例外なく石にされていた。恐怖に怯えて逃げようと考えている表情でね。
でも、勇者は逃げなかった。
むしろ、握っている本に込める力が一段と増してたの。
「本物の悪党でよかった…」
そう言ってね。
それから戦いが始まったわ。
中距離を得意とする魔物と、遠距離を得意とする勇者。二人は、互いに自分の最も有利になれるような立ち回りをしながら、相手がそうならないように妨害しあっていた。
詰めてくれば足元を破壊し、遠ざかろうとするなら壁際に追い込もうとして。
そうやって戦っていくうちに、ついに勇者は膝をつく。
どれだけ鍛えたところで元が大したことないんだもの、体力が巨大な魔物と渡り合えるだけにつくはずもなかった。
魔物はその機会を逃さなかったわ。
すかさず近距離に最も近い中距離に位置どって渾身の魔法を唱えようとしたわ。
でも、それが勇者の狙いだったの。
魔物が魔法を放つ瞬間、勇者はそれまで開きもしなかった本をとうとう開いた。
「飾りだと思ったか?これはとっておきなんだよ」
そう不敵に微笑んで呪文を口にした。
[魔物よ、この本に呑まれ、永劫に生きろ]
そんな恐ろしい呪文をね。
魔物はすぐに悟ったわ。
その本に呑まれてしまえば二度と外の世界には出てこられないこと。
自分の意思では指先すら動かせなくなること。
空腹にはなるのに、決して死なないこと。
もちろん、本が開かなければ呼吸もままならないだろうってこともね。
だから魔物は必死に逃げようとしたわ。
でも、逃げられなかった。
本に呑まれ、禍々しく光る呪われた本と成った魔道書に、勇者は笑顔を見せてこう言ったの。
「あとは、私が石になれば誰の手にも渡らない」
そう。どこかに封印して伝承を残してしまうより、この遺跡と化した自分の村で命果てた方が後世のためだと思って。
呑み込ませ、閉じた魔道書を開き、勇者はやり遂げた顔で石化したわ。
それが生き物を石化させる本のお話の全て。でも、これには続きがあるの。
「なぜ誰も知らないはずの魔道書が、噂になって広まってるの?」
私はそう聞いたわ。
そしたら、教えてくれた人が悲しげな顔をして口にしたの。
「…その本が、今も実在するからだよ」
って。
長い年月をかけて、魔物の住んでいた場所は発掘された。その時に、埃一つ被ってない不思議な本が見つけられたの。
当然、調査員たちはその本を持ち帰り、研究しようとページを開いたわ。
おかげで、二度と研究できない体になってしまったのだけれど。
それ以降、本の行方はわかっていないらしいわ。
ただ、その石化させる力があるせいで目撃情報だけが点々としているの。
ある所では、村の子供が石にされていて。
ある所では、本も読まなそうな戦士然とした男が石にされていて。
ある所では、知恵の深い者が石にされていて。
ある所では、神父たちが石にされていて。
それだけ聞けば嫌でもわかったわ。
本は、見た目を変えることによって色んな人に開かれるようにしている。そして、自分と同じように永遠の苦しみを与えようとしている。ってことにね。
…もしかしたら、貴方達の家にある本の中に潜んでいるかもしれないわ…。
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「お互い、気をつけましょうね。石にされたら、もう、戻れないんだから」
微かに震える唇で、ロウソクを優しく吹き消した。
シンとする会場。
物音ひとつない暗い世界で、会場のどこからか物を落とすような音がした。それは、本を落とした時に出る音にとてもよく似ている。
「…ちょっと、やめてくださいよ…」
ブルブルと身体を震わせるのはスポットライトに照らされた司会。必死に勤めを果たそうとマイクを握るも、口を開かずにいる。
とうとう、助け舟を求めて玉座にいる二人に顔を向けた。
トロデ王[十点]ミーティア姫[十点]
「えっ、そんなに、怖かったかしら…」
思わず漏れてしまった本音に、途端に会場へ言葉が戻り始めた。
「…どうしよう。昨日買った本読めねぇよ…」「いやよ、あの、魔法の書かれた本高かったのに…」「バ、バカ言うな。そんな昔のがあるわけ…」「でも、あそこの勇者様が持ってる武器には何百年以上も前のもあるって…」
にわかに騒がしくなり始める会場に、私は不安を覚える。
ど、どうしてそんなにみんな怯えているのかしら…
「(やったね、ゼシカ!みんな怖がってくれたよ!)」
「(あ、あなた。で、でも本当にそんなに怖かったの…?)」
今はもうスポットライトもロウソクの灯りもない席で、彼に問う。
そう、あのお話は私のお手製だ。
彼に色々教えてもらったりしたけれど、どれも覚える気にはならなかった。だから、一番最初に聞いた彼の話を元に自分なりにお話を作ってみた。わけだけど…
「うーん…あの本どうしようか…」「まだ図書室に未開封のあったわよね…開けていいのかしら…」
会場から漏れ続ける不安の声。
「(うん。怖かったよ。
僕の話もそうだけど、やっぱりいつどんな時に自分に災いが降りかかるかわからない状態になると、不安で不安でしょうがないんだと思う。だからみんなあんなにも怖がってる)」
「(そ、そっか…。じゃあ、成功ってことで、いいのよね?)」
「(うん。
むしろ、大成功だよ!)」
彼の言葉にホッと胸をなでおろす。
良かった。みんなを楽しませることができたのね…。
「さ、さてさて!気を取り直していきましょうか!
大トリになります語り手は、トロデーン城が生み出した英雄!後世に語り継がれるべき男!そう!我らが勇者様です!」
今日一番の熱気に湧く会場。さっきまでの不安で埋もれていたのが嘘のようだ。
…それだけ、彼に人気があるって事よね。
ホント今更だけど、私の大好きな人はみんなからもこんなに好かれているのよね…。
「(頑張ってね、あなた!)」
スポットライトとロウソクが灯るよりも早く、私は彼の手を握った。
「(…うん!)」
何よりも、誰よりも先に彼を送り出せる。それは、誰もが憧れている彼を、独り占めにした私だけの特権だ。
To be next story.
今回の元ネタは、ゼシカの言っていた数話前の主人公が話していた怪談(石像と本)と、ギリシャ神話のメドゥーサのお話をミックスし、それっぽく仕上げたお話です。
締め方は不安の種さんに近いですね。
…どれだけ不安の種さんの話怖かったんだ…私…。
それではまた次回。
さよーならー。